ホスト異世界へ行く

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第九章 魔界層編

能力変異種

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追加で応援に来た警備隊に次々と連れて行かれる人たち。
野次馬に来ていた人は散るよう促され辺りはようやく静けさを取り戻していた。

「お疲れさまです。こちらの二名は」
「ご苦労さまです。この人は自分たちの協力者なので事件とは無関係です。もう一人はまだ聞きたいことがあるので話を聞いたあとクルトと自分が屯所まで連れて行きます」
「承知しました」

調べに行った時に屯所で会った警備隊。
俺のことも覚えていたのかすんなり引いてくれた。

「なあ。今後二人はどうするんだ?エディはもう竜人街でまともな仕事はできないだろうし、ラーシュも貴重な能力を持ってることがバレたから竜人街には居られないだろ」

二人だけ残って貰ったのはそれを聞きたくて。
竜人街ではエディのしたことも大した罪にはならないから(何も悪いことをしていない人を殺める以外は大罪にならない)、洗いざらい話した後はすぐに出てこれる。

ただ、その後もまた同じ生活が出来るかは別。
仲間も捕まったから恨みを持つ奴も居るだろうし、竜人街で商売をする権利も剥奪される。
ラーシュも貴重な(危険な)能力を持ってることに気付いた人も居ただろうから悪用しようと目論む輩も出てくるだろう。

「貴重な能力とは?」
「客や店員に幻覚ハルシネイションを使ったのはラーシュだろ?言の葉でも幻覚ハルシネイションって名前なのかは知らないけど」
「……どうして私だと?」
「魔力の色とその魔力の気配?店をぶっ壊した爆発はエディだけど、客や店員に幻覚ハルシネイションをかけたのはラーシュ」

どう説明すればいいのか難しいけど、魔法(魔力)を使ったあとはのように魔法(魔力)の当たった場所や使った人の周囲に魔力が漂っている。
例えばファイアを使うと燃えた木にもファイアを使った術者の周囲にもその人の魔力(の気配)が残っているから、その魔力が消える前に見ればすぐに分かるというだけ。

魔王のように強力な魔力を使う人だと形や色までハッキリ見えるけど、色までは見えない人でもその人独自のは感じ取ることができる。
色が見える人は稀らしいけど、独自の気配を感じ取ることはエミーや魔王や四天魔のように能力値の高い者なら感じ取れる。

「そこまで分かっているならごまかしても無駄ですね。たしかに私は〝幻覚ハルシネイション〟という言の葉を持っています。幼い頃この能力を暴走させて親の命を奪ってからは一度も使うことなく竜人街に移り住んで生きて来ました」

そんな重い過去を背負っていたとは。
強い能力を持つことは決していいことばかりではない。

「今後は竜人街を出て独りで暮らして行きます」
「俺も竜人街を出る。ただ、一つ頼みたいことがある」
「俺に?」
「魔王直属隊に一介の魔族が頼みごとをするのがどんなに図々しいことかは分かってるけど、妓楼や陰間じゃなくても似たような仕事が出来る店を許可して欲しい」

竜人街を出ることにしたラーシュに続いてエディも同じくここを出るらしいけど、付け加えてそう頼まれる。

「妓楼の遊女と陰間の男娼は許可があって商売してるけど、本来芸で売る芸者や湯屋の湯女や女郎なんかは正式な許可がないから金銭の揉め事になることが多い」

たしかに許可を得ている性風俗は遊女と男娼のみ。
許可のある店では客より遊女や男娼の方が上の身分になるからアホな客じゃない限り料金で揉めることは少ないけど、許可のないその他の性風俗(個人含む)は客に値切られたり払って貰えなかったりしても泣き寝入りをするしかない。

「特別感を持たせるために他を許可しないのも分かる。ただ実際には妓楼や陰間で雇って貰えない人の方が圧倒的に多い。俺が最初に始めたのはそういう人たちが安心して働ける場所で、金を払わない客が居たら行って話をしたりしてた。ただそれが成功して安定して稼げるようになったらみんな欲が出たのか、俺が始めたものとは違う今のやり方に変わって行ったけど」

