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第三話「基地を襲撃された際の迎撃方法について」

上官の決断

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諸元
・TanK-X9(次期主力戦車試作車第九案)
形式番号:Tk-9
分類:第四世代AMW
所属:日本陸上自衛隊
製造:五つ星重工
生産形態:技術実証試験機
全高:八.五メートル
全備重量:不明
動力源:試作型フォトンドライブシステム
装甲仕様:電磁相転移装甲
推進方式:エアホバークラフト
武装:非公開
乗員:1名(推定)

日本の次期主力AMWに搭載すべき技術を会得するため、様々な新規技術を搭載したテストベッド。
試験機であるため、正式名称は付けられていない。
救難作業や土木作業を視野に入れていたTk-7とは異なり、完全な戦闘兵器を想定して設計されている。
しかし、試作型フォトンドライブシステムは未完成の部分が多く、少なくない数の不具合が報告されているという情報もある。
現在、テロ発生頻度が高い沖縄第三師団と、逆に発生頻度が低い北海道第二師団に五機ずつ配置され、テストを行っている。

『pekepediaより』

 ***

 第三師団駐屯地、そこは沖縄における対テロ戦闘を担う西部防衛の要の一つである。
 東京にて首都防衛を任とする第一師団。エスキモーからのお友達と、北の大将軍の下っ端達と、常日頃から火花を散らしている北海道の第二師団。そして泣く子も黙る富士の教導隊に続くか、同等の練度を誇るとされている駐屯地である。

 兵舎や格納庫が立ち並ぶ駐屯地の中央。そこには広域指揮運用センター、発令所が有る。その室内は薄暗く、通信士が睨むモニターやスイッチの明かりがイルミネーションのように暗い空間を淡く照らす。

 それらを操作する自衛官の背中を見つめているのは、佐官の制服に身を包んだ二人。七三分けにちょび髭が目立つ男性と、きっちりと着込んだ制服から生真面目さが滲み出ている女性がいた。

「うーむ、森にはボーナス出さないといかんな」

「陸曹の査定に色でも?」

「いや、近所のハンバーガー屋で使えるクーポン一年分だ……期限内に使いきれなくてな」

「……自衛隊の幹部が毎日出入りする店って、この前ローカルテレビでやってたのはもしかして」

「もしかしなくても俺だ、よく映ってたろう? あれ以来売り上げが伸びたそうで、態々他県から危険を顧みずにやってくる客もできたそうだ。いやぁサインの練習をした甲斐があった」

 部隊長の話に「なにやってんですかあんた」と呆れる副官。それを脇目に、煙草をすぱすぱさせて、ちょび髭を弄っているのは、この師団の長である日野部一佐。通称部隊長だった。

 旧来、師団規模の指揮系統の頭は将官が勤める。しかし、米軍の撤退による防衛戦力の低下や、過激化するテロに対応するために、陸上自衛隊は大規模な再編を求められた。

 そのため、組織を細かく割り振り、一部を除いた駐屯地を再編成。大中小の駐屯地に割り振った結果、このような妙な指揮系統――千人規模をまとめる長が、佐官という例外が発生しているのだ。

 ここの場合は、部隊長の類稀なる話術だとか、上下左右どこまで伸びているのかわからないパイプだとか、どうやって作ったのか判らないコネによるものもあるのだろうが。

 時折、 デシリンガル(多言語拾得者、俗に言う人間翻訳機)の技能を使って、どこの部族の言葉かわからない言語で電話越しに談笑して、趣味の爆発物を入手したりする……その姿は、まるで数百年生きた妖怪のようだとも、正気度を確認してくる邪神のようだとも言う(副官談)。

 そんな人物がまとめる第三師団であるが、暢気なその様子とは裏腹に、設立以来最大の未曾有の危機に立たされていた。

 一部機士を除いて、主力兵器数機で掛からないと対抗できないと思われる敵性存在が、この駐屯地へと一直線に向かってきているのだ。
 今も、通信士がレーダーサイトから送られる情報を読み上げ、それを部隊長らに告げてくる。

