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22.愛と豊穣の国
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太陽の光が薄暗い闇夜を追い出すように、空が明るくなり始めた頃、自然に目が覚めた。薄暗い中、朝食を作り始めて、出来た頃には空がずいぶんと明るくなっていた。
レムリアさんとクレスさんを起こして3人で朝食を終えた頃には、もう空は眩しい位に明るく、少し休憩をすると、すぐに出発した。
山を1つ超えて、お昼を過ぎたくらいに2つ目の山頂に着くと、海と山に囲まれた王都には、白地に金色が縁どられた、お城が見えた。
街は植物が多く、山と街の間には幾つもの田畑が見える。太陽の光で煌く海沿いには、港も見える。まさに自然の恵みに溢れた国だった。
「あれが、アルテアース?」
「ああ、そうだよ。あれが俺たちの国、アルテアース」
「お昼も過ぎたことですし、急ぎましょうか」
レムリアさんの一言で、まだお昼ご飯を食べていないのを思い出し、晩御飯の時間になる前に山を降りようと道を急いだ。
山を降りると、アルテアースの外壁にいる門番に通行を許可してもらうために、検問の列に並んだ。
今はお祭りの時期じゃないから、そこまで人は多くなくて、1時間くらいですぐに順番が回ってきた。
「3人とも身分証は持っているか?」
「俺はあるよ。はい、これ」
クレスさんが腕から緑色で半透明の幅広いブレスレットを取り外すと、それを門番の人に渡した。
門番の人は、それを受け取ると緻密な魔法陣が書かれている箱の中に入れた。
そうすると魔法陣が輝いて、空中に文字と顔写真が投影された。
「あの、前に見たレムリアさんの身分証と形が違うんだけど」
「そりゃあそうだよ。身分証は個人でかなり違うし、透かしても解るようになってるんだけどさ、素材自体にも魔法で情報が入れられているから、出国や入国する時は審査されるんだよ」
言われてから、村の門番も身分証のカードを透かして、確認していたのを思い出した。
そういえば、村の時はレムリアさんの身分証だけで通ったけど、ここは村と違うから通れないかもしれない。そうすると、一時入国用の保証金を払うしかない。
「私はこれで……」
「これは……」
レムリアさんの身分証を見て、門番の人が驚いているみたいだった。
そういえば、前の村の門番の人も少し驚いていたけど、そんなに特別な物だったんだろうかと、見つめてしまう。
宝石のような輝きを持つ、小さなカード。よく見ると、微かに黄金色に輝いているように見える。
「ねえ、クレスさん。レムリアさんの身分証って、そんなに珍しい物を使っているの?」
「あれ、たぶん持っている人がすごく少ないって言われてる特殊石だよ」
「特殊石?」
「特別な石同士を融合させて、作る石だよ」
「へぇ~……そんなものがあるのね」
魔道具師として素材が気になるらしくて、クレスさんは食い入るようにレムリアさんの身分証を見ていた。
レムリアさんの身分証が魔法陣の書かれた箱に入れられると、クレスさんの時のように魔法陣が浮かんできた。
クレスさんの時と違い、魔法陣の色が金色なのが気になる。もしかして、身分によって色分けでもしているのかなと考えてしまう。
「何かと明水石を融合させたような……明水石を融合させると、水のように透き通るんだ。で、あんな宝石みたいになるんだよ」
「そんなに気になるんだったら、レムリアさんに見せて貰えば?」
「前に頼んだら、見せてくれなかったんだよ。まあ、身分証はそんなに人に見せたりするもんじゃないし……仕方ないかな」
レムリアさんが身分証を回収して戻ってくると、次は私の番になった。一時入国のお金を払えば、入国はできるんだろうけど、お金が無い。
考えた末に、やっぱりここはレムリアさんにお金を借りるしかないと考えて、レムリアさんの方を見る。
レムリアさんは、すぐに言いたいことに気づいたらしくて、笑みを浮かべて頷くと門番の人に近づいた。
「彼女は私の連れ添いですから、私が対応しますよ」
「お願いします、レムリアさん」
「ええ、任せてください」
レムリアさんは門番の人と少し奥に行くと、何か話し始めた。少しして門番の人が別室に行きに、桃色で半透明の小さなプレートの付いた、細いブレスレットを渡された。
「これは……」
