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二章
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しおりを挟む「なにこの時間!」
目が覚めて時計を二度見する。
「10時って、完璧遅刻じゃん!なんで起こさないの!」
いつも口煩く起こす癖に自分も寝坊!?
早くシャワーを浴びて学校に行かないと!
朝の内に新しい友達を作る予定だったのに!
「母さん寝坊しないでよ!」
階段を駆け下り静かなキッチンを通って夫婦の寝室を開ける。
「あれ?」
寝坊したんだと思ってた母親の姿がない。
「もしかして起こさないで仕事に行った?」
なにを考えてるの?
おかげで遅刻したじゃない。
母親の仕事しなさいよ。
「朝ごはんは?お弁当は?」
キッチンのテーブルに何もない。
いつもなら早い時間に仕事に行く時も用意してあるのに。
「何これ。母親業ボイコット?昨日ので拗ねたの?」
あんなのいつも聞いてる癖に。
朝ごはんもお弁当も作らないで仕事に行くなんて最低。
私が料理できないこと知ってるのに。
父親も居ないから父親だけは起こして行ったのかも。
「ムカつく」
もう良い。
行く途中で買って行こ。
その分のお金は帰って来たら返して貰わないと。
お腹は空いてたけどシャワーだけ浴びて制服に着替えて家を出た。
コンビニでパンとお菓子を買って食べながら学校に行く。
うちはパンも母親が作るからコンビニのパンをあまり食べないけど、こっちの方が好きな味を食べられるから良い。
「毎日こっちでも良いな。たくさん種類があって」
歩きながら食べて学校に着く頃には食べ終わり、靴を履き替えようと靴箱を開けたタイミングでチャイムが鳴った。
「あれ?シューズがない」
靴箱の中が空で誰かの靴箱と間違ったかと確認したけど、ネームプレートには私の苗字が書かれている。
「意味分かんない。誰か間違って履いたとか?」
自分のを誰かが履いてるなんて気持ち悪いんだけど。
一応周りの靴箱の中身も確認してみたけど誰かの所に入ってることもなかった。
休み時間になったから生徒たちの声が聞こえる。
早く行ってさっさと新しい友達を作らないと。
「失礼します」
シューズは母親に買って来て貰うことにして、職員室に行ってドアをノックする。
「遅刻?」
「寝坊しました」
「クラスと名前を書いて行ってね」
「はい。シューズがないのでスリッパ貸してください」
中にいた教師から遅刻した生徒が書く名簿を渡される。
「ない?どうして?月曜でもないのに」
「さあ。入ってなかったので。誰か間違ってるのかも」
「……あなた本田先生のクラスなの」
「はい」
名前とクラスを書いて渡すと名簿を確認して私を見る。
「本田先生に伝えておきます。スリッパは帰りに返してね」
「分かりました」
箱に入ってるスリッパを履いて、今日は不便だけど仕方ないかと思いながら教室へ行った。
「おはよう」
……なに?
教室に入って挨拶をしたら急にシンとなる。
「おはよう」
もう一度言うとザワザワし始める。
こちらを見ながら。
「リナおはよ」
一番近くに居たクラスメイトに直接声をかけるとサッと顔を逸らされた。
「リナ?」
「話しかけないで」
「は!?」
「話したくない」
「なに言ってるの!?」
リナはフンとすると他のクラスメイトの所へ行く。
「ヤスヒロおはよ」
隣の席の男子は完全に無視。
黙ったまま授業の準備をしている。
どういうこと?
どうして誰も話しかけて来ないの?
これじゃ私が優香になったみたい。
「……まさか虐め!?」
優香が居なくなったから私なの!?
なんで私が!?
