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第1章 始まりの王都と追放劇
第1-2話 凄腕交渉人、転職し、かわいい養女を拾う
しおりを挟む……昨日は酔った勢いで”世界一の商人になる”などとぶち上げてしまったが……やめだ。
何しろめんどくさい……商人ともなると仕入れと販売を管理し……税金も納めなくてはならねぇ。
大量の品を扱うには人も雇わなくちゃならねぇし……せっかく自力で稼げるスキルがあるのに、なんでそんなに真面目に働かないといけねぇんだよ!
……ただ、定職が無いのは体面が悪い……公営ギルドに職探しに行くか。
この男……怠惰な快楽主義者の割に、意外に小さなことを気にするのだった。
*** ***
「”ダンジョンの宝箱設置人”?」
「ええ。 最近ダンジョン探索がブームでしょう? 各地の公営ダンジョンも大盛況でして……管理人が不足しているんです」
公営ギルドの窓口(ぶっちゃけると職業紹介所みたいなもんだ)にやってきた俺は、受付から上記の仕事を紹介された。
ダンジョン……古来から各地に存在する”迷宮”とは別に、最近の”冒険者”ブームに答えるため、各地の”ダンジョンギルド”が設置している公営アトラクションだ。
”迷宮”には本物のレアアイテムや太古のお宝が転がっていたりするが、危険な魔物も出現し、”本物の勇者様”でもない限り命がいくつあっても足りない。
たいして、ギルドが設置する”ダンジョン”は、適度な魔物に適度なドロップアイテムや宝箱。
”勇者様”を目指す駆け出し冒険者や、少しのスリルを求める若者や金持ちに大人気のアトラクションとなっていた。
その”ダンジョン”に設置された”宝箱”に、定期的にアイテムを補充したり、設置場所を移動したりする仕事が……”宝箱設置人”と呼ばれる職業だった。
ふうむ、悪くねぇか?
ギルドからの給料は安いが一応公務員だし……各地の”ダンジョン”を回って旅もできる……宝箱に入れるアイテムは俺の”スキル”でいくらでも入手できる……よし、決めた!
「わかった! その”宝箱設置人”とやらになってやんよ!」
俺は”ダンジョンギルド”との契約書にサインし、晴れて公認の”宝箱設置人”になった!
*** ***
「最初の赴任先は”トーリ地方”か……ここ王都の北にある、風光明媚な土地だな……」
俺はギルドから貰った”宝箱設置人マニュアル”と仕事の依頼書を読みながら旅立ちの準備を進めていた。
旅をするとなると……まずは快適な住環境と、大量のアイテムを持ち運べるマジックアイテムが必要だ……俺は王都の商店街に向かった。
「大量のアイテムを収納できる魔法収納袋です。 商人さんには必須ですよ! 特価で銀貨150枚……」
「買った」
「どうです? 健康で従順なロバ! 旅をするには必須ですよ! 銀貨200枚……金貨2枚分と言いたいところですが、二頭買ってくれたら銀貨380枚にサービス……」
「買った」
「こちら、魔法で出し入れ可能な魔法コテージとなっています。 魔物除けも完備、マジックアイテムによって水回りも安心。 金貨30枚と値は張りますが……」
「買った」
昨日大金を手に入れている俺は、さくさくと買い物を進める。
これで快適な住環境と移動手段は確保だ。
あとは適当に宝箱に入れるマジックアイテムを見繕って……俺がそう考えていると、店先で何やら一人の商人が困っている。
どれどれ……俺は”スキル”を使用する。
”羊皮紙がない、買ってこないと”……か。
俺はたまたま手持ちがあったのでその商人に声をかけ、羊皮紙を渡してやる。
お代として豚肉30キロを受け取った。
俺はさらに”スキル”を使いながら辺りを見回す……
おっ……あそこにいる執事……”ご主人様の要望でまとまった量の豚肉を今日の昼までに手に入れたい”……か。
俺は執事に声をかけ、豚肉30キロを渡してやる。
お代として”能力解放の腕輪”を受け取った。
これは金貨10枚の価値があり、冒険者が戦闘能力強化のために装備するレアアイテムである。
……とまあ、ざっとこんなもんだ。
羊皮紙の束が、金貨10枚のレアアイテムに化けたぜ……簡単すぎて笑いが止まらない!
