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第五章 新たな始まり
一時休戦
しおりを挟む「……ん」
息苦しさを感じて瞼を上げる。
「ってまたこれか!」
「ようやく目覚めたか」
「近い近い!もう起きたから!」
寝起き一発目に見たのは魔王の顔。
魔人界の時と同じ展開になっていて魔王の顔面を押し退ける。
「シンさま目が!」
シャッと開いた白いカーテン。
そこに居たのはエドとベル。
「「…………」」
「待て待て!親とテレビ観ててラブシーンが始まった時の思春期少年少女みたいな気まずい顔で閉めんな!」
いや、この異世界にテレビはないけど!
言われても意味不だろうけど!
「回復したようだな」
「半分はお前の所為なのに無関係みたいな顔すんな!」
「直接分けた方が早いと以前も話しただろう」
「俺にはな!エドとベルは知らないから!」
「生娘でもあるまいし」
「お前だけは本当に殴らせろ」
人の首筋に鼻を寄せて嗅ぐ魔王。
俺は娘息子にキスシーンを見られた親のような気分なのに。
「お元気そうで安心しました」
「シンさまがご無事でなによりです」
「全て悟ったような慈愛の目で見ないでくれ!」
空気を読んで何も見なかったように笑顔で流す二人。
まさか寝起き早々全力でツッコミを入れる展開になるとは。
「な、なあ!ここどこ?」
誤魔化し半分でそう問いかける。
白い壁と白いカーテンと白いシーツ。
ギシギシ鳴るパイプベッドからして俺の部屋じゃない。
「王宮にある診療所です」
「診療所?病院ってことか」
「負傷者とエミーリアさまと師団長さまも別のお部屋に」
「え!回復が効いてなかったのか!?」
「いえ。傷は塞がりましたが出血量が多かったので造血薬を貰いに。エミーリアさまと師団長さまは付き添いです」
ああ、そういうことか。
従業員や子供たちは普段から鍛えてる訳じゃないから血を増やすための薬を貰いに来たんだろう。
「そういえば普通にフラウエルが居るけどいいのか?」
「いいと申しますか、致し方なかったと申しますか」
「シンさまのお体は魔力が枯渇して早急な回復を要する状態だったのですが、魔力譲渡ができるエミーリアさまも魔力が不足しているため自分が分けるという魔王に致し方なく」
「なるほど」
人族で魔力を分けることが出来るのは賢者だけ。
そのエミーも魔王から魔力を分けて貰っただけの状態だから、俺を昏睡させないためには魔王に任せるしかなかったと。
「あとは魔王が離さなかったというのもあります」
「抱えたまま全く渡してくれませんでした」
「半身が弱っていたら対の俺が回復するのが当然だろう」
「「このような調子で」」
「よく分かった」
エドとベルから ( ˙-˙ )スンッ とされる魔王。
それだけ心配してくれたんだろうけど。
「また助けて貰ったな。ありがとう」
「改革で忙しいんだ。お前も寝ている暇はないだろう?」
「だから改革なんて大袈裟な話じゃないって」
「そうか?地区一つを改善しようとしているのだから充分改革だと思うがな」
のんびりベッドに座っている魔王はそう言って微笑する。
国がしようとしてることは改革に違いないけど、俺はそこまで堅苦しく考えてない。
「失礼するよ。目が覚めたか」
「うん。エミーと師団長は大丈夫か?」
「一応点滴はしてきた」
「私もだ。必要ないと言ったのだがな」
開いていたドアをノックして顔を見せたエミーと師団長。
二人とも点滴をしたらしく捲っていた片腕のシャツを下ろす。
「みんなは?」
「先に術式を使い教会まで送った。検査結果で血が不足している者もいたが、薬を飲んで一日二日休めば回復するだろう」
「そっか。酷くなくて良かった」
回復も無いものを作ることは出来ない。
例えば袋に溜めた血をそのまま体内に戻すことはできても、土に染み込んでしまえば戻せなくなる。
会場が血溜まりになるほど出血してたんだから血が足りなくなるのも仕方ない。
「自然治癒力をあげてあるからすぐ回復するだろうよ」
「ああ、そんなことをハロルドが言ってたな」
「あの場で上級回復を使えるのが私とテオドールしか居なかったからね。少しでも長く持つよう先にかけたんだ」
その機転のお蔭で誰も死なさずに済んだ。
