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2話 草田可南子と赤城瞳

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「瞳~、何か食べに行こうよ。お腹空いちゃった」

 少し後ろの席から聞いたことのある女子の声がして俺はドキリとした。
 いつの間にか授業が終わっていたらしい。
 今日も退屈な講義。気付くと俺は授業そっちのけで、次のレビューをどう書こうかと頭を悩ませていた。

「アンタねぇ、まだ1限終わったばっかよ? 食べてばっかいるとすぐ太るよ?」

「え~、私全然太んないもん。良いじゃん。ちょっと新作のパンケーキ食べてこようよ? お昼はサラダだけにすれば一緒じゃない?」

「毎回そんなこと言って結局昼もガッツリ食べるよね、アンタは? 付き合わされるアタシに身にもなってよ」

「わかったわかった。ちょっと視察だけしてこよう! 見るだけ、見るだけ、ね!」

 わちゃわちゃ言っていた2人組の女子のことを俺は知っていた。
 草田可南子くさだかなこ赤城瞳あかぎひとみ
 パンケーキの視察(100%視察だけでは済まない)を強硬に主張した腹ペコ娘が草田可南子で、それを止められなかった意志薄弱娘が赤城瞳だ。
 2人は高校からの友人で、大学に入ってからも学部が同じでいつも一緒だった。
 なぜそのことを彼女たちと一度も会話をしたことのない俺が知っているかというと、俺も彼女たちと同じ高校だったからだ。

 そうだ。俺は彼女たちと同じ高校に通っていたのだ。
 もちろん彼女たちの方は俺のことなど眼中にないだろう。
 俺たちが通っていた高校は、今時珍しく学年に10クラスもあり一度も一緒になったことはないし、そもそも彼女たちのような1軍ギャル(?)が俺のような陰キャを認識している方が不自然だ。

 俺は高校の時から彼女たちのことを知っていた。2人は女子バスケ部のレギュラーとして活躍していたのだ。
 黒髪のショートカットがよく似合う草田可南子は女子バスケ部のエース。おまけに容姿端麗で男子からの人気も相当あった。
 一方の赤城瞳は金髪のポニーテール。ギャルっぽい見た目だが意外と人見知りで家庭的な面もあるという噂だ。こちらに関しては真偽は確かめようがない。
 というか俺は彼女たちのことを知ってはいるが、さして興味があるわけではない。向こうは誰がどう見ても陽キャのリア充女子大生。こっちはまごうことなき正真正銘の陰キャ。それもネット小説にやや特殊な方法でのめり込むというこじらせた陰キャだ。
 たまたま一緒の高校から一緒の大学になったというだけで、俺と彼女たちとは何の関連もない人種であることは誰の眼にも明白だった。



(勝手にやってろリア充ども!)

 俺はそう吐き捨てると(もちろん心の中で)自分がなすべきことに戻った。

「あれ、初期は『女の子苦手』みたいな設定じゃなかったですか? それがこの冒険に向かう動機になっていたのでは? いつの間に主人公はヒロインにべったりになったのだろうか? 言動に一貫性のない主人公には共感しづらいよね」

 もちろんもっと辛辣なコメントを送ることも出来たが今回はこの程度にしておいた。
 作品から見るに筆者はまだ若い。必要以上に強い言葉を用い彼の創作意欲をそぐべきではない。さらなるモチベーションをもって執筆にあたって欲しいと願い、今回はこういった言葉で助言を送ったのだ。

 何年このネット小説という界隈に入り浸っても、どんな作品が人気になるかは本当に分からない。
 不確定要素が多すぎるのである。
 たとえ人気作でも何が面白いのかまるで見えてこない作品もあるし、人気がなくても質の高い作品もある。
 ただやはり大抵長く人気の作品は魅力があるしウケる要素をきちんと抑えている。本当に面白い作品は最初は低空飛行でもやがて人気が出てくるものだ。
 ただ不人気作の方のほとんどは必然だ。一度きっかけさえあれば……と思っている筆者の9割以上は思い上がりということだ。

 人気作・不人気作を問わず俺は気になった作品に応援コメント・レビューをひたすら書き続けていた。今回のようなマイルドな言い方で済む場合だけではない。
 たまたま時の巡り合わせだけで人気が出てしまった作品には、時として作品の矛盾を暴き、作品として足りない所を指摘する場合も多い。
 応援コメントに本当に『面白かったです。次回も期待しています!』というだけの内容のないコメントを書いてどうするというのだ?
 本当の応援とは作者に足りない所を率直に指摘してあげることなのだ! それこそが真の応援の態度というものではないだろうか?
 実際に俺のコメントをきっかけに「たしかに。slt―1000さんの言う通りだわ。人気があるから何が面白いのか分からないまま読み続けてたけど、これでブクマを外すことが出来るわ! 」といったコメントを残し離れていく読者も多い。
 しかしそれも必然なのだ。つまらない作品は淘汰される……。一見寂しく思えるかもしれないが、それがあるから競争原理により面白い作品がどんどんと生み出されてゆくのだ。この営み無くしてはどんな業界も衰退してゆくだけだろう。
 そのほんの僅かな歯車にでも俺の言葉がなれば……と願い、俺は自分の活動を続けている。

『slt―1000』それが俺のアカウントだ。
 別に俺は誰かにレビュワーとしての活動の仕方を教えてもらったわけではない。
 俺は俺の言葉を俺のセンスで送っているだけだ。だけど不思議なことになぜか多くの人が俺のコメント・レビューに共感するのだ。

 だから俺はカリスマレビュワーと呼ばれるのだ。


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