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第十章 天地編
執務科
しおりを挟む医療院で親子の身元引受人と保証人の同意書を書いた後、そのまま王宮の執務科に立ち寄り事情を話して親子の国民登録の照会をお願いしてから西区の領事館へ。
案の定二人の名前は西区住民の中には登録されていなかったものの、まだ獣人で登録してる人は少ないから予想通りだっただけに驚くこともなく炊き出しに戻った。
そのあと騒動もなく炊き出しを終えてから結果を聞きに執務科へ行って執務員から衝撃の事実を聞かされる。
「ない?」
「はい。狐種は全体数が少ないですから登録されていればすぐに分かります。念のため獣人族の15歳と9ヶ月を対象に広げて数名の職員で調べてみましたが、15歳のリアという獣人も9ヶ月のラウという獣人も国民登録されていませんでした」
西区の住民登録どころか国民登録までヒットせず。
つまりブークリエ国のどこにも属していないということ。
「獣人だからアルク国籍とは考え難いし……無国籍児か」
無国籍児というのは国民登録されていない人のこと。
西区で言うと出産後に捨てられた赤子のように両親が国へ出世届けをしなかった人が無国籍児の扱いになる。
ただし、14歳未満の棄児は居住先と身元引受人をつけて孤児登録することでブークリエ国民と認められる。
「もしくは情報が偽りである可能性も」
「ああ、それもあるな」
話を聞いたのは医療師で俺はその場に居なかっただけに母親が嘘をついてないとは断言できない。
相手のことや妊娠した状況を訊かれて口を噤んだと言ってたから名前も年齢も種も嘘という可能性はある。
「本人に直接訊くしかないか」
「国からも事情を訊く場を設けなくてはなりません。15歳が事実なのであれば受胎年齢もですが、不法滞在ですので」
「不法滞在?」
「国民ではない者が無断で王都に居住することは禁じられています。場合によっては強制退去をして貰うしかありません」
「そんなに厳しいのか。親の責任なのに」
好きで無国籍になったんじゃないのに。
誰が悪いって登録をしなかった親。
「言い方は悪いですが無国籍児とは存在しない者です。存在しない者には当然のこと納税義務も発生しません。国民には税を納める義務があるかわりに、その税によって作られた国で生活ができるよう保護や保証を受けることができるのです。税を納めない者を国民が納めた税で生活させる訳には参りません」
「ご尤も。俺の考えが甘かった。申し訳ない」
言われてみればその通り。
地上層だと国民は7歳(貴族は0歳)から税の対象になる。
例えば両親と7歳と6歳の子供がいる4人家族だと、父親と母親と7歳の子の3人分の税を納める必要がある。
家庭の収入によって額は違うものの7歳の子供だって税をおさめる義務があるのに、払っている人のお蔭で作られてる国の恩恵を払っていない人が受けるのは不公平となるのはご尤も。
本来なら15歳になった時点で自ら執務科に行って事情を説明すれば登録して貰える方法はあったのに、その手続きすらも怠ったんだから強制退去処分になるのも致し方ないことではある。
「強制退去か……」
ただ、尤もだと分かっていてもあの親子が強制退去させられたら生きていけないだろうなとは考えてしまう。
ブークリエ国民じゃないから王都以外の領地でも暮らすことができないし、誰もいない土地で親子二人隠れて暮らすにしても病気や怪我の治療すら受けられないし、食事もあの母親に狩りができるとは思えない。
「年間で数件こういった問題が起きるのですが、無国籍児のことを甘く考えている親がいることが嘆かわしいです。国民として認めて貰えないということは死ぬに等しいと言うのに。生きるための保証が一切受けられないのですから」
執務員はそう言って溜息をつく。
国仕えとして決められた職務を行ってるだけで、無国籍児の境遇に胸が痛まない訳じゃないんだろう。
「国民登録できる方法ってないのか?」
