竜の女王

REON

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二章

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「とてもお綺麗です」
「ふふ。ありがとう」

招待状が届いて二ヶ月後のデビュタントボール当日。
本邸から一週間かけて馬車で来た王都にあるアレニエ公爵屋敷に滞在中のロラは朝から侍女の手を借り全身を磨きあげ、甲斐性なしがこの日のために用意したドレスで身を包んだ。

デビュタントを迎える令嬢が着る白を避けて薄桃色のマーメイドドレスを着たシャルロットの姿は文句なしに美しい。
腰まで背中の開いたそれも気品のあるシャルロットが着ると下品さを感じさせない。

マーメイドドレスはもちろん、アップヘアに飾られた薔薇の花の髪飾りも、首元を飾るダイヤを散りばめた豪華なビブネックレスも、レースをあしらったロンググローブすらも全て超一級品で、甲斐性なしの本気度が伝わる。

ロラは甲斐性なしと呼んでいるけれど(心の中で)、財力に関して言えばアレニエ公爵家は非常に高い。
海外貿易を初めとして商売を国内外で手広くやっていて、アレニエ公爵家=財力と真っ先に出てくるほど。
シャルロットに用意したドレスや宝石も海外から手に入れたものが多く、上流階級の貴族家が集まっても絶対に被ることのない物を選んだ。

「奥さま、馬車のご用意が整いました」

ロラを呼びに来たのは王都屋敷の執事。
ノックをしてロラの許可を得て部屋に一歩入った執事はお腹の前で両手を組むと頭を下げる。

褐色の肌をした異国人の執事。
異国人を執事にする貴族家は少ないけれど海外との繋がりも深いアレニエ公爵家では別で、先代公爵の頃から実力がある者は積極的に雇い入れている。

まだ若い執事ではあるけれど仕事ぶりは優秀。
背が高く肉体も逞しく、妙に色気のある美丈夫。
それが証拠に侍女たちも執事を見るたび乙女のように頬を染めて見惚れている。

「今日はお願いね、ピート」
「光栄にございます」

多くの人が集まる今日のデビュタントボールでは何よりも安全面に考慮して、甲斐性なしにはサシャ、ロラにはこのピートが従者兼護衛として傍に付くことになっている。
どちらも護衛として文句なしの人選。

「奥さま、行ってらっしゃいませ」
「ええ。後はゆっくり休んでね。朝からありがとう」

頭を下げる侍女たちに声をかけて部屋を出た。

「旦那さまのお支度は終わっているのかしら」
「はい。既にお部屋を出ておられます」
「そう」

斜め後ろを歩くピートを振り返ることなく会話しながら歩く。
社交界シーズンだけ利用する屋敷でも抜かりなく整備されていることを眺めながら。

「王城へは剣の持ち込みが出来ないけれど大丈夫かしら」
「問題ございません」
「ふふ。そう」

はっきり答えたピートにロラはクスクス笑う。
携えた剣はオマケでしかないことは知っていて聞いたけれど。
この執事、強いですわ。
肌でそれを感じながらも触れることはなかった。

「旦那さま」

エントランスホールに先に着いていた甲斐性なしは声が聞こえて振り返ると、執事にエスコートされながら階段を降りてくるシャルロットがそこに居て一気に心拍数があがる。

「お待たせしてしまいましたか?」
「私も来たばかりだよ」

目の前まで来たシャルロットを愛おしく見る甲斐性なし。

「普段のシャルロットは妖精のように可愛らしいけれど、今日のシャルロットは女神のようにとびきり美しいね」
「ふふ。旦那さまも素敵ですわ」

貴族流の大袈裟な褒め言葉。
それは貴族男性のマナーではあるけれど、甲斐性なしはシャルロットが愛おしすぎて心の底から褒めている。

周りから見れば所謂
公爵夫妻は本当に仲が良いなと、何も知らない使用人たちは少し恥ずかしいくらいの二人を見ながら内心思う。

でも旦那さまの気持ちは分かる。
16歳の若奥さまは可愛らしさと美しさを兼ね備えた美少女。
愛おしくて仕方がないとなるのも当然の流れ。

その中で唯一サシャだけは『演技お疲れさまです』と白けた目で二人を見ていた。


王城へ向かう馬車は一台。
アレニエ公爵夫妻とサシャとピートの四人。
甲斐性なしとシャルロットが並んで座っている対面にはサシャとピートが座っている。

「シャルロットのご家族に会うと思うと緊張してきた」
「ふふ。陛下にではないのですか?」
「自分の妻のご家族にお会いする方が緊張するよ」

遂に当日を迎えて今更ながら緊張し始めたらしく、少し強ばる甲斐性なしにロラはくすりとする。
まあ相手が王家と権力を二分するドラゴニュート公爵家ということも大きいのだろうけれど。

