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27.偽りの聖女の行方。
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聖杖を持ち去った人物が誰か解っているんだから、返してもらうように言えばいいだけのように思う。
それに聖女っていうくらいなんだから、きっと大神殿にいるはず。
「それって、聖女のところに取り戻しに行ったら良かったんじゃないの?」
「……それができれば、苦労はしないよ」
ラズライエルさんは疲れたように息を吐くと、腕を組んで祭壇の方にもたれかかった。
動くたびに、窓から差し込む太陽の光を浴びて、茶金の髪が光を振りまいている。
中世的な美貌と相まって、すごく絵になるんだけど……レムリアさんのおかげで目が肥えてしまって、綺麗だなぁってくらいにしか思えなくなってしまった。
「僕が不在の間に自称聖女が現れて、国は聖女と認定してしまったそうなんだ」
「え、認定されたら、それは自称って言わないんじゃないの?案外、本物かも……」
「それは無いよ。忘れたの?僕は天使で、女神アルテフェルミアさまから遣わされたって言ったでしょう?あの聖女は本物じゃない」
女神の御使いの天使が本物じゃないと断言しているなら、自称聖女はやっぱり偽物になる。
でもそれなら、どうして国は聖女を本物と認めてしまったんだろうという疑問がわく。
「それなら、どうして国に認定されているの?」
「わからないよ。神官長に聞いてみたら、神の御技に近い奇跡を起こしたから、聖女に認定されたって……」
たしかに神の御技の奇跡を起こせば、聖女と言われるかもしれない。
その神の御技も気になるけど、問題の自称聖女はいったいどこにいるんだろうと疑問に思った。
「それで自称聖女は、どこにいるの?大神殿に?」
「大神殿には、いないよ。国が保護という形で、城内に住んでいるんだ」
城内に住んでいると聞いて、意外で驚いた。
てっきり聖女だから神殿に住んでいると思っていたいのに、まさかの城内。
「それでしたら、謁見すれば会えるはずですよ」
「あの自称聖女は大神殿が信用できないと言って、神官長に会うことも拒むんだよ。僕なんて立場が神官見習いだから、とても無理だよ」
それは自分が偽物だという自覚があるから、神官長に会いたくないんじゃないかと思った。
もしそうだとしたら、かなり周りを警戒しているはずだから、会うことは難しい。
「私なら、おそらく会えますよ」
「は?だから何言ってるの?そんな簡単に会えたら苦労は・……ちょっと待って、君まさか……でもその紫水の瞳は……」
ラズライエルさんはレムリアさんの瞳を覗き込むとと、顎に手を添えて考え込み始めた。
たしかに紫水晶のような瞳は、いつまでも見ていたいほど綺麗だけど……何か関係があるのかと不思議に思った。
「そういえば、私の身分証もアルテアースなら作れるって言ってたけど……・聖女に謁見まで頼んで、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。まあ、どちらも知り合いに頼むだけですから」
「あ、城内に知り合いがいて、頼むってことだったのね」
あれ、身分証を簡単に発行できる知り合いって……よく考えたら、それって権力のある人ってことになる。
そういえばレムリアさんも、良い家の出身っぽいからそれに見合うだけの知り合いがいるのかもしれない。
「ええ、そうです。ただ王城に入るには、ある程度身だしなみが必要になりますから……後で天華さんの服を見に行きましょうか」
たしかに着替えの服は無いけど、予備の服を借りて自分の服を洗濯してたから、そんなに汚くはないはず。
それなのに身だしなみが必要ということは、それなりに身分のある人と謁見させられるのではないかという、そんな予感がする。
気後れして断りたいけど、身分証は必要で……どう考えても断れない。
「あの、それって……結構な身分の人に合うとかじゃあ……」
「それは、会ってからのお楽しみということで……」
レムリアさんが、不意打ちのように悪戯っぽい笑みを浮かべた。
あまりに整いすぎてきる容貌ですごく素敵なんだけど、なぜか可愛く見えてしまい、変に心臓が煩くなってくる。
顔に熱が篭る前に、窓の外を見て気を紛らわした。
空は微かに色を変えつつあり、もう少しで夜の帳が降りてきそうだった。
「そ、そういえば泊まる場所が無いんだけど……」
「泊まる場所?それなら大神殿に泊まるといいよ。部屋なら沢山あるし」
「天華さん、それよりも私が昔使用していた屋敷があるのですが、今は誰も住んではいません。そちらはどうですか?」
大神殿と誰も住んでいない屋敷なら、気を使わなさそうな屋敷の方がいいかもしれない。
「本当に誰も住んでいないの?使用人とか家族とか……」
「家族は、もういません。それに長く旅をしていたので空き家にすることが多く、使用人もすでにいません」
家族が居ないと聞いて、言葉に詰まってしまった。
もし病気や事故で不幸があり、それが原因で家族を失っていたという過去があるとしたら、なんて言葉をかければいいのか解らない。
深く聞いてはいけない気がしてしまい、レムリアさんの様子を伺うように見てみると、とくに変わった様子は見えなかった。
その様子を見て、気を使いすぎなのかもしれないと思い直した。
「ただ、掃除をする必要があるので、少し待っていただくことになりますが……」
「テンカさん。大神殿なら神官長に説明するだけだから、このまま泊まっていけば良いよ」
大神殿とレムリアさんの屋敷のどちらかになるんだけど、すごく悩む。
でも今後のことを考えると、大神殿よりもやっぱりレムリアさんの屋敷の方が良いのかもしれれない。
「あの、レムリアさんのところにお世話になっても、いいですか?」
「ええ、もちろん」
