上 下
36 / 53

第36話 アリスの謝罪

しおりを挟む
「ほんとうに、ごめんなさいっ!」

 ばっ!

 リビングに入るなり、深々と頭を下げるアリス。

「アリス、どうかしていたの!」

「アリスのせいで、ゆゆにめいわくを掛けて。
 タクミにも大けがを……」

 アリスの双眸からこぼれた涙が床に水たまりを作る。

「俺はもう、全く問題ないから!」

 彼女か元に戻ってくれただけで充分である。
 俺のケガを直してくれたのはアリスだしな。

「ほら、顔を上げて。
 せっかく来てくれたんだからお茶でも飲もう」

「タクミ……」

 優しくアリスの頭を撫でてやる。

「Wow!?」

 不意打ちだったのか、顔を真っ赤にするアリス。

「最終的にみんな無事だったんだから、万事オッケーだよ。
 それより、アリスちゃんは大丈夫だったの?
 レイニさんは、魔力を使い過ぎたって言ってたけど……」

 ユウナの話では、俺に回復魔法を掛けた後、アリスは呆然とその場に座り込んでいたらしい。救援部隊と一緒に到着したレイニさんが彼女を背負ってダンジョンを脱出したとのことだが……。

「そう、そのレイニよ!」

 レイニさんの名前が出た途端、形の良いアリスの眉が吊り上がる。
 ぷくりと頬を膨らませ、たいへんご立腹のようだ。

「マジェになんかヘンなモノを取り付けていたのよ!
 そのせいでマジェは丸2日寝込んじゃったし!」

 ちゃり

 アリスがポーチから取り出したのは、小さな宝石のついたアクセサリ。

「これは……」

 アリスからアクセサリを受け取り、まじまじと観察する。

 一見ただの装飾品のようだが、宝石がはめられた台座はミスリル銀で出来ており、青い宝石にも魔法的な仕掛けがされていそうだ。
 少なくとも、愛玩用モンスター向けグッズを扱うペットショップで売られているようなものじゃない。

「タクミ君、僕にも見せてくれるかな?」

 俺はアクセサリをマサトさんに手渡す。

「これは!」

 アクセサリを一目見た途端、マサトさんの顔色が変わる。

「兄貴、ヤバいアイテムなの?」

「ヤバいも何も……」

 かぶりを振るマサトさん。

「強力なを持ったアイテムだ」

「それって!」

 モンスターを操る効果があるという事だ。
 それがピンクカーバンクルのマジェに着けられていたという事は……。

「ピンクカーバンクルは、強力な夢幻の力を持つと言われている。
 マジェをティムしその力を使い、アリス嬢の感情を操作していたということか?」

「え? 一体何のためにそんなことを?」

 困惑気味なユウナの言葉に同意する。

 アリスとゆゆを仲たがいさせ、ファンを対立させる。
 そうすることで一体レイニさんたちに何の得があるのだろうか?

「もしかして……」

「うむ……」

 信じたくない話ではあるが、もしライバルであるゆゆが邪魔ならスキャンダルを流すとか配信中の事故に見せかけて怪我をさせる、などの策が考えられる。

「とはいえ」

 先日の配信の様子はすべて公開されており、今もSNS上で物議をかもしている。
 ゆゆだけでなくアリスの公式ちゃんねるも荒れており、フォロワーもあまり増えなくなっていた。

「タクミ君の考えは分かるが、さすがに悪手だろう」

「ですよね」

 アリスのフォロワーを増やすのが目的なら、まったく逆効果だ。

「そんな……」

 俺たちの話を聞いて、ぷるぷると震えるアリス。

「あ……」

 アリスの前でする話ではなかったかもしれない。

「マジェを使って、アリスを操ってたの!?
 アリスはそんなレイニの陰謀にのって、ゆゆを傷つけそうになって、タクミに大けがを……」

 アリスの目には涙が溜まり、顔面は蒼白になっている。

「ご、ごめん!
 これはただの推測だから!」

「うええん……」

「そ、そうだよアリスちゃん!
 ゆゆとアリスは仲良し、なかよし、だよ!」

 慌ててユウナとふたりでアリスを慰める。

 きゅうん?
 もきゅっ?