「先に謝っておきますわ」
「ん?」
ワタクシの家族の態度が無礼だったらごめんなさい。ご存知のように王家はもちろん陛下にもひれ伏さない一族ですから」

貴族家の中でもドラゴニュート公爵家は特異。
身分は王家が上でもドラゴニュート公爵に命令はできない。
正確に言うと、命令することは出来ても従わない。
頼まれて気が乗れば協力する程度。

ドラゴニュート公爵家は魔獣の氾濫や他国との戦争から国を守る変わりにそれが許されている。
許されていると言うより許すしかない。

ドラゴニュート公爵家が居るから王国は発展できた。
ドラゴニュート公爵家が魔獣を壊滅させなければ、魔獣の巣が点在する土地にあるこの王国は疾うに滅んでいた。
それが分かっているから王家も強く出られない。

ドラゴニュート公爵家が国を乗っ取るのは容易いこと。
ただドラゴニュート一族は政治には興味がなく自分たちの強さが全てだから、火種を撒かれない限り国を潰すつもりもない。
王家もまた、大人しくしてくれているのにわざわざ怒らせるような火種を撒いて王国や王家を滅ぼすようなことはしない。

それが王家とドラゴニュート公爵家の関係。

「大丈夫だよ。私も何度かドラゴニュート一族の方とお会いしたことがあるから少しは分かってるつもりだ。口数は少ないけど、こちらが無礼なことをしなければ何かされることもない」

多くの人からすればドラゴニュート公爵家は一つの独立国。
同じ貴族でもドラゴニュート公爵家だけは王国貴族の枠を飛び越えた独立国のようなものだと思っている。

「周りの方にはもっと愛想よくしてくださればと思うのですけれど。言葉が悪いので家族以外には真意が伝わり難いのです」
「完璧に見えるけれどその辺りは不器用なんだね」

クスクスと甲斐性なしは笑う。
甲斐性なしの前でもシャルロットを見下した態度をとる可能性を考えて、先にそんな布石をうっておいた。


王都の中を馬車を走らせて数十分。
この王国の国王が暮らす王城に辿り着いた。

「ピート。私やサシャが離れている時間はシャルロットの周囲に目を配ってくれ。通信を入れてくれたらすぐに駆けつける」
「承知しました」

デビュタントボールはあらゆる貴族が集まる。
舞踏会では男性は同性と仕事の話になることも珍しくなく、女性も同性と会話に花を咲かせることも珍しくない。
中には常に一緒に居る夫妻も居るけれど、互いの出会いや何かしらのチャンスを奪うことになるのだからよろしく思わない。

甲斐性なしもシャルロットが心配だけど、友人や理解者と出会う機会になるかも知れない時間を奪いたくない。
だからこそシャルロットの護衛としてピートを同行させた。

大きな噴水の周りを何度か回ってロラたちが降りる番。
王城に仕えている男性が外から馬車を開けた。

「シャルロット。手を」
「ありがとうございます」

最初にサシャとピートが降りて次に降りた甲斐性なしは、馬車の中に居るシャルロットに手を差し出す。
その手をとって降りたシャルロットに男性は驚いた。
アレニエ公爵とドラゴニュート公爵家の令嬢が成婚したことは有名な話だけれど、こんなにも美しいご令嬢だったのかと。

雪のように白い肌に輝くプラチナ色の髪と瞳。
真っ白なその姿で雪の妖精や女神と言われたら信じてしまいそうなほど不思議な存在感を放っている。
ドラゴニュート一族の特徴は一切ないけれど、そんなことなどどうでもいいほどに愛らしく美しい。

