ホスト異世界へ行く

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第十一章 深淵

神殿

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騎士に周りを護られて別館に向かう。
別館に向かう途中に通る中庭には神殿の中では見かけなかった修道女シスターの姿もあって、大名行列かのように進行の邪魔にならないよう避けてその場にしゃがみ深く頭を下げていた。

貴賓室から別館まで十分ほど。
階の移動には術式を使ったのにそれだけかかったんだから、神殿(中庭含む)がいかに大きい施設なのかが分かる。

英雄エロー公爵閣下!」
「なぜここに!」

渡り廊下の両側で待機している騎士たちが先に気付き、ダンテさんとラウロさんも俺が来たことに気付いて駆け寄る。

「三度も騒ぎが起きたとあらばさすがに静観できない。何が起きているのか自分の目で確認に来た」

正確には精霊神がどこまでやったかを確認に来たんだけど。

「念のため障壁はかけておりますがまだ安心はできません。現在帰城のための術式を構築しに魔導師二名が城へと戻っておりますので、準備が整うまでお部屋でお待ちください」

ダンテさんからそう言われて報告に来た騎士を見ると、俺が言いたいことを察してくれたらしく記録石をダンテさんに渡す。

「これは?」
「私の宣言を記録してある。仮にここで私の身に何かあっても争いが起きないように。もし何かあれば両陛下に渡してくれ」
「な、なぜそのような」
「ここまでしないと私は身動きが取れなさそうだったからな」

自分の立場は理解してるつもり。
だから止められるのも当然だと思ってるけど、知らないふりで貴賓室に居たところで直接教皇に裁きがくだればますます騒ぎが大きくなることは目に見えてる。

「それより中の調査はもう終わったのか?」

神殿の前には軍人の他にも見習いを含む神職者たちが居る。
その中には教皇も居て、俺が来た時にはダンテさんやラウロさんと話している最中だった。

「それが……」
「ん?」

言葉を濁すダンテさんに首を傾げる。

「創造神の神殿には神に仕える者しか入れないと」
「……だから調査を拒んでいるということか?」
「はい。緊急時だからと説得はしているのですが」

確かに教皇を含め数名の枢機卿以外の立ち入りを禁じていることは聞いてたけど、まさか調査すらも拒むとは。

「分かった。一旦空から神殿を確認してくる」
「え?」

キョトンとしたダンテさんとラウロさんに少し笑って恩恵の大天使の翼を使い、翼を出して少し空に浮かぶ。

「要は中に入らなければいいんだろう?は禁じられてない」

そう付けて記録石を見せると二人は理解したらしく苦笑した。

翼を使って上空に飛び空から創造神の神殿を見下ろす。

「わー……」

前から見た神殿は大した被害がないように見えたけど、そこに祭壇があるんだろう奥側の屋根には大きな穴が空いている。
いやむしろ、ほぼほぼ屋根がない。

『随分と加減してやったようだな』
「これで?」

九割は屋根がない状態になっていても加減したらしく、魔神のそんな声が聞こえてくる。

『していなければ辺り一帯木っ端にされている』
「…………」

神の激おこの破壊力は俺も一度恩恵を使って理解してる。
俺が使ってもあの破壊力だったんだから、神本人が使えば星一つ簡単に壊せそう。

『壊せる』
「そこは答えてくれなくていい」

あっさりと恐ろしい返事を聞いてしまった。
星を創れるんだから壊せるのも当然と言えば当然だけど。

「教皇は神殿がこうなってることを知ってるのか?」
『いや。騎士の居る前では神殿の扉を開けたくないようだ。あの男もまだ中には入っていない』
「だから精霊神の怒りに気付いてないんじゃないか?」
『ああ。何名かはこの状況を見ずとも創造神の神殿が破壊されたということだけでその考えに辿りつき跪いて祈っていたが』
「神を祀る神殿が破壊されたとか不吉だからな」

その人たちは神の怒りに触れたことを察して怒りを鎮めてくれるよう祈りを捧げていたんだろう。

「ん?」

神殿の中に入ったと言われないよう屋根より少し高い位置まで降りて、黒焦げの破片が飛び散っている場所を見る。

「柱じゃなくて神像だったのか」

最初は折れた柱の根元かと思ってたけど、よくよく見ると膝辺りから上が破壊されている神像。

「……神像?」

創造神の神殿に神像?
自分で言ってハッとする。

「なあ。あの神像の元の姿を見せて貰うことって出来る?」
「構わないが」

顕現した魔神は神職者たちの映像を見せてくれた時のように上に向けた手のひらの上に元の神像を映して見せてくれる。

「エルフ神じゃない。……まさか創造神の神像か?」
「一切似ていないがそのようだ」

それは駄目だろぉぉぉぉおお!
どんどん穏便に済ませることが出来ない状況になってる!

