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黒木希
23話 実家での再会①
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駅からタクシーで希の実家に向かった。
運転手さんは地元の方らしく「黒木さんの所の希さんやんな?いっつも見てるよ!昔からべっぴんさんで有名やったけど、こんな立派になるなんてなぁ!」と声を掛けてきた。
東京では芸能人と気付いても声を掛けてくる人は意外と少ない。
地方らしいズケズケとした態度……と言えなくもないが、運転手のおじさんの率直で親しみのこもった口ぶりに嫌な感じは全くしなかった。
希本人もそう感じているのだろう。
素直に礼を述べ、運転手さんの娘さんと小中学校が同じだということで盛り上がっていた。
「……ここですか」
希の実家は『黒木』と大きな表札の掛かった日本風の立派な家だった。
生垣の樹木の葉っぱが青々と茂っているのが、この家の厳格さを象徴しているかのような気がした。もちろんそれは単なる先入観かもしれない。
「うん……」
希は少し玄関の前で固まっていた。まだ心の準備だ整っていないのだろうか。
「……って、ここまで来て帰るわけにも行かないわよね!……あはは。タクシーが家の真ん前に止まったんだから、誰か来たってのも伝わっているだろうし……」
希は自嘲気味に笑い、自分でツッコミを入れた。
「……なんなら、まだ引き返すことも出来ますよ。でもきっと大丈夫です」
彼女の落ち着かない様子を見て、俺は余計なことをしただけかもしれない……という気持ちが強くなったが、それを口に出して謝ってしまえば、余計に不安にさせてしまうだろう。
本当に謝るべき時は、母親との面会が失敗に終わった時だけだ。その時は土下座でも何でもして謝ろう。
「……でもね、今お母さんに辛く当たられちゃったら、結構キツイかも……。連絡も1年くらいほとんど取ってなかったし……。もう少し経ってからの方が良いんじゃないかな?……いやでも折角ここまで来たんだからなぁ……」
なおも希は躊躇っていた。
でも本当は彼女もここまで来て引き返すつもりはないだろう。
最後の一歩を踏み出すきっかけが欲しいのだと気付き、俺がチャイムを押そうとした時、ガラリと扉が開いた。
「……なんね、誰かと思ったら希かいね……。帰ってくるんやったら連絡くらいしんね」
「……連絡しても、返ってきいひんかと思ったわさ。……ただいま」
希と今まで話していて一度も訛っていると感じたことはなかったが、地元に帰り母親とこうして面と向かうと、一発で地元の言葉が出てくるようだ。
やはり生まれ育った土地の影響というのは強いのだろう。
「……ん?そっちの娘さんは?」
母親が俺の方を見て目が合う。
美人だが気の強そうな眼差しの男顔で、女子大生が憧れる顔1位になった娘、黒木希とは少しタイプが違う顔だった。顔だけ見れば誰も親子とは気付かないだろう。
「マネージャーさんさ……。小田嶋麻衣ちゃん、ほんに良くしてくれとるんよ」
どうやら希が俺を紹介してくれたらしいということに気付き、慌てて頭を下げる。
「初めまして!希さんのマネージャーをさせていただいている……」
「まあええけん、とりあえず入りぃな」
挨拶を途中で遮られたことに俺は動揺した。
やはりかなりキツイ性格の人なのだろうか?
マネージャーや芸能事務所の人間など、東京で娘を利用して金儲けをしているあくどい連中だと思われているのだろうか?
「あぁ、お姉やん!お帰りぃ!」
だが玄関をくぐった途端、雰囲気は一変した。
希の元に飛び込んできたのは小柄な女の子だった。細身で色黒でまん丸の目をしたショートカットの少年のような少女。
「もう!ちょっと待ってって、光莉ったら!」
呆気にとられて見ていると、少年のような少女はニコリと俺に微笑んだ。
「どうも!黒木希の妹をやらせてもらってる黒木光莉でっす!華のJKをやらせてもらってま~す」
「あ……妹さんでしたか!どうも初めまして。希さんのマネージャーをさせていただいている『コスモフラワーエンターテインメント』の小田嶋麻衣と」
「え、マネージャーさんなの!めちゃくちゃ可愛いからWISHのメンバーだと思ったけど、こんなメンバーいたかな?って脳内検索フル回転だったんだけどさ、引っ掛からなくてさ。芸能事務所の人ってタレントじゃなくてもこんなにキレイじゃないと入れんの?」
人の話を最後まで聞かないのは、黒木家の受け継がれている特徴なのだろうか?
