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19話 米倉真智に慰められる
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「ねぇ? キミは一体何がしたかったの?」
草田可南子と赤城瞳が遠くまで行ったのを確認してから米倉真智が話しかけてきた。
少し笑いながら言った彼女の言葉は、嘲笑ではなく哀れみの色が濃かった。
「……何がしたかったかなんて知らねえ。俺が聞きてえよ」
呆然としたまま俺は答えた。
「あら、そうなの?……でもキミはなぜ私のことを庇ったのかしら? 紹介文を書いたのは完全に私のお節介だったはずだけれど? なぜキミが『自分でやらせた!』なんて嘘を言い出したのかしら?」
「お前が『アイツのこと気になる、マジで良い子!』って散々言ってたじゃねえかよ? 俺なんかはどっちみち居ても居なくても、アイツらと関わりがあろうとなかろうと何の影響もない存在だ。だったらお前だけでもアイツらとの関係を保っておいた方が良いだろ?」
俺は自分でそう口に出すことによって、初めて先ほどの自分の暴走の意味が理解出来た。
「ホント馬鹿だね、キミは。……別に私だってあの子たちとはつい最近になって知り合った関係だからいつ切られても当然の立場だし、そもそも大学の人間関係なんてそんなもんなんじゃないの? 知らないけど」
「まあ、そうかもな。だがまあ、なっちまったものは仕方ない。とにかくお前はアイツに続きを書かせろ。意地でも完結まで書かせろ。どんなにPVが回らなくなって、更新しても誰も読まなくなったとしても最後まで書かせろ。必要なら俺もアドバイスを送ってやる」
「ふ~ん。やっぱり可南子ちゃんにそこまでご執心なんだ。最後まで書き上げたらご褒美として『slt―1000』レビューをプレゼントしてあげよう、っていうこと?」
「違う。なめんな。完結まで書いたからって俺がレビューを書くなんていうつもりは微塵もない。カリスマレビュワーはそんなに安くない。ただただ執筆の苦しみを、経験の少ない人間が物語を完結させることの地獄を味わえって言ってるんだよ」
「はぁ~、キミもホントに屈折してるねぇ」
そういうと米倉は俺の肩をポンポンと叩いた。
「ね、でもさ。キミはあの2人と同じ高校だったんだよね? これだけ顔を突き合わせて話をしてさ、しかもキミはさっきご丁寧に本名まで名乗ってたよね? でも2人はキミのことを認知していなかった。……キミの陰キャっぷりは私の知っていた小中学時代よりもさらに磨きが掛かっていたんだね。スゴイよ、キミは」
「……うるせー。俺の高校は10クラスもあったんだよ。しかもアイツらと一緒のクラスになったことは一度もない。向こうはバスケばっかりやってた体育会系一軍女子。以上の条件から考えるに俺が認知されていないのも当然だ。って言うかそれを言うなら、むしろ向こうの視野の狭さこそ責められるべきだろ? そんな視野の狭さではバスケの程度も高々知れたもんだよな」
俺のあまりに正当な抗弁にも、米倉は軽く鼻で笑っただけだった。
……くそ!
「お前だって小中学時代は俺以上の陰キャだったじゃねえかよ? 今みたいに垢抜けたってことは高校デビューだか大学デビューだか知らねえけど、明らかに自分を変えた瞬間があったわけだろ? そういうのって恥ずかしくなかったのか? 俺なら『あ、コイツ急に見た目意識し出した!』って周囲の人間に思われることを想像しただけで恥ずかしくなっちまうけどな!」
ささいな反撃のつもりだったが米倉はまたしても鼻で笑った。
今度は憐れむような笑みだった。
「そんなこといつまでも気にしているのが子供なんだよ? 男女関係なく見た目も出来るだけ綺麗に整えておいた方がお互い気持ち良く接せるでしょ?」
「は、洒落臭いね! お前も自分が作家の端くれだって名乗るんなら、見た目ばっかり着飾ってないで純粋に作品だけで勝負したらどうだ? あ?」
……今度は俺も自分が暴走していることが自覚できた。こんなことを言ったって何の意味もないことは分り切っていた。
いや、俺は本来こんな簡単にキレるようなタイプではないのだ。
極めて理性的で温厚で他人には興味も期待も一切持たず、それゆえに俺は誰ともコミュニケーションを取らなかったのだ。
「……キミは本当に愚かだね。でも、大丈夫だよ」
俺の憮然とした表情を見て、米倉はポンポンと頭を叩いてきた。
……クソ、子供じゃねえんだぞ! 俺は!