もしかけずに一人ずつ回復していたら途中で命が尽きてしまった人も居ただろう。
「君も休めと言いたいところだが……報告できるか?」
「平気。魔力を貰ったお蔭か元気だから」
「では頼む。エドワード、扉を」
「はい」
師団長から言われてドアを閉めるエド。
内容が内容だから人に聞かれないようにだろう。
「八名と言っていたが、会場に居た犯人の仲間か」
「捕まえた二人と同じ服装だったから多分そう。それにあのタイミングで偶然にも別の奴らが攻撃してきたとは考え難いし。教会の爆破と会場に居た二人は場を混乱させるための囮で、最初から槍の攻撃が本命だったんだと思う」
会場の二人は俺たちの気を逸らすための囮。
教会を爆破して警備の手をバラけさせ、直接領主の俺を攻撃することで本命の槍攻撃から気を逸らさせた。
「その中に魔導の奴が居なかったかい?」
「魔導?少なくとも魔力の高そうな奴は居なかった」
「一人も?」
「うん。辛うじて感じとれるくらいまで魔力制御が出来る魔導師が居るなら別だけど」
魔力を抑えるのも簡単に出来ることじゃない。
八人とも僅かに察知できる程度の魔力しかなかったから、あそこまで魔力を抑えられるんだとしたら魔王並みだ。
「魔導を使う素質を持つ者は居なかった」
「どうして分かる」
「魂色が違う」
「魂色?なんだそれは」
「そのままだ。魂の色が違う」
人の匂いを嗅ぎながらエミーに断言した魔王。
当然のようにスルっと居るから存在を忘れてたけど。
「魔族は魂の色が見えるのか?」
「俺だけだ」
「ふむ。魔王の能力ということか」
誰もつっこまないけど魔王が居て良いんだろうか。
師団長でさえも普通に話してるけど。
「思い出した。以前私にその魂色は賢者かって言ってたね」
「ああ。半身は俺の知識にない見知らぬ色だったから異世界人の勇者かと尋ねたが、この世界の者の魂色であれば分かる」
「その魂の色ってヤツは隠したり出来るものなのかい?」
「無理だ。魂色は生得の素質で決まる。その素質が開花するかは別として、魂色を変えることや偽ることはできない」
「「ほう」」
二人とも知らない話に興味津々。
多分これも今後文献に残されるんだろう。
「そういうことなら魔導師は居なかったっていうのも間違いなさそうだね。ただ、居なかったら居なかったで厄介だ」
「なんで?魔導師が関係してなかったのはいいことだろ」
「たしかにそうなんだけど、じゃあどうやって撃ったんだって話になってくるんだよ。そもそも魔導槍は国が保有する軍事武器だし、魔導師の魔力で撃つから魔導槍って名前なんだ」
城壁にある魔王が壊した大砲と同じ原理か。
「……どうやって撃ったんだ?」
「だから言っただろ。厄介だって」
たしかに厄介だ。
どうやって撃ったのかはもちろん、国が管理している軍事武器をどうやって手に入れたのかも疑問。
「すぐに跡地から回収させよう」
「俺が持っている。武器八基と槍を異空間に入れてきた」
「君が?」
「半身と獣人がどうするか話していたから俺が運んでやると言った。犯人の遺体二つは調査の際に自分たちで片付けろ」
そう言えば魔王に預けたままだった。
すっかり忘れてたけど。
「魔王に人族の軍事武器を運ばせるとは」
「安心しろ。どちらにせよ俺には効かない。あんな玩具」
「だろうね。最初から魔族相手に使う想定で作ったんじゃない。あれは魔物の襲撃や精霊族同士の外戦用に備えたものだ」
「それなら良いが。天地戦用であれば魔族を舐めすぎだ」
「人族もそんなに馬鹿じゃないよ」
なんか変なことになってる(今更)。
敵同士だってことを忘れているかのように普通に会話しつつも天地戦の話もしてるとか。
「エミーリア。異空間は使えるか?」
「そこまでは無理だね。今使ったら枯渇する」
「やはりそうか。私も先程の転移術式で使ってしまった」
「どこへ持って行くんだ?このまま持って行ってやる」
魔王がすっっごいフレンドリー。
玩具にしか感じないからどうでも良いんだろうけど。
「訓練所に運んで貰おう。あそこなら多少は広い」
「うむ。調べるにはそれがよいか」
「今回は手を借してくれたことに感謝してるとはいえ、さすがに王城内へ魔王を招く訳にもいかないからね」
「ああ。じゃあ悪いが訓練所へ頼む」
「分かった」
うん、もう気にするのは辞めよう。
