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第2章 凄腕交渉人、のんびり旅 トーリ地方
第2-1話 凄腕交渉人、かわいい養女と1LDKトラベル
しおりを挟む「ふふふ~、風が気持ちいい! 楽しいね、アレン!」
穏やかな風に緑髪を揺らされながら、楽しそうに御者台ではしゃぐミア。
「くくっ、あまりはしゃぐと危ねぇぞ、ミア」
俺たちはロバ2頭に曳かせた車に乗り、一路トーリ地方を目指していた。
*** ***
草原の片隅にある、美しい水をたたえた小池。
そのほとりにロバ車を止めると、俺たちは野営の準備を進めていた。
「よし、コテージを出すぞ……ミア、危ないからどいてろ」
「うん!」
俺は魔法の袋から、”魔法コテージの筒”を取り出すと合言葉を唱えながら筒を地面に放り投げる。
ポン!
軽快な音がし、煙が晴れた後には、直径5メートルほどの、円形のコテージが出現していた。
天井の高さは2.5メートルくらい……ちゃんとした玄関が設置され、壁にはいくつもの”魔物除けの灯”が光る、しっかりとしたつくりの豪華コテージだ。
「ふおおお!? 凄い! ミアが住んでいた孤児院の部屋の10倍広いよぉ!」
「ね、ねっ! アレン! 入っていい?」
大げさに驚くミア。
この娘、以前どんな所に住んでいたんだ?
思わず涙ぐんでしまった俺は、いいぞ、好きなだけ見ていいぞとミアに促す。
すっかり俺も親バカになってしまったようだ。
「やったー!」
ミアは歓声を上げると、入り口のドアに突進する。
ガチャりと彼女が入り口の扉を開けると、これまた豪華な内装が目に入る。
玄関で外履きを脱ぐようになっている部屋一面に、ふかふかの絨毯が敷かれている。
部屋の真ん中には2台のベッドが並べられ、清潔な枕とシーツが折りたたまれている。
円形の部屋のふちには戸棚などの収納や、キッチンが並ぶ。 戸棚の上には、コーヒーメーカーまでが置かれている。
「うわわ、すっごい! ふかふかっ! このじゅうたん、ミアが寝ていた三段ベットの5倍柔らかいよ!」
玄関で革靴を脱いで素足になったミアが、ふかふかの絨毯の上で楽しそうにぴょんぴょんと飛びはねる。
「んん~? このドアは?」
ガチャ……ベッドの向こうに設置されていたドアが気になったのか、開けに行くミア。
そこにあったのは……
「ふおおおお!? 水洗トイレに……お風呂っ!?」
陶器で出来たピカピカのトイレに、大きな浴槽を備えたバスルームだった。
はしゃぎまわるミアに大体バラされてしまったが説明しよう!
この魔法コテージの間取りは1LDK、もちろんバストイレ付である。
水回りは、水の魔法石が空気中から自動で生成してくれるので、1日2000リットルまで使い放題!
シャワーだけじゃなく、毎日温かいお風呂に入ることも可能だ。
トイレも水洗、マジックアイテムにより汚れは分解され、環境にも優しい。
火の魔法石が埋め込まれたキッチンでは炊事も可能。
ベッドと絨毯は王国最高級メーカーの逸品で、最高の寝心地を俺たちに提供してくれる。
王都の最高級ホテルにも劣らない、最高の設備と言えよう……野営という概念が壊れるな。
「ねえアレン……ミア本当にこんないい部屋に泊まっていいの?」
あまりの待遇に逆に不安になったのだろう。 おずおずという感じでミアが聞いてくる。
「はっはっはっ! 気にすんなミア! お前はもう凄腕宝箱設置人、アレン様の養女なんだぜ! 遠慮せずに使わねぇか!」
俺はもしゃもしゃとミアの頭を撫でながら、豪快に笑い飛ばす。
「えへへ、ありがとう! やっぱりアレンはいいひとだね!」
ミアの無垢な笑顔がまぶしい……こんなに無条件の称賛を受けたのはいつぶりだろう。
思わず涙ぐむ俺。
「さあ、晩飯にしよう。 ミア、作れるよな!」
「うん、もちろんだよ!」
コテージ内のキッチンで作ってもいいんだが、せっかく美しい池の近くに野営したんだし、やはりここは野外飯だな!
「んしょんしょ……」
ぱちぱちと薪がはぜるカマドの上で、シチューをかき混ぜるミアを眺めながら、俺はひたすらなごんでいた。
ミアは奴隷商の所にいたときに着せられていたボロではなく、冒険着としてケモノ耳を収めることのできる耳カバーがついた紺色のパーカーに、赤いラインの入った白のショートパンツを着ている。
すらりと伸びた美しい脚の足元には、茶色の革靴を履いていた。
街を出る前に俺が買いそろえたものだ。
他にもミアと俺の好みに合わせ、色々と私服を買った。
こうやっていろいろな服を娘に着せてやるのも、父親の楽しみだよな……オレはいまや遠くの空に行ってしまった娘の事を思う。
(奥さんごと逃げられただけだが!)
「できたよー! アレン、ミア特製のビーフシチュー! マイタケがアクセントになってるの!」
ふふ、思わず物思いにふけっていると、今宵の食事が出来たようだ。
ミアめ……俺がキノコ好きと一度言っただけでメニューに反映してくれるとは……この娘は頭も良く、手先も器用だ。
養女としても旅のパートナーとしても、最高と言わざるを得ない。
「はい、ど~ぞ! お肉とキノコたっぷりだよ!」
ミアが笑顔で俺にお椀を渡してくれる。
ふわりと鼻腔をくすぐるデミグラスソースとマイタケの香り。
そっとスプーンですくい、口に入れると、舌の上でとろける牛肉の脂と、ニンジンにたっぷりと沁み込んだマイタケの凝縮されたうま味がいっぱいに広がる。
おお……これは絶品だ……優しいミアの性格を反映したような、豊かな味わい……。
その後俺たちは、ビーフシチューを心ゆくまで堪能すると、美しい夜空を見ながら一緒に流行歌を歌った。
お風呂でゆっくり温まった後、一緒のベッドで寝たいというミアのかわいいお願いを聞いてやり、もの凄く……もの凄く(大事な事なので2回言った)なで心地のいいミアの緑髪を抱きながら、最高の眠りにつくのだった。
え、何この生活……最高じゃないですか?
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