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■第3章 レイル・フェンダー、世界を釣る(海に来ました)

第3-4話 海底洞窟とドキドキ探索(中編)

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「不思議な雰囲気の洞窟ですね……漂う魔力がほかの場所と少し違うような……?」

 マジックワンドの先に照明魔術を点けたフィルと背中合わせで、慎重に洞窟を進んでいくオレたち。
 定期的にレンディル家がメンテナンスしているからか、出現するモンスターは多くはなく……思ったより順調に探索は進んでいる。

 入り口からすでに数百メートル……場所的には、すでに海の下だろうか。

 天井の高さは数メートルほどあり、見たこともない苔のような植物が、ほのかに青い光を放っているため、照明魔術一つの光があれば遠くまで見通せるのはありがたい。

 洞窟のそこかしこに、人工的に加工されたと思わしき構造物がある。

「ここにある紋章……古代レティシア王国で使われていた意匠に似ています……”縁を結ぶ場所”というのは、本当のようですね」

 興味深げに壁に刻まれた模様を調べていたフィルが、大きくうなずく。

 ここならば、期待できそうだ……オレたちは慎重に、迷宮を進み続けた。

「そろそろ最深部か?」

 何度かの分岐を目印をつけながら進み、オレたちは迷宮最深部と思わしきエリアに到達していた。
 目の前には、直径30メートルほどの大きな空間が広がる。

 明らかに人工的に整地された石畳の床の向こうに、ぽっかりと大きな穴が開いており、なみなみと水をたたえている。

 漂う潮の香りから、海に繋がっているのだろうと推測される。

 穴の手前には、石造りの祭壇があり、抽象化された世界地図のようなものが壁面に描かれている。

 祭壇はきれいに磨かれており、まるで鏡のようだ。

「これは……! 古代レティシア王国の文字……!?」

 壁面に書かれている文字のようなものを見た瞬間、フィルが目を見開く。
 興奮した面持ちで、壁画に駆け寄るフィル。

「読めるのか? フィル!」

「はい……風化していて少し読みづらいのですが、お嬢様の教養として古語は嗜んでおりましたので……レイル、解読にしばらく時間を頂けます?」

「ここは王国の王都テレジア……いえ、でもこの位置に川などないはずです……それにこの祭壇の文字は……むう、魔術文字のようですが、欠損していて読めません……」

 肩から掛けたポシェットから手帳を取り出すと、熱心にメモを取りながら解読作業を進めていく。
 ここは専門家に任せた方がよさそうだ……オレは、その場を離れると、広間に何か所か開いている水場へと向かう。

 とりあえず「アイテムフィッシング○」を試してみようか……オレは背負っていたバックパックから釣り道具一式を取り出し、組み立てるのだが。


 ことり……


 広間にひびたわずかな物音に、オレは油断なく誰何の声を上げる。

「誰だっ!?」

「……はぁ、はぁ……お兄さま、お姉さま」

「エレン!?」

 広間の入り口から顔をのぞかせたのは、留守番しているはずのエレンだった。


 ***  ***

 ダメじゃないか、こんな所まで来ては!
 そうしかりつけようとしたオレは、エレンの様子を一目見ておかしいことに気づく。

 エレンは息も乱れ、真っ青な顔をしている……少ないとはいえ、モンスターも出現するし、分岐も数多くあるこの迷宮をどうやって踏破して来たのか……。

 そこでオレは思いつく……まさか、「千里眼◎」を使って来たのか?

 確かにあのスキルなら、モンスターの出現を予測し回避することも、迷宮の正しいルートを予測することも可能かもしれないが、それはつまりずっとスキルを発動し続けるという事で……。

 彼女の身体に少なからず負担が掛かっていることは確かだった。

 とりあえず、休ませないと……そう思ったオレは、エレンのもとに駆け寄ろうとするのだが……。

「……くっ!?」

 ぬらり……エレンの背後に音も無く黒い影が揺らめく……アレは、リザードマン!
 巨大なトカゲの姿をした半獣人で、人間を見境なく襲う事で知られる……エレンがいる広間の入り口までは30メートル……フィルはリザードマンの出現に気づいておらず、転移魔術の発動は間に合わないかもしれない……!

 オレはイチかバチか、ルアーを付けたままの仕掛けをエレンの方にキャストする。
 無意識のうちに、釣りスキルである「激流の太公望」を発動させる。

 放物線を描くルアーは、オレのイメージ通りに宙を飛び、エレンの腰……皮のベルトに引っかかる。

「いまだっ!」

「激流の太公望」が発動している間は、魚を揚げやすいように腕力が強化されるのだ。
 オレは全身のバネを使うと、エレンを傷つけないように優しくしゃくりあげる。

「きゃっ!?」

 ぶおんんっ!

 間一髪……リザードマンの丸太のような腕が宙を切る。

 ばさっ

 オレは、落とさないように慎重にエレンを抱きとめた。

「フィルっ!!」

 すかさずフィルに合図を送る。

「な……モンスターの接近に気づかないなんて、不覚っ」
「アイシクル・ランス!」


 ザシュッ!!


 間髪入れず放たれたフィルの氷雪魔術スキル……巨大な氷の槍に貫かれたリザードマンは、凍り付きながら粉々に砕け散る。

「申し訳ありませんレイル、解読に夢中になり過ぎ、モンスターの接近を許すとは……エレンの様子はどうですか?」

 ふがいなさに顔をゆがめるフィル。

「まさかこんな所にエレンが来るとは俺も思ってなかったから、仕方ないさ……だけど、具合は良くなさそうだな……」

 オレの腕に抱かれたエレンは、冷や汗をかき、浅く呼吸を繰り返す。
 身体は妙に熱を持ち、意識も混濁しているようだ。

「!? レイル、わたくしに見せてくださいっ!」

 血相を変え、駆け寄ってくるフィル。
 魔術で診断しているのか、フィルの手のひらが薄緑に輝く。

「これは……魔力異常症……」

 !! 息を飲むオレ……この病気は、体内に満ちる魔力が異常に高まり、身体に様々な障害が出る病……魔法の発達が遅れているミドルランドでは、不治の病といわれており、スキルを使いすぎると悪化することが知られている……場合によっては命を落とすことも珍しくない。

 くそ、ここから街に戻るのに半日はかかる……そこまでエレンの身体は持つのか……?
 みるみる衰弱していくエレンに、オレは焦りを募らせるが……。

「ふふ……心配することはありません、レイル!」

「さあ、「深淵の接続者」「アイテムフィッシング○」を使うのですっ!」

 不敵な笑みを浮かべ、祭壇の後ろにある大きな水たまりを指さすフィル。
 余計なことを言わないフィルは、とても頼りになることをオレは分かっていた。
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