上 下
22 / 53

第22話 (閑話)タクミとユウナの華麗なる1日

しおりを挟む
「ういっくし!!」

 俺の一日は、いささかおっさん臭いユウナのくしゃみから始まった。

「あう~?
 花粉の季節は終わったよね~?
 誰か噂してるのかな~?」

「腹出して寝てたからだろ?」

「へへ~、ゲームが盛り上がっちゃって」

 豪邸に引っ越したというのに、ユウナの生活は相変わらずだ。

 勉強を頑張ったご褒美として、プチシューを掛けたゲーム対決をしていた俺たち。
 連勝して念願のプチシューを頬張ったユウナは、そのままソファーで寝落ちしてしまった。

 小学生のような寝つきの良さだが、いちど寝入ると基本的に朝まで起きないユウナを俺は寝室まで運んでやった。

 なかなか起きてこない彼女を起こしに行くと、豪快にお腹を出して寝ているユウナの姿があった。

「タクミおにいちゃんのお姫様抱っこが気持ち良すぎたからだよ、マジマジ!」

「はいはい」

 寝癖を付けたユウナの様子からは、アイドル配信者ゆゆの面影は全く感じられない。

「ほらはやく飯を食え。遅刻するぞ?」

「はうっ!? もうこんな時間~!?
 まだ髪もセットしてないのに~」

 ドタバタと慌て始めるユウナ。
 これが俺たちの朝のルーティーンである。


 ***  ***

「へへ~、間に合ったぁ」

「到着予想時刻:始業3分前は、間に合ったとはいえないぞ?」

 ドタバタな朝を乗り越えたユウナは、クルマの助手席でふにゃふにゃと笑っている。

 清楚な水色セーラー服、艶やかな黒髪におさげ、傷一つないローファーと見た目は完璧なお嬢様だ。
 遅刻しかかっていることを除けば。

「今まではいったいどうしてたんだ?」

 ゆゆのプロデュースを一手に手掛けるマサトさんは、家を空けることが多い。
 電車通学だったユウナが毎日遅刻せずにいられたとはとても思えないんだが。

「しってます? タクミおにいちゃん。
 ウチのガッコ、遅刻だけじゃ留年しないんですよぉ!」

「…………」

 ぺしん!

 呆れた俺は、信号待ちの際にユウナのおでこにデコピンをお見舞いする。

「ふぎゃっ!?」

「これ以上お馬鹿になったらどうするんですかぁ!
 高校4年生のゆゆとか、ヤバすぎ!」

「そうだな、世界初だし一部の層にはウケるかもしれないな。
 制服にもコスプレ感出るし」

「マニアックすぎる!?」

 かくして、信号待ちに引っかからなかった俺たちの車は、何とか始業5分前に学園の校門前に滑り込むのだった。


 ***  ***

「それでは、行ってまいります」

 ロングスカートを両手で持ち、優雅に一礼するユウナ。
 彼女がゆゆであることは一部の親しい友人しか知らないそうなので、だんきち(の中の人)とばれないよう変装している俺。

 お嬢様を送迎する付き人、くらいには見えるだろうか?

「ユウナさん、今日は間に合いましたね」
「そういえば、急に車通学に変更されるとは、何かありましたの?」

「いえ、家の事業の都合で、急遽学園から離れた場所に引っ越しまして」

「まぁ!」

 ……さすがにアイドル配信者である。
 お嬢様ムーブも完璧らしい。

 級友たちに見えないよう、小さく手を振るユウナに手を振り返すと、俺はクルマを発進させた。


 ***  ***

「やっぱりソロだとレベルは上がらないなぁ」

 ユウナが学園に行っている間は自由時間だ。

 俺は少しでもレベルアップしようと表層ダンジョンに潜ったのだが……。

 ======
 ■基本情報
 紀嶺 巧(きれい たくみ)
 種族:人間 25歳
 LV:10
 HP:236/236
 MP:30/30
 EX:3,173
 攻撃力:15
 防御力:40
 魔力:2
 ……

 ■スキルツリー
 ☆クリーナー・アインス 倒したモンスターを魔石に変換する。
 ↓
 ☆クリーナー・ツヴァイ 一定の確率で活動中のモンスターを魔石に変換する。
 ↓
 ☆クリーナー・ドライ 支援対象の”無駄”を消去し、行動を最適化する。
 ↓
 ☆クリーナー・フィーア 発動した魔法を消去(イレイズ)する。消費MP10
 ……
 ======

