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第22話 (閑話)タクミとユウナの華麗なる1日

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「ういっくし!!」

 俺の一日は、いささかおっさん臭いユウナのくしゃみから始まった。

「あう~?
 花粉の季節は終わったよね~?
 誰か噂してるのかな~?」

「腹出して寝てたからだろ?」

「へへ~、ゲームが盛り上がっちゃって」

 豪邸に引っ越したというのに、ユウナの生活は相変わらずだ。

 勉強を頑張ったご褒美として、プチシューを掛けたゲーム対決をしていた俺たち。
 連勝して念願のプチシューを頬張ったユウナは、そのままソファーで寝落ちしてしまった。

 小学生のような寝つきの良さだが、いちど寝入ると基本的に朝まで起きないユウナを俺は寝室まで運んでやった。

 なかなか起きてこない彼女を起こしに行くと、豪快にお腹を出して寝ているユウナの姿があった。

「タクミおにいちゃんのお姫様抱っこが気持ち良すぎたからだよ、マジマジ!」

「はいはい」

 寝癖を付けたユウナの様子からは、アイドル配信者ゆゆの面影は全く感じられない。

「ほらはやく飯を食え。遅刻するぞ?」

「はうっ!? もうこんな時間~!?
 まだ髪もセットしてないのに~」

 ドタバタと慌て始めるユウナ。
 これが俺たちの朝のルーティーンである。


 ***  ***

「へへ~、間に合ったぁ」

「到着予想時刻:始業3分前は、間に合ったとはいえないぞ?」

 ドタバタな朝を乗り越えたユウナは、クルマの助手席でふにゃふにゃと笑っている。

 清楚な水色セーラー服、艶やかな黒髪におさげ、傷一つないローファーと見た目は完璧なお嬢様だ。
 遅刻しかかっていることを除けば。

「今まではいったいどうしてたんだ?」

 ゆゆのプロデュースを一手に手掛けるマサトさんは、家を空けることが多い。
 電車通学だったユウナが毎日遅刻せずにいられたとはとても思えないんだが。

「しってます? タクミおにいちゃん。
 ウチのガッコ、遅刻だけじゃ留年しないんですよぉ!」

「…………」

 ぺしん!

 呆れた俺は、信号待ちの際にユウナのおでこにデコピンをお見舞いする。

「ふぎゃっ!?」

「これ以上お馬鹿になったらどうするんですかぁ!
 高校4年生のゆゆとか、ヤバすぎ!」

「そうだな、世界初だし一部の層にはウケるかもしれないな。
 制服にもコスプレ感出るし」

「マニアックすぎる!?」

 かくして、信号待ちに引っかからなかった俺たちの車は、何とか始業5分前に学園の校門前に滑り込むのだった。


 ***  ***

「それでは、行ってまいります」

 ロングスカートを両手で持ち、優雅に一礼するユウナ。
 彼女がゆゆであることは一部の親しい友人しか知らないそうなので、だんきち(の中の人)とばれないよう変装している俺。

 お嬢様を送迎する付き人、くらいには見えるだろうか?

「ユウナさん、今日は間に合いましたね」
「そういえば、急に車通学に変更されるとは、何かありましたの?」

「いえ、家の事業の都合で、急遽学園から離れた場所に引っ越しまして」

「まぁ!」

 ……さすがにアイドル配信者である。
 お嬢様ムーブも完璧らしい。

 級友たちに見えないよう、小さく手を振るユウナに手を振り返すと、俺はクルマを発進させた。


 ***  ***

「やっぱりソロだとレベルは上がらないなぁ」

 ユウナが学園に行っている間は自由時間だ。

 俺は少しでもレベルアップしようと表層ダンジョンに潜ったのだが……。

 ======
 ■基本情報
 紀嶺 巧(きれい たくみ)
 種族:人間 25歳
 LV:10
 HP:236/236
 MP:30/30
 EX:3,173
 攻撃力:15
 防御力:40
 魔力:2
 ……