「ね、そんなことよりさ、ここまで来ちゃたんだからさ、キミと可南子ちゃんの出会いの時の話を聞かせてよ? いつどうしてどのようにキミがあの子のことを好きになったのか? お姉さんに話してご覧なさいな」
「あのな、前も言ったと思うけどな……好きとかじゃねえから! そりゃあ高校の時からアイツらのことは認識していたけど、それは俺が特別な目で見ていたからとかじゃなくて、単純にアイツらはどこにいても目を引いてしまう存在だって言うかだな……俺以外にも気になっていた男子は幾らでもいたと思うぜ?」
「はいはい。目を惹いてしまう存在ね。良いからあの子たちとの出会いを聞かせないさいよ。キミの言葉でさ」
米倉の笑みは今までで一番本気で楽しそうで、一番意地が悪そうなものだった。
「簡単に言うんじゃねえよ。こちとら高校時代の記憶なぞ闇に葬ったわ!」
陰キャの陰っぷりをなめるんじゃねえぞ、この野郎。
「はいはい、良いから良いから。……って、本気で思い出すのに時間掛かるの!?」
目を閉じて苦悶の表情で過去の記憶を引っ張り出そうとする俺の様子を見て米倉は驚いたようだった。実際俺にとって記憶を掘り起こすことは中々大変な作業だったのだ。
草田可南子と赤城瞳が遠くまで行ったのを確認してから米倉真智が話しかけてきた。
少し笑いながら言った彼女の言葉は、嘲笑ではなく哀れみの色が濃かった。
「……何がしたかったかなんて知らねえ。俺が聞きてえよ」
呆然としたまま俺は答えた。
「あら、そうなの?……でもキミはなぜ私のことを庇ったのかしら? 紹介文を書いたのは完全に私のお節介だったはずだけれど? なぜキミが『自分でやらせた!』なんて嘘を言い出したのかしら?」
「お前が『アイツのこと気になる、マジで良い子!』って散々言ってたじゃねえかよ? 俺なんかはどっちみち居ても居なくても、アイツらと関わりがあろうとなかろうと何の影響もない存在だ。だったらお前だけでもアイツらとの関係を保っておいた方が良いだろ?」
俺は自分でそう口に出すことによって、初めて先ほどの自分の暴走の意味が理解出来た。
「ホント馬鹿だね、キミは。……別に私だってあの子たちとはつい最近になって知り合った関係だからいつ切られても当然の立場だし、そもそも大学の人間関係なんてそんなもんなんじゃないの? 知らないけど」
「まあ、そうかもな。だがまあ、なっちまったものは仕方ない。とにかくお前はアイツに続きを書かせろ。意地でも完結まで書かせろ。どんなにPVが回らなくなって、更新しても誰も読まなくなったとしても最後まで書かせろ。必要なら俺もアドバイスを送ってやる」
「ふ~ん。やっぱり可南子ちゃんにそこまでご執心なんだ。最後まで書き上げたらご褒美として『slt―1000』レビューをプレゼントしてあげよう、っていうこと?」
「違う。なめんな。完結まで書いたからって俺がレビューを書くなんていうつもりは微塵もない。カリスマレビュワーはそんなに安くない。ただただ執筆の苦しみを、経験の少ない人間が物語を完結させることの地獄を味わえって言ってるんだよ」
「はぁ~、キミもホントに屈折してるねぇ」
そういうと米倉は俺の肩をポンポンと叩いた。
「ね、でもさ。キミはあの2人と同じ高校だったんだよね? これだけ顔を突き合わせて話をしてさ、しかもキミはさっきご丁寧に本名まで名乗ってたよね? でも2人はキミのことを認知していなかった。……キミの陰キャっぷりは私の知っていた小中学時代よりもさらに磨きが掛かっていたんだね。スゴイよ、キミは」
「……うるせー。俺の高校は10クラスもあったんだよ。しかもアイツらと一緒のクラスになったことは一度もない。向こうはバスケばっかりやってた体育会系一軍女子。以上の条件から考えるに俺が認知されていないのも当然だ。って言うかそれを言うなら、むしろ向こうの視野の狭さこそ責められるべきだろ? そんな視野の狭さではバスケの程度も高々知れたもんだよな」
俺のあまりに正当な抗弁にも、米倉は軽く鼻で笑っただけだった。
……くそ!
