上 下
9 / 46

第9話 再会(後編)

しおりを挟む
「ぐすっ、ううっ……」

「いや~、ジュンちゃんはおっきくなっても甘えんぼさんね」

「……エモい?」

「そう! アル、正解!
 その感情を忘れないで!」

「……変な言葉をアルに教えるのはやめなさい」

「は、はは……ほんとにマリ姉だ」

 ひとしきりマリ姉の腕の中で泣いた俺は、ようやく顔を上げる。

「それにしても、ジュンちゃんも”転生”してたとはね~」

「!!」

 マリ姉の言葉にハッとする。

「それじゃあ、ヒューバートさんが俺の言葉を信じてくれた理由って」

「ああ、君が現れるまで私も正直半信半疑だったけどね。
 アルも間違いないっていうものだから」

(こくこく)

 俺がマリ姉になでなでされているのが羨ましかったのか、対抗するように抱きついてくるアル。

「あたしはゲームあんまりやらないから、”魔王”が攻めてくるとは知っていたけど、いつ頃か分かんなかったのよね。
 ジュンちゃんはどうしてこの世界に?」

「うん、実は……」

 マリ姉と話していると、子供時代の口調に戻ってしまう。
 俺はあの事故から転生までの事をマリ姉に詳しく説明する事にした。


 ***  ***

「……ジュンちゃんも苦労したんだね。
 大変な時にそばにいてあげられなくてごめん」

「ううん、大丈夫だよ。
 こうして再会できたんだし」

 もともと長い話でもないし、俺が苦労したのはマリ姉のせいではない。
 それなのに俺の話を聞いて涙ぐむマリ姉。

「ジュンヤはアルたちを守ってくれたの。
 すっごいスキルで!
 そこの池もジュンヤが作ったんだよ」

「マジか~」

 俺の活躍を嬉しそうに語るアル。
 そんなに褒められるとくすぐったい。

「あ、もしかしてリバサガってヤツ?
 ジュンちゃん好きだったもんねぇ」

 集会所の椅子に座り、膝の上で甘えるアルを優しく撫でるマリ姉。
 昔よく見た光景に、マリ姉が戻って来たことを実感する。

「えへへ……それにジュンヤと気持ちいい」

「ほう」

 それなのに、いきなり爆弾を投下するアル。

「ほっほ~う、さすが人たらしのジュンちゃん。
 すでにこの子も攻略済みでしたか」

「アル、ちゃんとヒニンはするのよ? 無計画はダメ」

「……ぽっ」

「スキルの話だから!
 リバサガの戦術リンク!!」

「ぷぅ」

 俺の釈明になぜかふくれるアル。

「ふふ、ふふふふっ。
 あははははははっ!」

 慌てる俺の様子にお腹を抱えて爆笑するマリ姉。
 子供時代にいつもしていたやり取りだ。

「あー、笑った笑った。
 あ、そうだアル。
 ジュンちゃんは10歳まで……」

「ふむふむ」

「ちょ、ちょっと待った!」

 このまま放っておいたら俺の黒歴史をマリ姉にばらされそうだ。
 アルの前ではカッコいいお兄ちゃんでいたいのである。

「こんどはマリ姉の事を聞かせてよ!」

「……しかたないなぁ」

 そう、マリ姉が飛行機事故に遭ったのは俺が14歳、マリ姉が24歳の時。
 転生前の時点で9年の月日が経っている。
 それなのにヒューバートさんはマリ姉を27歳だという。

 聞きたいことはたくさんあった。

「ヒュー、調理道具は持ち出してるわよね?
 ジュンちゃん、好物の焼き鳥丼を作ったげるからゆっくり話そうか」


 ***  ***

「美味しい……」

 噛みしめた焼き鳥から、懐かしい味が口いっぱいに広がる。
 実家の近くで居酒屋を営んでいた叔父さんの店をマリ姉がいつも手伝っていたことを思い出す。
 俺にとっての家庭の味は、この焼き鳥だった。

「鶏肉はレッサーグリフォンとかの鳥型モンスターが使えるし、大豆と麹菌を使って醤油はすぐに作れたけど。
 みりんには苦労したわ~」

 ここは小麦が主食っぽいファンタジー世界だ。
 お米が主原料の調味料を作るのは大変だっただろう。

「転生してからは王都のレストランで住み込みで働いてたんだけどね。
 少しだけ余裕が出て来たから日本食の開発にチャレンジしてたわけよ」

「そしたらたまたまヒューがお店にやって来てね?
 おっ、あたし好みのイケオジじゃんと焼き鳥の試作品を食べさせたら……。
 一発であたしの料理と美貌にぞっこんってわけ!」

「胃袋を掴んだ?」

「そうよアル、美味しいものを食べさせておけば男は離れられなくなるわ」

「めもめも」

「………こほん」

 恥ずかしそうに頬を掻くヒューバートさんの反応が新鮮だ。

「掛け値なしに今まで食べた物の中で一番おいしかったな、あれは。
 それに、君の美しい黒髪……その凛としたたたずまいにも見惚れてしまってね」

「ぐは~っ!? イケメンムーブ来た! これで勝つる!」

「……勝つる?」

 マリ姉の外面はクールビューティだからな。
 素はアレだけど。

(だけど……)

 マリ姉は18歳の姿で転生したという。
 元の世界とほとんど変わらない状態で転生した俺や典雅さんとは明らかに異なる。

『対象世界の救済に時間が掛かりそうな場合、赤ん坊として転生してもらうことはありますけどね』
『1つの世界に3人の転生者というのは、ちょっと聞いたことないですし……本部で調べてもらいます』

 とは女神ユーノの言葉だ。
 星の数ほど世界があるのなら、同一世界に3人の転生者と言うのは確かに異例だろう。

「ま、そんなことより」

 魔王は主人公である典雅さんが倒してくれるだろうし。

 もう会えないと思っていた従姉妹に可愛い妹分。
 大切な彼女達をしっかり守っていかないとな!

「よ~し! 腹もふくれたし……。
 新生煉瓦亭を作るか!」

「らじゃ」

「ふふっ、頼むわね」

 モチベーションが爆上がりした俺は、煉瓦亭の建材を集めるため近くの森に突進するのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...