「疲れてないかい?」
「ふふ。大丈夫ですわ。心配症ですのね」

小さく細い身体を労る公爵から感じるのは愛おしさ。
よほど大切にしているのだろうと、その一時だけで伝わった。

そんな二人の後ろで周囲に目を配るサシャとピート。
このデビュタントボールで何かあるとすれば、狙われるのはドラゴニュート公爵家の血筋を持つシャルロット。
誘拐も暗殺も心配しなければならない。

「ピート。もしもの時には魔法を使うことを許可する」
「はい」

口元を隠したサシャは小声でピートに指示をした。


王城の巨大なダンスフロアは既に人が集まっていて、男性も女性もそれぞれ着飾って玉座に居る国王や王妃に挨拶をする。
デビュタントボールの主人公である若者たちはそれが終わってから入場して、国王の祝辞とともに式典が始まる。

「アレニエ公爵夫妻のご入場です」

既に挨拶を終えた者たちは左右に分かれて立っていて、ドアマンが伝えたその名前を聞いて扉の方を見た。

人の声がしていたダンスフロアは徐々に静かに。
玉座へまっすぐに続く赤い絨毯を歩いてくる四人を見て。

後ろに仕えるのは凛々しい異国人と見目麗しい侯爵家の令息。
その前を歩くのは王国最大の貿易を担うアレニエ公爵。
輝く金色の髪と透き通った翡翠色の瞳をした美丈夫。
そのアレニエ公爵のエスコートを受けるのは……誰?

アレニエ公爵はドラゴニュート公爵家の令嬢と成婚したはず。
それなのにあの人離れした美しいご令嬢は誰?
ドラゴニュート=黒髪赤目の印象がある人々は首を傾げる。

ただ、噂話を知っている人は別。
灰色の髪と瞳をした
竜の力を持たず生家では虐げられて……。

などと最初に言ったのは誰だったのか。
庇護欲を駆り立てる小柄な背に細い身体。
雪のように白い肌と美しいプラチナ色の髪と瞳。
長いまつ毛に高い鼻にふっくらした唇。
まるで精巧にできた人形のよう。

これほど美しいのに生家で虐げられていたなど考えられない。
もし本当にこの儚げなご令嬢を虐げていたと言うなら、ドラゴニュート一族の感覚は狂っている。
ドラゴニュートの特徴や竜の力など無くともどうでもいいくらい美しいのに。

「国王陛下、王妃陛下へご挨拶申し上げます。ルカ・ユメル・アレニエ。妻シャルロット。ご招待を賜り登城いたしました」

玉座の手前に着いてボウアンドスクレープで挨拶をする甲斐性なしと、隣でカーテシーをするシャルロットロラ

「よく来てくれた」

階段を上がった先の玉座から国王はそれだけ話す。

「たしかアレニエ公はドラゴニュート公のご令嬢と成婚したのだったな。失礼は承知だが、そちらの奥方がそうだろうか」
「はい。ドラゴニュート公爵閣下のご令嬢シャルロットです」
「……そうか」

体躯がよく力も強く黒い髪と赤い瞳を持っているドラゴニュート一族とは真逆の容姿をしている儚げな印象の令嬢。
失礼だとは分かっていたけれど聞かずには居られなかった。

「アレニエ公爵夫人。顔をあげなさい」
「拝謁の機会を賜り光栄にございます」

顔をあげたシャルロットの瞳は美しいプラチナ色。
くっきりとした大きな目に長いまつ毛までもプラチナ色。
透き通る真っ白な肌も印象的で、声までも澄んで聞こえる。
まっすぐに自分と目を合わせるシャルロットに国王は黙った。

「今日は妹のカーラ嬢がデビュタントでしたね」
「はい。成人を迎えるお祝いをと思い駆けつけました」
「そう。アレニエ公爵、公爵夫人、舞踏会を楽しんでね」
「「ありがとうございます」」