苦笑でそう話してくれたエディ。
隣で一緒に聞いていたクルトは俺を見て首を傾げる。

「つまり貴方が最初に始めた商売は今のように人を騙す美人局つつもたせではなかったということですか?」
「しないですよ。美人局つつもたせなんて言葉も知らなかったし。身を売ってるのに客からやるだけやられて料金も貰えないなんて人をなくしたかっただけで」

俺が話すまで存在しなかった美人局つつもたせという言葉は知らなくて当然なんだけど、まさか美人局つつもたせの集団(組織)ができたのがそんな経緯だったとは。

「だから捕まって解散になるのはいい。むしろこれでみんなも諦めて働き口を探すと思うし、俺ももうみんなの生活を考えずに済んで楽になれる。でもうちがなくなっても妓楼と陰間以外許可を貰えないならまた別の隠れ蓑が出来るだけだ。妓楼や陰間と同じ待遇じゃなくていいから、しっかりルールを決めてる数軒だけでもいいから、妓楼や陰間で働けない人たち用の店も少しは許可してやって欲しい。切り捨てないでやってくれ」

なるほど一理ある。
いや、むしろ正論。

「少し待ってくれ」
「うん。ん?」
「まだ伽の時間じゃないよな?」
「はい。会食を終えた頃かと」
「話し中の可能性もあるってことか。まあヤバければ反応しないだろ」

エディには一旦待ってくれるよう話してクルトに聞きながらケープから腕を出し腕輪の水晶に魔力を送る。

『どうした』
「急にごめん。いま話せるか?」
『ああ。部屋に居る』
「良かった」

来訪者との会食を終えて部屋で着替えている真っ最中だったようで、上半身裸の魔王と着替えの手伝いをしている山羊さんと赤髪の姿が投影される。

「ま、魔王さま!」

投影を見て慌ててしゃがむラーシュとエディ。
跪いて深く頭を下げる。

『その者たちは?』
「ラーシュとエディ」
『まるで俺が知っていて当然のように紹介されてもな』
「二人については後で話す。そんなことより話がある」
『俺の疑問はか』
「めんどくせえな!構ってちゃんか!一旦黙って聞けよ!用があって連絡したのに!」

ブチブチ煩い魔王と怒る俺にクルトはクスクス笑う。

『まあいい。二人とも顔をあげろ』
「「はい」」

この野郎。
人をからかって満足気な顔しやがって。

『話とはなんだ』
「竜人街に新しい性風俗の許可をくれ」

至って簡潔に頼むとラーシュとエディは「え!」と驚きクルトはプークスクスする。ツボったらしい。

『必要なのか』
「うん」
『そうか。では許可しよう』
『魔王さまそのように簡単に!』
『必要のないものを必要という奴ではない』
『それは承知しておりますがもう少し詳しくお話を』

あっさり許可をくれた魔王を慌てて止める山羊さんと我関せずで魔王の軍服を畳む赤髪。
クルトはそんなドタバタ劇でまだ笑っている。

『らしい』
「聞いてた。マルクさん」
『はっ』

これは魔王じゃなく山羊さんを納得させないと駄目だと思って一緒に居た山羊さんへ声をかける。

「今竜人街で許可してる性風俗は妓楼と陰間だけですよね?」
『はい。先代の頃は一人の竜人を筆頭に自分たちで自由に商いをしていたのですが、敗戦後の回復期に次々と乱立して酷い営業をする店が増えたらしく軍で管理をと頼まれました』
「なるほど。要は自分たちだけではもうどうにもならなくなったから魔王軍に責任を丸投げされたんですね」
『言葉を選ばず申しますとその通りです。天地戦で筆頭の行方が分からなくなったことが秩序の乱れた原因かと』

