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10話 レビュワーの仕事っぷり②

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 米倉真智よねくらまちに返事をしながら、俺は返信のコメントを打ち込んだ。

『筆者様。お疲れ様です。執筆でお忙しいところ私のような者にわざわざ連絡頂き恐縮です。さて、筆者様は私のコメントによって読者が一気に離れたとおっしゃいますが、果たして本当でしょうか? 本当に作品が面白ければ、私のような部外者がどんなコメントを送ろうが読者の方は読み続けるのではないでしょうか? 私は純粋に読み手の視点から疑問点を述べさせて頂いたまでです。私は全ての作者の皆さまのことを深く尊敬しております。私のような者が同じ土俵に立つことなど恐れ多いことであります。作者様も私のような者に連絡を送っている暇があるのならば少しでも執筆を進めるなり、違う作品の構想を練るなり、はたまたインプットに時間を費やすなど、有益な時間を送られてはいかがでしょうか?これからも作品楽しみにしております』

「……何か、すっごいイヤミな内容ね」

「どこがだよ? 俺の正直な気持ちだぞ。というかかなり気遣ったコメントだ。昔の俺ならもっとボロクソ言ってる。俺も大人になったもんだよ」

 以前にも同様に筆者から好戦的なコメントが来た時のことを思い出した。あの時はもっと激しい言葉を使って罵倒したし、それがきっかけだったかは定かないが……その筆者は執筆を辞めてしまった。少なくともそのアカウントでの更新は二度とされなかった。
 そうした反省もあって、最近の俺はかなり抑えたコメントを送るようにしているのだ。

「どこがよ!? この作品はそんなにヒドイ内容だったの? 」

「……バカか。論ずるに足りない作品なんてのはネット小説界には海の砂粒の数ほど転がっている。本当に見どころのない作品に俺が触れることは一切無い。この作品はかなり人気の作品だったんだがな……人気が出るに従って読者の惰性を見越したような雑な展開が続いていたからな、それを指摘したまでだ。俺のコメントを受けた後だってランキング入りしている。人気作には違いないさ」

「そうなの?」

「ああ。まあ、そもそも俺にこんなコメントを送ってくる時点で傲慢な性格を表していると思うけどな。本当に面白い作品を作ることではなく、人気作になりさえすれば何でも良いと思っているタイプの作者だろ。『そんならお前が書いてみろや!』なんてのは作家なら絶対に言ってはいけない敗北宣言みたいなもんだ。そもそも読者のコメントなんかでそんなにメンタル崩されるくらいの弱い人間は創作に向いてないから、早々に辞めた方が自分の為だと思うぞ」

「ずいぶんとアレな言い方だけど……たしかに一利なくはないのかな? でもさそんなキツい言葉、言われた方も傷付くだろうけど、言う方も結構なストレスなんじゃない? 何でこんなことしてるの? 何かキミにメリットはあるの?」

「メリットか……。お前もずいぶんと俗なことを言うんだな。もちろん俺には何の実益もないさ。時間と労力をアホみたいに費やして一銭も入らない。それでもこんなことを繰り返しているのは愛でしかない。このネット小説界が好きだから。より良くなっていって欲しいから。他にはないな」

「……ふうん」

 分かったような分からないような返事を米倉はした。

「それに今日はたまたまこういう内容だったけどな。感謝される時もあるんだぜ? 俺のアドバイスを受けてその通りに作品を修正していったら出版社の人の目に留まって書籍化された、って話も何件かあるんだ。そういう話を聞いた時の喜びは何物にも替え難い」

「え、スゴイじゃない! そんなこと出来るんなら出版社に入って編集者を目指せば? っていうかそれだけの実績がすでにあるんなら出版社の方でも歓迎すると思うけれど?」

 米倉は驚きの声を上げたが、俺は軽く首を振った。

「……そんなつもりはない。出版社になんか入っちまったら会社の利益を考えざるを得なくなって公平性が崩れるだろ。公平性が崩れたら俺のレビュワーとしての力は何の意味もなくなる」

「……ふ~ん。不思議な人だね、キミは」

 そう言うと米倉はもう俺との会話に満足したのか席を立った。
 ……まったく、いつもいつも自分勝手なタイミングで去って行きやがる。

「じゃあ、明日までに可南子ちゃんの小説読んでおいてね。私も読んでおくから」

「……は? それとこれとは話が違うだろ? 俺だってそんなヒマじゃねえんだぞ!」

 俺の反論に米倉は今までで一番の満面の笑みで応えた。

「いやぁ、キミがどう感じるのか? 私の感想とどれくらい差異があるのか? 少し本気で興味が出てきたのよ。よろしくね!」

「あ、おい……」

 去りかけた米倉を呼び止めようとしたが、その声は聞き入れられるはずもなく……と思っていたら、予想に反して彼女は振り返った。

「ねえ、文野君。……キミ自身は今何か書いていないの?」

「は? 毎日こうしてレビューを書いてるだろ。何を見てたんだ……」
「そうじゃなくってさ! キミ自身のオリジナルの何かは書いていないの? 私は高校に入ってから小説を書き始めて賞も取ったよ? 小学校の時も中学校の時も私はキミのことをライバルだと思っていたんだけどな……」

 今までとは違った歯切れの悪い米倉の言葉が俺にはイマイチ理解出来なかった。

「……お前が何を言いたいのか分からんが、俺にはコレしかないからな。……まあお前もお前の道を頑張れよ」

「そっか。……ま、良いや。また明日ね」

 そう言うと米倉は早足で歩き始めた。
 ヒールの高いサンダルの音がカツカツと大学構内の高い天井によく響いた。



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