黙った国王の代わりに王妃が会話を付け足す。
国王までもがシャルロットに見惚れていたことは誰の目から見ても明らかだった。

挨拶が済んで玉座の前から離れると、甲斐性なしがふっと吹き出すように笑う。

「やっぱりシャルロットの美しさには誰も敵わないね」
「なんですの?突然」
「事実だろう?みんながシャルロットに釘付けになってる」

そう言ってグローブの上から手の甲に口付ける。

「夫として少し腹立たしくはあるけど、シャルロットが見惚れるほどに美しい女性だと知れ渡ることは素直に嬉しい。君の噂をしていた者たちもこれで黙らざるを得なくなっただろう」

甲斐性なしは噂話を面白おかしく広げるような男ではなかったけれど、シャルロットの噂を耳にする機会は多かった。
自分もその噂話を重責から避ける理由に利用したことは紛れもない事実だけれど今はそのことを猛省していて、シャルロットのためになることなら何でもしてあげたいと思っている。

「この力の入った衣装や装飾品はそのためですか」
「ん?だってシャルロットは存在そのものが愛らしくて美しいだろう?誰にでも手に入るような物では君の美しさの邪魔になるだけだ。私の妻の美しさに見合う価値ある代物でなくては」

この甲斐性なし、なかなかやりますわね。
今回の発言は同意いたしますわ。
そうそう。清らかで美しいシャルロット嬢には価値ある物でなければ釣り合わないのよ。

「ドラゴニュート当主、ドラゴニュート公爵家のご入場です」

心の中で大きく何度も頷いているとドアマンの声が聞こえる。
その名前で会場は一瞬にして静かになった。

赤い絨毯の上を歩くのは四人。
後ろを歩く三人はシャルロットの父と母と兄。
嫁入りした母以外は全員が長身で黒髪赤目。

その三人でも会場は静まっただろう。
ただ、恐怖で口を結ばざるを得なかった理由はただ一つ。

ドラゴニュート一族当主、ファウスト。

シャルロットの祖父でありドラゴニュート一族の当主。
3mはありそうな誰もが見上げる高い背と筋骨逞しい肉体。
漆黒の髪と真紅の虹彩。

そしてドラゴニュート唯一の不老長寿。
御歳618歳。
その歳にして見た目はまだ二十代前半の青年。

彼こそがドラゴニュートの象徴。
普段は式典に参加しない当主が来たことに人々は驚きと恐怖を隠せなかった。

「久しいなファウスト当主。貴殿がデビュタントボールに足を運ぶとは思わなかった。やはり孫娘のデビューは特別か」

本来は貴族側から国王に挨拶をするのが礼儀。
けれど国王の方から当主に声をかける。
それ一つでもこの王国の力関係が分かる。

「やったところで意味のないそんなものに興味はない。勝手にやれ。私がここへ来た目的は孫のシャルロットだ」

当主が国王に言ったそれでシャルロットに視線が注がれる。
国王や王妃の視線を目で追った当主は貴族たちの中に居るシャルロットを見つけて歩き出した。

「旦那さま。サシャたちと下がっていてくださいませ」
「シャルロット?」
「当主式のご挨拶が始まりそうですわ」
「当主式の挨拶?」
「サシャ、ピート。旦那さまを」
「「はい」」

当主に怯えて下がる他の貴族と違ってシャルロットの隣に居る甲斐性なしをサシャとピートに言って下がらせる。
自分の妻を置いて逃げなかったことは評価しますわ。

まっすぐに向かってくるその姿は幼い頃のシャルロットの記録や記憶で一度だけ見た時と一切変わっていない。
まさしく不老長寿。

離れたあと固唾を呑んで見る貴族たち。
シャルロットの目の前まで来た当主がアイテムボックスから一瞬で大剣を取り出し、シャルロットの首元目掛けて真横に斬りつけるのを見て貴族たちの悲鳴が響いた。

「誰だお前は」
「まあ。たった一年で孫の顔をお忘れですの?」

当主が握った大剣の上にちょこんと立っているシャルロット。
どのようにして一瞬でその上に立ったのか、なぜ人が乗っている大剣を右手一本で握って微動だにせず居られるのか。
何が起きているのか誰も理解できず再び会場は静まり返る。