「孤児院の運営をする英雄もご存知の通り14歳まででしたら孤児登録できますので嬰児の方は簡単ですが、成人している母親の方は同じ方法は使えませんので……んー」
保護対象として大人の手を借りられるのは14歳まで。
ガルディアン孤児院の子供たちも15歳を迎えたら孤児院を出て一人の成人として生きて行くことになる。
申告した年齢が事実なら既に成人の母親は保護対象外。
「成人の場合ですとブークリエ国民と養子縁組をするか婚姻関係を結ぶかでしょうか。それであれば養親や配偶者の庇護下に入ることが出来ますのでブークリエ国民として登録されます」
「国民資格を持った人の籍に入れて籍を作るってこと?」
「はい。例えばその母親がエルフ族と養子縁組や婚姻関係を結んだ場合にはアルク国民ということになります」
「なるほど」
養子も結婚も相手の籍に入るから国籍がつく。
それならたしかに正当な手段で国民登録できる。
「養子縁組か婚姻関係……どっちも簡単じゃないな」
「そうですね。自分で言ったものの現実として厳しいです。王都で人族と獣人が養子縁組や婚姻関係を結んだ事例はたったの一件。英雄もご存知のパトリス夫妻だけです。獣人が養親になろうにも養子縁組の条件を満たすことが不可能に近いですし、一番現実的なのは獣人同士で婚姻関係を結ぶことかと」
だろうな。
獣人=奴隷と思ってる人も多いだけに奴隷を自分の子供にしようとか結婚しようって思う人は少ないだろう。
それなら一番手っ取り早いのはブークリエ国籍のある獣人と婚姻関係を結ぶことだけど、いま結婚を考えている恋人が居るんじゃないなら急に結婚出来るはずもない。
「俺が養子に迎えるか」
「お辞めください」
「なんで?条件が合わない?」
現状で手っ取り早いのは俺かと思って言うと即反対される。
「条件で言えば英雄は養父に必要な身分住居収入の3条件を十二分に満たしております。特級国民で王宮屋敷を持つ英雄公爵家当主。むしろこの地上で英雄以上に好条件の養父は居ないでしょう。問題は英雄ではなく養子に迎える母親の方。英雄の籍に入れば当然養子も強い権力を握ることになりますが、その母親は多くの国民の上に立つ公爵家の者として正しい振る舞いのできる方ですか?権力を正しく使える方ですか?」
あ。分からない。
名前すら自分で直接聞いた訳じゃないし、どうやって生きてきたのかも為人もまだ分かっていない。
「英雄には配偶者や実子がおりませんので、万が一英雄に何かあった際には爵位はもちろん屋敷や領地も含め養子が全て引き継ぐことになります。嬰児の方を養子に迎え帝王学を学ばせるのならまだしも、既に成人しているその者に公爵家を継ぐだけの学力や責任感はありますか?領地を管理し領民を導ける才覚はありますか?領主の才覚で領民の生活が大きく変わってしまうことは英雄もご存知かと思います」
……うん。無理だな。
少なくとも現時点ではあの母親に領地管理は無理。
学力についてはこの異世界の識字率の低さを考えれば文字も読み書きできない可能性が高いし、時には憎まれるような決断もしないといけない領主におどおどされたんでは西区の住民が困ってしまう。
「嬰児を迎え一から帝王学を学ばせるか、既にそれだけの才覚を持つ成人を迎える以外の養子縁組はおすすめいたしません。婚姻関係も同様に。上流貴族が上流貴族と政略結婚をするのは条件を兼ね備えた者でないと家系はもちろん領民すらも守れないからという大きな理由があるのです。第一夫人であれば以降に迎える夫人よりも権力を持ちますので、国民の上に立てる才も学もないお飾りの夫人ではお話になりません」
「うん。これでもかってくらい納得した」
たしかにその通り。
俺が生きている間は俺が管理するからいいけど、俺が居なくなったあと遺産を引き継ぐのは配偶者や養子縁組をした準血族だから簡単に誰でも彼でも籍に入れる訳にはいかない。
「あの……お話が聞こえていたのですが、恐れながら私からも国籍の取得方法について進言させていただけますか?」
「なにか思いついたなら聞かせて欲しい」
面談している執務員と俺に背中を向けて座っていた執務員が振り返り声をかけてくる。