エミーも師団長も今は“今回は手を貸してくれた者”って認識で通してるみたいだから。
「俺も行く」
「君はまだ休んでいろ。複数人を同時に回復するなどどれほどの魔力を消費したのだ。死んでいたかも知れないのだぞ?」
「それ以前にどれほどの魔力量を秘めているんだって話だけどね。少なくともこの世界の者には使えない魔法だ」
「彼は異世界人なのでな。勇者さま方のように我々にはない能力を持っていてもおかしくないだろう」
「まあね。そうじゃなければ化け物扱いされただろうよ」
たしかに俺が勇者と同じ異世界人じゃなければ鬼か悪魔かって目で見られていた可能性は高い。
異世界人だから……便利な魔法だ。
「もう俺も大丈夫。魔王が分けてくれたから」
「魔王の魔力量も底知れぬな。我々に分けて彼にもとは」
「半身に分け与えるのは大して消費しない」
「他の者に譲渡する時とは違うってことかい?」
「ああ。他者に与えた時は与えた分だけ魔力量も消費するが、契約で魂が繋がった半身とは半分ほどの魔力量で済む」
「へー。魂の契約ってヤツも謎が多いね」
「その辺りの話はじっくり聞かせて貰いたいものだ」
二人とも研究者や学者の顔が出てますけど?
魔王も敵にホイホイ情報を与えすぎですけど?
エドとベルなんてもう空気を読みまくってずっと( ˙-˙ )スンッとしてますけど?
「ん!?半分で済むのか!?」
「ああ。半身同士は魔力の馴染みがいいから少なくて済む」
馴染みがいいってのはよく分からないけど、半分って。
つまり俺が魔王に魔力を分けた時にも半分で済んだってことなんだろうけど、あの異常な消費量で半分?
…………さすが魔王。
魔力量も化け物ですありがとうございます。
エドがリフレッシュをかけてくれた白の軍服を再び着て診療所を出たあと六人で訓練場へ。
「……魔導砲で間違いない」
「うん。しかも八基もどうやって手に入れたんだ」
「槍もだ。百本近くはあるだろう」
「二度撃ってることを考えたら百本以上だね」
魔王が異空間から出した大砲八基と魔導槍数十本。
人族の軍事武器で間違いないらしく、確認していた師団長とエミーは大息をつく。
「エドとベルもこの武器を見たことあるのか?」
「合同訓練の際に幾度か」
「へー。特殊部隊も参加するんだ」
「はい。ただし面で顔は隠しておりますが」
「あ、そこはやっぱ隠すのか」
国民に知らされてない部隊とはいえエドとベルも軍人。
俺には初めて見る武器でも二人は知っていたらしい。
「先程どうやって撃ったのかと話していたな」
「ああ。魔導を使わないと撃てないのでな」
「それ自体に入っているようだ」
「なに!?」
「僅かだが魔導を感じる」
「本当か!?」
俺の隣で師団長とエミーの様子を見ていた魔王はそう言って大砲の一基に近付く。
「気付かれないよう巧妙に隠蔽してあるが、この辺りから魔導力を感じる。壊してもいいなら取り出してやる」
「壊さなければ取り出せないのか」
「取り出せないことはないだろうが時間がかかるぞ?」
俺には何も感じないけど魔王には分かるらしい。
多分人族よりも察知能力とか感知能力に長けているんだろう。
「でもどうやって破壊する気だい?手荒なやり方では取り出そうとしている何かも壊れてしまうよ?」
「簡単な話だ。手を突っ込んで引っ張り出す」
『は?』
魔王以外は全員が『は?』。
魔王さん、全然簡単な話じゃありません。
「周辺も引っ張り出すから壊れてしまうがどうする?」
「すぐに確認するには頼んだ方がよさそうだね」
「うむ。少なくともいま国で所有している魔導砲ではないことはたしかだ。出処を調べるためにも時間は惜しい」
「私も同意見だ。捕まえた奴らがすぐに口を割る保証もない」
「では魔王。頼む」
「分かった」
大砲から一歩下がった魔王は魔導を感じると言っていた部分に手のひらを翳す。
「魔族も時空魔法を使えるのか」
「それは精霊族が扱う魔法だろう?これは魔空魔法だ」
「同じに見えるが」
「精霊族と魔族の魔法は似て非なるもの」
魔界層との行き来で使っている魔空魔法。
自分も使えるから俺はすぐに分かったけど、エミーや師団長からすれば未知の領域の話だから勘違いするのも仕方ない。
「これだ」
魔王は魔空魔法で作った歪み空間に片手を突っ込むと、力任せにブチブチ配線を千切りながら引っ張り出した。