なんて綺麗な丸投げ。
その有能そうな筆頭が居なくなった後も生き残った者たちで店を作って前に進もうとしたのはいいことだけど、作りすぎて管理が出来なくなったから悪い店も増えて助けを求めて来たと。

「事情はわかりましたけど二角領でも駄目ですか?一角領は今までと変わらず高級感を残すため妓楼と陰間に限定して、二角領では未許可ながらも今時点で営業している性風俗店を精査して優良店にだけ営業許可を出す。堂々と営業が出来ればとんでもない数で起きてる二角領の金銭トラブルも減ると思います」

屯所で調べて分かったのは金銭トラブルの殆どが二角領で起きているということで、正式に許可を得て営業している一角領での金銭トラブルはほぼなかった。

「妓楼と陰間は学びで身につく技術の他にも生来の恵まれた容姿も必要だけに働きたくても働けない人の方が圧倒的に多い。そういう人は無許可の店で働くしかないから料金を払わない客が居ても泣き寝入りするしかないみたいです。許可を出さないことでのトラブルがこれだけ起きているのが現状なら、竜人街全体の治安維持のために働ける場所を与えてやることも解決策の一つだと思います」

許可店なら店側が個人別に金を多くとることも出来ないし、客側がやるだけやって払わないなんて馬鹿なことも起きない。
働く側にも客側にもクズは居るんだから働ける店を与えることも解決法の一つだと思う。

『許可しよう。ただし条件としてどのような店なのか料金を含め嘘偽りなく纏めて申請することが一つ。もう一つはここならばと思う店にだけ許可を与える。マルクもそれでいいか?』
『事情は分かりましたので異論はありません』
「ありがとうございます。フラウエルもありがとう」

良かった。
書類の問題とか申請の仕方とか色々な問題があるから今すぐというのは無理だけど、妓楼と陰間以外の店でも許可を貰えることになったのは大きい。

「エディ。申請や手続きが必要だから今日明日からすぐにって訳には行かないけど、これで少しは安心できたか?」
「うん。堂々と働ける店が出来ればまともに働く人も増えると思う。俺もようやく肩の荷がおりた。本当にありがとう」

それだけで全員がになるとは思わないけど、中には妓楼や陰間では働けないからコソコソやるしかなかっただけの人も居るだろうし、少しずつでも改善されればいい。

「フラウエル。もう一つお願いがある」
『今日は珍しく強請ねだるな。なんだ』
「この二人を魔王城に連れて帰りたい」
『え!?』

魔王以外の全員から驚かれる。
今回ばかりは我関せずだった赤髪もさっきまで笑ってたクルトも『この二人』と言われたラーシュとエディも。

『公妾にでもするのか?』
「違う。今後は会食や外交が増えるから俺にも専属の秘書や補佐を見つけないといけないって言ってただろ?」
『その二人をお前の秘書や補佐にしたいと?』
「うん。もちろんフラウエルやマルクさんが選ぶ人は仕事も出来るしっかりした人で間違いないんだろうけど、俺は自分自身が信用出来る人を傍に置きたい」

城仕えへの披露式が終わったから半身の俺も軍の上官との会食や外交(視察)に出る機会が増える。
ただ御目見式おめみえしきまでは外から連れて来る訳に行かないから、魔王城の城仕えの中から選ぶと言っていた。
城仕えが信用できない訳じゃないけど現時点で俺が親しくなったのはの使用人や料理人だから、少なくともその人たちの中から秘書や補佐が選ばれることはないだろう。

『その二人のことは信用出来るというのか?一人はさて置き、もう一人の拘束されている者はお前が目をつけた美人局つつもたせという詐欺行為に関わっていたんじゃないのか?』
「うん。組織的にやってた美人局つつもたせのボス」

