上 下
3 / 41

全てはお金の為に

しおりを挟む

 人は誰しも大切なものがあるはず。
 何をおいても守りたいものがある。

 私は身分を偽っている。
 平民出身ではない。
 出自は不明、戦争孤児で三歳まで孤児院で育った。
 膨大な魔力と属性を持て余しながら。
 とある尊きお方が後見人となり、とある高貴な方が養子としてくれた。
 戦争孤児には十分すぎるほどの教育を施し、偉大な師匠もつけてくれた。
 泥沼の貴族社会からは隔離し自分の生きたい様にと道を示してくれた。

 そんな彼らには感謝しても仕切れず、死ぬまでに恩が返せるかも分からないほどの恩がある。
 十八歳になり自立できるようになれば、すぐに家を出てお金を稼ぐことに心血を注いだ。
 幼いころから古書や蔵書の研究が趣味で、図書司書は高給取り。
 すぐに就職先も決めた。
 少しでも魔術を発展させ国に恩を返す、金銭も稼げるだけ稼いで返す。
 故に遊んでる暇も、恋をしている暇もない。
 だからこそ『質素倹約、この世は金が全て』が座右の銘となった。

 ――――

 今日も左手につけてるブレスレットが光を受けキラキラと輝く。
 そこには瞳と同じ色彩の魔石が一粒だけ鎮座している。
 質素倹約ではあるが唯一身につけている装身具、己が魔力と属性を制限させる魔術具だった。
 心情とは裏腹にブレスレットは輝きを放つ。

「今日も来るかしら、運命のお相手様は」
「マリー揶揄うのやめてよ。本当どうしよぉ、ん~……解せぬ……」

 行儀も悪く机に突っ伏す。
 マリーはまだ笑っている。
 そのままモゾモゾと唸っていると、頭上から声がかかる。

「今日も二人は可愛いね。ロゼッタ、進捗どう?」

 ――はぁ、また来たよ。

 あれからノアは一日も欠かさず図書館に進捗を聞きに来たり、資料を取りに来たりと、何かと理由を付けて会いに来るようになった。
 そして今のように甘言を吐く。
 心を曇らせてる理由の一つが、ノアの存在だ。
 
 最初は目の保養であったが、会うたび甘言を吐かれると胸焼けがしてくる。
 はっきり言ってチャラい、そしてウザい。
 ただ流石、最年少魔術師団団長。
 魔術に対しての見解や判断力は申し分なく、違う視点からの発見はすごい刺激になる。
 おかげで、ノア個人からの依頼の数々もすこぶる順調で、出会ってから一ヶ月ほどしか経ってないが、司書の給金の四倍の報償ももらっている。
 依頼内容も、大なり小なりで、古書の解読業務から新しい魔術構築の方式など幅が広く正直とても楽しい。
 だから、やはり解せぬのだ。

 なぜ私? 補佐官いるじゃん。――である。

「ノア様ごきげんよう!ノア様も今日も素敵ですね、癒されます!!でわ、私は製薬の依頼がありますのでこれで失礼します。じゃぁねーロゼッタ」
「ちょっ、マリー!!」

 ニヤニヤと企む顔のマリーの背を縋るように見つめ、覚悟を決めゆっくりと振り返る。

「……ノア様、何度も申し上げますが、毎日来られなくても良いのでは?」
「ノアだ。俺の名前はノア、そう呼べ。このやり取りも毎回だよな、ロゼッタ」

 ――まだ言うか。身分が違いすぎるじゃん。

「はぁぁぁぁぁ、わかりました。ノア。ではノアも毎日図書館に来館しないで下さい」
「なぜ?」

 プッツン、頭の中の何かが切れた音がする。

「なぜ!?そんなの目立つからに決まってるでしょ!?前々から思ってましたけど、特別依頼以外は事務官や補佐官にでもお願いできるでしょ!?ってかその為の補佐官じゃん!!」

 そう、ものすごく怒っているのだ。彼は目立つ。そして、もちろん嫉妬などなんだのも増えるはず。
 臆病者で、平々凡々と好きなことをして平和に過ごしたいだけなのだ。
 なのに最近は周りが煩わしすぎる。
 彼は腐っても魔術師のトップ。事務官や補佐官などサポートする人が大勢いるのだ。
 なのになぜ私!?しかも毎日!?暇なのか!!!!???
 息継ぎなしで捲し立てたせいか、肩で息をする。

「ロゼッタにしかできないから毎回俺がわざわざ会いに来てる」
 ――こいつ何もわかっちゃいない。
「そもそも他の奴らじゃ話にならん」
 ――意味わからん。
「前から気にはなってたんだ。論文にも目を通してる。見識の広さや、着眼点が面白くてな。実際関わってみたら予想以上だ。もう、他は考えられんだろ?」
 ――あら?なんか褒められてる?
「去年か?水の浄化の論文は?――アレには流石に舌を巻いたよ」
 ――去年……

