牡丹への恋路

3R.M

文字の大きさ
上 下
10 / 17

⑩目合

しおりを挟む

 ベットに潜りながら人の気配を探る。

 先程の自分の発言を後悔し自暴自棄になる。

 数分もしないうちに階段を上がる人の気配を感じ身構える。



「入るぞ」



 静かな声が部屋に響く。

 返事をする間もなく龍が部屋に入ってきた。



「本気なのか?お前が本気で俺じゃなく雅人がいいなら呼んでくる」

「…龍こそいいの?私が他の男に抱かれて」



 龍の心の内がわからなくとも知りたくてベットから起き上がり尋ねる。

 龍は静かに歩み寄り足元に腰掛け私の頬を摩る。

 節くれだった大きな掌が頬を包み耳や頸を愛撫していく。

 触られた箇所から熱を持ち肌が粟立つ。

 龍の煙草の匂いが混じる香りに誘われ掌に擦り寄り龍の瞳に吸い寄せられる。

 鼻先が重なり唇が触れるその時、龍が囁く。



「いいわけあるか」



 貪るように唇を奪われた。

 きつく後頭部を掴まれ口が開く。

 開かれた口腔内を熱い舌が隅々まで絡め取っていく。

 息をするのを忘れ頭が酩酊する。

 端から溢れた唾液を下へ下へと舐めとられ鎖骨をくすぐる。



「っ――龍」



 龍の背中をきつく握りしめて離れまいとする。

 大きな胸の中にスッポリと収まり鼻の奥まで龍の香りを吸い込む。

 ずっと焦がれていた。この温もりに閉ざされていたい。

 一方的でも私の初めてを全て龍に捧げたかった。

 過去に戻れるなら全てを消し去りたいと願う。



「お願い、忘れさせて」



 初めてをレイプで失い、愛する男に上書きされることはなく私にとって男は恐怖の対象のままだ。

 それでも龍だけは違った。

 龍が良かった。

 あの頃の思いが濁流となり決壊する。

 溢れる涙が止まらず震えながらも縋りつく。

 顔を持ち上げられ涙を掬うようにキスが落ちてくる。

 先程よりも優しいキスが角度を変えながら繰り返される。



「俺が忘れさせてやる」



 優しく抱かれて触れられた分部が熱を持ち下腹部を疼かせる。

 蜜口から卑猥な液体が溢れるのを自分でも感じる。

 龍からのキスは止まず私も求めるように首に腕を回し縋りつく。

 時折、首筋やデコルテにちりりとした痛みを感じるがそれさえも愛撫に感じた。

 今までに感じたことのない幸福感。

 愛しい人に抱かれる感覚に酔いしれる。

 手に入ることはない男の腕に抱かれていた世の女性を思った。

 この男に恋をし幾人もの女性が同じ思いをしてきたのだろうか。

 そして母を思う。

 母は最愛の人と出会い結ばれ私が産まれた。

 それは正に奇跡のように感じた。

 愛し愛される関係。

 そして家族になることが尊いのだと初めて心から理解した。



「泣き止んでくれ」



 耳殻に熱い息がかかり我に返る。



「忘れさせてやるから、俺だけを見ろ」



 おでこをすり合わせ龍の瞳に私が映る。

 熱い息が唇をくすぐり、今だけの幸福を噛み締める。



「名前を呼んで、龍」

「…いくらでも。藍、お前も俺の名を呼んでくれ」



 ゾクリとするほどの龍の声に涙が止まらない。



「っ龍…龍、龍っりゅぅ」



 呼んだ名前は口腔内に散布し部屋に響くのは二人の息遣いと私の嬌声。

 龍は私の体の隅々を舐り印を残していく。

 私を抱くのは自分だと名を呼び名を呼ばせる。

 直接的な愛撫をされていないのに体は力が入らず翻弄されていく。

 少し寂しさを覚え腰を擦り付けるとゴリっと硬いものが太腿を撫でた。



「あっ」

「…おい」



 義務でも命令でも私に欲情してくれていることが嬉しくて微笑む。



「私にもちゃんと勃ってくれるんだ」



 肘をベットに立たせ上体を起こし、下腹部に手を伸ばす。



「っお前な」



 そのまま龍に押し潰され鳩尾のあたりを頭でグリグリとされる。

 まだ二人が疎遠になる頃の“充電”と評した時折見せた仕草に心が温まる。

 これ以上心を求めてしまう前にと気持ちを切り替えるよう強く抱きしめる。



「龍…欲しい」

「っ」



 それ以上お互い喋ることなく体を開いていく。

 すでに私は衣類を剥ぎ取られ柔肌を晒し下腹部の疼きが加速する。

 爪先から太腿に向けて舐られ蜜口に龍の長い指が添えられる。

 溢れた愛液を掬い口に含んだ龍と目が合う。



「すごいな」



 そのたった一言に限界を感じる。

 ピクピクと腰が震え本能が雄を求める。

 片足を担がれ腰を支えられる。



「藍」



 と不意に名前を呼ばれ見つめ合う。



「目を逸らすな。俺を見ろ」



 今からの感覚を誰が与えているのかを知らしめるように龍が言葉を紡ぐ。

 カチャカチャとバックルを外す音と共に聳り立つ剛直の龍の杭が蜜口に当たる。

 ぐちゅりと互いの液が絡まる音が響く。

 吸い込まれるように杭が侵入し始め声が漏れる。



