上 下
39 / 39
■第5章 レイル・フェンダー、世界を釣る(今度は南です)

第5-7話 探索、海中迷宮(中編)

しおりを挟む
 
 マーメイドたちの住みかだった入江の中央部、表向きはビーチの造波装置として建築された謎の魔法装置。

 ソイツは海中で洞窟の奥へ繋がっていて……ある日を境に変わってしまったという、マーメイドたちとテニアン王国の王様の秘密につながるカギがこの奥にあるかもしれない。

 成り行きとはいえ、オレたちはマーメイドの少女、アクアに先導され、海底洞窟の中へ入っていった。
 アクアの掛けてくれた水中行動スキルのおかげで、地上と同じように呼吸ができるのがありがたい。

「なるほど……元は自然洞窟のようですが、明らかに魔術的に手を加えた跡がありますね」

 さっそくフィルが何かの痕跡を見つけたのか、洞窟の壁を調べ始める。

 確かに、よく見ると岩の隙間に宝玉のようなものがはめ込まれ……入り口から伸びる円柱に向かって、細い糸のようなもので接続されている。

「これは……わたくしたちロゥランドの術式とも違う?」
「それでいてここミドルランドのモノとも違う気がします……むむむ、これはいったい……」

 魔術で調査しているのだろうか、手のひらから魔力を放出したフィルが、宝玉を睨みつけ、首をかしげている。

 どちらの世界の物でもない?
 それなら、コイツを設置した”企業”ってのは何者なんだ?

 言い知れぬ違和感を覚えながら、オレたちは洞窟の奥へと進む。

 と、進むにつれて曲がりくねっていた自然の洞窟は次第にまっすぐになり、洞窟の直径も大きくなっていく。
 これは、なにかあるな……そう思った瞬間、一気に視界が開ける。

「……なっ!?」

 目の前に広がった光景に、オレたちは思わず声を失った。


 明らかに人工的に作られた空間が、奥行き50メートルほどに広がっている。
 海上からここまで続いていた魔法装置の円柱は、広間の真ん中あたりで途切れており、”石板のかけら”のような物が半ば埋め込まれた、50センチ四方くらいの大きさの箱型の祭壇がその下に鎮座している。

 海上ではおぼろげだった魔力の光は、ここまで来るとはっきりと輝いており……円柱から放たれた緑色の魔力は、魔法装置と思わしき祭壇に吸い込まれ、入れ替わるように紫色の魔力の光が立ち上る。


「間違いありません! この術式は精神操作魔術!」

「おそらく、”カロリーキャンセル魔法”などを使って、リゾートに滞在する観光客の生命力を少しずつ吸い取り……この魔法装置で精神操作魔術に変換してテニアン王国中にばら撒いているのでしょう」

 明確な魔力を観測できたことで、コイツの正体が分かったのだろう。
 興奮の面持ちで魔法装置に泳ぎ寄るフィル。

 キラキラと輝く”石板のかけら”を注意深く観察しながら続ける。

「アクアさんがおっしゃった、”企業の社長”とかいう男が術者としたら……直接顔を合わせていないアクアさんやわたくしたちに影響が無いのは頷けます」

「魔術の効果としては微弱ですから……ですが、これほど広範囲に効果を及ぼせる精神操作魔術となると……」

「すごいです~、フィルさん!」
「王様や仲間たちが豹変したのはこの魔法装置のせいだったんですね~?」
「それなら、コイツを壊してしまえば……?」

「はい、精神操作魔術自体は不安定な魔術……魔力を供給してるコイツをぶち壊してしまえば万事解決ですわっ!」

 解決の道筋が見えたためか、興奮してフィルの周りを泳ぎ回るアクア。
 壊すのはいいけど、ここは海中……あまりヤバい魔術を使うなよ、オレはそうフィルに釘を刺そうとしたのだが。

「レイル、上だっ!!」

 ロンドが鋭く警告を発する。


 グアアアアアアアアアッ!


 モンスターの遠吠えが、広間を満たした海水を震わせる。

 広間の奥、天井にぽっかりと開いた穴から飛び出してきた影。
 青い目を爛々と光らせ、鱗に覆われた体長15メートルほどの細長い身体。
 その青白い胴体からは何条もの羽が生えており、先端が薄紅色に染まっている。

 なっ……リヴァイアサン!?

 本来なら深海に棲んでおり、めったに人前に姿を現さないはずのSランク海棲モンスターだ。
 この魔法装置の守護者として誰かが置いたのなら……。

 マズいっ! 
 オレとロンド、フィルとアクアの間には距離があり、即座に連携できる状態に無い。

 急いで間合いを取るんだ、ソイツの得意技は……オレはそう警告を発しようとしたのだが……。


 ゴオオオッ!!


 大きく開かれたリヴァイアサンの口から、膨大な質量の海水が渦を巻いてオレたちを捉える。
 メールシュトロム……獲物の自由を奪い、ついにはバラバラに引き裂く技。

 リヴァイアサンの最大奥義が発動してしまったのだ。

「くっ、間に合うか……「激流の太公望」!」

 オレは腰に差していたロッドを伸ばすと、スキルを発動させる。

 シュンッ!

 渦を巻き始めた海水の流れを割って、フィルたちのもとへと突き進むルアー。

「フィルっ! アクアを捕まえておけっ!」

「!! 分かりましたわっ!」

 オレの指示にフィルがアクアを抱き寄せ……フィルのスカートにルアーがフックしたと見えた瞬間。

 ズゴオオオオオオッッ!!

 彼女たちがたった今までいた場所を、すべてを削り取る海水の渦が襲った。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

スパークノークス

お気に入りに登録しました~

解除

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。