 泣きだしたアリスを心配したのか、庭で遊んでいたホワくんとマジェもやってくる。

 ていうかホワくんめ、すっかりマジェと仲良くなっている。
 女の子であるマジェのホワくんを見る目が、すっかり恋する乙女である。

「ぐすん、ありがとう!」

 ホワくんとマジェのお陰もあり、ようやく笑顔になってくれたアリス。

「ふぅ……それにしても、レイニさんらミウス・プロモーションの考えがよく分かりませんね」

「あ、そういえば」

 アリスが何か思い出したようだ。
 ぱちんと両手を合わせる。

「一度目の対決が終わった後、もっとめーわく配信をしなさいって言われたの!
 ダンジョンを壊して、モンスターをいっぱい殺せって……。
 それに、”バランス”を変えるとも言ってたかな、じょーしのオジサンが」

「え?」

「ふむ……」

 よく分からない事を言い出したアリス。
 思わず困惑してしまう。

「ニホンではそういうめいわく配信が大人気でじょーしきなんでしょう?
 アリス的には気がNoだったんだけど……」

「ちょ、ちょっと待った!!」

 アリスの語る常識とやらに、大きく間違いがあるようだ。
 俺は慌ててアリスの言葉を遮り、日本のダンジョン配信の常識を教えてあげた。


 ***  ***

「え~~~!?
 それなら、アリス騙されてたの!?」

 髪の毛を逆立てて驚くアリス。
 彼女は善良で純真だし、ダンジョンがあるのは日本だけだ。
 断片的な情報を信じてしまったのも仕方ないかもしれない。

「アリスの方が正しかったんだわ!
 それなのにレイニはマジェまで使ってアリスを操って……許せない!」

 全てを理解したアリスはぷんぷんと怒っている。

 ”良い子”なアリスである。
 自分が悪いことをさせられていたとあっては怒るのも当然だろう。

「こーなったらもう、けいやくはきよ! Cancelよ!」

 契約破棄を主張するアリスだが、相手は会社組織。
 彼女一人の力では難しいと思われる。

「それなら……」

 そう、こちらには頼りになるマサトさんがいる。

「え? マサト、助けてくれるの?」

「ほほう、兄貴……やる気だね!」

「大切な妹に危害を加えられそうになって、黙ってはいられないからね」

「もちろん俺も手伝います!」

「兄貴、タクミおにいちゃん……!」

「まずはもう一度配信対決をするんだ」

「「「ふむふむ」」」

 そうして俺たちは、ひそかに反撃の策を練るのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

配信の片隅で無双していた謎の大剣豪、最終奥義レベルを連発する美少女だと話題に

菊池 快晴
ファンタジー
配信の片隅で無双していた謎の大剣豪が美少女で、うっかり最凶剣術を披露しすぎたところ、どうやらヤバすぎると話題に 謎の大剣豪こと宮本椿姫は、叔父の死をきっかけに岡山の集落から都内に引っ越しをしてきた。 宮本流を世間に広める為、己の研鑽の為にダンジョンで籠っていると、いつのまにか掲示板で話題となる。 「配信の片隅で無双している大剣豪がいるんだが」 宮本椿姫は相棒と共に配信を始め、徐々に知名度があがり、その剣技を世に知らしめていく。 これは、謎の大剣豪こと宮本椿姫が、ダンジョンを通じて世界に衝撃を与えていく――ちょっと百合の雰囲気もあるお話です。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

【ダン信王】#Aランク第1位の探索者が、ダンジョン配信を始める話

三角形MGS
ファンタジー
ダンジョンが地球上に出現してから五十年。 探索者という職業はようやく世の中へ浸透していった。 そんな中、ダンジョンを攻略するところをライブ配信する、所謂ダンジョン配信なるものがネット上で流行り始める。 ダンジョン配信の人気に火を付けたのは、Sランク探索者あるアンタレス。   世界最強と名高い探索者がダンジョン配信をした甲斐あってか、ネット上ではダンジョン配信ブームが来ていた。 それを知った世界最強が気に食わないAランク探索者のクロ。 彼は世界最強を越えるべく、ダンジョン配信を始めることにするのだった。 ※全然フィクション

最弱ユニークギフト所持者の僕が最強のダンジョン探索者になるまでのお話

亘善
ファンタジー
【点滴穿石】という四字熟語ユニークギフト持ちの龍泉麟瞳は、Aランクダンジョンの攻略を失敗した後にパーティを追放されてしまう。地元の岡山に戻った麟瞳は新たに【幸運】のスキルを得て、家族や周りの人達に支えられながら少しずつ成長していく。夢はSランク探索者になること。これは、夢を叶えるために日々努力を続ける龍泉麟瞳のお話である。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

処理中です...