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第三十三話「文化祭の大騒ぎについて」
番長、襲来
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開店してから二時間程経ったその折、ある珍客が二年A組の教室に来店した。その姿を見たウェイターとウェイトレスが「?!」と驚愕を露わにする。
「おぅ、邪魔ぁするぜ……」
教室に入って来たのは、パンチパーマにグラサン、腰にチェーンをじゃらじゃらさせた目立つ容姿の男子生徒。番長こと生徒会長であった。まさかの大物の登場に、店員と客の生徒たちは騒ついた。
「ば、番長……?!」
「どうしてあんな大物がうちにくんだよ……!」
「まさかパイスー目当て……?」
「番長にそんなフェチがあったなんて……!」
二年A組の生徒たちがヒソヒソと勝手な事を言っているのを無視して、生徒会長は適当な席に座った。机に肘をついて、メニューを一瞥してから、注文を口にする。
「タラコスパ、一つくれや」
「は、はい! 七番テーブルタラコパスタ!」
緊張でどもりながら厨房に向けて店員が言うと、そんな教室の様子は知らない比乃の「よろこんでぇ!」という声が返ってくる。すると、サングラス越しにクラスの中を見回していた生徒会長は「ほぉ」と声をあげた。
「料理してるのは例の転校生か、ちょうどあいつに用があってきたんだ。料理終わったらこっち来るように言ってくれや」
一見して穏やかな口調だが、有無を言わさぬ圧に、ウェイトレスの一人がしきりに頷く。その様子を見て、そそくさと教室の隅へ移動したメアリとアイヴィー、志度と心視が、側にいた晃と紫蘭に聞く。
「あの生徒会長、そんなにおっかないのか? みんなビビってるけど」
「……私が知ってる、生徒会長と、随分、違う……」
「でも、生徒会長って言うからにはそれ相応の人望がおありなのでしょう?」
志度、心視、メアリの疑問に、晃が神妙な表情で答える。
「ああ……生徒会長、荒山 猛先輩は、投票率百パーセントの内八割の票を得て当選したお方で、自分に厳しく、他人にも時には厳しく、時には優しく接し、草花を愛し、無駄に豊富な部活動予算も、完璧な案を出して的確に分配して見せる凄い人だ……ちなみに、全国模試でもトップの成績を誇っていて、運動神経も抜群の文武両道だ」
「……なんでそんな人があんな格好してるの?」
アイヴィーのもっともな疑問に、これまた神妙な表情した紫蘭が答えた。
「趣味らしいぞ」
それから五分程して、生徒会長の元に料理が運ばれて来た。湯気を立てる赤い粒とピンクのソースが絡み合ったパスタを前に、生徒会長はしっかり「いただきます」と言ってから、フォークに麺を絡ませて口に運んだ。
一口二口、味わうように噛んでから、料理を飲み込む。緊張で周囲の店員が固まる中、生徒会長はふっと笑みを零した。
「うめぇじゃねぇか……ソースは滑らか、塩気も丁度良く、タラコの味を潰さない程良い味付け……益々気に入ったぜ」
ひとまず、好感触な生徒会長の反応に、ほっとした周囲の店員や客が、自分たちの食事に戻り始め、生徒会長は無言で料理を食べ進める。そして、ソースも残さず食べきると、近くに居たウェイターの生徒を引き止めた。
「おい、ちょっとシェフに話があるんだ。呼んでくれや」
「は、はい、ただいま!」
ウェイターの一人が大慌てで厨房裏に駆け込む。少しして、渋る様子の比乃を引っ張って来た。状況がわからない比乃は「なになに、もしかしてクレーム?」などと言っていたが、「いいから早く!」と引っ張り出され、その先に居た人物を見てぎょっとした。件のヤンキー生徒会長であった。
そんな比乃の様子を見て苦笑しながら、生徒会長は比乃に手を差し出す。
「初めましてだな、こんなに美味いタラコスパ食ったのは始めてだ。礼を言わせてくれ」
「はぁ、どうも……」
比乃がぎこちなくその手を握る、生徒会長は、握った手の感触を確かめるように、しっかりと握り返すと「やっぱりな」と呟いた。
