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#13 唯一無二の
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とある土曜日。悠希の部屋のベッドで、天音と悠希は抱きしめあい眠っていた。
天音はふと胸にあたる感触に目を覚ます。
「ん……」
見れば悠希がそこに顔を埋めている、ゆったりとした呼吸から眠っていると判る。
(……かわいいな……)
まるで赤ん坊だ。寝息は聞こえるが、口がふさがっていないか急に心配になってしまう。見えるのは額だ、どうやら目のあたりを乳房に当てているようだが確認したい。
(でも動いたら、目覚ましちゃうよね……)
できるなら眠っていてほしい、天音はどうしたら確認できるのか考え、スマートフォンのカメラを使おうと思いつく。
ゆっくり手を伸ばし枕元に置いたそれに手を伸ばす、うまくそれを手に取ると左にスワイプしてカメラを起動した。インカメラにし悠希の横顔をレンズに入れる。
(あ、大丈夫そ)
口元が乳房の下のラインから出ているのが見えた、安心するとともになんともそそられる姿に妙な気持ちが湧いてくる。
(写真撮っちゃおうかな……でもこのまま撮ったら私のおっぱい丸見え……)
横からではダメだ、悠希の手でうまく自分の乳房のトップくらい隠してくれていればいいが、そんなお願いをできる状態でもない。自分の手では撮影と同時ではうまく隠せそうにない。
(上からなら……なら……)
自分から見えるのは悠希の脳天と額だが、うずもれている姿がなんともかわいいのは事実だ。そこにスマートフォンを構える。
画角を調整しシャッターを切った、当然音が鳴る、その瞬間悠希が「ん」と声を上げ、天音の体にかかっていた腕が動く。
「……なんか、撮った……」
「あ、ごめん、起こしちゃったね、スクショしたんだ」
慌てて画面を消すとベッドの上に放り出し視線を落とした、乳房に顔を埋めながら見上げる悠希と目が合う、寝ぼけた顔がかわいいと胸がきゅんとしてしまう。
「……何撮ったの?」
「え、あ、えーっと、SNS見てたらおいしそうなパフェを見つけて、今度食べに行く参考に」
「見せて」
「えっ」
「俺も見て食べたいと思ったら行く、今日行こう、写真見せて」
「え、うーん、待って、待って……」
ありもしない写真の話をしてしまった、どうしようと思っていると天音のスマートフォンが着信を知らせる、電話だ。
画面を見て「あら」と思う、よりによって千尋からだった、今は悠希との甘い時間の最中だ、無視をしておこうと思ったが。
「千尋だよ、出ないの?」
画面が見えた悠希が促す。
「だって、今は悠希くんいるじゃん……」
「いいよ、わざわざ電話してくるなんて大事な話なんじゃないの?」
「う、うーん……なんだろ……」
戸惑いつつも通話ボタンを押す、こんな時に限ってビデオ通話だった、天音の方はカメラをオフにする。
『あ、天音―?』
「うん、どうしたの?」
『あ、なんか嫌そうな声、ははーん、お兄ちゃんといるんだな?』
「うん、そう。だからあとで折り返すんでもいい?」
『えー、ちょっとだけ時間ちょうだいよ。天音が欲しいって言ってた『ル・アーフェ』のマグカップさあ。買おうと思って店まで来たんだけど、写真送ってくれたやつはもう廃盤なんだって』
来月の天音の誕生日にプレゼントはなにがいいとか聞かれ、大阪で展開している食器店のオリジナルのマグカップをお願いしていた、ネットの拾い画を送付したが、それがないという。
『だから別のものをさ。改めて考えてくれてもいいし、でもル・アーフェのがよかったら、似たようなものでもって思って、お店の人に許可もらって電話してんのよ』
話している最中にも、悠希は天音の胸に顔をこすりつけてくる、天音は睨みつけるが見えるのは悠希の頭頂部だけだ。
「ん……え、あ、ありがとう」
『なんかいいのあるかなあ』
これは?これは?と千尋が画面にマグカップを映し出す、天音はふむふむとそれを見ていたが、悠希は天音を離すどころか腰をしっかりと押さえつけると足の間に自身の足を押し込んできた。
「えっ、ちょ、悠希くんっ、今は電話中……っ」
小さな声で拒絶し、体もずらそうとするが悠希の力に敵わない。戸惑う間に悠希の大腿が足の付け根に押し当てられこすられる、もどかしい快感に小さな声が出た。
「千尋に、聞かれちゃう……!」
小さな声で叫ぶが、悠希は笑いを含んだ声で答える。
「声を出さなかったら、大丈夫」
「え、無理……っ」
なんとか逃げようとするが、逃げ道はまったくなかった。腰は悠希の腕に押さえられ、足寄りに逃げようにも悠希の足があり、頭寄りへは額に押し付けられたキスで固定されている。
悠希は空いた指で天音の割れ目を開き、より足が触れやすくした。もう一方の手は優しく腰をなぞり続ける。好きなように責められ、天音は唇を噛み、あるいは口を大きく開き息を吐くことで声を抑えた。
「……千尋……!」
なんとか平静を装い声をかける。
「ごめん、やっぱかけ直すわ、なにがいいか、探しておく、し……!」
