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第一話「我が国のテロ事情とその対策について」
新たな脅威
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第三師団駐屯地の第一格納庫。
そこは、待機状態のAMWや戦闘車両などがズラリと並ぶ、だだっ広く殺風景な場所である。
しかし、およそ四十機のTkー7が首を垂れて規則的に並んでいる様子は精悍であった。
比乃達未成年組の三人は、安久と宇佐美が駐屯地へ戻る途中でトラブルに遭ったと聞いて、そこに集まっていた。
そして、予定よりも一時間程遅れで専用の運搬車両に載せられて戻って来たTkー7を見て、三人は仰天した。
一番機は片足片腕が欠損して半身不随状態になっていた。右腕が肘の辺りが何かに無理やり引き千切られたようにフレームごとねじ切れている。
二番機に至ってはもっと酷く、左肩から腰の右側まで、レーザーカッターか何かで斜めに切断されたかのように上半身を欠損していた。
搭乗席が完全に露出してしまっていたので、三人は『まさか』と一瞬ぞっとしたが、そのトレーラーのすぐ脇でいつもの刀を抜き身で素振りしている宇佐美と、そのすぐ側に座り込んで何か考え込んでいる安久の姿が見え、ほっと胸を撫で下ろした。
「比乃が言ういつもの鎮圧任務って、こんなにハードだったっけ?」
「いやまさか……あの破損の仕方は尋常じゃないよ、二番機なんて、コクピットが露出しちゃってるじゃないか、一体何とやりあったらこんなことになるのさ」
「あの切れ方……高振動ナイフじゃない」
だろうね、と跪いた姿勢の二番機の損傷個所を見て、比乃も同意する。
AMWの近接格闘戦で最も多く使用されるスタンダードな武器として、高振動ナイフという物がある。
形状によってはブレードだったり、刀や槍、薙刀だったりもするが、大体の構造は同じで、ざっくりと説明すれば、刀身を超高速で振動させることで物体を切削する仕組みになっている。
工業用などの精密加工用の物とは違い、斬れさえすれば良いという物のため、大体においてその切断面は粗く、電動鋸で切断した木材のようになっていることが普通である。
なのでこのような、切断面がまるで鏡のように滑らかにすっぱりと切断されているということが、まずありえないのだ。
比乃達の周囲を走り回る整備員達がフォークリフトで運び出した物を見て、三人はさらに驚いた。
それは刀身の真ん中で、同じように真二つにされた高振動刀であったからだ。
本当に何と近接戦をしたらこうなるのか――比乃は小走りで当事者二人の元へ向かった、もしもこんな装備を持ったテロリストが出現していたとしたら、とんでもない脅威であるので、詳しく聞かなければと思ったのである。
そんな比乃を待ち受けていたのは
「んああ悔しいよおおお日々野ちゃぁぁん!!」
今まで振っていた刀(抜き身)を放り捨て(床のタイルにさくりと刺さって、通りかかった整備員が盛大にビビった)駆けてきた宇佐美の抱きつきであった。
「ぐぇぇ……」
「あいつねあいつね! 短筒を直撃させてもけろりとしててぇ! しょうがないから関節を叩き斬ってやろうと思ってね! 一閃交えたらこう光ってる透明なブレードが飛び出てこっちの刀ごとズバーッて!」
機体を中破させられたのが余程悔しかったのか、比乃を抱え込んだままぐるんぐるん回転したり、比乃にぐりぐりと頬ずりをしたりと奇行走るTK-7二番機のパイロット、宇佐美 優は非常に優れた技量を持つ機士なのだが、情緒不安定なところがあるのが、玉に瑕であった。
「宇佐美さん宇佐美さん、絞まってる、比乃が白目向いてるから」
「比乃の中身がでちゃう……あと状況説明はもっと、具体的に」
ぶんぶん振り回され「あががが」と浮いた足を痙攣させている比乃を、宇佐美が「むきぃぃぃ!」と絶叫しながら解放した。
ぐったりしている比乃を心視と志度が介抱する中、今度は考えるストリートファイターの姿勢だった安久がやってきて、二人は「やっとまともな報告が聞ける」と内心で安心した。
「宇佐美が悔しがるのも仕方がない。たった一機を相手に、俺と宇佐美の二人がかりで片腕と片足を取るのがやっとだったからな」
それを聞いて志度と心視は驚いた。
この駐屯地における技量の一番と二番を決めろと言われたら、真っ先に名前が挙がるこの二人が、弾薬を消費した上で二個小隊でも相手にすれば万が一という程の損傷を、単機のAMWに負わされたとは流石に予想していなかったのである。
「二人掛かりでここまでやられたってのがもう驚愕なんですけど、短筒は?」
短筒、百二十ミリ砲は、装甲貫徹能力八百ミリを誇るTkー7の主兵装。
射撃精度はお世辞にも良いとは言えないが、その破壊力は大型拳銃サイズとしては破格で、米国の主力戦車でも、当たりどころによってはただでは済まないという代物である。