「ん?魔封石じゃないか?」
「魔封石だと?」
「半身はこれを知っているのか」
「ううん。それ自体は初めて見たけど中に魔封石があることは分かる。人族の国では魔導車とかの原動力に使われたりする」
「言われてみれば極僅かに感じるね」
魔王が取り出したのは沢山の配線が繋がった鉄の箱。
その箱自体は初めて見たけど、中から魔導車に使う魔封石と同じ無機質な魔力を感じる。
「人族の技術とは面白い。姑息と言うのか」
「ん?」
「武器から外すと爆散する仕様になっている」
「は!?この箱を外したらってこと!?」
「ああ。念のため無効化して外したから問題なかったが、奇妙な術をかけてあるようだ」
ぇぇぇぇぇぇぇぇえ!
そんな危険な物をあんな雑に外したのかよ!
「それがどんな術かまで分かるかい?」
「精霊族の術までは詳しくない。開けてやるから自分で見ろ」
「開ける時に爆散するってことは?」
「する。だが中の物も無効化すれば良いだけだ」
もう爆弾処理のような話になってる。
魔 王 は サ ク ッ と 開 け ま し た け ど !
パカと開けた中に入っていたのはやっぱり魔封石。
しかも結構な大きさ。
魔王はこれを術と言っていたのか、箱の内側には幾つかの術式が書かれていた。
「一気にキナ臭くなってきたね」
「すぐに国王陛下へ報告せねば」
箱の中身を見たエミーと師団長は怪訝な顔。
この二人が神妙な顔をしている時は大抵が碌でもない。
「シン、エド、ベル。このことは口外禁止だ」
「言わないけど何か問題があったのか?」
「まだ分からないが、最悪他国との開戦も有り得る」
「……は?戦争するってこと?」
「誰が何の目的でこんなことをしたかにもよる」
碌でもないってレベルの話じゃなかった。
戦争とか大問題じゃないか。
「精霊族同士の戦いか。天地戦の前に随分な痛手だな」
「それが狙いかもね。この国の軍事力を減らすための」
「このような時に同じ地上に住む者同士で争うとは愚かだ」
「地上に暮らす人族の一人ではあるけど、私もそう思うよ」
魔王は鼻で笑いエミーは苦笑する。
「なんで他国が関係してくるんだ?」
「魔封石の大きさだ。人族の地にこの大きさの魔封石はない」
「別の種族が暮らす土地の魔封石ってこと?」
「詳しく解析してみないと断言は出来ないが恐らく」
「待ってくれ。先に会場で捕まえた二人も槍を撃った八人も俺には人族に見えたけど、もしこの魔封石が異国の物なら別の種族と人族が協力して攻撃してきたってことに」
師団長から聞いて口にすると頷きで返ってくる。
もしそうなら人族にも別の種族にも裏切り者が居るってことになってしまう。
「少なくともあの場に居た者は全員が人族だった」
「ああ、そっか。フラウエルには分かるんだもんな」
「魂色や匂いで分かる。獣人のように隠す種族であってもな」
少なくともあの八人は人族で間違いないらしい。
じゃあ投獄された二人も人族の可能性が高い。
「精霊族は知恵に優れている分姑息な真似を思いつく。力が物を言う魔族を統治する俺からすれば、地上の王は大変そうだ」
「荒くれ者が揃う魔族の王の大変さも変わらなそうだけど」
「力で捩じ伏せればいいだけだ」
あ、はい、そうですね。
強いからこそ言える台詞をありがとうございます。
「もし人族と他種族が手を組んでいるのが事実だとすれば、奴らの狙いは西区だけじゃないだろうね」
「国だろう。だが最初の攻撃に西区の北側を選んだことも偶然とは思えん。利用する側かされている側かは分からないが、清浄化反対派の誰かも関わっていると考えて間違いないだろう」
俺が知ってる言葉で表すならテロリスト。
清浄化に暗雲が立ち込めてきた。
「ってシリアスな時に何をやってんだ!」
師団長とエミーが真剣に話しているのを他所に突然エドやベルの香りを嗅ぎ始めた魔王に突っ込む。
「獣人族ではない」
「え?」
首元をクンクンされたエドとベルはポカン。
突っ込みに返ったそんな一言に俺もポカン。
「僅かだが……覚えのある香りが残っている」
「分かるのか!?」
「少し待て。思い出す」
箱の中の匂いを嗅ぐ魔王は変態くさい。
でも本当に分かるのなら物凄く重要な情報。
魔王の様子を伺うエミーと師団長の表情は真剣だ。
