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⑩目合
しおりを挟むベットに潜りながら人の気配を探る。
先程の自分の発言を後悔し自暴自棄になる。
数分もしないうちに階段を上がる人の気配を感じ身構える。
「入るぞ」
静かな声が部屋に響く。
返事をする間もなく龍が部屋に入ってきた。
「本気なのか?お前が本気で俺じゃなく雅人がいいなら呼んでくる」
「…龍こそいいの?私が他の男に抱かれて」
龍の心の内がわからなくとも知りたくてベットから起き上がり尋ねる。
龍は静かに歩み寄り足元に腰掛け私の頬を摩る。
節くれだった大きな掌が頬を包み耳や頸を愛撫していく。
触られた箇所から熱を持ち肌が粟立つ。
龍の煙草の匂いが混じる香りに誘われ掌に擦り寄り龍の瞳に吸い寄せられる。
鼻先が重なり唇が触れるその時、龍が囁く。
「いいわけあるか」
貪るように唇を奪われた。
きつく後頭部を掴まれ口が開く。
開かれた口腔内を熱い舌が隅々まで絡め取っていく。
息をするのを忘れ頭が酩酊する。
端から溢れた唾液を下へ下へと舐めとられ鎖骨をくすぐる。
「っ――龍」
龍の背中をきつく握りしめて離れまいとする。
大きな胸の中にスッポリと収まり鼻の奥まで龍の香りを吸い込む。
ずっと焦がれていた。この温もりに閉ざされていたい。
一方的でも私の初めてを全て龍に捧げたかった。
過去に戻れるなら全てを消し去りたいと願う。
「お願い、忘れさせて」
初めてをレイプで失い、愛する男に上書きされることはなく私にとって男は恐怖の対象のままだ。
それでも龍だけは違った。
龍が良かった。
あの頃の思いが濁流となり決壊する。
溢れる涙が止まらず震えながらも縋りつく。
顔を持ち上げられ涙を掬うようにキスが落ちてくる。
先程よりも優しいキスが角度を変えながら繰り返される。
「俺が忘れさせてやる」
優しく抱かれて触れられた分部が熱を持ち下腹部を疼かせる。
蜜口から卑猥な液体が溢れるのを自分でも感じる。
龍からのキスは止まず私も求めるように首に腕を回し縋りつく。
時折、首筋やデコルテにちりりとした痛みを感じるがそれさえも愛撫に感じた。
今までに感じたことのない幸福感。
愛しい人に抱かれる感覚に酔いしれる。
手に入ることはない男の腕に抱かれていた世の女性を思った。
この男に恋をし幾人もの女性が同じ思いをしてきたのだろうか。
そして母を思う。
母は最愛の人と出会い結ばれ私が産まれた。
それは正に奇跡のように感じた。
愛し愛される関係。
そして家族になることが尊いのだと初めて心から理解した。
「泣き止んでくれ」
耳殻に熱い息がかかり我に返る。
「忘れさせてやるから、俺だけを見ろ」
おでこをすり合わせ龍の瞳に私が映る。
熱い息が唇をくすぐり、今だけの幸福を噛み締める。
「名前を呼んで、龍」
「…いくらでも。藍、お前も俺の名を呼んでくれ」
ゾクリとするほどの龍の声に涙が止まらない。
「っ龍…龍、龍っりゅぅ」
呼んだ名前は口腔内に散布し部屋に響くのは二人の息遣いと私の嬌声。
龍は私の体の隅々を舐り印を残していく。
私を抱くのは自分だと名を呼び名を呼ばせる。
直接的な愛撫をされていないのに体は力が入らず翻弄されていく。
少し寂しさを覚え腰を擦り付けるとゴリっと硬いものが太腿を撫でた。
「あっ」
「…おい」
義務でも命令でも私に欲情してくれていることが嬉しくて微笑む。
「私にもちゃんと勃ってくれるんだ」
肘をベットに立たせ上体を起こし、下腹部に手を伸ばす。
「っお前な」
そのまま龍に押し潰され鳩尾のあたりを頭でグリグリとされる。
まだ二人が疎遠になる頃の“充電”と評した時折見せた仕草に心が温まる。
これ以上心を求めてしまう前にと気持ちを切り替えるよう強く抱きしめる。
「龍…欲しい」
「っ」
それ以上お互い喋ることなく体を開いていく。
すでに私は衣類を剥ぎ取られ柔肌を晒し下腹部の疼きが加速する。
爪先から太腿に向けて舐られ蜜口に龍の長い指が添えられる。
溢れた愛液を掬い口に含んだ龍と目が合う。
「すごいな」
そのたった一言に限界を感じる。
ピクピクと腰が震え本能が雄を求める。
片足を担がれ腰を支えられる。
「藍」
と不意に名前を呼ばれ見つめ合う。
「目を逸らすな。俺を見ろ」
今からの感覚を誰が与えているのかを知らしめるように龍が言葉を紡ぐ。
カチャカチャとバックルを外す音と共に聳り立つ剛直の龍の杭が蜜口に当たる。
ぐちゅりと互いの液が絡まる音が響く。
吸い込まれるように杭が侵入し始め声が漏れる。
「っん、ぁぁっりゅっ」
「っ」
浅い部分を擦り合わせている杭が最奥を目掛け穿つ。
「っあぁぁ」
焦らされすぎた身体は最も簡単に頂点に届き、目の前がチカチカと白く弾け身体が仰反る。
下腹部が疼き蜜口の収縮が止まらずピクピクと剛直の杭を締め付ける。
ポタリと雫の垂れる感覚に薄目を開け龍の様子を伺えば、眉間に皺を寄せ強く目を瞑り何かに耐える龍の姿にドキリとした。
「龍…気持ちくない?」
「っなわけないだろう」
はぁと息を吐き「あちぃな」と脱ぎかけだったシャツを剥ぎ取る。
目の前に現れた龍の裸体にきゅんと下腹部が締まる。
「っお前な」
「えっ、なに!?ちっ違うこれ…」
私の記憶の中の龍は墨は掘られていない綺麗な体だった。
伸ばした手を彫られた絵に添える。
龍の左肩から胸にかけて伸びた何かの植物と爬虫類と思わしき鱗模様。
力の入らない身体に鞭を打ち上体を起こし背中を覗く。
見やすいようにと龍の温もりが離れ背中を向けた。
そこには牡丹の花を守るように抱く伝説の龍の姿が左側だけに彫られていた。
線を辿るように触れる。
「お前と離れたあと彫った。司に頼んでな」
「……司さんが?……聞いてない」
「俺が頼んだんだ。攻めてやるな」
大輪の牡丹を乞うように抱く龍の瞳は哀しみが表れている気がした。
「なんでこっちだけか聞いてもいい?」
「……俺は今も半端もんだからな。これで丁度いいんだ」
幼い頃から見続けてきた背中が憂いを帯びきつく抱きしめる。
そっと手を取られた今度は私が抱きすくめられた。
「もういいだろ。俺も辛抱強くはないんだ」
龍の言葉で私たちは再び快楽の中へと沈んでいった。
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