山羊さんも赤髪もポカン。
まあ何言ってんだコイツと思われても仕方ないけど。

「二人とも俺を助けようとしてくれたんだ。ラーシュは今まで自分の能力を隠して生きてきたのに、俺を助けるために人前で能力を使ってバレたからもう竜人街では生活できない」
『能力?』
幻覚ハルシネイションってやつ」
幻覚ハルシネイション!?』

驚いたのは赤髪と山羊さん。
二人の反応を見るにクルトの言っていた通り超貴重な能力なんだろう。

『ラーシュというのはどちらだ』
「私です」
幻覚ハルシネイションを使えるというのは事実か?』
「はい。言の葉の幻覚ハルシネイションを持っています」
『それが事実なら魔王城へ来い。詳しく話を聞かせて貰う』
「承知しました」

俺の秘書や補佐官云々の話は置いて、ラーシュに関してはどちらにせよ魔王城へ出向かないといけないようだ。
滅びたと思われていた魔法(言の葉)を持ってる魔族が居たとなればまあそうなるか。

「魔王さま。発言の許可を」
『許可しよう』
「ありがとうございます」

魔王に発言の許可をとったのはクルト。
大人しいエディをチラっと見て魔王へまた顔を向ける。

「こちらのエディも私と同じ能力変異種だと思われます」
『その者も?』
「さきほど店の爆発跡を確認していて分かったのですが、どうやら爆弾ボマー使いのようです。魔法の使えない竜人族で爆弾ボマーの恩恵を持っている者など私は初めて会いました」

能力変異種?初めて聞いた。
変異種は俺のように見た目が変異してる人のことだから、能力が変異してる人(変異した能力持ち)ってこと?

『滅びた幻覚ハルシネイションと貴重な爆破ボマー持ちとは。……お前は自分自身が変わり者なだけでなく手繰り寄せる縁の者も変わり者か』
「知ってて近付いた訳じゃないし。それを言うなら俺が手繰り寄せた縁で一番の変わり者はフラウエルだからな?」

魔王には変わり者とか言われたくない。
一番の変わり者に文句を言うと魔王は声をあげて笑う。

『いいだろう。どちらも野に離しておくには危険な能力だ。エディと言ったか。悪さをした罰はしっかり魔王城で受けて貰うから一緒に来い』

あれ?
魔王城でのお仕置の方がキツい気がする。
竜人街の屯所なら洗いざらい話せば解放されるのに。

「エディ……なんかごめん」
「魔王城での罰とか凄い怖いんだけど?」
「まあ何とかなるさ!」
「俺もラーシュも魔王城に連れて行かれるなんて話は一切聞いてなかったのに軽く何とかなるさで済ませる?そういう重大な話はまず本人の俺たちに言うのが普通だよね?」
「フラウエルが許可しなければ連れて行けないんだから先にフラウエルに訊いてからの方が効率がいいだろ」

どっちが先かで揉めるエディと俺を宥めるラーシュ。
先に二人に話して来てくれることになっても魔王が駄目と言ったら連れて行けないから、まずは魔王に連れて帰ってもいいかを確認してからの方がいいと思ったんだけど。
許可が出てからラーシュやエディが来ないと言ってもそれは問題ないから。

『見る限り秘書や補佐というより友人だな。まあそれもいいだろう。俺の半身の遊び相手にでもなってやってくれ』
「半身?」
「魔王さまの……半身?」
「うん。一応フラウエルの半身」
「「御無礼を!」」
「いやいや良いから!」

俺が魔王の半身と聞いて慌てて跪く二人。
思えば半身ってことはまだ言ってなかった。
魔王軍とだけならまだしも魔王の半身となればさすがに驚かないはずがないか。

御目見おめみえ式の前に城を出られては危険なのでは」
『俺の半身は先代までの半身とは違い武闘派だ。仮に気付かれても返り討ちにするだけの力はあるから案ずるな。変わり者なところも半身の愛おしい部分の一つ。それが失われることがないよう外に出て色々なものを学び自由に生きろと言ってある』