「おめぇ、相当修羅場潜ってるだろ、手を触れば解る。なんでも、このクラスの暴走を毎回止めてるのはお前さんらしいじゃねぇか、風紀委員の泉野から聞いてるぜ、有望な安全保障委員だってな」
「勝手に任命されましたけど、それが僕の役目ですから……それで、生徒会長さんが僕に何の御用でしょうか?」
このインパクト充分な番長相手に、まったく臆さない比乃の態度が更に気に入ったのか、生徒会長は笑みを浮かべる。周囲の生徒たちがあわあわしているのを無視して「本題なんだが」と話し始める。
「今回の文化祭。風紀委員の人手がちと足りなくてよ、そこで有能なお前さんたちに、治安維持活動を手伝って貰いたいわけだ」
「僕はまぁ、構いませんけど……」
特に断る理由もないが、自分が抜けて厨房は大丈夫だろうか、と後ろを振り向く。クラスメイトたちは、一斉に手で丸印を作ってオーケーサインを出していた。というか「絶対に断るなよ!」という意思がひしひしと感じられた。
そんなに怖いのかな、この生徒会長、と比乃は向き直って承諾する。
「問題なさそうです。引き受けます。僕一人だけでいいですか?」
志度と心視は大事な客引き要員であるので、出来れば、抜けるのは自分一人にしたかった。その意を理解したのか、生徒会長は「問題ねぇよ」と快諾した。
「お前さん一人来るだけでもありがてぇもんよ、それじゃあ早速なんだが……」
生徒会長は制服の懐からパンフレットを取り出し、地図にサインペンで書き込まれた線を辿るように、指を這わせる。
「このルートに沿って校内を巡回してもらいてぇ、問題が起きない限りはルート上の店を回るなりなんなり好きにして貰って構わねぇが、もし、度が過ぎた馬鹿騒ぎをしてる連中がいたらシめてやってくれや」
「つまり、大暴れしてる生徒がいたら大人しくさせればいいんですね?」
「おっと、生徒だけじゃねぇ、ちょっと場を弁えないお客様がいたら“穏便に”対処してくれや」
穏便、の部分を強調するように言って、パンフレットを比乃に手渡した生徒会長は、制服を翻し、
「それじゃあよろしく頼むぜ、臨時風紀委員」
そう告げて立ち去って行った。
「おぅ、邪魔ぁするぜ……」
教室に入って来たのは、パンチパーマにグラサン、腰にチェーンをじゃらじゃらさせた目立つ容姿の男子生徒。番長こと生徒会長であった。まさかの大物の登場に、店員と客の生徒たちは騒ついた。
「ば、番長……?!」
「どうしてあんな大物がうちにくんだよ……!」
「まさかパイスー目当て……?」
「番長にそんなフェチがあったなんて……!」
二年A組の生徒たちがヒソヒソと勝手な事を言っているのを無視して、生徒会長は適当な席に座った。机に肘をついて、メニューを一瞥してから、注文を口にする。
「タラコスパ、一つくれや」
「は、はい! 七番テーブルタラコパスタ!」
緊張でどもりながら厨房に向けて店員が言うと、そんな教室の様子は知らない比乃の「よろこんでぇ!」という声が返ってくる。すると、サングラス越しにクラスの中を見回していた生徒会長は「ほぉ」と声をあげた。
「料理してるのは例の転校生か、ちょうどあいつに用があってきたんだ。料理終わったらこっち来るように言ってくれや」
一見して穏やかな口調だが、有無を言わさぬ圧に、ウェイトレスの一人がしきりに頷く。その様子を見て、そそくさと教室の隅へ移動したメアリとアイヴィー、志度と心視が、側にいた晃と紫蘭に聞く。
「あの生徒会長、そんなにおっかないのか? みんなビビってるけど」
「……私が知ってる、生徒会長と、随分、違う……」
「でも、生徒会長って言うからにはそれ相応の人望がおありなのでしょう?」
志度、心視、メアリの疑問に、晃が神妙な表情で答える。
「ああ……生徒会長、荒山 猛先輩は、投票率百パーセントの内八割の票を得て当選したお方で、自分に厳しく、他人にも時には厳しく、時には優しく接し、草花を愛し、無駄に豊富な部活動予算も、完璧な案を出して的確に分配して見せる凄い人だ……ちなみに、全国模試でもトップの成績を誇っていて、運動神経も抜群の文武両道だ」