「一時入国用の身分証です。滞在期間は本日から7日間ですので、お気を付けください」
門番の話し方が変わったことに気づいた。しかもよく見ると、少し緊張しているように見える。
さっきレムリアさんと話した時に、何かあったんだろうなということは解るけど、頼んだのは自分だから何も言えなかった。
手渡された細いブレスレットを手首に付けると、門を潜って街の中へと入った。門の向こうは商店街の大通りで、人通りが多く、とても活気に溢れていた。
「そうですね……とりあえず、お昼を食べましょうか?」
「そうだな。お腹もだいぶ空いたし……」
そういえば村の食事はあまり美味しくなかったけど、塩や砂糖の質が悪かったからの話で、さすがに王都の食事なら美味しいかもしれない。
前に食べたテムテムランチも美味しかったことを思い出すと、食事への期待が膨らんだ。
「レムリアさん、クレスさん。どこか美味しいお店、知ってる?」
「美味しいお店かぁ~……いつも工房に篭ってるから、あんまり外に食べに行かないし……ちょっとなぁ」
「私も数年ぶりに帰国したもので、あまりそういったことは……」
レムリアさんもクレスさんも、アルテアースで人気のありそうなお店には詳しくなさそうだった。それなら前と同じように、お客さんの多そうなお店を選べば良いんじゃないかと思った。
ただ前と違って、今度はカップルの多いお店は避けよう。3人で入ったら、いったいどんな目で見られるかが怖い。
「それなら、お客さんが多いお店に入ればいいんじゃない?ほら、人が多いってことは人気があるってことで美味しいはずだから!」
「なるほど!でもそれだと、並ぶのに時間がかかるよ」
「私は、かまいませんが」
レムリアさんが良くても、クレスさんは嫌そうだった。
さすがに嫌がるクレスさんを連れて列に並ぶのは、可哀想な気がする。
「でもさ、いつご飯にたどり着けるか解らないよ……あ、そうえいば最近、開店したばかりお店があるんだった」
「開店したばかりってことは、まだ新しいお店なの?」
「そうそう。大神殿の近くにあるんだけど、俺の店からも近いし、そこそこ客も多いんだ」
「それなら、そこに行ってみる?」
2人に聞いてみると、クレスさんは屈託ない笑みを浮かべて、レムリアさんは穏やかに頷いた。
「俺は賛成!」
「そうですね、そこにしましょう」
クレスさんの道案内で、大神殿の近くの飲食店へと向かった。
レムリアさんとクレスさんを起こして3人で朝食を終えた頃には、もう空は眩しい位に明るく、少し休憩をすると、すぐに出発した。
山を1つ超えて、お昼を過ぎたくらいに2つ目の山頂に着くと、海と山に囲まれた王都には、白地に金色が縁どられた、お城が見えた。
街は植物が多く、山と街の間には幾つもの田畑が見える。太陽の光で煌く海沿いには、港も見える。まさに自然の恵みに溢れた国だった。
「あれが、アルテアース?」
「ああ、そうだよ。あれが俺たちの国、アルテアース」
「お昼も過ぎたことですし、急ぎましょうか」
レムリアさんの一言で、まだお昼ご飯を食べていないのを思い出し、晩御飯の時間になる前に山を降りようと道を急いだ。
山を降りると、アルテアースの外壁にいる門番に通行を許可してもらうために、検問の列に並んだ。
今はお祭りの時期じゃないから、そこまで人は多くなくて、1時間くらいですぐに順番が回ってきた。
「3人とも身分証は持っているか?」
「俺はあるよ。はい、これ」
クレスさんが腕から緑色で半透明の幅広いブレスレットを取り外すと、それを門番の人に渡した。
門番の人は、それを受け取ると緻密な魔法陣が書かれている箱の中に入れた。
そうすると魔法陣が輝いて、空中に文字と顔写真が投影された。
「あの、前に見たレムリアさんの身分証と形が違うんだけど」
「そりゃあそうだよ。身分証は個人でかなり違うし、透かしても解るようになってるんだけどさ、素材自体にも魔法で情報が入れられているから、出国や入国する時は審査されるんだよ」
言われてから、村の門番も身分証のカードを透かして、確認していたのを思い出した。
そういえば、村の時はレムリアさんの身分証だけで通ったけど、ここは村と違うから通れないかもしれない。そうすると、一時入国用の保証金を払うしかない。
「私はこれで……」
「これは……」
レムリアさんの身分証を見て、門番の人が驚いているみたいだった。
そういえば、前の村の門番の人も少し驚いていたけど、そんなに特別な物だったんだろうかと、見つめてしまう。