「英雄は事業主でもありますので、お話に出ていた者を雇用して被雇用者登録を行い二年間その者が問題を起こさず務めあげることができれば正式に国民登録を行うことができます」
「そうか。被雇用者登録証明の手があったか」
「被雇用者登録証明?」
俺と話していた執務員も言われて気付いたらしく、初めて聞くそれに俺だけ首を傾げる。
「王都国民資格を持たない者が三ヶ月以上の長期滞在をすることを国が認めた証明です。例えば国籍が違うエルフ族であったり王都以外の領地に籍を置いている者を王都で雇う場合には、雇用者が責任を持って預かることを条件に準王都国民登録が出来るのです。本来は他の地に籍を置く者が長期滞在中の王都でも保証や保護を受けられるよう申請するのですが、たしかに準王都国民になれば強制退去とはなりません」
俺が事業者だから使える方法ってことか。
雇用して二年問題を起こさず働けば正式な国民登録が出来るなら悪い話じゃない。
「その準王都国民はどこまで保証を受けられる?」
「王都内であれば国民と同じ恩恵を受けられます」
「王都の医療院なら援助も受けられるってこと?」
「はい」
「いいなその方法」
本来なら何の保証もない母親や赤子には好条件。
避難が必要な時の非常食も王都国民じゃない人は頭数に入らないし、例え王都内限定であっても得られる恩恵は多い。
「リスクの面もお話ししておきますと、準登録者でも15歳以上であれば納税の対象にはなりますので本人に納めていただく必要があるのと、月に一度審査官と面談を行う必要があります。また、雇用側は被雇用者の住居を用意する必要があるのと、責任者として被雇用者が納税を怠った場合や悪事を働いた際の罰金を負う必要があります。そういった理由で三ヶ月以上の雇用には王都国民を雇う雇用主が殆どです」
なるほど。
最初から王都国民を雇えば寮(住居)を用意する必要がないし仮に悪事を働かれても罰金を払う必要がないんだから、わざわざ他から引っ張ってきて申請させるとすればそれだけのリスクを背負う価値がある人くらいか。
「分かった。俺にもそれなりのリスクがあるなら信用に足る人かどうかまずは本人に事情を聞いてから判断したい。仮に強制退去になるとすればどのくらいの期間がある?」
「踏み入った質問をして申し訳ないのですが、身元が分からない親子であれば医療費は全額払いになります。もし無国籍児であったとしても英雄が支払うおつもりですか?」
「もちろん今回の医療費は援助があってもなくても俺が責任をもって払う。医療院で保証人の手続きもしてきた」
一切援助がない二人の入院治療だととんでもない額になりそうだけど、国民じゃなかったから支払わないなんて医療院にも迷惑がかかるような真似はしない。
「そういうことでしたら退院日まで待って貰えると思います。栄養失調での入院であれば逃亡する可能性も低いですので。事情聴取だけは体調が落ち着き次第行うとは思いますが」
「じゃあそれまでに俺も本人から事情を聞くことにする。二人とも相談にのってくれてありがとう。本当に助かった」
「勿体ないお言葉を」
「光栄です」
本来なら住民登録窓口は照会や登録をするまでが仕事なのに、あれやこれやと質問して時間を取らせてしまった。
親切に教えてくれた二人にお礼を言って照会料を払ってから王宮執務科を後にした。
「「シンさま」」
「エド、ベル」
外に出るとエドとベルの姿。
炊き出しを終えたあと警備兵を解散させたら先に屋敷へ帰っておくよう話したのに。
「どうした?何かあったのか?」
「シンさまの護衛です」
「最近護衛も付けず一人でお出かけになることが多すぎます。地上でシンさまに勝てる猛者が居るとは思えませんが、万が一ということもあるのですよ?」
耳と尻尾をピンとさせて詰め寄る二人。
魔力漏れが収まって一気に慌ただしくなったから魔祖渡りでの移動が増えてたけど、魔祖渡りが使えないことを理由に二人とは別行動する機会が増えたことが不満だったようだ。
「悪かった。やることが多いから移動時間が勿体ないと思ってつい一人で。カフェには一緒に付き合ってくれるか?」
「「はい!」」