「……なんでそんな人があんな格好してるの?」
アイヴィーのもっともな疑問に、これまた神妙な表情した紫蘭が答えた。
「趣味らしいぞ」
それから五分程して、生徒会長の元に料理が運ばれて来た。湯気を立てる赤い粒とピンクのソースが絡み合ったパスタを前に、生徒会長はしっかり「いただきます」と言ってから、フォークに麺を絡ませて口に運んだ。
一口二口、味わうように噛んでから、料理を飲み込む。緊張で周囲の店員が固まる中、生徒会長はふっと笑みを零した。
「うめぇじゃねぇか……ソースは滑らか、塩気も丁度良く、タラコの味を潰さない程良い味付け……益々気に入ったぜ」
ひとまず、好感触な生徒会長の反応に、ほっとした周囲の店員や客が、自分たちの食事に戻り始め、生徒会長は無言で料理を食べ進める。そして、ソースも残さず食べきると、近くに居たウェイターの生徒を引き止めた。
「おい、ちょっとシェフに話があるんだ。呼んでくれや」
「は、はい、ただいま!」
ウェイターの一人が大慌てで厨房裏に駆け込む。少しして、渋る様子の比乃を引っ張って来た。状況がわからない比乃は「なになに、もしかしてクレーム?」などと言っていたが、「いいから早く!」と引っ張り出され、その先に居た人物を見てぎょっとした。件のヤンキー生徒会長であった。
そんな比乃の様子を見て苦笑しながら、生徒会長は比乃に手を差し出す。
「初めましてだな、こんなに美味いタラコスパ食ったのは始めてだ。礼を言わせてくれ」
「はぁ、どうも……」
比乃がぎこちなくその手を握る、生徒会長は、握った手の感触を確かめるように、しっかりと握り返すと「やっぱりな」と呟いた。
「おめぇ、相当修羅場潜ってるだろ、手を触れば解る。なんでも、このクラスの暴走を毎回止めてるのはお前さんらしいじゃねぇか、風紀委員の泉野から聞いてるぜ、有望な安全保障委員だってな」
「勝手に任命されましたけど、それが僕の役目ですから……それで、生徒会長さんが僕に何の御用でしょうか?」
このインパクト充分な番長相手に、まったく臆さない比乃の態度が更に気に入ったのか、生徒会長は笑みを浮かべる。周囲の生徒たちがあわあわしているのを無視して「本題なんだが」と話し始める。
「今回の文化祭。風紀委員の人手がちと足りなくてよ、そこで有能なお前さんたちに、治安維持活動を手伝って貰いたいわけだ」
「僕はまぁ、構いませんけど……」
特に断る理由もないが、自分が抜けて厨房は大丈夫だろうか、と後ろを振り向く。クラスメイトたちは、一斉に手で丸印を作ってオーケーサインを出していた。というか「絶対に断るなよ!」という意思がひしひしと感じられた。
そんなに怖いのかな、この生徒会長、と比乃は向き直って承諾する。
「問題なさそうです。引き受けます。僕一人だけでいいですか?」
志度と心視は大事な客引き要員であるので、出来れば、抜けるのは自分一人にしたかった。その意を理解したのか、生徒会長は「問題ねぇよ」と快諾した。
「お前さん一人来るだけでもありがてぇもんよ、それじゃあ早速なんだが……」
生徒会長は制服の懐からパンフレットを取り出し、地図にサインペンで書き込まれた線を辿るように、指を這わせる。
「このルートに沿って校内を巡回してもらいてぇ、問題が起きない限りはルート上の店を回るなりなんなり好きにして貰って構わねぇが、もし、度が過ぎた馬鹿騒ぎをしてる連中がいたらシめてやってくれや」
「つまり、大暴れしてる生徒がいたら大人しくさせればいいんですね?」
「おっと、生徒だけじゃねぇ、ちょっと場を弁えないお客様がいたら“穏便に”対処してくれや」
穏便、の部分を強調するように言って、パンフレットを比乃に手渡した生徒会長は、制服を翻し、
「それじゃあよろしく頼むぜ、臨時風紀委員」
そう告げて立ち去って行った。
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