上 下
12 / 41

遅すぎる答え合わせ1

しおりを挟む

 発表が終わり、図書館内にある自室に逃げるように駆けて行った。

 発表で何を話したか覚えていない。
 ノアがいた、ノアが聞いている。
 どんな表情で見てるの、何を思っているの。
 それだけが頭の中を支配していた。

 私はずっとノアに会いたかったのだ、話したかった、そばにいたかった。
 自分の気持ちを認めざるをえない。
 ただ時間が経ち過ぎていて恐怖が次々と湧いてくる。
 不安が胸を埋め尽くし、嵐のように荒れ狂っている。

 ――こんな感情知らない、わからない。

 どうすれば治るのか、どうすれば答えが出るのか検討がつかない。
 人を好きになるのは、こんなにも苦しいものなのか。
 ノアを思うと幸せな気持ちになり満たされる。
 でもすぐに不安が津波のように押し寄せる。
 私はどこか壊れてしまったのかと錯覚を起こす。

 ――みんな同じように恋をするの?恋って辛いものなの?

 自問自答しても答えは返ってこない。

 いつの間にか自室の執務机の上で眠りつき、節々が痛くなり目覚める。
 いくらか時間が経っているようだ。
 西の空が赤く輝き、綺麗なグラデーションを色付けている。

 上げた顔の頬が僅かに濡れて湿っている。

 ――泣いてたんだ。

 唖然としていると、扉を叩く音が聞こえる。
 誰だろう思いながら、返事をし涙を拭うと聞き慣れた声が扉の向こうから聞こえた。

「ロゼッタ、俺だ……会いたくなければ、そのままでいい。話がしたい、聞いてくれるか?」

 ノアが名前を呼んでくれた、それだけでなぜか涙が溢れ頬を濡らす。
 何かを言いたいのに、言葉は嗚咽に変わる。

「ロゼッタ……泣いてるのか?入るぞ」

 ――今はダメ、こんな顔見せられない。

 咄嗟に扉に向かい鍵をかけようと手を伸ばすが、それより早く扉が開かれる。
 そこには会いたくて会いたくて、無意識に求めていたノアがいた。
 私はこんなにも弱かったのかと絶望にも近い気持ちを持つ。
 ノアの顔が見たいのに、瞳が涙で溢れ輪郭をあやふやにする。
 謝りたいのに、声をかけたいのに全てが嗚咽に変わる。

 ――最悪だ。こんな姿じゃ嫌われる。

「ぅ……っの……ぁ……う、ぅ……」

 振り絞り出た言葉は嗚咽に混ざり切った名前だけ。
 苦しくて辛くて、震えが止まらず無意識に自分の体を掻き抱く。

 ――ノア

 その時、力強く全てを包み込む温もりと大好きなノアの香りを感じた。
 不安や恐怖が消えさり愛しさが込み上げ、心が満たされていく。
 体が歓喜に震え、ノアに縋り付く。

「っっノア゛、ノア、ノア、ノァぁぁ」

 名前を呼び続けて泣くことしかできなかった。

「……ロゼッタ……ロゼ、ロゼっ……」

 それでもノアは強く強く返事を返すように何度も名前を呼び抱きしめてくれた。
 ノアの香りと温もりに包まれ、心の隙間が満たされていく。
 肩が濡れることも気にせず、縋り付く私を大切なもののように抱きしめ背中を優しく撫でてくれる。

 大きな手が両頬を掴み顔を向かせる。

「ロゼッタ」

 甘い吐息混じりの声が間近に聞こえ、息を呑む。
 少しかさついた手が頬を摩り涙を拭う。
 見つめ合う瞳は、深い海のようで全てを暴かれていく気がする。
 涙を拭うように、ノアが瞼にキスをする。
 額に頬に、瞼に首に耳に、触れた場所から熱をもち身体が粟立つ。
 ノアに触れられ嬉しい幸せだが、肝心な唇にはキスをくれない。
 ノアに好きだと伝えたい。
 ノアもあの夜から変わらず好きでいてくれているのだと安心したい。
 思い合っているのだと実感したい。
 恋とは人をおかしくする。
 初めて感じた喪失感や高揚感、執着のような独占欲。
 いろんな感情が入り乱れる。

 焦ったくなり、思わずノアの首に腕を回し引き寄せる。
 ノアがしてくれたように、唇を合わせるが勢いがあり過ぎてカチンと歯が当たる。
 ノアは目を大きく見開き呆気にとられている様子で、キスが失敗したことが恥ずかしくなり、腕の中から逃れようと足掻いたが腰に回された腕は微動だにせず抜け出すことができない。

「ちょっ!ノア離して」
「いやだ」と言いながら腰に回る腕に力が入り、頸に顔を埋める。

 その仕草が擽ったくて声が漏れる。

「っちょ、ぁっノア」
「……………………っ」

 拘束は強さを増し、いつの間にかソファに移動し胡座をかいたノアの胸の中にすっぽりと治る体勢になっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】騎士団長は××な胸がお好き 〜胸が小さいからと失恋したら、おっぱいを××されることになりました!~

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
「胸が小さいから」と浮気されてフラれた堅物眼鏡文官令嬢(騎士団長補佐・秘書)キティが、真面目で不真面目な騎士団長ブライアンから、胸と心を優しく解きほぐされて、そのまま美味しくいただかれてしまう話。 ※R18には※ ※ふわふわマシュマロおっぱい ※もみもみ ※ムーンライトノベルズの完結作

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...