人間不信になったお嬢様

園田美栞

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場違い

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その顔を見て紗紀子は思わず眉間にしわを寄せそうになった。周りの女性たちはマイクを持って嬉しそうに自分の幸せな家庭生活を話している瑠奈を見てはうっとりしていた。
「聞いたかしら?昔からのご友人だったって」
「素敵ね、身分が違えどあの子は明るくっていい子ですし」
そんな声もちらほら聞こえてくる。
「それに比べて…」
と紗紀子の隣に立った女性が彼女をちらっと見た。毅然とした態度ですくっと立っている紗紀子を見て鼻で笑いながら別の女性と話している。
「いつまでも暗そうにしていて疫病神みたいよ」
「嫌ね、近づかないでほしいわ」
とヒソヒソと話しては笑っている。隣にいる彰宏に聞かせたくないと思ってしまう。それに自分のせいで彼が変に思われてしまうかもしれない。チラッと紗紀子は彼の方を見ると
「もう帰った方がいいかもしれないわ」
と言った。彰宏は
「君は?」
と訊ねると
「もう少しいるわ。心の整理がまだついてないみたい。でも貴方が居てはいけないところだと思うの。白椿の名に傷がついてしまうかもしれないわ」
と言った。
「そんなこと構いませんよ。それに君もお嬢様だ。もう帰りましょう、長居は無用です」
と彰宏が言ったとき周りが暗くなった。二人が天井を見上げるとパッと紗紀子だけに光が当たった。
(え?何?)
紗紀子は隠れるように彰宏の背中に身を寄せた。
「私の大事な大事なお友達で圭吾さんと結ばれるよう導いてくれた方からお話を頂きたいわ」
壇に上がってマイクを持ったままの瑠奈はそう言ってにこりと笑った。
(やられた…)
そう来るとは思わなかった。ただ二人の幸せを長々と見せつけられて諦めるよう仕向けてくるだけだと思っていた。周りの目が痛い。楽しそうな、嘲笑う目。場違いだとでも言いたそうな目だった。壇の上では瑠奈と圭吾さんが幸せそうに立っている。チラッと彼は紗紀子を見て何か言いたそうな顔をしていた。彼が見つけていた彼女は目立っていた。落ち着いたドレスを着ているが白い肌が更に引き立ち、彰宏の後ろに隠れる彼女は怯えた小動物のようだった。そんな彼女に追い打ちを掛けるように
「さぁ、紗紀ちゃん。前に来て欲しいわ」
と瑠奈は大きく拍手をした。圭吾が瑠奈のその言葉にサッと紗紀子を見るのをやめた。瑠奈の拍手に合わせて周りの人たちも笑いながら手を叩く。
「帰るぞ」
彰宏は紗紀子の手を引いて行こうとした。だが、紗紀子は彼らの前に立つ召使の男からマイクを受け取りスーっと息を吸った。
「お幸せに!」
マイクを通した大声は機械がうまく拾えずキーンとした音を会場内に響かせた。礼儀だの作法だのはもう知らない。そんなものに今は構ってられない。ここまで侮辱されてそんなこと考えてもいられない。私を追い出したい口実でこの場に呼ばれただけだった。分かりきっていたことだけどこれですっきりした。召使にマイクを返すと彰宏の手を引いて会場を後にした。
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