宝石のような輝きを持つ、小さなカード。よく見ると、微かに黄金色に輝いているように見える。
「ねえ、クレスさん。レムリアさんの身分証って、そんなに珍しい物を使っているの?」
「あれ、たぶん持っている人がすごく少ないって言われてる特殊石だよ」
「特殊石?」
「特別な石同士を融合させて、作る石だよ」
「へぇ~……そんなものがあるのね」
魔道具師として素材が気になるらしくて、クレスさんは食い入るようにレムリアさんの身分証を見ていた。
レムリアさんの身分証が魔法陣の書かれた箱に入れられると、クレスさんの時のように魔法陣が浮かんできた。
クレスさんの時と違い、魔法陣の色が金色なのが気になる。もしかして、身分によって色分けでもしているのかなと考えてしまう。
「何かと明水石を融合させたような……明水石を融合させると、水のように透き通るんだ。で、あんな宝石みたいになるんだよ」
「そんなに気になるんだったら、レムリアさんに見せて貰えば?」
「前に頼んだら、見せてくれなかったんだよ。まあ、身分証はそんなに人に見せたりするもんじゃないし……仕方ないかな」
レムリアさんが身分証を回収して戻ってくると、次は私の番になった。一時入国のお金を払えば、入国はできるんだろうけど、お金が無い。
考えた末に、やっぱりここはレムリアさんにお金を借りるしかないと考えて、レムリアさんの方を見る。
レムリアさんは、すぐに言いたいことに気づいたらしくて、笑みを浮かべて頷くと門番の人に近づいた。
「彼女は私の連れ添いですから、私が対応しますよ」
「お願いします、レムリアさん」
「ええ、任せてください」
レムリアさんは門番の人と少し奥に行くと、何か話し始めた。少しして門番の人が別室に行きに、桃色で半透明の小さなプレートの付いた、細いブレスレットを渡された。
「これは……」
「一時入国用の身分証です。滞在期間は本日から7日間ですので、お気を付けください」
門番の話し方が変わったことに気づいた。しかもよく見ると、少し緊張しているように見える。
さっきレムリアさんと話した時に、何かあったんだろうなということは解るけど、頼んだのは自分だから何も言えなかった。
手渡された細いブレスレットを手首に付けると、門を潜って街の中へと入った。門の向こうは商店街の大通りで、人通りが多く、とても活気に溢れていた。
「そうですね……とりあえず、お昼を食べましょうか?」
「そうだな。お腹もだいぶ空いたし……」
そういえば村の食事はあまり美味しくなかったけど、塩や砂糖の質が悪かったからの話で、さすがに王都の食事なら美味しいかもしれない。
前に食べたテムテムランチも美味しかったことを思い出すと、食事への期待が膨らんだ。
「レムリアさん、クレスさん。どこか美味しいお店、知ってる?」
「美味しいお店かぁ~……いつも工房に篭ってるから、あんまり外に食べに行かないし……ちょっとなぁ」
「私も数年ぶりに帰国したもので、あまりそういったことは……」
レムリアさんもクレスさんも、アルテアースで人気のありそうなお店には詳しくなさそうだった。それなら前と同じように、お客さんの多そうなお店を選べば良いんじゃないかと思った。
ただ前と違って、今度はカップルの多いお店は避けよう。3人で入ったら、いったいどんな目で見られるかが怖い。
「それなら、お客さんが多いお店に入ればいいんじゃない?ほら、人が多いってことは人気があるってことで美味しいはずだから!」
「なるほど!でもそれだと、並ぶのに時間がかかるよ」
「私は、かまいませんが」
レムリアさんが良くても、クレスさんは嫌そうだった。
さすがに嫌がるクレスさんを連れて列に並ぶのは、可哀想な気がする。
「でもさ、いつご飯にたどり着けるか解らないよ……あ、そうえいば最近、開店したばかりお店があるんだった」
「開店したばかりってことは、まだ新しいお店なの?」
「そうそう。大神殿の近くにあるんだけど、俺の店からも近いし、そこそこ客も多いんだ」
「それなら、そこに行ってみる?」
2人に聞いてみると、クレスさんは屈託ない笑みを浮かべて、レムリアさんは穏やかに頷いた。
「俺は賛成!」
「そうですね、そこにしましょう」
クレスさんの道案内で、大神殿の近くの飲食店へと向かった。
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