「神像に問題が?」
「精霊族には万物の頂点に位置する創造神の姿だけは神像にしたり絵画に描くことを禁ずる法律があるんだ。たった1cmの大きさだろうと最高神への冒涜行為で重罪になる。だからみんな神の御使いの天使を神像や絵画にして祈りを捧げてる」

この世界で生まれ育った精霊族なら誰もが知ってること。
教会や聖堂はもちろん国王の王城にすら創造神の姿はない。
それほどこの世界の人にとって創造神は特別な存在。

「そうか。ならば私が跡形もなく破壊してやろう」
「魔神の姿は見えないんだから俺が破壊したと思われるし!」
「いま音がしなければ裁きが落ちた時に壊れたと思うだろう」

そう言って神像の残骸の上に降りた魔神が手で触れると、一瞬にして神像の残骸は砂のように崩れ落ちた。

『これはどうする?』
「これって?」
『神像の台座に隠してあった金品だ』

屋根から下には降りないようにしてる俺と距離があるから頭の中に語りかけてきた魔神からその話を聞いて吹き出す。

『消すか?』
「いや。それはそのままでいい」

禁止された神像の台座に隠してあった金品だからろくな金じゃない可能性が高いけど、運営資金をしまっておく場所として決まった人しか入れないそこが一番安全だったからという可能性もあるし、もしそうなら罪のない神職者にもしわ寄せがいく。

『それはない。教皇が信徒から不正に集めた私財だ』
「あ。一旦俺の異空間アイテムボックスで預かります」

過去を知ることができる創造神の前で隠しごとなど無駄。
俺の心を読んで何の金かを教えてくれた魔神は金品に触れる。

『お前の異空間アイテムボックスに移動した』
「え?そんなこと出来るの?」
『言っただろう?異空間アイテムボックスも狭間だと。狭間から狭間に移動できる精霊神や私が出来ないはずもない』
「……さすが創造神」

万物の創造主は万能。
念のため異空間アイテムボックスを開き本当に入っていることを確認してそのことを実感した。

「もう一つ記録するのか?」
「騎士には今の状態になったこっちの記録石を観せる」

隣に転移してきた魔神に答える。
さっきまでの記録石には神像の残骸や不正金も映ってるから、ダンテさんたちに観せるのは魔神が消してくれた後のこっち。

「珍しく悪事を握り潰してやるのか」
「俺がそんなお優しい奴だと思うか?今はまだ事を荒立てたくないってだけで、教皇の味方をしてやるつもりはない」

神像や不正金が映った記録石は大切な証拠品。
今後の流れ次第では十二分に活用させて貰う。

「これって雷を落とした?」
「ああ。生命への裁きには自然の力を利用する」
「自然の力ってことは雷だけじゃないってこと?」
「極一部を破壊する今回は雷を利用するのが都合が良かっただけだ。仮に全ての生命へ裁きをくだすのであれば大洪水や大地震や巨大竜巻といった天災を起こし全て滅することもできる」

そんな話を聞いて背筋がヒンヤリする。
星すら創ってしまう創造神には自然を利用して生命を滅ぼすことなど容易く出来てしまうことなんだと、改めて神の力の大きさに恐怖心を覚えた。

「実際にやったことはないがな」
「え?」
「今回のように神を名乗り利用して多くの者を苦しめる者には仕置きくらいするが、創造も破壊も容易にできる精霊神と私だからこそ裁きも救済も余程のことでなければしない」

俺の恐怖心を感じとったのか、魔神はそう付け加える。

「星がどう営むも自由。その星で生命がどう営むも自由。精霊神と私は多くを干渉せずただその営みを見守っている」

なんでも出来てしまうからこそ下手に干渉しない。
それが創造神の精霊神と魔神の『決まりごと』なんだろう。

「よし。これで一通り記録できた」

そこに雷を落としたんだろう丸焦げの場所もしっかり記録できたからもう良いだろう。

「そうだ。戻る前に聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ」

一つめの記録石を異空間アイテムボックスにしまいつつふと気付く。

「俺の神系の特殊恩恵の名前って人に明かしてもいいのか?」
「神系?」
「精霊神から貰った天啓とか魔神から貰った天命も含め俺の特殊恩恵の名前って神がついたり神に関係した名前が多いから、みんなが人族だと思ってる俺がそういう神系の名前がついた能力を持ってることを知られたらマズいかなって」

