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第十四話「襲来する驚異について」

企て

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 駐屯地の様子が見渡せるビジネスホテルの一室。その窓から、双眼鏡を使って戦闘を観戦していた二人は、その結果に意外そうな表情を浮かべていた。

 アレースは面白い玩具を見つけたように笑みを浮かべている。ステュクスはその逆に、面白くなさそうに双眼鏡から目を離した。

「あの操縦兵、オーケアノスから一本取るとかやるじゃねーの」

「先生が遊んでたからよ。あの自衛隊機、最後以外はてんで駄目じゃない」

 ステュクスは双眼鏡をソファに放り投げて、呆れたように肩をすくめる。

「最後の一撃だけは認めたってことだな、そいつは」

「変な決めつけしないで。あの程度の動き、私の姉妹ならみんなできるわよ」

「それは、お前達程の腕前程度でしかないと見るべきなのか、お前達と同レベルの凄いやつと見るべきなのか……どっちなんだ?」

「……知らない!」

 意地悪な問い掛けに拗ねた少女がベッドに倒れこむように身を投げる。アレースはその様子を見て「くくく」と声を殺して笑った。再び双眼鏡を覗いて、取り残されている自衛隊機ーーTkー7の様子を観察する。

「おーおー、一丁前に悔しがってら。向上心がある奴は嫌いじゃねぇ……脳味噌弄るだけじゃ勿体ねぇよなぁ、オーケアノスに言って生徒に加えさせてもらうってのはどうだ?」

「いらないわよ、あんなへっぽこ操縦兵」

 そんなやり取りをしてからしばらくすると、部屋にロングコートを来た長身の男、オーケアノスが戻った来た。
 途端に上機嫌な顔になったステュクスが「お帰りなさい先生!」と飛び起きて、オーケアノスから彼が脱いだコートを受け取る。

「すまんアレース、装備を紛失した」

「折角貸してやった得物をあんなお遊びで失くすなよな、特注品だぜ特注品」

 言ってから双眼鏡を覗いたまま「そんな大事なもんを見す見すくれてやる必要はないよなぁ」と、懐から取り出した、小型の無線スイッチを取り出して、手の中で弄び始めた。

 双眼鏡の中で、駐屯地所属のAMWがナイフを回収しようと手を伸ばしている。それを掴んだ直後、アレースはスイッチを押し込んだ。次の瞬間、そのアーミーナイフは爆発し、AMWの腕を吹き飛ばした。その様子を一通り見届けると、双眼鏡を外して、嘲るように笑う。

「不審な物を見つけたら、専門の係員にご連絡しましょうってな、この国の電車にも書いてあるだろうによぉ」

 アレースがナイフに仕掛けをしていたのを今知ったオーケアノスは、抗議の視線を向ける。向けられた方は飄々とした様子で「なんだよオーケアノス、証拠隠滅は基本だろ?」と言ってのけたが。

「……あんなものを使っていたと思うと、こちらの肝も冷える」

「早々誘爆するようなもんじゃねーよ、特注品だって言ったろ?」

「そういう問題じゃないわよ」「そういう問題ではない」

 オーケアノスとステュクスの両者に突っ込まれ、アレースは「解ってねぇなぁ」とぼやいた。リモコンスイッチを懐に戻し、ソファにどさりと音を立てて深く座る。手で傍にあった書類、ターゲットに関して記されたそれを持ち、オーケアノスに突き出し「それでよ」と話を切り出す。

「試してみた感じどうだったよ、オーケアノス」

 聞かれたオーケアノスは、先ほどの戦闘を一つ一つ思い出すように目を細めた。短いやり取りだったが、それでも、ある程度の評価はできる。

「ああ、機転の良さは中々の物だ。指導者が良かったのだろう、しかし経験不足が目立つな。戦闘の相手には、あまり恵まれていなかったように見える。伸び代がありそうなだけに、惜しいな……生徒にするには十分な技量は持っているし、いっそのこと」

「ちっげーよ!  お前個人の感想じゃなくて、仕事的にどうなんだって話だ」

 思わず大声で突っ込みを入れたアレースが「というか、生徒にするの案外乗り気なのかよ」と、呆れた視線で見た。おまけに、ステュクスの嫌そうな表情を向けられて、つい、指導者としての癖が出てしまったことを「すまん」と素直に謝った。

「しっかりしてくれよな……」

 この男にそう言われてしまってはな、と壮年の熟練兵は自身に苦笑して、しばし思案する。

「……AMW搭乗時に確保するのは、正直骨が折れる。ここは当初の作戦で行くのがベストだろう……俺個人としては、あまり気にいる作戦ではないが」

「えー、アレースが考えたにしてはいい作戦ですよ先生。私とこの子が活躍できるし!」

 先ほどとはうって変わって、楽し気な表情を浮かべた少女は、ベット脇から細長いケースを取り出した。それを愛おしそうに撫でて、妖艶に口付けをする。自分の“仕事道具”に対する絶対の信頼と愛着が見えて、アレースが「オーケアノスも見習えよ、物持ち悪いんだから」と揶揄うように笑う。

「ステュクス、あまり道具に執着しすぎると要らぬ所でミスをする、それだけは忘れるなよ」

「はーい先生」

 ケースを大切そうに抱えたまま、返事だけは素直に答える教え子に、講師はため息を一つ着いた。

 いくら言ってもこればっかりは治る様子がない、彼女の悪癖だった。どこかで致命的なミスをする前に治って欲しい物だが……無邪気にケースを磨き始めた少女を見て、オーケアノスは半分諦めた様子で、もう一度コートを身体に纏った。

「ここを引き払うついでに挨拶しに行くが、お前はどうする?」

「俺はパスだな、標的に顔見せするのはあんまり好みじゃねぇんだ。それにステュクスがいれば問題ないだろ?」

「まぁ、そうだな……では、部屋の後始末だけ頼む。爆破はするなよ」

 スティクスだけいれば良い、という部分に納得したオーケアノスは、ハンドバック程の手荷物だけ持つと、同じくケースだけを持った少女を連れ添って部屋から出た。

 それを見送ったアレースは、懐のスイッチを取り出して、少し残念そうにぼやいた。

「ちぇっ、お見通しだったのか……流石は熟練ってところか。しゃーない」

 と言っても、後始末する部分などほとんどない、使用感が無い部屋を一通りチェックしてから「普通に出るか」と、手荷物すら持たずに部屋から出る。

 そして、彼らから少し遅れるようにして普通の客としてチェックアウトして、男は次の合流ポイントのホテルまで、観光でもするかのようにのんびりと歩き出した。
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