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■第4章 レイル・フェンダー、世界を釣る(北の国から)

第4-9話 サラマンダーと蠢く陰謀(前編)

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「……はっ、お、オレ……一体?」

 部屋に満ち溢れた光が消え、オレは正気を取り戻す。

 腰に絡みついていたフィルも今は身体を離し、オレを興味深げに、少しだけ心配そうに見つめている。

「も、申し訳ありませんレイル……わたくしとお祖母様は研究の事となると少々熱くなるというかなんといいますか……」

 ……アレが少々?

 色々と突っ込みたいことはあったが、オレに絡みついてきたフィルの蠱惑的な表情を思い出す。

 ……誤解してほしくないのだか、どちらかと言うとM寄りのオレとしては大変心地よかったりもしたので、腰に残る感触も含め、脳内の大事ゾーンに鍵付きで保存するのだった。

「ふぅ、すまないねレイルくん……”世界を分けた超魔術”の事と異世界リンク魔術……研究が一気に進んだ興奮で、我を忘れてしまったよ」
「思わずノリで新しい魔術薬を作ってしまったが、体調に変化はないかね?」

「……ノリで怪しげな薬を飲ませないで下さいよ。 少し腹の中が熱いくらいですかね」

 すっかり瞳に理知的な光を取り戻したイヴァさん。
 いつまた豹変するかも分からないので、控えめに抗議するオレ。

「ふむ、それなら成功だな……あの薬は人間の隠された力を引き出す成分を強化したモノ……そろそろ湧き出てくるはずだ」

「へっ?」

 イヴァさんがにやりと笑った瞬間、腹の中に生まれた熱が胸の所まで上がってくる……そして、胸元に光る金色の光。

「これは、スキルの発現!?」

「そうさ! こちらの世界に来た私は、この世界特有の魔術……”スキル”の研究をつづけた……そしてついに!」

 イヴァさんがぷにぷにの小さな手をぐっと握る。

「対象に隠されたスキルを (なんとなく)引き出す薬を編み出したのだっ!」

「この偉大な薬の完成にはどうしてもロゥランドでしか取れない素材、マンドレイクの熟成種子が必要だった……助かったぞ我が孫よ」

「そしてレイルくん……協力に感謝する」

 とってつけたような理由に疑いの目を向けるオレ……さっきの流れはノリだったぞ絶対。
 そうしている間にもオレの胸元で光るスキルカードは形を示していき……。

「サーバントフィッシング」:召喚獣を釣り上げ、使役できる (有償)

 またも見たことのないスキルがオレの目の前に現れるのだった。


 ***  ***

「”サーバントフィッシング”……アイテムフィッシングの亜種ですか、イヴァさん?」

 発現した金スキルはスキルポイントを消費し、オレの物になる。
 名前と効果から考えると、異世界からモンスターでも釣り上げるのだろうか?

 ビーストテイマー系のスキル?

 猛獣系のモンスターに芸をさせるビーストテイマー……子供の時に巡回サーカスで見た光景が思い出される。

 テイマー系のスキルは一時流行ったのだが、獣タイプのモンスターしかティム出来ないというスキルの制約が判明し、一瞬でブームが去ったことを覚えている。

 ミドルランドで主流のモンスター……ワーム系、ドラゴン系、怨霊系のモンスターに比べ、獣系のモンスターは単純に弱いのである。

「ふふん、私たちの世界、ロゥランドでは召喚魔術が発達していてな! 打撃に劣る我々の切り札となっていたのだ」

「君の異世界リンクスキルと術式を組み合わせることで、ロゥランドに生息している召喚獣を釣り上げられるスキルになったというワケだ」

 いつの間にか眼鏡をかけたイヴァさんが、ぴんと人差し指を立てながら説明してくれる。

 いきなり召喚魔術と言われてもピンとこないが、ロゥランドの凄いモンスターを使役できると考えればいいんだろうか。

 そしてまた釣りスキル……オレのスキルはどこまで行くんだろう?
 小魚を爆釣して喜んでいたころを思いだし、思わず遠い目をしてしまう。

「ロゥランドには気象すら操作する超魔獣もいるからな……レイルくんたちが困っている雪崩もなんとかできるかもしれん」

「どちらにしろ、今日はもう遅いから明日試してみるとしよう」
「……さて」

 ひと通り研究成果を説明して満足したのだろう。
 研究者の衣を脱ぎ捨てたイヴァさんは、にやりと悪戯っぽい表情となる。

「レイルくん、フィル……君たちの部屋は2階に用意しておいた」
「私はここで寝るから、思う存分青春の契りを楽しんでくれたまえ!」
「やり過ぎには注意だぞ、はっはっはっ!」

「ななっ!?」

「へうっ!?」

 イヴァさんは言いたいことだけ言うと、毛布に包まってぽすんとソファーへ横になり、すやすやと寝入ってしまった。

「…………」

「…………」

 祖母公認とはいえ、いきなりそんなことを言われると意識しちゃうじゃないか……ちらりとフィルの方を見るとバッチリ視線が合ってしまう。

「……今日は疲れたし、ね、ねねね寝るか」

「……そうですね、お祖母様はおふざけが好きですから……き、きききき気にせず休みましょう」

 平静を装おうとして盛大に噛むオレたち。

 二階の寝室にはいつ準備したのか巨大なダブルベッドが鎮座しており……仲良くヘタレなオレたちは、背中合わせでもんもんとした一夜を過ごしたのだった。
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