俺の能力がじゃないことはみんなもう分かってるけど、神という御大層な名前がついていることは極力隠している。

「神族ではない者が神を名乗り悪事を働くことを許さないのと同じく、神力ではない能力に勝手に神とつけ偽ることも許さないが、実際に神とつく名前の能力を持っている者が他者へ話すことに問題はない。もし問題があれば神のつく神官という特殊恩恵を明かしている神職はみな裁きが落ちているだろうに」
「神官は神に仕える者だけど俺のはモロに神だから」

神官とは神に仕える者のことだからあくまでも人間。
でも俺は特殊恩恵も恩恵も〝神子〟とか〝神罰〟とか〝神力〟とか〝神の裁き〟とか〝神の怒り〟とか、俺自身が神族であることの証明であるかのように神そのものの名前がついている。

「能力にしろ種族にしろ神と偽ることを許さないのであって、精霊神と私の愛子である神族のお前が自分の神力の名を明かすも種族を明かすも自由。真実を話しているだけなのだからな」
「そっか。分かった。ありがとう」

種族は先に気付かれた魔王以外に明かすつもりはないけど。

「さてと。また精霊神の激おこが落ちる前に片付けないと」
「これ以上の騒ぎにしたくないなのらそうした方がいい」
「うん」

魔神と話してからダンテさんやラウロさんが居る地上に下降すると、神殿前から移動したらしく騎士たちと一緒に神職者が集まっていて、教皇もダンテさんたちと一緒に居た。

英雄エロー公爵閣下。神殿は神を祀る神聖な場所ですぞ」
「知っている」

地上に降りると早速教皇からお小言を喰らう。

「神聖な神殿を上から見下ろすなど言語道断。幾ら英雄エロー公爵閣下とは言え神への冒涜行為を見過ごす訳にはまいりません」
『精霊神や私にはただの建物だがな』
「創造神は万物の頂点におられる御方。冒涜して怒らせたとなればどのような災いが起こることか。考えただけで恐ろしい」
『怒らせたのはお前で神殿を破壊されたことが災いだが』

俺にだけ聞こえている魔神の返答に笑いを堪える。
たしかにそうなんだけど。
今の教皇には巨大ブーメランが突き刺さってるけども。

「神から祝福を受けている私たち神職でも創造神の祭壇があるこの神殿に立ち入ることを許された者は極僅か。神界と繋がる神聖なこの場所を祝福を受けていない者が穢すことを止められなかったなど、創造神にどう許しを乞えばよいのか」

深刻な顔でつらつらと話し続ける教皇。
一見すると神を献身的に敬い崇めるよい教皇に見えるけど、その中身は真っ黒なんだからヒトは怖い。
これこそ『腕のいい詐欺師ほど善人の顔をしている』の典型的パターンだ。

「ああ……神の啓示が」

教皇が言ったそれで神職者たちがザワつく。

「啓示、ね」
「オベルティ教皇は啓示という特殊恩恵を持っていて、神の声を聞くことが出来るそうです」
「へぇ」

ダンテさんがそう小声で教えてくれる。
啓示の意味が分からなくて呟いた訳ではなかったけど。

「創造神よ。どうか怒りをお鎮めください。異界より参られた英雄エロー公は知らなかっただけなのです。主の祝福を受けた私が必ず英雄エロー公を改心させますのでお許しください」

神殿に向かって両手を組み祈る教皇。
神職者たちも一緒になって跪き神殿に向かって祈る。
創造神の一人ならそっちじゃなくて俺の隣に居るんだけど。

「創造神よりお言葉を賜りました」
「聞こう」

しばらく祈っていた教皇が振り返って俺にそう告げる。

「神々と交信できる唯一の者である私が英雄エロー公に代わり懺悔いたしましたが、創造神はお許しくださいませんでした」

深刻な顔で教皇が言うと神職者たちは嘆声を洩らし、騎士たちも少し騒がしくなる。

「ですが、英雄エロー公は今まで多くの者の命をお救いくださった御方。そのような御方が一度の過ちで神罰を受けることを私をはじめ多くの者が望まないでしょう。ですので、英雄エロー公が創造神より祝福を授かることが出来るよう、啓示を授かった私が責任を持って英雄エロー公の御身を浄化し改心させることをお約束したところ、一度だけ機会をくださるとのお言葉を賜りました」

