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ヒーローが怪物になった日

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 週明け、彼は自殺願望を打ち明けてきました。
 もちろんアタシは止めました。でも一度告白を断ったのに、デートに誘うわけにはいきません。だから今度は、アタシから告白しました。
 そしてアタシはフラれました。
 アタシの告白が晴れやかな笑顔で拒絶されたのは、よく覚えています。彼はアタシの告白を振って、それから「一緒に行かないか」と誘ってきました。
 ちょうど、人間関係にも疲れていました。
 牟田ちゃんたちの嫌がらせはだんだん酷くなっていくし、アタシが親切にした人も変わってはくれない。
 だからアタシも、心のどこかでは死を望んでいたのでしょう。
 案外あの世と言うのも、そう悪いところではないのかもしれない。だってアタシより先に死んだ人たちは、誰も帰ってこないんですから。
 もちろん今はそんなこと考えてはいません。結局誰も「自分の死」を見ることが出来ないなら、考えたって無駄でしょう?
 でも、二か月前のアタシは違いました。
 彼の誘いに乗ってしまったのです。

 夏を先取りしたような、五月の晴れた暑い日のことです。
 アタシたちは学校の屋上に立っていました。

 *

 彼の誘いに乗ってから屋上に立つまでには、二日もありませんでした。
 入念に計画された自殺です。
 紐は切られてしまったり、降ろされてしまうと死に切れません。脱力した体から色々なものを垂れ流しても、まだ死ねないとも聞きます。
 だから飛び降り自殺を選んだのでしょう。
 彼は自分の死んだあとの世界を、本当に楽しげに語りました。まるで誰かに操られたピエロのように。
 本当は泣きたいはずなのに、泣く暇すらない悲惨な過去のせいで、結局は笑うことしか出来なくなったのだと思います。
 アタシもそんな彼を見て、どこか落ち着いていました。
 一緒にフェンスをよじ登って屋上の縁に立ちます。
 耳元では、まだ冷たい風がビュウビュウと鳴いていました。

「あの世で会おうね」

 飛び降りる寸前。彼は確か、そんなことを言ったと思います。
 アタシは何も言いませんでした。
 さっきは「落ち着いていた」と書きましたが、その実ただの錯覚だったんでしょう。張り裂けそうなほどの心臓の鼓動で、アタシは初めてはっきりと「恐怖」を知りました。

 結論から言います。
 その日飛び降りたのは、彼だけでした。
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