「暮らす層が違う魔族の香りとは明らかに違う。魔素を多く含む魔物でもない。俺が嗅いだことのある精霊族の中で人族でも獣人族でもないならば、残るはエルフ族しかない」
「エルフ族!?」
消去法で魔王が口にしたのはエルフ族。
エルフ族が存在することはリュウエンから聞いたけど、こんな時にその名前を聞くことになるとは。
「なるほど。有り得ない話じゃない」
「本当にエルフ族なら厄介だ」
「エルフ族って人族と仲良くないって聞いたけど。仲良くない人族とわざわざ組むか?」
エミーや師団長には納得の名前だったようだけど、力を合わせないといけない天地戦以外でも人族と組むだろうか。
「半身はエルフ族に会ったことがないのか」
「ない。気位が高い種族だとは聞いたけど」
「気位の高さだけで言えば全種族の中でも群を抜いている。自分たちを地上の神と思っているような種族だからな」
「は?神?人族も信仰してるあの神?」
「エルフ族曰く自分たちは地上の神らしい」
「え?ヤバくね?俺が居た世界ならドン引きされてる」
自分が神と信じてる奴なんて拗らせ厨二病(※後に黒歴史に刻まれる)か、ヤバいお薬をやってる人か、ヤバい宗教団体の教祖くらいしか思いつかない。
「エドとベルはエルフ族と会ったことあるか?」
「見たことはありますが、彼らは獣人には近付きませんので」
「人族のことでさえ下に見ておりますから」
「何かない限り接触しないっていうのも事実だったのか」
エルフ族は異世界系の物語でも閉鎖的でプライドが高い種族として書かれていたりするけど、自分たちを神と思っているとは予想を遥かに超えてきた。
「会ったことがないなら一緒に来い」
「は?え?」
「間違いなら余計な火種になる。確認して来てやろう」
『え!?』
そんな近所のコンビニに行く感覚で!?
週刊誌の発売日に「まだ残ってるか確認して来てやるよ」くらいの感覚で!?
「待て。エルフ族が暮らす国と人族の国は同盟を組んでいる。魔王が行くと聞いて黙って見送ることは出来ない」
「その同盟相手に裏切られているかも知れないのにか?」
「まだ分からないではないか」
「だから確認して来てやると言っているだろう?エルフ族の国には幾度か行っている。この国よりは遥かに詳しい」
「なに!?地上に降りて来たのは前回のあれが初めてだったのではないのか!?そのような報告は受けていないぞ!?」
「人族は甘い。エルフ族はもっと姑息だ」
慌てて止める師団長に魔王は言って口元を笑みで歪ませる。
サラっととんでもない事実を暴露しやがった。
「一つ訊く。なぜそこまで私たち人族に協力するんだ」
「俺は精霊族同士が潰し合おうとどうでもいい。むしろ天地戦が楽になるのだから止めるまでもない。だが半身が努力してようやく迎えた今日を邪魔をした奴は気に入らない。ソイツを見つけられるよう今回は一時休戦して手を貸すというだけだ」
魔導具を運んだり箱を取り出したり情報をくれたり。
敵からの大盤振る舞いが気になったらしく聞いたエミーに魔王はそうハッキリと答えた。
「手を貸すと言ってもただ香りを確認するだけだがな」
「それを聞いて逆に安心したよ。エルフ族に攻撃されては困るんでね。私たち人族が裏切り者になってしまう」
「小虫になど興味はない。魔力を抑えて正体も明かさないと約束しよう。確認が済み次第報告する。これを持っておけ」
魔王が異空間から出しエミーに手渡したのは、以前魔王の部屋でも見かけた透明な水晶。
あれよりは一回り小さいけど。
「これは?」
「これ自体は何処にでもある水晶だが媒体として使う。なにか用がある時にはこの水晶に魔力を送り俺を呼べ。こちらからもこれを通して報告する。国王にもそう伝えておけ」
「国王にも話していいのか」
「黙っていてはお前たちの立場が悪くなるだろう。半身に危害を加えない者のことは俺もそれなりに扱う」
そう言われてエミーと師団長は少し驚いた表情をする。
自分たちの立場を気遣われるとは思わなかったんだろう。
「シンさまが行くのでしたら我々も参ります」
「魔祖のないお前たちは連れて行けない」
「魔祖?」
「魔王の特殊恩恵を持つ者に与えられた力と言えば分かるか?夕凪真は俺の半身だから耐えられるが、お前たちでは死ぬ」
え?魔祖って魔王しか持ってないの?