神職者たちの表情がホッとしたのを見て、この人たちは本気で教皇が神と交信できると信じているんだと分かる。
それとは反対に不信な顔で教皇を見ているダンテさんやラウロさんは心から信じている訳ではなさそう。

過去の実績があるから嘘とは言いきれない。
ただ、神と交信できるなど眉唾な話だけに確信ももてない。
神職者は別として、多くの人はダンテさんやラウロさん側の考えを持っているだろう。

「それで?私に何をしろと?」
英雄エロー公にはアルク大教会に属していただき、神がお許しになるまで神職の見習いとして神について学んでいただきます」
「そのようなことが許されるはずがないだろう!」

ダンテさんが真っ先に声を荒げ、神職者たちもそれはさすがにという様子で隣の人たちとヒソヒソ会話を交わす。

「英雄は全精霊族の守護者という重責を背負う代わりに個の権力を与えられた者。例え両国王陛下であろうと英雄の意思を無視し強要することは出来ない。その保護法を破り、アルク大教会は、いや、オベルティ教皇は信仰を強要すると言うのか」

ラウロさんのその声は静かながら怒りを含んでいる。
それもそのはずで、オベルティ教皇が言っていることはラウロさんが言う通り英雄保護法に反するに値するから。

一つの国が権力を使って勇者や英雄を抱えこめば、それをいいことに政治に利用したり戦を仕掛けたりとできてしまう。
何より、大きな力を持つ勇者や英雄が怒り精霊族に反旗を翻さないようを与えられたのが勇者と英雄。

その保護法に護られた俺の意思なしに大教会に属させアルク国に滞在することを強要すればブークリエ国が黙っていない。
国や種族同士の争いになるのだから、軍人のダンテさんやラウロさんが怒るのも当然。

「もちろん強要などいたしません。私は神の怒りを買った英雄エロー公に災いが起きないよう手段を提案しただけで、ご本人が望まないのでしたら静かにその時を見守るだけにございます」
「そうか。では断る」

強要じゃないなら権力を使うまでもない。
俺は神職者になって見知らぬ神に仕えるほど信仰心はないし、神に祈るのなら見たことがある月神や創造神両親に祈る。

「創造神の怒りを買ったままで構わないと?」
「そもそも創造神の怒りを買った覚えがない」

だって創造神の一人は俺の隣に居るし、神殿の上に飛んだけど怒られるどころか一緒に来て協力してくれたくらいだし。
精霊神だって怒ってたら俺に直接言ってるだろう。

「私には神の声など聞こえなかった」
「ああ、まだご存知ではなかったのですね。英雄エロー公には聞こえなくて当然です。私は啓示という特殊恩恵を神より賜り神の声を聞き交信することを許された唯一の者ですので」

それを聞いてつい鼻で笑う。
恐らく啓示という特殊恩恵が珍しくて詳しく知られてないからそんな嘘を言えるし周りからも信じて貰えるんだろうけど、創造神の魔神から話を聞かされている俺には通じない。

「私の居た世界に仏の顔も三度という言葉があってな。どんな温厚な者でも何度も無法なことをされれば怒るという意味だ」

そう話しながら記録石に魔力を通す。

「こ、これは」
「どうやら雷が落ちたようだ。雨雲一つない晴れた日にこの神殿だけを狙ったかのように三度も雷が落ちて創造神を祀る祭壇が粉々に破壊されたとは、何を意味しているのだろうな?」

屋根がほぼない神殿の映像を見た教皇は目に見えて青ざめ、神職者たちは騒がしくなる。

「一体なにがあったのですか!」

声が聞こえて振り返ると、誰かに起こされたらしくアマデオ枢機卿とエルマー枢機卿を含む数名の枢機卿が走って来た。

「……それは創造神の神殿!?」
「そうだ。私が翼で飛んで空から記録した神殿の奥の様子だ」
「怪我人は!怪我人は居なかったのですか!?」

エルマー枢機卿が映像で気付いて驚き、アマデオ枢機卿は真っ先に怪我人の有無を教皇に聞く。
俺が神殿の上に飛んだことでも神殿が壊れたことでもなく、最初に心配したのは怪我人が居るかどうか。
アマデオ枢機卿はエルマー枢機卿を守るため悪事に加担していたようだけど、教皇との人間の差が出ている。