「っん、ぁぁっりゅっ」

「っ」



 浅い部分を擦り合わせている杭が最奥を目掛け穿つ。



「っあぁぁ」



 焦らされすぎた身体は最も簡単に頂点に届き、目の前がチカチカと白く弾け身体が仰反る。

 下腹部が疼き蜜口の収縮が止まらずピクピクと剛直の杭を締め付ける。

 ポタリと雫の垂れる感覚に薄目を開け龍の様子を伺えば、眉間に皺を寄せ強く目を瞑り何かに耐える龍の姿にドキリとした。



「龍…気持ちくない?」

「っなわけないだろう」



 はぁと息を吐き「あちぃな」と脱ぎかけだったシャツを剥ぎ取る。

 目の前に現れた龍の裸体にきゅんと下腹部が締まる。



「っお前な」

「えっ、なに!?ちっ違うこれ…」



 私の記憶の中の龍は墨は掘られていない綺麗な体だった。

 伸ばした手を彫られた絵に添える。

 龍の左肩から胸にかけて伸びた何かの植物と爬虫類と思わしき鱗模様。

 力の入らない身体に鞭を打ち上体を起こし背中を覗く。

 見やすいようにと龍の温もりが離れ背中を向けた。

 そこには牡丹の花を守るように抱く伝説の龍の姿が左側だけに彫られていた。

 線を辿るように触れる。



「お前と離れたあと彫った。司に頼んでな」

「……司さんが?……聞いてない」

「俺が頼んだんだ。攻めてやるな」



 大輪の牡丹を乞うように抱く龍の瞳は哀しみが表れている気がした。



「なんでこっちだけか聞いてもいい?」

「……俺は今も半端もんだからな。これで丁度いいんだ」



 幼い頃から見続けてきた背中が憂いを帯びきつく抱きしめる。

 そっと手を取られた今度は私が抱きすくめられた。



「もういいだろ。俺も辛抱強くはないんだ」



 龍の言葉で私たちは再び快楽の中へと沈んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界満腹亭 沢山の人?を料理で満足させます

佐原
ファンタジー
日本で料理店を営んでいたヨシトは火の不始末により店ごと焼けて亡くなった。 しかし、神様が転移させてくれると言って店を再び開いたが、狼?ドラゴン?吸血鬼!? 次から次へと個性豊かな種族が来て、さらに娘まで出来ちゃって、ヨシトの料理人は世界を巻き込み人生の第二幕が始まる。

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される

水都 ミナト
ファンタジー
【第二部あらすじ】  地上での戦いを終え、ダンジョンに戻ったエレインは、日々修行に明け暮れつつも、ホムラやアグニと平和な日々を送っていた。  ダンジョンで自分の居場所を見つけたエレインであるが、ホムラに対する気持ちの変化に戸惑いを覚えていた。ホムラもホムラで、エレイン特別な感情を抱きつつも、未だその感情の名を自覚してはいなかった。  そんな中、エレインはホムラの提案により上層階の攻略を開始した。新たな魔法を習得し、順調に階層を上がっていくエレインは、ダンジョンの森の中で狐の面を被った不思議な人物と出会う。  一方地上では、アレクに手を貸した闇魔法使いが暗躍を始めていた。その悪意の刃は、着実にエレインやホムラに忍び寄っていたーーー  狐の面の人物は何者なのか、闇魔法使いの狙いは何なのか、そしてエレインとホムラの関係はどうなるのか、是非お楽しみください! 【第一部あらすじ】  人気の新人パーティ『彗星の新人』の一員であったエレインは、ある日突然、仲間達によってダンジョンに捨てられた。  しかも、ボスの間にーーー  階層主の鬼神・ホムラによって拾われたエレインは、何故かホムラの元で住み込みで弟子入りすることになって!? 「お前、ちゃんとレベリングしてんのか?」 「レ、レベリング…?はっ!?忘れてました……ってめちゃめちゃ経験値貯まってる…!?」  パーティに虐げられてきたエレインの魔法の才能が、ダンジョンで開花する。  一方その頃、エレインを捨てたパーティは、調子が上がらずに苦戦を強いられていた…  今までの力の源が、エレインの補助魔法によるものだとも知らずにーーー ※【第一部タイトル】ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される ※第二部開始にあたり、二部仕様に改題。 ※色々と設定が甘いところがあるかと思いますが、広いお心で楽しんでいただけますと幸いです。 ※なろう様、カクヨム様でも公開しています。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

花壇担当ですが獣人将軍に愛されてます

仙桜可律
恋愛
公爵家の庭師の娘、サーラ。身分は下働きだが主に花壇担当のため、他の使用人からも『泥付き娘』と見下されている。公爵家を訪れた異国の獣人騎士に愛される。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

処理中です...