「それがな、確かに胴体正面を捉えたんだが……なんと言えばいいのか、こう、何か透明な壁のような物に反らされたように防がれてしまった」
「……バリア?」
「それだ、バリアらしき物で射撃を無力化された。それで近接格闘戦に持ち込んだら、このざまだ」
そこまで話すと、安久は立ったまま考える人の姿勢になって、うんうんと考え込み始めてしまう。
話を聞いた志度は「本で読んだことがある……あの絵が沢山あるやつ」と一人戦慄していて、心視は脳内に凄まじい装甲と禍々しい武装を持った謎の敵を想像し、青い顔で震え、介抱していた比乃の頭を床に落として「ぐあっ」と苦悶の声をあげさせたりした。
そこに、何かの残骸を載せたトレーラーが走ってきて、五人から少し離れた所に停車した。すぐに緑色の制服を来た整備員達が蟻のように集まり、それの調査をし始める。
「む、残骸の回収が終わったのか、流石に仕事が早いな」
「残骸っていうのは、例のやつの手足ですか?」
志度が指差した先には、整備員が機材片手に群がっている物。
丸みを帯びた大柄な装甲に、そこから細いフレームが覗く、恐らくは人型であっただろう機体の片手片足だった。
根元に当たるだろう部分は損傷していて、それぞれ捩じ切ったようなものと叩き切ったようなものがあった。
「……どうやってやったの、あれ……」
「うむ、装甲自体もかなりの強度でな、至近距離でありったけの徹甲弾を撃ち込んでから飛び付いて十字固めで捩じ切った」
聞いた心視ですら「ええ……」と若干引く程に強引な手で、しかも「腕部と脚部はその時に抵抗されてな、引っこ抜かれてしまった。不甲斐ない」と何でもなさそうに言っている安久と
「そこでバランスを崩したところを私が残った方のブレードでズバッてやってやったのよ! あそこで逃げられなければ仕留められたのにぃ!」
搭乗席が露出するほどの損傷を受けた機体で、相手の片足を切断してみせた宇佐美。
やはりこの二人は規格外だなとフラフラする頭で思っていた比乃は、ふと話を聞いていて疑問に思っていたことを口にした。
「……そいつ、片足と片腕を失った状態でどうやって逃げたの?」
志度と心視も「そういえば」という顔で安久と宇佐美の方を窺う。
腕はともかく、脚を失うというのは、陸上兵器であるAMWでは致命傷だ。
戦車で言うならば履帯を破壊されたというのに近い、その証拠に、片脚ではいくら安久の技量でも自力で駐屯地まで戻ることは出来ない。
聞かれた二人は顔を見合わせて、揃ってUFOでも目撃したような顔をして答えた。
「「飛んで逃げた」」
「…………え?」
これが今後、比乃が深くも浅くも関わっていくことになるテロ事件の始まりであった。
そこは、待機状態のAMWや戦闘車両などがズラリと並ぶ、だだっ広く殺風景な場所である。
しかし、およそ四十機のTkー7が首を垂れて規則的に並んでいる様子は精悍であった。
比乃達未成年組の三人は、安久と宇佐美が駐屯地へ戻る途中でトラブルに遭ったと聞いて、そこに集まっていた。
そして、予定よりも一時間程遅れで専用の運搬車両に載せられて戻って来たTkー7を見て、三人は仰天した。
一番機は片足片腕が欠損して半身不随状態になっていた。右腕が肘の辺りが何かに無理やり引き千切られたようにフレームごとねじ切れている。
二番機に至ってはもっと酷く、左肩から腰の右側まで、レーザーカッターか何かで斜めに切断されたかのように上半身を欠損していた。
搭乗席が完全に露出してしまっていたので、三人は『まさか』と一瞬ぞっとしたが、そのトレーラーのすぐ脇でいつもの刀を抜き身で素振りしている宇佐美と、そのすぐ側に座り込んで何か考え込んでいる安久の姿が見え、ほっと胸を撫で下ろした。
「比乃が言ういつもの鎮圧任務って、こんなにハードだったっけ?」
「いやまさか……あの破損の仕方は尋常じゃないよ、二番機なんて、コクピットが露出しちゃってるじゃないか、一体何とやりあったらこんなことになるのさ」
「あの切れ方……高振動ナイフじゃない」
だろうね、と跪いた姿勢の二番機の損傷個所を見て、比乃も同意する。
AMWの近接格闘戦で最も多く使用されるスタンダードな武器として、高振動ナイフという物がある。
形状によってはブレードだったり、刀や槍、薙刀だったりもするが、大体の構造は同じで、ざっくりと説明すれば、刀身を超高速で振動させることで物体を切削する仕組みになっている。
工業用などの精密加工用の物とは違い、斬れさえすれば良いという物のため、大体においてその切断面は粗く、電動鋸で切断した木材のようになっていることが普通である。
なのでこのような、切断面がまるで鏡のように滑らかにすっぱりと切断されているということが、まずありえないのだ。
比乃達の周囲を走り回る整備員達がフォークリフトで運び出した物を見て、三人はさらに驚いた。
それは刀身の真ん中で、同じように真二つにされた高振動刀であったからだ。
本当に何と近接戦をしたらこうなるのか――比乃は小走りで当事者二人の元へ向かった、もしもこんな装備を持ったテロリストが出現していたとしたら、とんでもない脅威であるので、詳しく聞かなければと思ったのである。