 最低限の戦闘用ステータスを得たのでスライムを狩ってみるのだが、経験値が増えない。
 どうやら俺は、ゆゆとダンジョン配信することでしか経験値を得られないらしい。

「レアすぎるだろ……」

 マサトさんを通じてダンジョン庁に照会してもらったが、記録が残っている限り初めての事例らしい。

「悩んでても仕方ない。準備するか」

 いつの間にか時刻は14時……そろそろユウナを迎えに行く時間だ。
 俺はダンジョン控室にあるシャワーで汗を流すと、ユウナの学園に向かった。


 ***  ***

「へへ~♡ マンゴーパフェ♪」

 港の見えるカフェで、俺はユウナにスイーツをごちそうしていた。
 ユウナいわく、おにいちゃんとのデート♡、らしいが俺に言わせれば餌付けである。

 トレーニングや配信はとてもエネルギーを使うので、その前にはこうして甘い物を食べさせてやるようにしている。

「おいし~♪♪」

 パクリとパフェをひとくち、満面の笑みを浮かべる。

 ……まあこの笑顔を見たくてやってるんだけどな。
 美少女のスイーツ顔ほど可愛いものも、そうはない。

「そういえば、ようやくホワくんがウチに来るらしいぞ。
 検疫が終わったってマサトさんから連絡があった」

「ほんと!?
 やった~! これで毎日もふもふできるよ!」

「配信に出てもらうのもアリかもな!」

「あ、それ、超アリ!!」


 ぼおおおおーーーーーっ!


「お?」

 たわいもない会話をしていると、港全体に響く汽笛の音が。
 沖の方に視線をやると、ビルよりデカい豪華客船が港の中に入ってくるところだった。

「うわぁ♪
 ねえねえタクミおにいちゃん!
 いつか豪華客船で配信!もありじゃない?」

「ユウナの食っちゃ寝で終わりそうだけどな」

「ぷぅ、ひどい!」

 話している間にも、豪華客船はどんどんと近づいてくる。

 ……ん?

 デッキに誰か立っている。
 なにかこちらを指さしているような……そんな気がした。


 ***  ***

「ここが日本のKOBE……Dungeon Broadcast(ダンジョン配信)のホンバーなのねっ!!」

 少したどたどしい日本語を操りながら、一人の少女が豪華客船のデッキに立っている。

 顔立ちは少しあどけなく、歳は11~2歳だろうか。
 さらさらとなびく金髪。
 しっかりと着込まれた青いブレザーの胸には双竜のエムブレム。
 黒タイツにストラップシューズは女子中学生の制服のようだがひときわ目立つのは海風にはためくマント。

「ふふ……このアリス、サムライウォリアー奮いが止まらないわ!」

 ビシリ、と港に隣接したビルに指を突きつけるアリス。
 この街には、Yuyuがいる。
 優れたDungeon Seeker(ダンジョン探索者)でフォロワー170万人を超えるスーパーインフルエンサー。

「よお~っし! ショウブだ、ユユ!!」

 興奮してぴょんぴょんと飛び跳ねるアリス。

 英国が送り出す最終兵器《スーパーアイドル》、誰が呼んだかクロフネ・アリス……アリス・ブラックシップとは彼女の事である。

「アリス、そろそろ下船の準備をいたしましょう」

「Oh、
 もうそんな時間なのね」

 この落ち着いた女性の名前はレイニ。
 飛行機の行き先を間違えて着いてしまった、オキナワで契約した凄腕エージェントだ。

 日本のダンジョンや配信事情にも詳しい。
 一人で出来ると実家を飛び出してきたアリスだが、やはり専門家の助けは必要だ。

 アリスはご機嫌で、レイニの後に付いていくのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

ダンジョン世界で俺は無双出来ない。いや、無双しない

鐘成
ファンタジー
世界中にランダムで出現するダンジョン 都心のど真ん中で発生したり空き家が変質してダンジョン化したりする。 今までにない鉱石や金属が存在していて、1番低いランクのダンジョンでさえ平均的なサラリーマンの給料以上 レベルを上げればより危険なダンジョンに挑める。 危険な高ランクダンジョンに挑めばそれ相応の見返りが約束されている。 そんな中両親がいない荒鐘真(あらかねしん)は自身初のレベルあげをする事を決意する。 妹の大学まで通えるお金、妹の夢の為に命懸けでダンジョンに挑むが……

休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった… それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく… ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し
ファンタジー
 ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。  しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

処理中です...