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第2章 凄腕交渉人、のんびり旅 トーリ地方

第2-2話 凄腕交渉人、妖怪を説得し問題解決する

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 ぽう……謎の光が目の前を横切る。

 魔物の類とは違うようだが……


「ふええ、アレン、こわいよぅ……」

 俺の服を強く握りしめるミアは涙目だ。

 ここはトーリ地方の”ミーズダンジョン”。

 俺の初仕事はしょっぱなから困難にぶち当たっていた。


 ***  ***

 3日間の旅の末、俺たちはトーリ地方に到着した。

 王都に比べると人口は十分の一程度、牧歌的な雰囲気の漂う地方の街である。

 俺たちは街中に宿を取ると(魔法コテージより設備が落ちるとはどういうことだ)、トーリ地方のダンジョンギルドに顔を出す。

 王国発行の”宝箱設置人”ライセンスがあるので、顔パスである。

「”ミーズダンジョン”に化け物が出る?」

 俺は”宝箱設置人”としての初仕事だ! と気合を入れていたのだが、ギルド受付が伝えてきた言葉に困惑する。


 ”ミーズダンジョン”とは、トーリ地方の都、ナゴの近くにある公営ダンジョン。

 数年前にオープンし、王都からもそこそこ近い事から結構繁盛していたはずだが。

「それが、1か月ほど前からダンジョンに謎の化け物が出没するようになり……客足も減り、現在閉鎖しているのです」

 眼鏡をかけたギルドの受付は、心底困っているようだ。

「ばけもの……って、魔物とは違うの?」

 ミアが頭の上にハテナを浮かべている。

 一般的な公営ダンジョンには、挑戦者のレベルに応じた階層があり、そこには魔物が放たれている。

 初級階層ならせいぜい”お化けウサギ”や、”ファイヤアント”などの、レベル1の冒険者でも倒せるくらいの魔物であり、しかもキバやツメは潰してあるので、めったなことで命の危険はない。
 ”化け物”とは言えない、かわいいモノだ。

「それが……人間が近づくと、どこからともなく現れ……”憑りつくぞ”、”呪ってやる”などど脅してくるので……気味悪がって誰も近づかないんです」

「マジックアイテムや魔法の類も効かないですし……」

 ふむ……レイスなどの”アンデッド”の類だろうか? とりあえず、現場を見てみるしかあるまい。

 俺はもう2,3点の詳細を受付に確認すると、念のため街の道具屋で”聖水”などの対アンデットアイテムを購入し、”ミーズダンジョン”に向かった。


 ***  ***

 ダンジョンの第一階層に入った途端、冒頭に述べたように”謎の光”が俺たちの目の前に現れたというわけだ。

[ウウ、ウラメシイ…………]

[アノヤロウ……ノロッテヤル……]

 謎の光はおぼろげに人の形を取ると、呪いの言葉を紡ぎだす。


「ひゃああ! お化けだぁ!」

 たまらずという感じで悲鳴を上げるミア。

 アンデッドや魔物が普通に存在する世の中で”お化け”が怖いというのもおかしな話だが。

 現実の魔物をあまり見たことが無ければ、こんな感覚なのかもしれない。


 ミアをあまり怖がらせるのもかわいそうだ。

 俺は魔法の道具袋の中から”聖水”を取り出し、”お化け”に振りかける。

 並のアンデッドなら、一撃で消滅させることが出来る。

(ちなみにこの聖水は必要経費として請求できる……ホワイト職場万歳である! 勇者クラレンス様は、必要経費なんざ認めてくれなかったからな……)

 ばしゃん……

「……なにっ!?」

 絶叫と共に消滅する”お化け”。
 そうなることを俺は疑ってなかったのだが。

 キラキラと輝く聖水は、”お化け”の半透明の身体を通り抜けると、べしゃりと地面に染みを作った。

[ソウジャナイ……モットイイモノクレ……]

 なんだこいつら、俺が聖水を掛けたことに反応しているのか?

 もしかして……


 俺は、”スキル”を発動させる。


 人間以外に試したことは無かったが、言葉を話せるならもしや!

[成仏したい……お清めの塩をくれないか]

 やけにハッキリとした言葉が聞こえたのだった。


 おお、人間以外にも俺のスキルが効くとは!
 これは色々と応用できるかもしれない。

 ……おっと、それより”塩”だったな。

 確か交易にも使えるし、料理にも使うしで、王都で大量に買い付けていたはずだ。

 パラパラ……

 しゅわわわわ……

[アリ……ガトウ]

 俺が塩を奴らに振りかけてやると、感謝の言葉と共に”お化け”たちは消え去った。


「ふわわ、お化けさんたち、消えちゃったよ?」

 ミアが目を真ん丸にして驚いている。

「おそらく、”欲しいモノ”が満たされて満足したのだろう」

「へえ~、”お化け”の欲しいものまで見抜いちゃうなんて、本当にアレンって凄いね! さすがミアのおにいちゃんだよ!」

 ふふ……ミアの称賛が心地よい……。

 こほん……”パパ”と呼ばせてねぇのは理由があるんだぞ!

 ミアを自分の娘と混同するのも失礼だ……あと萌えるし。

 34歳おっさんのどこが”おにいちゃん”なのかという苦情は、一切受け付けるつもりがないのであしからず。


 ***  ***

 その後も俺たちはダンジョンの”お化けたち”に会い、ある者には塩を渡して”成仏”させ、ある者には話を聞いた。

 彼らの話をまとめるとこういう事らしい。

 古来よりこのトーリ地方には不思議な魔力が満ちており、死者の魂が”妖怪”としてよみがえることがある。

 恨みを持って死んだ者は悪い妖怪になるので成仏させてほしいが、そうでない妖怪については、そのままこのダンジョンに住まわせてほしいというのが彼らの主張である。

 彼らの主張にも理解できる点があるので、善なる妖怪たちには、”お化け屋敷”的なアトラクションの従業員となるように提案した。

 そして、ダンジョンの第一階層では冒険だけではなく”お化け屋敷”としてのスリルも味わえる、世界初の納涼ダンジョンとして売り出す! という企画書を作成し、トーリ地方のダンジョンギルドに提出した。


 この辺りは元凄腕交渉人としての腕の見せ所だ。

 かくして1週間後に”ミーズダンジョン”はリニューアルオープン。

 物珍しさもあって、大盛況となるのだった。


「いやぁ、凄いですよアレンさん! ”化け物”を退治するだけじゃなくて、説得してダンジョンの従業員にするなんて……給料は塩だけですし、大変助かります!!」

「うわさを聞き付けた他地方のギルドからもお誘いが来てますが、ここトーリに滞在される間はギルドが宿泊費等全部持たせていただきますのでごゆっくり!!」

 受付のヤツも上機嫌だ。
 ふむ、こうやって感謝される仕事……悪くねぇ!

 以前の仕事(勇者のタンス漁り事前交渉)なんざ、交渉を成立させても勇者クラレンスからは遅いと嫌味を言われ、住民からは片づけてくれと頼まれ……まったくやりがいなかったもんな。


「ねえアレン、すぐ次の地方行くの?」

「いや、せっかくトーリまで来たんだ。 急ぐことはねぇ……まずはトーリ地方の名物でも堪能しようぜ!」

「やったー! ミア食べるの大好き!」

 ミアが嬉しそうに飛びはねている。

 くくく、稼ぐ手段に困っていない俺様が勤勉に働くわけはなかろう……スローライフの一環としてまずは美味いモノだ!

 ミアと一緒に食い尽くしてやるぜ! 待ってろ名物たち!

 トーリ地方での俺たちの豪遊が、いま始まる!!
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