分かりやすく左右に揺れ動く尻尾。
その可愛さに笑った。
バスに乗って西区の入口で降りて境界を超えすぐ。
清浄化が始まって初の店舗型飲食店が三日前に完成して、今日は機材などの運び込みが行われたから見に来た。
「アデライド嬢」
「英雄さま」
店の外に立っていたのはアデライド嬢。
店の警備のために警備兵が二名、アデライド嬢の護衛として警備兵に扮したシモン侯爵家の騎士が二名ついていた。
「お帰りなさいませ。長期の療養お疲れさまでした」
「ただいま。直接話せないまま王都を離れて悪かった」
「早急に治療を要するお身体の状態であったと師団長さまより伺いました。今こうしてお元気なお姿を拝見できたことが何より喜ばしいことですからどうぞお気遣いなく」
「ありがとう」
清浄化に手を貸してくれているシモン侯爵とデュラン侯爵には魔力漏れが治まってすぐに会ったけど、アデライド嬢とは大会で出店していたクレープ屋で会った以来の再会。
境界警備兵からも見える比較的安全な西区の入口とはいえ、いかにも貴族な服装は避けて装飾品も着けず質素な服装で町娘を装っているのはさすが大商人の娘。
「エドワードさま、ベルティーユさま、御機嫌よう」
「「御機嫌よう」」
俺が居ない間にも西区のことで度々会っていたらしい三人も軽く挨拶を交わす。
「機材の搬入と取り付けは終わったか?」
「はい。いま魔導具屋をお見送りしたところです」
「それで外に居たのか。警備兵は引き続き警備を頼む」
『はっ』
警備兵に声をかけて入った店内。
店内用の装飾品が入った箱が積み重なる中を通ってキッチンに直行する。
「立派なオーブンですね」
「特注で作って貰ったからな。必需品のオーブンだけはしっかりした機能のついたヤツが欲しかったんだ」
パンやスポンジを焼くにしてもオーブンは必需品。
むしろコレがないと始まらない。
魔導具屋にあれこれと説明して作って貰った特注のオーブンをポカンと見るエドとベルに説明しながら笑う。
「動作の確認もして貰った?」
「はい。念のため英雄さまもご確認ください。問題がなければサインをいただいて帰りに魔導具屋へ届けます」
「もう少し早く来るべきだったな。二度手間でごめん」
「英雄さまがお忙しいことは存じ上げておりますのでお気遣いなく。それにカフェは私も待ち望んでいたお店ですから最初から携わることができて光栄ですわ」
「ありがとう。助かる」
侯爵令嬢にしておくのが勿体ないくらい有能。
貴族女性は結婚後も家に居て家庭を護るのが一般的だけど、アデライド嬢は大商会を営むシモン侯爵家の令嬢だけあって商才があるし家でじっとしているタイプじゃない。
「料理人スキルをとったんだってな」
「お父さまからお聞きになったのですか?」
「うん。侯爵令嬢には必要ないスキルだろうに」
スキルは特殊恩恵や恩恵と違って資格のようなもの。
座学や実技を学んでテストに合格することで取得する。
ただ、俺が居た世界の資格とは違ってスキルにも適性があるし取得できる数も限られている。
本来であればお抱えの料理人が居る貴族令嬢に料理人スキルは必要ないのに、俺が出す異世界料理の店で働きたいからという理由で取得したことをシモン侯爵から聞いた。
「本当にここで働くつもりなのか」
「ええ。両親の許可が出ればいいと仰いましたよね?」
「言ったけど、ここは王宮地区じゃないぞ?」
王宮地区で働く料理人(王宮料理人)になるのならスキルが必須だけど、街中の飲食店ならスキルがなくてもなれる。
南区や北区は食事処も多いけど、店舗(経営)資格さえとれば商売はできるからスキルを持ってる人は多くない。
「なくてもお料理はできますが、ここは英雄さまのお店です。万が一にもお客さまへおかしなものをお出しすることがないよう食材の種類や鮮度の鑑定もできるスキルは必要ですわ」
機材の動作確認をしながら聞いていて笑い声が洩れる。
「分かった。俺の負けだ」
「……では」
「料理人として雇わせて貰う」
「本当ですか!?」
「うん。本気みたいだから」