 ■スキルツリー
 ☆クリーナー・アインス 倒したモンスターを魔石に変換する。
 ↓
 ☆クリーナー・ツヴァイ 一定の確率で活動中のモンスターを魔石に変換する。
 ↓
 ☆クリーナー・ドライ 支援対象の”無駄”を消去し、行動を最適化する。
 ↓
 ☆クリーナー・フィーア 発動した魔法を消去(イレイズ)する。消費MP10
 ……
 ======

 最低限の戦闘用ステータスを得たのでスライムを狩ってみるのだが、経験値が増えない。
 どうやら俺は、ゆゆとダンジョン配信することでしか経験値を得られないらしい。

「レアすぎるだろ……」

 マサトさんを通じてダンジョン庁に照会してもらったが、記録が残っている限り初めての事例らしい。

「悩んでても仕方ない。準備するか」

 いつの間にか時刻は14時……そろそろユウナを迎えに行く時間だ。
 俺はダンジョン控室にあるシャワーで汗を流すと、ユウナの学園に向かった。


 ***  ***

「へへ~♡ マンゴーパフェ♪」

 港の見えるカフェで、俺はユウナにスイーツをごちそうしていた。
 ユウナいわく、おにいちゃんとのデート♡、らしいが俺に言わせれば餌付けである。

 トレーニングや配信はとてもエネルギーを使うので、その前にはこうして甘い物を食べさせてやるようにしている。

「おいし~♪♪」

 パクリとパフェをひとくち、満面の笑みを浮かべる。

 ……まあこの笑顔を見たくてやってるんだけどな。
 美少女のスイーツ顔ほど可愛いものも、そうはない。

「そういえば、ようやくホワくんがウチに来るらしいぞ。
 検疫が終わったってマサトさんから連絡があった」

「ほんと!?
 やった~! これで毎日もふもふできるよ!」

「配信に出てもらうのもアリかもな!」

「あ、それ、超アリ!!」


 ぼおおおおーーーーーっ!


「お?」

 たわいもない会話をしていると、港全体に響く汽笛の音が。
 沖の方に視線をやると、ビルよりデカい豪華客船が港の中に入ってくるところだった。

「うわぁ♪
 ねえねえタクミおにいちゃん!
 いつか豪華客船で配信!もありじゃない?」

「ユウナの食っちゃ寝で終わりそうだけどな」

「ぷぅ、ひどい!」

 話している間にも、豪華客船はどんどんと近づいてくる。

 ……ん?

 デッキに誰か立っている。
 なにかこちらを指さしているような……そんな気がした。


 ***  ***

「ここが日本のKOBE……Dungeon Broadcast(ダンジョン配信)のホンバーなのねっ!!」

 少したどたどしい日本語を操りながら、一人の少女が豪華客船のデッキに立っている。

 顔立ちは少しあどけなく、歳は11~2歳だろうか。
 さらさらとなびく金髪。
 しっかりと着込まれた青いブレザーの胸には双竜のエムブレム。
 黒タイツにストラップシューズは女子中学生の制服のようだがひときわ目立つのは海風にはためくマント。

「ふふ……このアリス、サムライウォリアー奮いが止まらないわ!」

 ビシリ、と港に隣接したビルに指を突きつけるアリス。
 この街には、Yuyuがいる。
 優れたDungeon Seeker(ダンジョン探索者)でフォロワー170万人を超えるスーパーインフルエンサー。

「よお~っし! ショウブだ、ユユ!!」

 興奮してぴょんぴょんと飛び跳ねるアリス。

 英国が送り出す最終兵器《スーパーアイドル》、誰が呼んだかクロフネ・アリス……アリス・ブラックシップとは彼女の事である。

「アリス、そろそろ下船の準備をいたしましょう」

「Oh、
 もうそんな時間なのね」

 この落ち着いた女性の名前はレイニ。
 飛行機の行き先を間違えて着いてしまった、オキナワで契約した凄腕エージェントだ。

 日本のダンジョンや配信事情にも詳しい。
 一人で出来ると実家を飛び出してきたアリスだが、やはり専門家の助けは必要だ。

 アリスはご機嫌で、レイニの後に付いていくのだった。

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