そんな比乃を待ち受けていたのは
「んああ悔しいよおおお日々野ちゃぁぁん!!」
今まで振っていた刀(抜き身)を放り捨て(床のタイルにさくりと刺さって、通りかかった整備員が盛大にビビった)駆けてきた宇佐美の抱きつきであった。
「ぐぇぇ……」
「あいつねあいつね! 短筒を直撃させてもけろりとしててぇ! しょうがないから関節を叩き斬ってやろうと思ってね! 一閃交えたらこう光ってる透明なブレードが飛び出てこっちの刀ごとズバーッて!」
機体を中破させられたのが余程悔しかったのか、比乃を抱え込んだままぐるんぐるん回転したり、比乃にぐりぐりと頬ずりをしたりと奇行走るTK-7二番機のパイロット、宇佐美 優は非常に優れた技量を持つ機士なのだが、情緒不安定なところがあるのが、玉に瑕であった。
「宇佐美さん宇佐美さん、絞まってる、比乃が白目向いてるから」
「比乃の中身がでちゃう……あと状況説明はもっと、具体的に」
ぶんぶん振り回され「あががが」と浮いた足を痙攣させている比乃を、宇佐美が「むきぃぃぃ!」と絶叫しながら解放した。
ぐったりしている比乃を心視と志度が介抱する中、今度は考えるストリートファイターの姿勢だった安久がやってきて、二人は「やっとまともな報告が聞ける」と内心で安心した。
「宇佐美が悔しがるのも仕方がない。たった一機を相手に、俺と宇佐美の二人がかりで片腕と片足を取るのがやっとだったからな」
それを聞いて志度と心視は驚いた。
この駐屯地における技量の一番と二番を決めろと言われたら、真っ先に名前が挙がるこの二人が、弾薬を消費した上で二個小隊でも相手にすれば万が一という程の損傷を、単機のAMWに負わされたとは流石に予想していなかったのである。
「二人掛かりでここまでやられたってのがもう驚愕なんですけど、短筒は?」
短筒、百二十ミリ砲は、装甲貫徹能力八百ミリを誇るTkー7の主兵装。
射撃精度はお世辞にも良いとは言えないが、その破壊力は大型拳銃サイズとしては破格で、米国の主力戦車でも、当たりどころによってはただでは済まないという代物である。
「それがな、確かに胴体正面を捉えたんだが……なんと言えばいいのか、こう、何か透明な壁のような物に反らされたように防がれてしまった」
「……バリア?」
「それだ、バリアらしき物で射撃を無力化された。それで近接格闘戦に持ち込んだら、このざまだ」
そこまで話すと、安久は立ったまま考える人の姿勢になって、うんうんと考え込み始めてしまう。
話を聞いた志度は「本で読んだことがある……あの絵が沢山あるやつ」と一人戦慄していて、心視は脳内に凄まじい装甲と禍々しい武装を持った謎の敵を想像し、青い顔で震え、介抱していた比乃の頭を床に落として「ぐあっ」と苦悶の声をあげさせたりした。
そこに、何かの残骸を載せたトレーラーが走ってきて、五人から少し離れた所に停車した。すぐに緑色の制服を来た整備員達が蟻のように集まり、それの調査をし始める。
「む、残骸の回収が終わったのか、流石に仕事が早いな」
「残骸っていうのは、例のやつの手足ですか?」
志度が指差した先には、整備員が機材片手に群がっている物。
丸みを帯びた大柄な装甲に、そこから細いフレームが覗く、恐らくは人型であっただろう機体の片手片足だった。
根元に当たるだろう部分は損傷していて、それぞれ捩じ切ったようなものと叩き切ったようなものがあった。
「……どうやってやったの、あれ……」
「うむ、装甲自体もかなりの強度でな、至近距離でありったけの徹甲弾を撃ち込んでから飛び付いて十字固めで捩じ切った」
聞いた心視ですら「ええ……」と若干引く程に強引な手で、しかも「腕部と脚部はその時に抵抗されてな、引っこ抜かれてしまった。不甲斐ない」と何でもなさそうに言っている安久と
「そこでバランスを崩したところを私が残った方のブレードでズバッてやってやったのよ! あそこで逃げられなければ仕留められたのにぃ!」
搭乗席が露出するほどの損傷を受けた機体で、相手の片足を切断してみせた宇佐美。
やはりこの二人は規格外だなとフラフラする頭で思っていた比乃は、ふと話を聞いていて疑問に思っていたことを口にした。
「……そいつ、片足と片腕を失った状態でどうやって逃げたの?」
志度と心視も「そういえば」という顔で安久と宇佐美の方を窺う。
腕はともかく、脚を失うというのは、陸上兵器であるAMWでは致命傷だ。
戦車で言うならば履帯を破壊されたというのに近い、その証拠に、片脚ではいくら安久の技量でも自力で駐屯地まで戻ることは出来ない。
聞かれた二人は顔を見合わせて、揃ってUFOでも目撃したような顔をして答えた。
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「…………え?」
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