 この国では毎年一回各々の研究発表会が執り行われ優秀者には、その研究に対しての報奨金が出る。
 研究費は馬鹿にならない。
 魔術師団や司書が花形の高給取りとは言え研究費は経費で落ちないものがほとんどだ。
 その中で、如何に研究費を浮かせるか。
 それは全て発表会にかかっている。
 また魔術師や司書は契約期間がある為、ある一定の成果を上げねば契約破棄となり、魔術師や司書を名乗れなくなる。
 その為、契約更新や研究費の為、皆、日々粉骨砕身の思いで働いている。
 司書になったばかりの頃は、研究費にお金を回せず貯金をしながらと細々と新しい文献などの発表をしてきた。
 お金を貯めやりたいことがあった。
 それがノアの言った『水の浄化』についての研究だ。

「まさか二十三歳の若者が光属性を吸収できる鉱石を発見し、浄化魔法を構築した魔石を水道に設置。国民はいつでも浄化された真水が使え、衛生環境も大幅に改善された。しかも光属性の為、医療魔法も魔石に付加できる。改善なんて生温い。これは改革だったよ。しかも君がこんな近くにいるとはな……」

 最後の方は消え入りそうな声だった。

 ――私が近くにって……?

 光属性は浄化や治癒が主で、属性持ちの数も他と比べ格段に少ない。
 しかも従来の魔石には光属性は付加できなかった。
 その為、光属性持ちの魔術師は重宝されていたが、治療院に水道局にと酷使され続けていた。
 それを不憫に思い、幼少期に読んだ覚えのある島の文献を思い出し発掘調査のお金を貯めていた。
 それが大当たりで、その鉱石は光属性を付加でき、しかも小指の爪ほどの大きさの魔石で水の浄化なら五年は持つ燃費の良さだった。
 軽い治療魔法も付加できることを突き止め、医療の補助にも役に立った。
 一年かけ研究して、運営方法を模索し去年の発表で三年間の研究費用免除の上、大量の報奨金をゲットして大喜びしていたのを覚えている。

「……え、っと……ありがとうございます?」
「そうゆうことだから、諦めて受け入れてくれ」
「あ、はい……え゛ぇ!!!!!?」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

【R18】熱い一夜が明けたら~酔い潰れた翌朝、隣に団長様の寝顔。~

三月べに
恋愛
酔い潰れた翌朝。やけに身体が重いかと思えば、ベッドには自分だけではなく、男がいた! しかも、第三王子であり、所属する第三騎士団の団長様! 一夜の過ちをガッツリやらかした私は、寝ている間にそそくさと退散。まぁ、あの見目麗しい団長と一夜なんて、いい思いをしたと思うことにした。が、そもそもどうしてそうなった??? と不思議に思っていれば、なんと団長様が一夜のお相手を捜索中だと! 団長様は媚薬を盛られてあの宿屋に逃げ込んでやり過ごそうとしたが、うっかり鍵をかけ忘れ、酔っ払った私がその部屋に入っては、上になだれ込み、致した……! あちゃー! 氷の冷徹の団長様は、一体どういうつもりで探しているのかと息をひそめて耳をすませた。

[R18]獣の発情期、というのは人間にとっては強すぎるらしい

夢兎
恋愛
18歳の誕生日、国王の一人娘である、シロナは初めて"発情期"を迎えた

謎めいたおじさまの溺愛は、刺激が強すぎます

七夜かなた
恋愛
柳瀬 旭(28)は、父の再婚相手の父親の葬儀で、故人の後妻の息子、国見 唯斗(36)と初めて出遭う。 女性関係が華やかで、問題児だった彼は、自分とは違う世界の人間だと思った。 女の敵。 若い男と駆け落ちし、自分を捨てていった母の様になるまいと、自分を押し殺してきた旭は、偶然彼と再会する。 彼のペースに巻き込まれ、旭は彼氏と思っていた男性にふられたショックで、彼のマンションで一夜を明かしてしまう。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。

水樹風
恋愛
 とある事情から、近衛騎士団々長レイナート・ワーリン伯爵の後妻となったエルシャ。  十六歳年上の彼とは形だけの夫婦のはずだった。それでも『家族』として大切にしてもらい、伯爵家の女主人として役目を果たしていた彼女。  だが結婚三年目。ワーリン伯爵家を揺るがす事件が起こる。そして……。  白い結婚をしたはずのエルシャは、伯爵夫人として一番大事な役目を果たさなければならなくなったのだ。 「エルシャ、いいかい?」 「はい、レイ様……」  それは堪らなく、甘い夜──。 * 世界観はあくまで創作です。 * 全12話

処理中です...