心配するラーシュに魔王はそう話して微笑する。
しっかり護衛をつける辺り心配はしてくれてるけど、ある程度のことは自由にさせてくれる放任主義。

『今日はもう遅い。今夜はそのまま竜人街に泊まって明日城に連れて来るように。二人も今後どうするかは話してから決めるとして数日滞在できる準備はしてくるようにな』
「「承知しました」」

魔王城に戻って話すにはもう時間が遅いから、今日は予定通り竜人街に泊まって明日帰る約束をして通信を終わらせた。

「一旦エディを屯所に連れて行って罰は魔王城で受けさせることになったって話さないとな」
「聴取も城で行うでしょうから私が警備隊に話します」
「頼む。ラーシュの方はどうするか。竜人街を出るなら辞めることにはなるけど、明日から急遽休んで貰うことになるし」
「そちらも私どもが行って話した方がいいかと。魔王軍から呼ばれたとあらば拒否することは出来ませんので」
「そうなんだ。じゃあそうしよう」

本来なら屯所行きのエディはこのままには出来ないから、一度連れて行って警備隊に事情を話す必要がある。
ラーシュにも明日から数日間は休んで貰うことになるからクルトと俺が店に着いて行って説明することになった。

「店に結界をはっておきますのでお待ちください」
「あ、荷物は持って行った方がいいんじゃないか?」
「え?いいの?調べる前に触って」
「俺たちの前で着替えを纏めるくらいはいいよな?」
「着替え程度のものであれば構いません」

結界をかけて入れなくする前に拘束を解いて、荷物(着替え)を纏めさせることにして半壊している店内へ入る。

「勿体ないなぁ。酒」
「店の物は持ち出しては駄目ですよ?」
「持ち出そうにもほぼ割れてるし」
「奥の倉庫の酒は無事なはず」
「呑みた」
「駄目です」

やっぱ駄目か。
食い気味に止められて拗ねるとエディとラーシュは笑う。

「そういえばエディが人売りに売った客ってどうなったんだ?罪としてはそっちの方が重くなるんじゃないか?」
「本当に売った訳ではありませんでした」
「え?どういうこと?」

詐欺より人の売買の方が重い罪になるんじゃないかとふと気付いて訊くと、エディではなくラーシュが答える。

「エディは私に売ったと言っていたのですが、実際は竜人街の外で暮らす金持ちの竜人を紹介して街を去らせただけでした」
「別の男をあてがったってこと?」
「はい。度々私を買いに来る割にはお金に執着している方でしたからエディの話にも簡単に乗ったようです」

それなら何の問題もない。
紹介された竜人の所に本人の意思で行ったってことだから。

「誰から聞いた?それ」
「エディが客を紹介した竜人から。陰間を辞めたあと偶然湯屋に来て、以前俺のお引きだった者が公妾に居ると話していた」
「黙ってろって言ったのに」

話を聞いてエディは舌打ちする。
その事実を知っていたからラーシュはなおさらエディがやったことは自分のためと思ってたのか。

「ラーシュはその客から困らされてたって言ってたよな?」
「まあ。大した額ではないですが私の座敷の備品を持ち帰られたり時間までに支度を済ませても帰ってくれなかったりと小さなことから、中には私がつかない時に騒いで幇間ほうかんを困らせたことも。陰間は妓楼と違い玉代に関係すること以外は自己責任ですので仕事に支障が出ていたことは事実です」

なるほど。
たしかにそれならラーシュの頭痛の種になっていたのも納得。

「地雷客だな」
「地雷客?」
「いや、こっちの話」

ホストでいう
従業員への暴言暴力お手のものな痛客すらも超越した、店の営業を妨げ他の客にまで大迷惑をかける究極生命体。

「エディはラーシュが自分の所為でって罪悪感を持たないよう嘘をついて自分が悪者になることで仲間を守ったのか」
「だから違う。邪魔だったからだって」
「ふーん。じゃあそういうことにしておこう」
「それが事実だから」
「ラーシュ。この件はもうそういうことにしてやった方が良さそう。仲間を助けたことを認めるのは照れくさいらしいから」