俺の属性魔法に魔祖があるのは魔王の半身だからか、生温い殺意のわく〝魔王様の寵愛児♡〟って特殊恩恵があるからなのか。
「エルフ族の国へ普通に行っては数日かかる。祖龍に乗って行くなら連れて行けるが、襲撃と間違われるだろうな」
「エドとベルは待っててくれ。祖龍に乗られたらフラウエルが最初にこの国へ来た時と同じ状況になりかねない」
一緒に連れて行ってやりたいけど騒ぎには出来ない。
魔王と俺だけなら魔空魔法を使って移動できるから、確認が終わればすぐに帰って来れる。
「……分かりました。シンさまが仰るなら」
「お怪我などなさいませんよう」
「魔王連れで怪我する方が難しいと思う」
「「たしかに」」
むしろこの上ない最強の護衛だろう。
エドとベルもそれで納得してくれた。
「魔族にとって魂の契約とは重い契約のようだから万が一もないと思うが、彼の生命に関わるような危険な行動は避けて欲しい。今や彼もこの国の大切な民であり精霊族の英雄なのだ」
「言われずとも無事に帰還させる。報告を待て」
「承知した」
師団長とエミーの許可を貰ってエドとベルにも無事に帰って来る約束をしてそこで別れ、白い軍服では目立ってしまうから一旦着替えに宿舎の部屋に寄る。
「コソっと行ってコソっと見てコソっと帰るんだよな?」
「コソコソしていた方が怪しいだろう」
「堂々と入るってこと?」
「ああ。魔祖を使い近くまで行って門から入る」
「じゃあ身分証が必要か」
「エルフ族の国は通行料を払えば入れる。仮に今回のことが国家ぐるみならばこの国の者と分かる方が危険だろう」
それもそうか。
金を払えばOKとか随分緩いけど。
「お前の衣装は他の人族の衣装と違うな」
「これ?前の世界での戦闘服。衣装屋に作って貰った」
「戦闘服?……逆に戦い難そうだが」
そう言われて着替えながら吹き出して笑う。
住んでる層は違っても魔王もこの異世界の人なんだから、『戦闘=命懸けの戦い』と思うのも当然だった。
「俺が戦ってたのは客。女性客の隣に座って酒を作ったり一緒に呑んだり、相談や愚痴を聞いたり。嫌な日常を忘れたい女性を楽しませることと癒すことが俺の言う戦い」
「戦っていないじゃないか」
「物理的にはな。顔や身体や話術を使って客と駆け引きをするんだ。店に通わせられたら俺の勝ち」
言われてもピンとこないらしく首を傾げられる。
他の場所にはもしかしたらあるのかも知れないけど王都だと酒を呑む場所と言えばギルドや食堂で飲み屋はないから、魔王じゃなくてもピンとこないかも知れない。
「よく分からないが、衣装は似合っている」
「ありがとう」
俺にとってはスーツが戦闘服。
十代の頃からホストを始めて以来仕事の日は常に着てたから、もう一番馴染みのある服装になっている。
「よし。お待たせ」
「では行こう」
ジャケットに腕を通して支度は終了。
スーツの上にローブを羽織って宿舎を出た。
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仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
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