「お前が私の孫だと?」
「ドラゴニュート当主ファウストが孫、シャルロットですわ」

シャルロットはそのまま大剣の上でドレスを摘むと可愛らしくカーテシーをする。

「麗しい二十代の青年のお顔ですのにもう耄碌しましたの?」

それを聞いた当主はフッと笑うと水滴を飛ばすかのように大剣を振って、ふわりと落ちてきたシャルロットをキャッチした。

「私の孫以外になる気はないか?」

笑いを含んだ声で耳元で囁かれる。

「貴方、脳筋すぎますわ」

ロラも口元を手で隠して囁き返した。

シャルロットの記録や記憶に残っていた当主の姿だけでは分からなかったけれど、実際に本人を見たら神竜の知識が流れてきて分かったことがある。

当主はシャルロットの実の祖父じゃない。
いや、形式的には祖父で間違っていないけれど、血と魔力で子を作れる特異な竜の力を持つ当主が竜種の血と自分の魔力を使って数名の子どもを作り、その子どもたちが子孫を増やして行って今のドラゴニュート一族になった。

つまりドラゴニュート一族は当主の魔力を持つだけの他人。
黒髪と赤目は当主の魔力の影響で、血は繋がっていない。

ただ、当主とシャルロットはただの他人ではない。
実はシャルロットは当主のつがい
そうなる者としてこの星に生まれたのに、番になることも幸せになることのないまま自ら命を絶ってしまった。

主神の恩恵を受けた二つの種族。
谷底に落ちて肉体を失ったヴァンピールのロラと、絶望で魂が欠けたドラゴニュートのシャルロット。
不幸が重なった二人が消滅しないよう、神竜は肉体を失ったあとのロラの魂をこの星へと呼び寄せた。

そしてもう一つ。
これはヴァンピールの始祖のロラだから分かったこと。
当主の魂はシャルロットと同じく輝きを持つほどの白。
悩むまでもなく善(無罪)の証明。 
審判人が裁く必要がない者。

この人が求めるものは強さ。
自分にも他人にも強さを求めている。
ただ他人にも求めたその強さは残念ながら叶わなかったから、竜の力を使い子どもを作って自分と渡り合えるだけの強さを持つ者が現れることを望んでいた。

竜の王の継承者に拘ったのも竜の王なら強いだろうと。
多くの国のように竜たちの力や不可侵領域が欲しかったのではなく、ただ自分が強い人と戦いたいだけ。

驚くほどの脳筋。

「二人で話そう」
「お待ちください。先に旦那さまとご挨拶を」

抱きかかえられたまま連れて行かれそうになって止める。

「旦那さま」

自分からは行くことが出来ずに甲斐性なしを手招きする。

「ごめんなさい。驚かせてしまったでしょう?」
「たしかに驚いたけれど喧嘩ではなくて安心したよ」

シャルロットにそう答えて甲斐性なしは微笑む。
この甲斐性なし意外と適応力が高いのではなくて?
当主を怖がりもせず近付いて来ましたし。

「当主、こちらの方がワタクシの旦那さまですわ」
「ドラゴニュート一族のご当主にご挨拶できる栄誉を賜り光栄にございます。ルカ・ユメル・アレニエと申します」
「アレニエ?」

丁寧なボウアンドスクレープをした甲斐性なしに当主はシャルロットを片手に抱えたまま顔を近付ける。

「見たことがあると思えば提督か」

提督?
初めて聞いたそれにロラは内心思う。

「この場で話さない方が良さそうだな」
「出来ますことなら」

甲斐性なしの表情で判断したらしく当主は鼻で笑う。

「まあいいだろう。孫と二人で話す。従者もつけるな」
「承知しました」

何か隠し事があるらしい。
目を合わせない甲斐性なしやサシャを見て察する。

「お話しするのはいいですけれどカーラが入場しますわよ?」
「私はデビュタントを見に来たのではない」

それだけ言うと玉座とは反対方向の扉に向かって歩き出した。

「旦那さま」

甲斐性なしの名前を呼んだロラが腕につけているブレスレット型の通信機を見せるとそれで伝わったらしく、甲斐性なしは大きく頷いて返した。

「なぜだろうな。お前があの男を呼ぶそれが鼻につく」

それは恐らく当主とシャルロットが番だから。
本能的に不快だと感じるのだろう。
ロラもまだ当主とシャルロットの繋がりを知ったばかりで、整理ができていないそれに困惑していた。

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