「ねえ奥様、お聞きになりました? お隣のジョンさん宅、勇者クラレンス様に無理やりタンスを漁られたとか……」
「ええ、以前はちゃんと交渉してから来られましたのに……最近実績がうなぎ上りだからと言って……増長しておられるのかしら」
……商店街を歩いていると、オバさまたちの井戸端会議の内容が聞こえてしまった。
勇者クラレンス様御一行、なかなか無茶をしているようじゃないですか。
さあて、その傍若無人がいつまで続けられるか見ものだが、もう俺には関係ない。
旅立つ前に、”闇市”でも冷やかしますかね……俺は足取りも軽く、王都の繁華街に向かうのだった。
*** ***
繁華街の片隅の路地に雑然とした露店が並ぶ。
こんな小汚い路地だが、非合法な禁呪アイテムが並ぶこともあり、なかなかに刺激的な場所である。
ま、俺は非合法アイテムなんぞに興味はない……ここには高級酒を安く買える店があるんだ。
酒は人生の最高のパートナー……旅には外せねぇぜ……俺は鼻歌を歌いながらなじみの酒屋に向かう。
……ん? 俺はふと視線を感じる……そこの露店の影からだ。
肩までの長さがある、ぼさぼさの緑の髪。
ロップイヤー種のウサギのように、両耳がもふもふと垂れ下がっており、さきっぽだけがグレーになっている。
歳は13歳くらいだろうか?
大きな瞳に涙を浮かべた獣人の少女が俺を見つめていた。
この店は……奴隷商か。
人間族に比べ、獣人族は貧乏であり、こうやって人身売買されることも珍しくない……かわいそうだがよくある事だ。
俺はスルーしようとしたのだが。
くぅ……
「おなか、すいたよぅ」
……ぷっ
あまりに欲望に忠実な少女の言葉と、腹の音が聞こえ、俺は思わず吹き出してしまった。
それにこの娘……俺の脳裏に幸せだった時代の光景が浮かび上がる……
こじんまりとした家に住む美しい奥さんと娘……俺の事をパパと呼んでくれた最愛の娘……もう今はいないのだ。
(逃げられただけだが!)
どこか娘の面影があるその少女の姿から、俺は目を離せなくなっていた。
ふう、しゃあねぇか……これも何かの”縁”だ。
俺は一つため息をつくと、奴隷商のおっさんに声をかける。
「おいおっさん、この娘、いくらだ?」
「………ちっ……銀貨5,000枚」
やけにイライラして不機嫌な奴隷商のおっさんは、舌打ちをしながらぶっきらぼうに吐き捨てる。
……買えるけど高けぇな……魔法コテージが金貨30枚(銀貨3,000枚)なのだから、それより高けぇのかよ……
値切ってやろうか……俺は”スキル”を使う。
ふむ……”虫歯が痛いが俺は非合法業者なので表の医者には行けない……なんとからならないか”……か。
確かいいアイテムがあった気がする……昨日手に入れた大量のアイテムを放り込んだ、魔法収納袋の中身をごそごそと探る。
あった! 万能薬……どんな病気でも治してくれる、Bランクの薬である。 価値は銀貨1,000枚。
「おい、”万能薬”だ。 これを付けてやるから、まけてくれねえか?」
「おお!! 良いだろう……銀貨2,000枚にする。 持って行ってくれ」
「きゃ……」
とたんに機嫌が良くなった奴隷商のおっさんは、万能薬をひったくるように受け取ると獣人少女の背中を突き飛ばし、俺に渡してくる。
「おっと……大丈夫か?」
俺は少女を優しく抱き留める。
「……ふあぃ……ミア、アナタに買われたの?」
この娘、ミアという名らしい。
かわいい名前じゃないか。
安心しな……俺は小さな娘には優しい男だ。
「ああ。 俺の名は”アレン・サムナー”……しがない宝箱設置人……になったばかりだ」
「いまから旅に出るんだが、俺の身の回りの世話をしてくれないか? もちろん食うものと住むところに不自由はさせないぜ?」
「ふえ、それだけでいいの? ひどいことしない?」
俺の申し出が意外だったのか、大きな目を丸くして驚くミア。
「あのな……俺はロリコンじゃねぇし、旅は連れがいた方が楽しいだろ?」
俺は思わずミアのぼさぼさの髪を優しくなでる……むむ、この手触り……なんだ?
まるで最高級の羽毛布団のような……最高かよ。
「ふわぁ……くすぐったい♪」
気持ちよさそうに目を細めるミアに、娘の事を思い出し、思わずほっこりする俺。
これだけでもコイツを買った価値があったかもしれない……。
何かプレゼントしてやろうか……俺はミアに対し”スキル”を使う。
”ごはんごはんごはん……できればはんばーぐ、おっきいやつ!”
ぷぷっ……ダダ洩れの欲望に思わず笑ってしまう俺。
「そうだな……出発する前に昼飯食うか! そこの路地に、でっかいハンバーグが食える店があるぞ」
「!! やったー! アレン、いいひとだね!」
ぱっと顔を輝かせるミアを優しくなでながら、俺たちは飯屋に向かうのだった。
カワイイ養女を連れて、”宝箱設置人”としてのんびり世界旅行……ああまったく最高じゃねぇか!
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