「ユウコどういうこと!?どうして私が虐められるの!?」
前の席の女子の肩を叩いて訊いても振り返りもしない。
まるで私が居ないみたいに。
あ。これ優香の時より酷い。
優香はツトム先輩のことがあるまで七海がからかって話しかけてたし、他のクラスメイトも普通に挨拶をしてたけど、私は空気にされてる。
「優香の次は私なの!?どれだけ虐めるのが好きなのよ!」
そう訴えても誰も振り返らなければ見もしない。
それぞれが普段通り友達と話したり授業の準備をしていて、私の存在がないものにされていた。
「性格悪すぎでしょ!虐めて楽しいの!?」
強く訴えると廊下から複数の笑い声が聞こえてパッと見る。
……ツトム先輩。
教室の後ろのドアから見ていたのはツトム先輩と友達。
昨日のお葬式で優香のお兄さんと話してた人たち。
「ツトム先輩がみんなに言ったんですか!?」
「まさか。昨日の今日でどんな顔して登校したのか見に来ただけ。でも面白いことを聞かせて貰ったから見に来て良かった」
なにこの人気持ち悪い。
人が怒鳴ったのに楽しそうに笑ってる。
「虐めっ子が虐めて楽しいのって言うとはね」
「え?そこ?俺は性格悪すぎの方がウケたけど」
「どれだけ虐めるのが好きなの?もだろ。全部特大ブーメランが刺さってるんだぞ?天才かよ」
感じの悪い先輩たち。
やっぱりみんなこの人たちから無視するよう言われたんだ。
「俺たちはただの傍観者だ。虐めもしないけど止めもしない。濱名さんが受けた痛み、お前ら全員身を以て知れ」
この人狂ってる。
きっと優香が死んで頭がおかしくなったんだ。
「頭がおかしい人の言うことなんて聞かなくて良いよ。私が先生に言って退学にしてもらうから」
もう一度ユウコの肩を叩いて言っても振り返ってくれない。
「ねえ、ヤスヒロも。怖がらなくてもツトム先輩たちと同じ男でしょ?」
もうツトム先輩たちは居なくなったのに。
みんなどうしてあの人たちがそんなに怖いんだろう。
誰も私の方を見ないまま。
始業のチャイムと一緒に世界史の田渕先生が入って来る。
「先生!」
「はい。どうしましたか?」
「三年の先輩からみんなが脅されてるんですけど!」
「……はい?脅されてる?」
授業どころじゃない。
それよりも先にツトム先輩たちに言って貰わないと。
「どういうことですか?」
「さあ。分かりません」
「はい?クラス委員さん、どういうことですか?」
「自分にも分かりません。登校して来たらこんな感じで」
「私にもなんの話なのかちょっと。申し訳ありません」
「なんでみんな嘘つくの!?」
最初に教卓の前の席の女子に訊いた先生はクラス委員の2人にも訊いたけど、誰もツトム先輩たちのことを言わない。
「みなさんの中で3学年の先輩に脅されてる人は居ますか?」
先生が聞いても誰も手をあげない。
「何言ってるんだろう。急に怖い」
「仲良かった久美達にあんなことあったから?」
「アイツ大丈夫か?」
「よっぽどショックだったんだな」
「それはそうだよ。いつも一緒だったから」
「可哀想に」
私の方を見てそんな話をヒソヒソ話している。
「えー……唐沢さん?あ、濱名さんの」
名簿で名前を確認して私を呼んだ先生が呟いた声も聞こえた。
「唐沢さん。みなさんは身に覚えがないようですが」
「ほんとです!さっき来たんです!ツトム先輩たちが!」
「ツトム先輩たち?ツトム……ツトム」
「牧先輩です。さっきの休み時間に来ました」
名前じゃ分からない先生に委員長がツトム先輩が来たことを答えてくれる。
「なにがあって来たんですか?」
「生徒会の引き継ぎの件で自分と話を」
「また嘘!本当のこと言ってよ!脅されてることを言えば先生たちが退学にしてくれるから大丈夫!」
3年生は最後の年で大事な時。
他の先輩たちの影響を考えて問題ある生徒は退学にするはず。
「唐沢さんはああ言ってますが」
「嘘と言われても困ります。牧先輩たちと自分がそのドアの所で話してたことはみんなも見てたはずです。疚しいことはないですからみんなに訊いてください」
どうしてツトム先輩たちを庇うの?
退学になれば居なくなるから大丈夫だって言ってるのに。
「仙道さんが牧さんと話していたのを見た人は居ますか?」
こんな時だけみんな手を挙げる。
「挙げてない人も居ますよ!?ほら!」
「えー挙げてないのは……三上さん」
「はい。お手洗いに行ってたので分かりません」
「ああ、はい。休み時間ですからね」
「千歌ちゃん、あ、吉井千歌さんと水野春香さんと3人で」
「吉井さんと水野さん……はい。確かに挙げてませんね」
私が何を言ってもみんなが認めない。
またヒソヒソ話して教室をザワザワさせる。
「唐沢さん。授業の後に職員室で話を訊きます」
「授業なんてしてる場合じゃない!私が虐められてるのに!」
「虐め?」
「みんなツトム先輩に脅されて私を虐めてるんです!」
先生に訴えるとみんなから同情したような目で見られる。
「今度は虐め?」
「ヤバいんじゃん?妄想が酷い」
「大丈夫かなあ。ちょっと怖いよ」
「そういうこと言ったら駄目だって」
「そっか。クラスメイトだもんね」
まるで私の頭がおかしくなったような扱い。
「みなさんお静かに。他の先生を呼んで来ますから教科書に目を通しておいてください」
みんなが「はい」と答えると田渕先生はすぐに出て行った。
「ねえユウコ言おうよ!ヤスヒロも!みんなも!」
シンとしている教室。
みんな教科書を読んでいて返事をしないどころか私を見ることさえなかった。
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