「軍も怪我人の有無や原因を知るため立ち入りを願い出たが、神に仕える者以外は駄目だと断わられまだ調査できていない」
「そんな!オベルティ教皇どうか許可を!瓦礫の下に助けを求める者が居るかも知れません!教会の決まりを優先して命を見捨てるなど、神がそのようなことを望むと思うのですか!?」

俺から聞いてアマデオ枢機卿は必死に教皇を説得する。
決まった人しか入れない場所だし祈りの時間でもないから恐らく居ないだろうとは予想していても、もし万が一のことがあったらと心配になるのは当然だと思う。
魔神から聞いた俺しか居ないと確信を持ててないんだから。

「創造神の神殿に神の祝福を受けていない者の立ち入りを認める訳にはいかない。神聖な神殿が穢されてしまう」

アマデオ枢機卿の必死の説得も教皇には届かず。
ヒトの命よりも教会の決まりの方が大事らしい。
いや、本当に大事なのは法律に違反して創造神の神像を作ったことや、その台座に隠した私財がバレないことか。

「オベルティ教皇。選択肢を与えよう」

同じ神職者の説得に応じてくれたら俺は黙っていたけど、枢機卿という最高顧問の声も届かないなら仕方がない。

「教皇の意思で調査の許可を出すか、私が英雄権限を行使し国王軍へ調査を命ずるか、好きな方を選べ。なお私が権限を行使した際には、そこまでしなければ見せないほどに隠したい何かがこの神殿にはあるとみなして隅々まで調査させて貰う」

俺が英雄権限を行使すれば大事になるという違いだけで、どちらを選んでも神殿内の調査はする。
俺が訪問してる時に起きたことだけに、国王軍も直接原因を調べて国に報告する義務があるから。

「創造神に背き神殿を穢せと申されるのですか?」
「一部の神職者しか神殿に入るなと創造神が言ったのか?」
「左様にございます。私が神と交信してお声を聞きました」
「それを本気で言っているのなら何の声を聞いているんだ?」
「ですから神の」
「天罰を受けたくなければ口を慎め。啓示は夢で何かしらの神が一方的に伝える言葉を感覚で受けとる特殊恩恵であって、生命の方から語りかけることは疎か会話することなど出来ない」

神の力を話していいかを確認したのはこのため。
啓示で神と会話できるという嘘をつけば俺が引くと思ってるようだから真実を明らかにするしかない。

「そ、そのような嘘を!」
「神の声を聞くことが出来るのは天啓という特殊恩恵だ。言っただろう?神の声など聞こえなかったと。私の目の前で啓示を受けとり怒っているらしいそれへ代わりに懺悔してくれたらしいが、私には声が聞こえない何者に懺悔をしたんだ?」

神職者だけでなく軍人も俺の話で騒がしくなり、真実をバラされた教皇は血の気が引いている。

「よろしかったのですか?秘匿能力をお話しになって」
「この場に居ただけで意図せず秘匿情報を聞かされたみなにはすまないが、持つ者の少ない特殊恩恵であることを幸いと能力を偽り私欲に利用する者が居るとあらば黙っている訳にはいかない。尤も私が人の常識を超えた人外の力を持っていることなどもうみなも周知のことであって今更隠すことでもないがな」

ボソリと聞いたダンテさんに答えて苦笑する。

「自衛のため能力を隠すことは正当な権利だが、オベルティ教皇は今まで神から啓示を受けたという嘘で幾度となく国の決定に刃向かい教会の勢力を広げたのだから話は変わる。神に仕える神職者でありながら神を利用するなど、それこそ神への冒涜に他ならない。このことは国に報告をして罪を償って貰う」

なるほど。
国と大教会がバチバチしてる理由はそれか。
と、ラウロさんの話を聞いて納得する。
能力の真偽が確信できない教皇から神の啓示と言われたら国も下手に強くは出られなかっただろうし、それが分かっていて嘘の啓示で国を黙らせてきたというなら処罰を受けるだろう。

「オベルティ教皇。神殿内部を調査する許可を」
「そ、それは!」
「では私が英雄権限を行使しよう」
「なりません!創造神の神殿が穢れてしまいます!」
「穢しているのは誰なのだろうな?」

両手を広げ声を荒げて拒否する教皇にくすりと笑う。

「なあ、オベルティ教皇。私が何も知らないと思うか?貴様の啓示と違って本当に神の声を聞くことのできる私が。信徒からせしめた私財を隠すには貴様の悪事に加担する一部の者しか入れないこの神殿が都合良かったのだろうが、まさか重罪にあたる創造神の神像の台座に隠してあるとは思わなかった」

