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第19話 覚悟
第19話 覚悟
しおりを挟む「だから!!僕は彼女の婚約者だぞ!?なんで容疑者にされなきゃダメなんだ!?」
藤沢俊輔が、稲垣に向かって噛み付くように怒鳴りつけた。
「お前の部屋を調べたところ、新野紗弥の隠し撮りらしきものが見つかった。それは、お前がストーカーしていたという証拠だろう!」
「それは違う!た、確かに………寝顔が可愛くてこっそり撮ったかもしれないが、本当にそれだけだ!!第1!!遺書は結局偽物だったんだろう!?なら、渚が犯人じゃないか!!」
彼は、ダン!ダン!と、ひっきりなしにテーブルを叩きつけながら無罪を主張していた。ひっきりなしに渚が悪いと言うが、そんな証拠もなく、一人一人の証言を聞くしか出来ない。
「私が疑われても仕方ないのは、自分でもよくわかってます……。」
「…というと?」
稲垣が片眉をあげる。
「……私、親友でありながら……紗弥に嫉妬してたんです……。行けないと思いながら……成功していく沙弥が羨ましくて羨ましくて………最低とか………親友失格と知りながら…………嫌がらせをしていたんです…………。ストーカーに……あってると…思われるように………。」
途切れ途切れに渚は白状し、最終的には顔を手でおおって泣き出してしまった。
3人目の男は黙秘をしていた。
「……前田ひとし……だな?」
「……………。」
「聞いてるのか?」
笠村の問いかけに男は何も言わずに俯いたままであった。
黒い髪の毛に黒縁の眼鏡をかけた男は、ムッスリとしていて少し強面のようにも見える。
「彼は…?」
藍里が稲垣に耳打ちする。
「前田ひとし。29歳。職業はサラリーマンで、数週間前に新野紗弥のストーカー容疑で逮捕されていたんだ。証拠もほら。この通り。」
そう言って稲垣が写真を見せる。
どの写真も新野紗弥の物で、いつ撮ったのかわからないような写真が多かった。
ご飯を食べている写真。
こちらを向いている姿。
思わず寝入ってしまった写真。
ベッドの中で眠ってる写真。
また、体をタオル巻きの姿で浴室にいる姿やタオルで前を隠している姿…………ブラジャーをつけている最中の写真まで………。
どれも、カメラ目線ではないことと
こんなに生活感のある様子から、盗撮であることはすぐに分かる。
「けど、本人は知らないの一点張りなんだ。これだけの写真が家の中から見つかったにも関わらずにだ。」
稲垣がやれやれと言いながら写真を封筒の中に入れる。
入れた直後だ。
「だから何度言ったらわかるんですか!!!?息子はストーカーなどしない!!!親である私がいちばんよく分かるんです!!」
そんな怒鳴り声が聞こえてきて、藍里は思わず体を震わせる。
「あぁ~…前田ひとしの父親だな……。親として、自分の息子がストーカー、殺人なんて信じ難いのもわかるけどね……。」
稲垣が苦笑いをしながら取調室の扉を開ける。
「笠村。悪いが続けていてくれないか?少し、前田の父親の対応をしてくる。」
稲垣のその言葉に笠村の『分かりました。』という声が聞こえてきた。
(今の声………。)
聞き覚えがある。
怒鳴り声だから少し違うかもしれないが……。
藍里は稲垣の後をついてその父親がいるところに向かう。
声がするところに向かうと、1人の警察官が年配の男の対応にオロオロとしていたが、稲垣の姿を見つけると、「助け舟が来た!」と言わんばかりに笑顔になり、
「あ!稲垣警部!」
と叫んだ。
「警部さん!?調度いい!!なんとか ひとし と話をさせてください!!そうしたら何かわかるかもしれません!!」
前田の父親が、噛み付くように稲垣に叫び、稲垣が『まぁまぁ。』と手で諭す。
その後ろからひょこっ!と藍里が顔を覗かせる。
そんな藍里を見た男は、目をぱちくりさせる。
「ん?あれ?君は………あの時………。」
「…………晴臣さん…………でしたっけ?神父さんの…被害者の遺体があった教会の責任者さんの………。ひとしの父親って、この方だったんですね。」
「そうだよ。藍里ちゃん。そっか。前田ひとしは、君は知らなかったっけ。」
藍里。
その名前を聞いた晴臣は『藍里……?』と呟いた後になにか思い出したようにハッ!と顔を上げる。
「も、もしかして君は、女子大生探偵……………藍色の探偵と言われてる、森野藍里…………!?」
「あー…………はい。ソウデス………。」
その言葉を聞いて視線を泳がせる藍里。『女子大生探偵』『藍色の探偵』と声をかけられるのが増えてきたから珍しくはないものの、いざ言われるとなかなか慣れないものである。
「ああ!森野さん!どうかお願いです!息子の無罪を証明してください!!アイツは!ひとしは、いい子なんです!そんな、ストーカーみたいなことなんかしないんです!お願いします!お願いします…!」
と、晴臣は地面に額をぶつけるほどの勢いで土下座をして何度も藍里に頭を下げた。
「は…!晴臣さん!落ち着いて…!分かりましたから…!」
「お願いします…!」
押されて思わず依頼を受けた藍里は何度も振り返りながら頭を下げて立ち去る晴臣を見送ってから『はぁ~~~…。』と盛大にため息をついた。
「藍里ちゃん………結構押しに弱いところあるよね……。」
稲垣は、眉を下げながらそう呟いた後、「使うかい?」と付け足しながら手に持っていた封筒を藍里に差し出す。
「アリガトウゴザイマス…。」
と言って受け取った藍里の顔は文字通り死んでいた。
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