人間不信になったお嬢様

気になる彼女

　珍しく社交場に出た彼は人の多さに頭を痛めていた。
　窓から見えた車から降りてきた一人の少女。赤いドレスを着ていてそれがこの場で一番よく目立ち、綺麗に見えた。だからと言って気取っている訳でもなく、なぜか壁の近くに立っているのを不思議に思っていた。頃合いを見つけて話しかけると驚いた様子で彼を見ていた。彼女はどこか違った雰囲気がある人だと彼は思った。他の女性は誰でも彼に話しかけてくる。彼の美貌に心を奪われ話しかけるタイミングを見計らったり、ちらちらと遠目から眺めたりといった女性もいるくらいだった。そんなこんなで気になる彼女に話しかけられずにいた。
　やっと話せたと思えばすぐに彼女は門限があるとかで帰って行ってしまった。名前を告げず、なにも自分のことを話さず彼の心に印象を強く残させた。彼はそんな彼女についてさらに知りたいと思い、先ほど彼女と話していた女性の元へ行ってみることにした。その女性は真紀子といった。真紀子は
「紗紀子とは昔からの親友よ」
と話した。あれこれ話しているうちに紗紀子の過去を聴くことができた。
「本当はあの子から聞いた方がいいと思うわ。私が言えるのはこのぐらい」
真紀子はにこりと笑った。先ほど紗紀子がこの人と話していたのを見ていた。紗紀子の昔の笑顔が一時だけ戻ったような気がした。もしかしたら、心に掛けてしまった鍵を開けてくれるかもしれない。と思った。
「失礼だけど、お名前窺ってもよろしくて？」

真紀子はこの先紗紀子と仲良くしてくれそうだなと思い、聞いてみることにした。彼女のことだから、何も言わず帰って行ってしまったに違いないと思った。
彼は
「いいですよ」
と頷いて自分の名を告げた。

「申し遅れました、白椿彰宏です」