「複合レーダーが正体不明機(アンノウン)をキャッチ、尚も進攻中……遮蔽物を無視して向かって来ています!」

 さらに、別の通信士の方へは、AMWが格納されている第一格納庫から、最悪の知らせが回ってきていた。

『こちら格納庫、先程の爆発は囮の模様、本命はAMWの操作系統……Tk-7全機、予備の二十三式までやられてます! 復旧にはどう頑張っても数時間は』

 この駐屯地には新型のTk-7が四十機。土木作業兼用の二十三式が十機配備されている。普通であれば敵を迎撃するには十分過ぎるその戦力全てが、何者かによって制御系、デリケートな部品を破壊されてしまっていた。結果として、全ての機体が起動不能にされている。

 挙句、予備の部品も根こそぎ破壊されている。部品単位の入れ替えで、簡単かつ素早く稼動状態にさせられるAMWの利点の一つが封じられてしまった。整備員らが必死に部品を修理しているが、それよりも先に、正体不明機がこの駐屯地を攻撃するだろう。

 正に駐屯地絶体絶命の危機であった。

「大関と大貫の様子は?」

「今のところは優勢のようです」

 通信担当が答えてから端末を操作して回線を回すと、部隊長と副官の端末に実況中継が流れてきた。

『大貫機のブレーンバスターが決まったぁ! そのままフォール……ああ、跳ね返されるぅ! しかし、そこへすかさず大関機が水平エルボーで追撃ぃ! 正体不明機、たまらずダウンです!! 今の動きはどうですか運転席の海瀬カイセさん』

『先ほどのダブルチョップが地味に効いていたようですねぇ、機体は一見無傷ですが、ああも揺らされては中のパイロットは無事では済まないでしょう。報告にあった武装を使っていないことが気になりますが……』

(例の兵器を使わないとなると、個体差でもあるのか?)

 副官が胸元に抱えている、技研から送られてきた資料をちらりと見てから、部隊長は正面に向き直って通信士の肩を叩いた。「どうぞ」と通信士から通信機を受け取って、尚も実況を続ける二人へ指示を送る。

「こちらHQ、勝てそうならさっさと倒してこっちに来いと二人に伝えろ。無理そうなら全力で足止めに専念……それと、報告はちゃんとやれ、減俸するぞ」

『……了解、どうも失礼しました。こちらLAV、HQから伝令、各機へ――』

 真面目になった自衛官に「あいつらこんな時にいい空気吸うとか許さんぞ」と呟いてから通信士に返す。後ろに戻って席に座り、煙草を吸い直した部隊長に、副官が「どうしたものでしょうか」と困り顔を見せる。

 先行して破壊工作を逃れた二機ではあったが、それでも単体の相手をするのが精一杯。
 一応、こちらに来れたら来いとは言ったが、今からこちらに向かってきている正体不明機を追撃しても、返り討ちに合うのがオチだろう。

「どうしたもこうしたも、何とかするしかあるまいよ」

「……戦車とヘリに相手をさせますか?」

「んなの出しても人員損耗するだけだ、対戦車ミサイルすら通じるか怪しい相手だぞ」

 一応、台数は少なくともMBT(主力戦車)や対地攻撃ヘリもこの駐屯地に配備されている。けれども、通常のAMWならともかく、空飛ぶ化け物のような相手に、そんなものを出した所で時間稼ぎになりもしない。怪獣映画のヤラレ役にされるのがオチだ。

 部隊長は数秒、こめかみを揉みながら、まだ火が残る葉巻で灰皿をとんとん叩いて逡巡する。それから、意を決したように通信担当へ指示を飛ばす。

「……日々野、浅野、白間を第二格納庫に呼び出せ、整備員も何人か引っ張って来い……遺憾だが、あれの実戦テストだ」

「了解」

 部隊長の口から告げられた面々と、第二格納庫という単語から、副官が「あれ」の答えを言外に察した。それを使うことを上官が決断したことにぎょっとして、しかし現状打破にはそれしかないことも同時に理解した。それでも口を挟む。

「まさかTk-9ですか、いや、ですがあれは」

「幸か不幸か、他と別けて置いたからあの三機は無事だ……未完成ったって武装は着いてるし、元々半分は予備戦力扱いだ、今使わずにいつ使う」

 しかし、と尚も続けようとする副官を手で制して止めた。それで静かになった副官から目線を外し、部隊長はいつの間にか完全にすり潰してしまった、もう吸えなくなった煙草を、苛立ち気に手近なくずかごへ投げ捨てた。
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