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第43話 急転
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「アルがっ……俺が目を離した隙にっ」
店に戻った後、ヒューバートさんや店にいた村人たちに事情を説明し、全員に探してもらったのだがアルの足取りはつかめなかった。
何度か試してみたが、戦術リンクもだめだ。
相手の意識がある限り、繋がりを感じられるのだが……最悪の想定すらしてしまう。
「油断した……あの冒険者かっ!」
どんっ
いら立ちの余り、テーブルに拳を振り下ろす。
アルは……”特別”だったのに!
「ジュンヤさん、落ち着いてください」
フェリシアのひんやりとした手が肩におかれ、僅かに冷静さを取り戻す。
「フェリシア……」
「アルちゃんの耳飾りとショートソードを調べてみましたが、僅かに魔法の反応が出ています。おそらく、テンイの魔法で攫われたのでしょう」
「なら犯人は……」
アルが”勇者”であることを欲している人間。
「間違いないでしょう」
「テンガ、かっ!」
そういえば向こうにも女神エリスが付いている。
ユーノと同じ調査をしていても不思議じゃない。
「な、なら! すぐに王宮に乗り込んで!」
俺は自分の剣を引っ掴み、テンイの魔法を使おうとする。
「駄目ですジュンヤさん!」
強い口調でフェリシアが俺の身体を押しとどめる。
「それではジュンヤさんがお尋ね者になってしまいます。ヘタしたらこの村も」
「ジュンちゃん、落ち着いて」
「……ごめん、それなら?」
「メルヴィ当主を頼りましょう、当主なら」
にっこりと笑うフェリシア。
「そうか……!」
冷静さを取り戻した俺は、冒険の準備を整えフェリシアと共にエルフの村へ。
メルヴィ当主にアルの行方を調べてもらったところ……気を失っているか、何者かに操られている状態でノルド山脈、つまり魔法の本拠地に向かっているとのこと。
ビンゴだ……!
俺たちは手始めにデモンズホールへと向かうのだった。
*** ***
「誰もいない?」
転移したデモンズホール周辺は、不気味なほど静まり返っていた。
アルが攫われてまだ数時間ほどしか経っていない。
転移魔法で王宮に戻り、すぐ出撃したとしてもテンガの奴も来たことがあるのはここまでのはずだ。
「くっ!」
ダンッ!
俺は地面を蹴り、大きく飛びあがる。
山脈を構成する岩肌にさえぎられつつも、数キロメートル先までの範囲が見える。
だが、何者の影も見えない。
モンスターの1匹すら歩いていない。
向こうはティムしたモンスターを連れたパーティ。
まだそんな遠くへ行っていないと思ったのだが……!
「ジュンヤさん、こっちに!」
周囲を探っていたフェリシアが大声で俺を呼ぶ。
「何か見つかったか?」
「これ、アルちゃんの……」
フェリシアが地面から拾い上げたのは、メモ帳サイズの羊皮紙をリングで綴じたノート。
アルが注文メモとして使っていたものに間違いない。
ノートが落ちていたのはデモンズホールの前だ。
「……まさか?」
「グランオーガ―と手下のゴブリンは、デモンズホールの中から出てきました。
もしかしたら、魔王城へ繋がっているのでは?」
「…………」
なるほど、ありうる。
魔王の城へ繋がるラストダンジョン。
RPGの定番だ。
「だけど……大丈夫か?」
フェリシアはテンガに捕らえられた時、ここで酷い目に遭った。
そんな穴の奥に、フェリシアを連れていくのは……。
「ふふっ、わたくしを見くびらないでください」
「このフェリシア、大切な妹で同志のアルちゃんを攫われて……黙っている事などできませんよ?」
にこり、と穏やかに微笑むフェリシアだが、その深蒼の瞳には炎が宿っている。
「ごめん。
一緒に……行ってくれるか?」
「はいっ! もちろんです!!」
「ありがとう!」
デモンズホールの奥は真っ暗で、どこまで続いているのか見当もつかない。
「照明魔法なら、わたくしが使えますので」
フェリシアの指先に灯った光がデモンズホールの奥を照らす。
「足跡が無いな……飛行モンスターを使っているのかもしれない」
急ぐ必要がある。
「フェリシア、失礼するよ」
「きゃっ!?」
俺はひょいっとフェリシアをお姫様抱っこする。
「飛ばすから、掴まっていて!」
「は、はいっ」
ぎゅっと俺の首にしがみついてくるフェリシア。
「…………こ、これは確かに反則ですね」
「ん? 何か言ったか?」
「い、いえっ! なんでもありません!」
「ならいいけど」
もしかして高所恐怖症なのか?