レムリアさんは穏やかな笑みを浮かべて頷いてくれたけど、反対にラズライエルさんは、すごく不機嫌そうな顔をしていた。
それに聖女っていうくらいなんだから、きっと大神殿にいるはず。
「それって、聖女のところに取り戻しに行ったら良かったんじゃないの?」
「……それができれば、苦労はしないよ」
ラズライエルさんは疲れたように息を吐くと、腕を組んで祭壇の方にもたれかかった。
動くたびに、窓から差し込む太陽の光を浴びて、茶金の髪が光を振りまいている。
中世的な美貌と相まって、すごく絵になるんだけど……レムリアさんのおかげで目が肥えてしまって、綺麗だなぁってくらいにしか思えなくなってしまった。
「僕が不在の間に自称聖女が現れて、国は聖女と認定してしまったそうなんだ」
「え、認定されたら、それは自称って言わないんじゃないの?案外、本物かも……」
「それは無いよ。忘れたの?僕は天使で、女神アルテフェルミアさまから遣わされたって言ったでしょう?あの聖女は本物じゃない」
女神の御使いの天使が本物じゃないと断言しているなら、自称聖女はやっぱり偽物になる。
でもそれなら、どうして国は聖女を本物と認めてしまったんだろうという疑問がわく。
「それなら、どうして国に認定されているの?」
「わからないよ。神官長に聞いてみたら、神の御技に近い奇跡を起こしたから、聖女に認定されたって……」
たしかに神の御技の奇跡を起こせば、聖女と言われるかもしれない。
その神の御技も気になるけど、問題の自称聖女はいったいどこにいるんだろうと疑問に思った。
「それで自称聖女は、どこにいるの?大神殿に?」
「大神殿には、いないよ。国が保護という形で、城内に住んでいるんだ」
城内に住んでいると聞いて、意外で驚いた。
てっきり聖女だから神殿に住んでいると思っていたいのに、まさかの城内。
「それでしたら、謁見すれば会えるはずですよ」
「あの自称聖女は大神殿が信用できないと言って、神官長に会うことも拒むんだよ。僕なんて立場が神官見習いだから、とても無理だよ」
それは自分が偽物だという自覚があるから、神官長に会いたくないんじゃないかと思った。
もしそうだとしたら、かなり周りを警戒しているはずだから、会うことは難しい。
「私なら、おそらく会えますよ」
「は?だから何言ってるの?そんな簡単に会えたら苦労は・……ちょっと待って、君まさか……でもその紫水の瞳は……」
ラズライエルさんはレムリアさんの瞳を覗き込むとと、顎に手を添えて考え込み始めた。
たしかに紫水晶のような瞳は、いつまでも見ていたいほど綺麗だけど……何か関係があるのかと不思議に思った。
「そういえば、私の身分証もアルテアースなら作れるって言ってたけど……・聖女に謁見まで頼んで、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。まあ、どちらも知り合いに頼むだけですから」
「あ、城内に知り合いがいて、頼むってことだったのね」
あれ、身分証を簡単に発行できる知り合いって……よく考えたら、それって権力のある人ってことになる。
そういえばレムリアさんも、良い家の出身っぽいからそれに見合うだけの知り合いがいるのかもしれない。
「ええ、そうです。ただ王城に入るには、ある程度身だしなみが必要になりますから……後で天華さんの服を見に行きましょうか」
たしかに着替えの服は無いけど、予備の服を借りて自分の服を洗濯してたから、そんなに汚くはないはず。
それなのに身だしなみが必要ということは、それなりに身分のある人と謁見させられるのではないかという、そんな予感がする。
気後れして断りたいけど、身分証は必要で……どう考えても断れない。
「あの、それって……結構な身分の人に合うとかじゃあ……」
「それは、会ってからのお楽しみということで……」
レムリアさんが、不意打ちのように悪戯っぽい笑みを浮かべた。
あまりに整いすぎてきる容貌ですごく素敵なんだけど、なぜか可愛く見えてしまい、変に心臓が煩くなってくる。
顔に熱が篭る前に、窓の外を見て気を紛らわした。
空は微かに色を変えつつあり、もう少しで夜の帳が降りてきそうだった。
「そ、そういえば泊まる場所が無いんだけど……」
「泊まる場所?それなら大神殿に泊まるといいよ。部屋なら沢山あるし」
「天華さん、それよりも私が昔使用していた屋敷があるのですが、今は誰も住んではいません。そちらはどうですか?」
大神殿と誰も住んでいない屋敷なら、気を使わなさそうな屋敷の方がいいかもしれない。
「本当に誰も住んでいないの?使用人とか家族とか……」
「家族は、もういません。それに長く旅をしていたので空き家にすることが多く、使用人もすでにいません」
家族が居ないと聞いて、言葉に詰まってしまった。
もし病気や事故で不幸があり、それが原因で家族を失っていたという過去があるとしたら、なんて言葉をかければいいのか解らない。
深く聞いてはいけない気がしてしまい、レムリアさんの様子を伺うように見てみると、とくに変わった様子は見えなかった。
その様子を見て、気を使いすぎなのかもしれないと思い直した。
「ただ、掃除をする必要があるので、少し待っていただくことになりますが……」
「テンカさん。大神殿なら神官長に説明するだけだから、このまま泊まっていけば良いよ」
大神殿とレムリアさんの屋敷のどちらかになるんだけど、すごく悩む。
でも今後のことを考えると、大神殿よりもやっぱりレムリアさんの屋敷の方が良いのかもしれれない。
「あの、レムリアさんのところにお世話になっても、いいですか?」
「ええ、もちろん」
レムリアさんは穏やかな笑みを浮かべて頷いてくれたけど、反対にラズライエルさんは、すごく不機嫌そうな顔をしていた。
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