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第二十一話「短期的出張と特殊部隊について」

状況説明

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 些細なトラブルに見舞われながらも、更に歩くこと三十分。三人は富山駐屯地に到着した。

 富山駐屯地は辺り一面、田んぼに囲まれた開けた土地にある駐屯地で、表の道路も綺麗に舗装されているが、車の往来はそこまで多くなかった。僻地とでも言うべき場所だった。

 駐屯している部隊も、元々は災害派遣や交通関係の後方支援が任務であった為か、戦闘用の部隊は新規に作られた急造の機士科と、Tkー7が二個小隊のみである。現場に一番近いが、はっきり言って、正面きっての戦闘には向いていない駐屯地である。
 戦力不足で部隊長が泣き付かれたのも、ある意味納得であった。

 司令室で、この駐屯地のトップである山野 昇ヤマノ ノボル二等陸佐は、部屋に入ってきた三人。私服姿のせいで中学生にしか見えない彼らの綺麗な敬礼に、少し驚いた。それでも、眼鏡の奥の瞳を優しげに曲げ、びしっと返礼してみせた。
 面長に坊主頭、目つきの優しげな、如何にも支援担当ですという印象の指揮官である。

 相手は子供と言えど、あの日野部一等陸佐の部下達であり、今現在この駐屯地における最高戦力に当る。彼が見た目で比乃たちを侮る理由などなかった。

「日比野三等陸曹、並びに白間、浅野同三曹、着任しました」

「山野二等陸佐だ。まずは来てくれて有難う、こちらの無理な頼みを引き受けてくれたことに、改めて感謝を」

「いえ、任務ですから、応援を頼まれれば応じるのは当然のことです」

「そう言って貰えると助かる。それでは早速、作戦の説明に入りたい。まずは座ってくれたまえ」

 山野に促され、三人は「失礼します」と言って三人がけのソファーに座った。座った比乃らの前、机の上に、山野が港周辺の地図を広げて見せた。

「見ての通り、この伏木富山港は三つの港に分かれている。伏木地区、富山地区、新湊地区だ」

 広げた地図の海側に位置する港の一角を、ぐるりと指で示す。

「この内、例の密輸入が行われていると予想されているのは、荷揚げ施設があり、つい最近外港が出来た伏木地区か、五万トン級の船舶が出入りし、コンテナ船の航路にもなっている新湊地区のどちらかだと考えられている」

「……どちらかの特定というのは」

 手を挙げて口を挟んだ比乃の言葉に、山野は「残念だが」と口惜しそうに続ける。

「まだ出来ていない。そこは警察と情報部が現在進行形で調査中だが、未だに積荷やそれに至る証拠の類の発見に至っていない……そもそも、今回、密輸組織が動いているという話も、情報部がどこからか掴んだ情報が元になっているからな」

 山野は次に、自分のデスクからファイルを一冊取り出して、目当てのページを開いて比乃に見せた。そこには、つい最近起きた事件や、出動した際に撮られたであろう記録写真が載っていた。

「それに、この一ヶ月間、港周辺での自然保護団体による不可解なデモ活動や、偽のテロ予告などの妨害工作が行われており、あの周辺の調査も十分に行えているとは到底言えない」

 ファイルに張られている写真には、銃などは持っていない物の、金属バットや長い得物を持って行進している人々や、周辺施設の窓ガラスが破られたりして破壊されている様子、そしてそれらを鎮圧する警察の姿が写っていた。

「我が駐屯地のAMW部隊も、これに関係する任務で出撃させられている程だ」

「逆に言えば、妨害工作をするということは密輸組織が仕事をしようとしている証拠、ということでしょうか」

 比乃が、顎に手をやって少し考えるようにしてから言う。それに同意するように、山野は頷いた。

「そういうことだろう。近い内に大きい動きがあるのは間違いないことだけは確かだ。そこで我々の出番というわけなのだが……ここでもう一つ問題がある。この駐屯地と港まで、そして伏木地区と新湊地区の距離だ」

 言いながら、地図の上の指を港から南の方向へと滑らす。その動きを目で追った比乃は確かに、と内心で山野の言いたいことを理解した。ここ、富山駐屯地から港までは、かなりの距離がある上に、最短ルートは市街地のど真ん中を通ることになる。事が起こってから悠長に出撃などしても、まず間に合わないだろう。

 また、伏木地区と新湊地区は間に川を三つ挟み、橋を三つ渡らなければならないほどの距離があった。どちらかに見当を付けて戦力を集中させて、万が一、それが外れでもしたら、目も当てられない。

「そこで、予め現地にTkー7をコンテナに隠蔽し、機士も現地で待機しておく形を取る。場所はここと、ここだ」

 山野が改めて指差した地点は、伏木地区と新湊地区の埠頭の外れにあるコンテナ置き場であった。相手が隠れているならば、こちらも隠れて警備を行おうという魂胆らしい。比乃は「ははぁ、なるほど……」と小声で呟いた。

「ここに、Tkー7をコンテナに格納した状態で置いておく。事が発覚するか、相手が動き出した場合はその場から出撃するという算段だ。なお、待機する機士は負担を考えて交代制とする。諸君にはそのローテーションに加わって貰う」

 言いながら山野が伏木地区の方を指で叩いた。

「諸君らは明後日から、伏木地区の方を担当してもらいたい。詳しい時刻や場所に関しては、後ほど小隊長と打ち合わせて欲しい。何か質問は?」

 地図から顔を上げて問うと、三人は「いえ、ありません」と作戦内容を理解したとばかりに頷いて見せた。山野は満足そうに頷き返すと、比乃達の顔を覗き込んで、厳かな口調で告げる。

「この作戦の成否によって、今後のテロリストのAMW戦力を大きく削げるかどうか変わる。諸君らには奮闘して頂きたい。以上だ」

 そう言って敬礼した二等陸佐に、三人はソファーから立ち上がって返礼した。数秒、その状態で見合っていると、山野の方がふっと笑みを浮かべて敬礼を解いた。

「小さいながらもしっかりした自衛官だな、君達は……その力、当てにさせてもらうぞ」

 その目には、子供に頼らなければならない自身達の不甲斐なさと、その子供に対する心配が見て取れたが、比乃はあえてその目を真正面から見据えた。心配ご無用と言わんばかりに、

「存分に力を発揮して見せます。それでは、失礼します」

 そう言い切ると、最後に小さく敬礼してから部屋を出て行く。三人を見送った山野二佐は、ドアが閉まりきるのを待ってから、椅子にどっかりと座り、呟いた。

「日野部一佐も、とんでもない人材を寄越してくれたものだ」
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