違うと言いながらクロゼットから出した服をベッドに投げるエディの耳は赤く、なんて分かり易い奴なのかと思う。
そんなエディを見てラーシュは小さな声で笑った。

「半身さまも今の内にお召し物を」
「ああ、そっか。中は裸のままだった」
「ですからむやみやたらと裸体にならないでください」
「もうラーシュもエディも俺の裸は見たし」
ねやねや。普段から見せていいとは申しません」
「細かいな」
「もう少し恥じらいを」

ケープを脱いで下着をつける俺に異空間アイテムボックスから軍服を出しながら怒るクルト。

「すみません。俺半身さまに手を出してしまったんですけど」
「私もです。どうお詫びをすれば」
「今回は半身さま自らが情報収集の手段として色仕掛けを使っただけですので二人が咎められることはありません」
「エディの時はクルトも見てたしな」
「見てたんですか!?」
「はい。半身さまの護衛ですから」

身悶えるエディに笑う。
下手くそじゃなくて良かったな(違う)。


屯所と湯屋に行って話をつけてからようやく宿へ。

「あー。疲れた」
「お疲れさまでした」
「クルトもお疲れさま」

部屋にある大きな風呂にクルトとのんびり浸かる。
例の如く「一緒に入るのは~」と始まったけど、疲れてるのは同じなんだから一緒に入ってさっさと休もうと言い聞かせた。

「あの二人大丈夫かな。二人きりにして」
「元々は不仲ではなかったようなので大丈夫でしょう」
「それもそうか」

ラーシュとエディは宿の大浴場に行っている。
部屋が空いてないから泊まるのはこの部屋になるけど。

「そういえばクルトって夢魔だったんだな」
「私ですか?夢魔ではありませんが」
「あれ?クルトも俺に催淫アフロディジアを使った時にラーシュと同じように瞳孔が縦長になってたから夢魔なんだと思ってた」
「あの者は雄性夢魔なんですか?」
「そうらしい」

あれ?
瞳孔が同じだからてっきりクルトもそうだと思ったのに。

「さきほど私が能力変異種と話したことを覚えていますか?」
「うん」

エディの能力のことを魔王に話した時に『』と言ったのは聞いていた。

「能力変異種というのは本来その種が持たないはずの特殊恩恵や恩恵を持っている者のことを言います。私は魔人族蛇竜じゃりゅう種という血統ですが夢魔種の特性と能力を。ラーシュは竜人族でありながら魔人族純血種の能力である幻覚ハルシネイションを。エディも魔人族純血種の爆弾ボマーを持っていますので能力変異種に分類されます」
「へー。能力変異種っていうのは初めて聞いた」

そもそも『〇〇種』って時点でさっぱりだけど、普通ならありえない能力を持ってる人のことっていうのは分かった。

「じゃあ俺も変異種で能力変異種?」
「半身さまは変異種と分類していいのか迷います。容姿も能力も他の誰も持っていない唯一のものですので。あえて分類するとすれば神族の能力を持つ始祖オリジナルではないでしょうか」
「なるほど」

魔神から貰った〝天命〟が融合進化して〝始祖〟という特殊恩恵に変わったから、クルトのいうそれが一番しっくりくる。
精霊神と魔神が全ての星や生き物の親だから始祖。
その力を与えられた俺も始祖。
いや、神の力の複製コピーか?

「まあいいか。変異種だろうと始祖だろうと俺は俺だし」

見た目や能力がどんなだろうと俺は俺。
人族だろうと魔族だろうと神魔族だろうと夕凪真。

「はい。半身さまは魔王さまの唯一の半身で、私たち四天魔にとってもかけがえのない大切な方です」
「ありがとう」

微笑むクルトに笑みで答えた。

    
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