微妙にずれたことを考えながら、俺たちはデモンズホールに飛び込んだ。
店に戻った後、ヒューバートさんや店にいた村人たちに事情を説明し、全員に探してもらったのだがアルの足取りはつかめなかった。
何度か試してみたが、戦術リンクもだめだ。
相手の意識がある限り、繋がりを感じられるのだが……最悪の想定すらしてしまう。
「油断した……あの冒険者かっ!」
どんっ
いら立ちの余り、テーブルに拳を振り下ろす。
アルは……”特別”だったのに!
「ジュンヤさん、落ち着いてください」
フェリシアのひんやりとした手が肩におかれ、僅かに冷静さを取り戻す。
「フェリシア……」
「アルちゃんの耳飾りとショートソードを調べてみましたが、僅かに魔法の反応が出ています。おそらく、テンイの魔法で攫われたのでしょう」
「なら犯人は……」
アルが”勇者”であることを欲している人間。
「間違いないでしょう」
「テンガ、かっ!」
そういえば向こうにも女神エリスが付いている。
ユーノと同じ調査をしていても不思議じゃない。
「な、なら! すぐに王宮に乗り込んで!」
俺は自分の剣を引っ掴み、テンイの魔法を使おうとする。
「駄目ですジュンヤさん!」
強い口調でフェリシアが俺の身体を押しとどめる。
「それではジュンヤさんがお尋ね者になってしまいます。ヘタしたらこの村も」
「ジュンちゃん、落ち着いて」
「……ごめん、それなら?」
「メルヴィ当主を頼りましょう、当主なら」
にっこりと笑うフェリシア。
「そうか……!」
冷静さを取り戻した俺は、冒険の準備を整えフェリシアと共にエルフの村へ。
メルヴィ当主にアルの行方を調べてもらったところ……気を失っているか、何者かに操られている状態でノルド山脈、つまり魔法の本拠地に向かっているとのこと。
ビンゴだ……!
俺たちは手始めにデモンズホールへと向かうのだった。
*** ***
「誰もいない?」
転移したデモンズホール周辺は、不気味なほど静まり返っていた。
アルが攫われてまだ数時間ほどしか経っていない。
転移魔法で王宮に戻り、すぐ出撃したとしてもテンガの奴も来たことがあるのはここまでのはずだ。
「くっ!」
ダンッ!
俺は地面を蹴り、大きく飛びあがる。
山脈を構成する岩肌にさえぎられつつも、数キロメートル先までの範囲が見える。
だが、何者の影も見えない。
モンスターの1匹すら歩いていない。
向こうはティムしたモンスターを連れたパーティ。
まだそんな遠くへ行っていないと思ったのだが……!
「ジュンヤさん、こっちに!」
周囲を探っていたフェリシアが大声で俺を呼ぶ。
「何か見つかったか?」
「これ、アルちゃんの……」
フェリシアが地面から拾い上げたのは、メモ帳サイズの羊皮紙をリングで綴じたノート。
アルが注文メモとして使っていたものに間違いない。
ノートが落ちていたのはデモンズホールの前だ。
「……まさか?」
「グランオーガ―と手下のゴブリンは、デモンズホールの中から出てきました。
もしかしたら、魔王城へ繋がっているのでは?」
「…………」
なるほど、ありうる。
魔王の城へ繋がるラストダンジョン。
RPGの定番だ。
「だけど……大丈夫か?」
フェリシアはテンガに捕らえられた時、ここで酷い目に遭った。
そんな穴の奥に、フェリシアを連れていくのは……。
「ふふっ、わたくしを見くびらないでください」
「このフェリシア、大切な妹で同志のアルちゃんを攫われて……黙っている事などできませんよ?」
にこり、と穏やかに微笑むフェリシアだが、その深蒼の瞳には炎が宿っている。
「ごめん。
一緒に……行ってくれるか?」
「はいっ! もちろんです!!」
「ありがとう!」
デモンズホールの奥は真っ暗で、どこまで続いているのか見当もつかない。
「照明魔法なら、わたくしが使えますので」
フェリシアの指先に灯った光がデモンズホールの奥を照らす。
「足跡が無いな……飛行モンスターを使っているのかもしれない」
急ぐ必要がある。
「フェリシア、失礼するよ」
「きゃっ!?」
俺はひょいっとフェリシアをお姫様抱っこする。
「飛ばすから、掴まっていて!」
「は、はいっ」
ぎゅっと俺の首にしがみついてくるフェリシア。
「…………こ、これは確かに反則ですね」
「ん? 何か言ったか?」
「い、いえっ! なんでもありません!」
「ならいいけど」
もしかして高所恐怖症なのか?
微妙にずれたことを考えながら、俺たちはデモンズホールに飛び込んだ。
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