教皇に近付き口元を隠してそう耳打ちする。

「偽りで人々を欺き従わせるのは気分が良かったか?神に身を捧げた若い神職者が純潔を失う恐怖と痛みで泣き叫ぶなか貞操を奪うのは気持ち良かったか?薬を使われ虚ろな目で涙する者を色欲の捌け口にして楽しかったか?我が身を悪に染めてでも義弟を守りたかった者の頭を踏みつけるのは面白かったか?」

魔神に見せて貰った過去のことや狭間から見たこと。
思い出すだけでも虫唾が走る。

「安心しろ。神像は跡形もなく消して私財も隠した。貴様とその仲間が他の神職者たちにした非道も誰にも話していない。だがそれは貴様のためではなく事が事だけに公にして欲しくない被害者も居るだろうと考えてのこと。被害者がどうしたいか聞く前に騒ぎを大きくしたくない。神像のことで騒ぎが大きくなれば国もアルク大教会の内部調査を強行するだろうからな」

そこまで話してチラリと教皇を見ると、ガチガチに体を強ばらせて冷や汗をかいている。

「神の慈悲は三度。次は神殿ではなく教皇に創造神の裁きがくだる。神に仕える神職として尤も恥ずべき神罰で死にたくなければ二度と自分は神などという戯言は口が裂けても言わない方がいい。神を名乗り悪事に利用したことに創造神はお怒りだ」

自分が神を名乗ったことが原因で神殿が破壊された事実を教えて屈めていた体を起こす。

「ああ、もう一つ。貴賓室の記録石は全て壊しておいた。私の弱味を握り利用しようとしても無駄だ。アマデオ枢機卿が予想した通り、私は弱味を握られようと貴様に従うことはない」

最後に付け加えて今度こそしっかりと体を起こし、真っ青になっている教皇に笑い声を洩らす。

「万物の創造主である創造神が神殿に神職者以外が入っただけで怒るほど心が狭いとは私には思えないんだが、どう思う?」
「それは」
「それと神に仕える神職者だけが神から祝福を受けているなどというのも初耳だ。私は神職者ではないが、祝福されていないのに神の声を聞き神を召喚する力を授かっているのだろうか」

言葉を遮り被せると教皇はぐっと口を結ぶ。

「なあ、オベルティ教皇。三度もの騒音を聞き何か起きているのではないかと不安になっている民も居るだろう。一刻も早く調査をして安心させてやらねば。そのためなら私は躊躇なく自分に与えられた権力や能力を使う。それを承知で返答を」

これが最後。
拒むなら英雄権限を使って神殿の調査を強行する。
そうなればアルク大教会内だけで片付けられる問題までも全て明るみになる。

「……分かりました」
「協力感謝する」

肩を落として許可を出した教皇へ胸に手をあて敬礼した。

「騎士団長に記録石これを渡しておく。この場に居ない者もこれを見れば瓦礫を退ける前の状態が分かるだろう」
「ありがとうございます。お預かりします」

ダンテさんに調査前に撮った記録石を渡す。
調査をする時には人がまだ触っていないありのままの状態と調査後の状態を記録しておく必要がある。
今回は既に俺が空から撮った記録石があるから行ってすぐに瓦礫の撤去や原因の調査に入れる。

「記録石で見せたように崩壊しているのは祭壇がある奥側だ。空から見てその他に崩壊した箇所は見られなかったが、内部の柱や壁に亀裂が入っていることも考えられる。細心の注意を」
『はっ!』

俺が見たのは奥側だけで他の場所の内部までは分からない。
地下に居ても聞こえるほどの音と沈むような振動が届いたんだから柱や壁が脆くなっていてもおかしくない。
崩壊したのは奥側だけと気を抜かず注意して進んでくれるよう話すと、ダンテさんとラウロさんが何部隊に分かれて調査を行うかの話し合いを初める。

『入るだけでも一大事だな』
『本当に』
『祀られているらしい精霊神と私はただの建物に誰が入ろうと空から見下ろそうとどうでもいいというのに、ヒトが勝手に神聖な場所と決めてヒトを制限しているのだからおかしな話だ』
『信仰なんてそんなもんだ』

あれは駄目これは駄目と決めているのは生命。
実際に神と会って会話ができる訳じゃないんだから。
信仰は神ではなくヒトの心の安らぎのためにある。

魔神の呆れたような声に苦笑した。
 
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

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朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

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