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■第4章 レイル・フェンダー、世界を釣る(北の国から)

第4-10話 サラマンダーと蠢く陰謀(中編)

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「ええ、新鮮な野菜と食肉……あと医薬品ですね」
「ふふ、もちろん用意させていただきますよ……ですが、支払いはキャッシュでお願いします」
「いつもの口座に明日までに」

 薄暗い室内で、一人の男が魔法通信装置に向かってしゃべっている。
 ずば抜けた長身をしたやせぎすの男だ。

 口調は丁寧だが、言葉の端々から相手をバカにしたような雰囲気が感じられる。

「なんですか、明日までには厳しい? いやアナタも今の地位を失いたくはないでしょう? アナタが欲を掻いて不用意に封印を解いてしまったんだ」
「ヒューベル公国に封印されし伝説の魔物”フロストジャイアント”のね」

『なっ、貴様、まさか公王陛下に進言するつもりか!?』

「さて……わが社としてはアナタの支払い次第ですね」

『ぐっ……分かった、必ず払うから物資はなんとかしてくれ』

「はいもちろん、今後ともご贔屓に」

 ぶつっ……

 男の嘲笑と共に通信が切れる。

「くくっ……たわいもない」

 通信相手はヒューベル公国の某大臣。
 男が経営する”商社”と違法薬物、闇の鉱物資源の取引などを行い、私腹を肥やしていた。

 先日、さらなる利益を得ようと配下の公営鉱山で無理な採掘を行い、ヒューベル公国に封印された伝説の魔物、”フロストジャイアント”を目覚めさせてしまった哀れな男である。
 そのせいで公国の冬が終わらなくなり、慌てた大臣は食糧支援を男の商社に泣きついているという構図である。

「ふふふ、ここの連中は馬鹿が多いですね……”フロストジャイアント”クラスの魔物が、鉱山の採掘の刺激ごときで封印から解き放たれるわけがないでしょう?」

 男の指先がきらりと怪しく光り、禍々しい魔力が立ち上る……この国での仕込みは、これくらいでいいでしょう。

 後は”商社”の運営のため、もう少し稼いでおきますが……そろそろ公国警察の捜査も及ぶころ、潮時ですね。

 ”トカゲのしっぽ”としての仕上げの人選は……そういえば金が足りない、支払いを待ってくれと言っていた無能な男がいましたね。

 せっかくこの私が冒険者学校の理事長の座につけてやったのに……コイツでいいでしょう。
 男が指さした先、書類の上にはザイオンの名が記されていた。

 ***  ***


「さて、まずは下準備が必要だ」
「こちらに来るがいい……それにしても眠そうだな、うんうん孫の成長が見れて私はうれしいよ」

 翌朝、珍しく晴れ間がのぞく中、オレとフィルはイヴァさんに付いて外に出かけていた。

 オレとフィルは先ほどからしきりにあくびをしている。

 ……誤解が無いように言っておくと、ヘタレなオレとフィルにはコトに及ぶような勇気はなく、お互いの体温を感じながら眠れない夜を過ごしていただけなのだッ!

 ……こんな所で似た者同士なのが悲しくなってくる。
 イヴァさんは勘違いをしているようだが、さらなるプレッシャーを掛けられても嫌なので黙っておく。

「この辺りでいいか……ふんっ!」

 ばこんっ!

 家を出て凍り付いた湖上に入り、10分ほども歩いただろうか、ある程度岸から離れた場所でイヴァさんが立ち止まり、何かの魔法を使う。

 一瞬で氷に直径2メートルほどの穴が開き、水面があらわになる。

「さあ釣るのだレイルくん!」
「そうだな、ブルーサーモン辺りがいいかな?」

「へっ?」

 優雅な仕草でちっちゃな手が示した先はたったいま開けた水面で……召喚魔術を試すと思っていたオレは面食らう。

 これ、魚を釣れってコトか?

「あの、朝飯はさっき食べたばかりですし……いくら何でもフィルもまだ食べないと思うんですが」

「ななっ!? レイル、今日は冒険に備えて食パン5斤を詰め込んできたのです! さすがにまだ大丈夫ですわッ!」

 思わず漏れたオレの言葉にフィルが抗議の声を上げる。
 食パン5斤……見てるだけで胸焼けしそうだったよ。

「全く我が孫は燃費が悪い……ああ、もちろん我々が食べるのではないぞ」
「”サーバントフィッシング”で召喚する召喚獣には報酬が必要……つまり餌だな」

「……は、はぁ」

 ロゥランドの召喚獣とやらは、魚が好物なのだろうか?

 半信半疑なオレだが、「静水の太公望」を使い、さっとブルーサーモンを釣り上げる。
 丸々と太った、対象1メートルを超える大型の個体である。

「ふむ、悪くない……さあレイルくん、ソイツを仕掛けに付けてスキルを使うのだ」

「…………」

 もはや何が何だか分からないので、イヴァさんの言われるがままになるオレ。
 仕掛けを大型の針付きの物に変え、ブルーサーモンをしっかりとフックする。

「よし、「サーバントフィッシング」!」

 ドボン!

 大きな水音と共に、ブルーサーモンが水面下に消えていく。
 その瞬間、水面がオレンジ色に輝いた。


 カッ!!
 ズドオオオンンッ!


 水面が爆発的に盛り上がったと思うと、ふっと竿が軽くなる。

「この術式は……確かにロゥランドに繋がったようです、しかも……お魚さんが魔力に変換されたっ?」

 目の前で起きている現象を律儀に説明してくれるフィル。


 バッシャアアアアン!


 ”派遣契約の締結を確認……実体化します”

 謎のメッセージが聞こえると同時に、水面から飛び出たのは……。


 ウオオオオオンンッ!!


 真っ赤な鱗を持つドラゴンのような姿、僅かに開かれた口の端からは炎が漏れている。
 爛々と光る黄金の瞳に燃え盛るしっぽ。

 伝説のモンスター、サラマンダーだった。
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