「お前だって小中学時代は俺以上の陰キャだったじゃねえかよ? 今みたいに垢抜けたってことは高校デビューだか大学デビューだか知らねえけど、明らかに自分を変えた瞬間があったわけだろ? そういうのって恥ずかしくなかったのか? 俺なら『あ、コイツ急に見た目意識し出した!』って周囲の人間に思われることを想像しただけで恥ずかしくなっちまうけどな!」
ささいな反撃のつもりだったが米倉はまたしても鼻で笑った。
今度は憐れむような笑みだった。
「そんなこといつまでも気にしているのが子供なんだよ? 男女関係なく見た目も出来るだけ綺麗に整えておいた方がお互い気持ち良く接せるでしょ?」
「は、洒落臭いね! お前も自分が作家の端くれだって名乗るんなら、見た目ばっかり着飾ってないで純粋に作品だけで勝負したらどうだ? あ?」
……今度は俺も自分が暴走していることが自覚できた。こんなことを言ったって何の意味もないことは分り切っていた。
いや、俺は本来こんな簡単にキレるようなタイプではないのだ。
極めて理性的で温厚で他人には興味も期待も一切持たず、それゆえに俺は誰ともコミュニケーションを取らなかったのだ。
「……キミは本当に愚かだね。でも、大丈夫だよ」
俺の憮然とした表情を見て、米倉はポンポンと頭を叩いてきた。
……クソ、子供じゃねえんだぞ! 俺は!
「ね、そんなことよりさ、ここまで来ちゃたんだからさ、キミと可南子ちゃんの出会いの時の話を聞かせてよ? いつどうしてどのようにキミがあの子のことを好きになったのか? お姉さんに話してご覧なさいな」
「あのな、前も言ったと思うけどな……好きとかじゃねえから! そりゃあ高校の時からアイツらのことは認識していたけど、それは俺が特別な目で見ていたからとかじゃなくて、単純にアイツらはどこにいても目を引いてしまう存在だって言うかだな……俺以外にも気になっていた男子は幾らでもいたと思うぜ?」
「はいはい。目を惹いてしまう存在ね。良いからあの子たちとの出会いを聞かせないさいよ。キミの言葉でさ」
米倉の笑みは今までで一番本気で楽しそうで、一番意地が悪そうなものだった。
「簡単に言うんじゃねえよ。こちとら高校時代の記憶なぞ闇に葬ったわ!」
陰キャの陰っぷりをなめるんじゃねえぞ、この野郎。
「はいはい、良いから良いから。……って、本気で思い出すのに時間掛かるの!?」
目を閉じて苦悶の表情で過去の記憶を引っ張り出そうとする俺の様子を見て米倉は驚いたようだった。実際俺にとって記憶を掘り起こすことは中々大変な作業だったのだ。
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