境界が目の前にある入口といえ西区という危険地区だしシモン侯爵夫妻からも無理なら断っていいと言われてたけど、本人がそこまで考えてスキルを取得したのなら断る理由もない。
大喜びのアデライド嬢と一緒に喜ぶベルの微笑ましい姿にエドと苦笑した。
コンロの動作確認のついでにお湯を沸かして異空間にしまっておいた紅茶でひと休憩。
「未成年での受胎だったのですか」
「母親が医療師に言った年齢が事実なら」
他の人も居るバスの中では避けたあの親子の話をしながらサインしたペンを書類の上に置く。
「受胎違反ですと二年の受刑か罰金刑ですが、それが無国籍児だったとなると母親の方は不法滞在で強制退去ですわね」
「ん?強制退去になるのは母親だけ?」
「嬰児は国の保護対象ですから孤児登録ができます」
「そっか。親は強制退去になっても未成年は保護対象だから一緒に退去させずに孤児登録するのか」
アデライト嬢から聞いて納得する。
たしかに執務員も親子で強制退去とは言ってなかった。
「親と引き離されるのは可哀想とも思いますが、強制退去になれば命の保証はないのでどちらがよいかは判断が難しいです」
親と引き離されて生きるか親と一緒に死ぬか。
人によって意見がわかれる選択肢だろうけど、俺としてはそんな状況なら親と引き離されてでも生きてほしいと思う。
親と居ることが一番の幸せなんて幸せな人の綺麗ごと。
ろくでもない親なら孤児や養子として生きる方がいい。
「シンさま。まさかとは思いますが、その母親と婚姻関係を結ぶとか親子揃って養子に迎えるなどとは申しませんよね?」
「え?いや、言わないけど」
「そうですか。お人好しのシンさまなら強制退去は可哀想だから自分の籍に入れればいいと考えそうだと思いまして。さすがにそんな安易なことはしませんよね。失礼しました」
……考えました( ˙-˙ )スンッ
さすが専属執事。
俺なら言うだろうと察して言えないように釘を刺された。
「結婚も養子縁組もしないけど強制退去にならないよう国籍をとらせたいとは思ってる。執務員に相談したら被雇用者登録って制度を使えば準王都国民にはなれるらしい」
既に口にして執務員から反対されたことは伏せて教えて貰った別の方法を話す。
「被雇用者登録は雇用側のリスクが大きいですわ」
「リスクの説明も受けた。ただ、今は母親の為人も事情も分からないし、体調が落ち着いたら話して考えようと思う」
決めるのは母親と話してみてから。
無国籍以外にも受胎年齢の問題もあるから考えるのは事情を聞いてからだ。
「大丈夫。信用出来ないと思えば後は国の判断に任せる」
「承知しました」
この反応は納得してないな。
エドが俺のすることに難色を示すのは珍しい。
ただ、今の俺の立場を考えれば専属執事のエドが問題に首を突っ込んで欲しくないと考えるのも分かる。
「悪いな。手間のかかる主で」
「私はシンさまが問題を抱えることをよしと思わないだけで手間と思ったことはただの一度もありません。表情に出してしまったことをお詫び申し上げます。執事としてあるまじき失態でした。申し訳ございません」
今のは失言だったか。
余計な距離感を取られる事態になってしまった。
「英雄さまとエドワードさまはよい関係ですわね。主人と執事というだけの関係性では意見を対立させることも出来ないでしょうから。互いに信頼しているのですね」
アデライド嬢はクスクスと笑って上品な仕草で俺のティーカップに紅茶を注ぐ。
「たしかにそうだな」
信頼関係がなければ言えないことはある。
エドが苦言を呈してくれるのも信頼してくれてるから。
信頼していない相手なら下手なことは言わず黙ってるだろう。
「私もシンさまを信頼しています」
「うん。俺もエドとベルのことを信頼してる。二人が俺を心配して意見を言ってくれてることも分かってる。ありがとう」
「シンさまはエドと私の大切な主ですから」
仲間外れ気分だったのか俺の返事を聞いて満足気に言うベルにアデライド嬢はまたクスクスと笑い、エドと俺は目を合わせて苦笑した。
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