……だとしたら、むしろ普通にコミュニケーションが取れている希がスゴイのかもしれない。
妹さんの方は標準語に近いイントネーションだった。世代によってやはり違いはあるのかもしれない。
「ね、ね?そう思うね?……でも正真正銘麻衣ちゃんはマネージャーさんなのよ!……でも実際メンバーより可愛いかもしれん」
玄関を開ける前の重苦しい表情が全くのウソだったかのように、希の表情も明るくなり声も高くなった。
明るい性格の妹さん……光莉さんの存在がとてもありがたかった。
「ちょ、二人ともうるさい!少し静かにしいな!」
キッチンの方だろうか?奥に行っていた母親からお叱りの言葉が飛んできた。
運転手さんは地元の方らしく「黒木さんの所の希さんやんな?いっつも見てるよ!昔からべっぴんさんで有名やったけど、こんな立派になるなんてなぁ!」と声を掛けてきた。
東京では芸能人と気付いても声を掛けてくる人は意外と少ない。
地方らしいズケズケとした態度……と言えなくもないが、運転手のおじさんの率直で親しみのこもった口ぶりに嫌な感じは全くしなかった。
希本人もそう感じているのだろう。
素直に礼を述べ、運転手さんの娘さんと小中学校が同じだということで盛り上がっていた。
「……ここですか」
希の実家は『黒木』と大きな表札の掛かった日本風の立派な家だった。
生垣の樹木の葉っぱが青々と茂っているのが、この家の厳格さを象徴しているかのような気がした。もちろんそれは単なる先入観かもしれない。
「うん……」
希は少し玄関の前で固まっていた。まだ心の準備だ整っていないのだろうか。
「……って、ここまで来て帰るわけにも行かないわよね!……あはは。タクシーが家の真ん前に止まったんだから、誰か来たってのも伝わっているだろうし……」
希は自嘲気味に笑い、自分でツッコミを入れた。
「……なんなら、まだ引き返すことも出来ますよ。でもきっと大丈夫です」
彼女の落ち着かない様子を見て、俺は余計なことをしただけかもしれない……という気持ちが強くなったが、それを口に出して謝ってしまえば、余計に不安にさせてしまうだろう。
本当に謝るべき時は、母親との面会が失敗に終わった時だけだ。その時は土下座でも何でもして謝ろう。
「……でもね、今お母さんに辛く当たられちゃったら、結構キツイかも……。連絡も1年くらいほとんど取ってなかったし……。もう少し経ってからの方が良いんじゃないかな?……いやでも折角ここまで来たんだからなぁ……」
なおも希は躊躇っていた。
でも本当は彼女もここまで来て引き返すつもりはないだろう。
最後の一歩を踏み出すきっかけが欲しいのだと気付き、俺がチャイムを押そうとした時、ガラリと扉が開いた。
「……なんね、誰かと思ったら希かいね……。帰ってくるんやったら連絡くらいしんね」
「……連絡しても、返ってきいひんかと思ったわさ。……ただいま」
希と今まで話していて一度も訛っていると感じたことはなかったが、地元に帰り母親とこうして面と向かうと、一発で地元の言葉が出てくるようだ。
やはり生まれ育った土地の影響というのは強いのだろう。
「……ん?そっちの娘さんは?」
母親が俺の方を見て目が合う。
美人だが気の強そうな眼差しの男顔で、女子大生が憧れる顔1位になった娘、黒木希とは少しタイプが違う顔だった。顔だけ見れば誰も親子とは気付かないだろう。
「マネージャーさんさ……。小田嶋麻衣ちゃん、ほんに良くしてくれとるんよ」
どうやら希が俺を紹介してくれたらしいということに気付き、慌てて頭を下げる。
「初めまして!希さんのマネージャーをさせていただいている……」
「まあええけん、とりあえず入りぃな」
挨拶を途中で遮られたことに俺は動揺した。
やはりかなりキツイ性格の人なのだろうか?
マネージャーや芸能事務所の人間など、東京で娘を利用して金儲けをしているあくどい連中だと思われているのだろうか?
「あぁ、お姉やん!お帰りぃ!」
だが玄関をくぐった途端、雰囲気は一変した。
希の元に飛び込んできたのは小柄な女の子だった。細身で色黒でまん丸の目をしたショートカットの少年のような少女。
「もう!ちょっと待ってって、光莉ったら!」
呆気にとられて見ていると、少年のような少女はニコリと俺に微笑んだ。
「どうも!黒木希の妹をやらせてもらってる黒木光莉でっす!華のJKをやらせてもらってま~す」
「あ……妹さんでしたか!どうも初めまして。希さんのマネージャーをさせていただいている『コスモフラワーエンターテインメント』の小田嶋麻衣と」
「え、マネージャーさんなの!めちゃくちゃ可愛いからWISHのメンバーだと思ったけど、こんなメンバーいたかな?って脳内検索フル回転だったんだけどさ、引っ掛からなくてさ。芸能事務所の人ってタレントじゃなくてもこんなにキレイじゃないと入れんの?」
人の話を最後まで聞かないのは、黒木家の受け継がれている特徴なのだろうか?
……だとしたら、むしろ普通にコミュニケーションが取れている希がスゴイのかもしれない。
妹さんの方は標準語に近いイントネーションだった。世代によってやはり違いはあるのかもしれない。
「ね、ね?そう思うね?……でも正真正銘麻衣ちゃんはマネージャーさんなのよ!……でも実際メンバーより可愛いかもしれん」
玄関を開ける前の重苦しい表情が全くのウソだったかのように、希の表情も明るくなり声も高くなった。
明るい性格の妹さん……光莉さんの存在がとてもありがたかった。
「ちょ、二人ともうるさい!少し静かにしいな!」
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