途切れ途切れに伝えた、千尋からはのんきな「そう?」と答えがある。
『あらん、もしかして、お楽しみの最中でした?』
言われ、天音の頬に朱が上る。
「なに言ってんの、違《ちが》……やんっ!」
返答に意識が集中したところへ、悠希の指が敏感な場所をつまみ上げたため大きな声が出てしまった、天音は慌てて空いた手で口を塞ぐが。
『昼間っからお忙しいわね。これまた失礼しました』
笑いを含んだ声がする。
「ごめんね、千尋、ありがと」
悠希が謝ると、あーやだやだと言って電話を切ったのは千尋からだった。
「も、悠希くん、サイテー……」
文句を言う天音の手からスマートフォンを取り上げ床に置く。
「前やられたお返し」
悠希は意地の悪い笑顔で言い、天音の体を仰向けにさせるとその体に覆いかぶさる。
「お返し、て……」
呟いてから思い出した、以前通信アプリで三人でやり取りをしていた時のことだ。
悠希が目の前でにっと微笑んだ、その顔が近づいてくる。
「え、悠希く……」
呼ぶ声が塞がれた、口内を探りながら、手は天音の肌を撫で、下半身は押し付けられる、悠希のものは十分猛っていた。
「え、起きたら横浜行こうって……!」
横浜駅まで行き、食事をしようと言っていたのだ。
「ご飯は近所で済まそう、遅くなるなら俺のバイト先でもいいし」
悠希も比較的緩く働かせてもらっている、就業前に食事を摂ることは可能だった。
「お店は来ないでって言ってたじゃんっ」
「俺が保護者になるから大丈夫」
勝手なことをと文句言う天音の口のキスで塞いでからすぐに体を起こした、笑顔で天音の膝を抱え引き寄せる。
「なんか、すっかり男じゃん!」
性自認が女性だった時はどこか遠慮がちだったが、最近の悠希は猛々しく求める、それは嬉しく思うが。
「天音がかわいいからさ。つい、もっともっとってなるんだよね」
「んもう、バカっ!」
言いながら拒絶はしない、悠希の指が与えてくれる快楽に文句は甘い声に変わった。刺激に天音の壺から蜜が溢れ出すと悠希はゆっくりと中へ入って行く。
「ん……っ」
悠希は天音の右足を左方向へ動かし体を横向きにした、天音は足に合わせて動き完全に横向きになったが、
「顔はこっち、おっぱい見せて」
悠希が優しく言って右手を取ると上半身のみねじるように仰向きにさせた、天音は素直に体を開き姿をさらす。
悠希は愛らしい天音の姿を見下ろした。ほんのり色づく滑らかで白い肌が眩しい、悠希が動けば同じリズムで動く乳房にそそられた、女性らしいウエストの締まりと臀部の丸みは以前は妬ましいほど羨ましかったが、天音のそれは征服欲を駆り立てる。
天音と手を繋いだまま、その手で臀部の丸みをなぞっていたが。
「──ねえ。天音の体でさ、まだ俺が触ってないとこが、あるんだよね」
「え、触ってないとこ……?」
そんな馬鹿なと思う、頭の先から指の先まで、その指の間さえ、悠希の指も舌も唇も触れていない場所などないはずなのに。
「──ここ」
親指の腹を押し付けたのは、尻のすぼみだ。
「え、そこ、触ったこと、あるじゃん……」
現に今もだが、前戯や後背位の折に触れられたことは度々あるが。
「の中」
指にぐいと力が入り、天音の体がびくりと震える。
「え、や、そんなとこ触んないよ……!」
「──締まった」
「や、ばかっ、もう離して……!」
まだつないだままの手を動かせば悠希の手も離れるだろうに、やはり男女の力の差か、悠希の手を外すことができなかった。
「気持ちいい?」
何かを押し込むように指の腹をぐいぐいと押し付けて悠希は聞く。
「よくないっ、汚いとこ触られてやな気持ち!」
「汚くない、天音なら全部キレイ」
「んもうぉ、そうじゃないぃ」
「舐められて嬉しそうな声出すくせに」
「ち・が・う!」
逃げようと体を動かすが、右手は悠希に掴まれたままで下半身も深々と刺さったままで叶わない上に、暴れれば悠希は気持ちいいなどと言い出し、天音は慌てて動きを止めた。
「体は気持ちよさそうに反応してるけどね」
指の先を使い軽く掻くようにすれば、天音の体は面白いようにビクビクと反応した。
「もう、意地悪! 離して!」
手を払い両腕で体をずり上げるように逃げたが、悠希は天音の右足を抱え簡単に阻止する。
「ちょっとだけ」
悠希は腰を動かし続けながら甘えた声で言った、
「今はいやっ、今度にして!」
今この時になど、本当に頭のネジが全部吹き飛んでしまいそうだ。
「今度って?」
「今度は今度……っ、とにかく今は……!」
言うが悠希はなおも諦めていないようだ、今度は人差し指の先端をその場所に押しあてる、ほんのわずかに体内に侵入してきて天音は焦る。
「悠希くんっ」
「判った判った、さすがにきつそうだから、今、無理矢理はやめる。ゆっくり開発しようね」
「開発!?」
驚く天音の右足を今度は右へやって体を開かせると、天音の二の腕を掴み体を引き起こした。
「やん……っ」
下半身がぴったりと密着する、天音のその場所がいやらしい音を立てた。心地よさそうな顔でため息を吐く天音の頬を両手で包み込み悠希は微笑む。
「もっともっと俺が知らない天音を知りたい。俺だけが知ってる天音を見たい」
熱い言葉に天音はため息交じりに名を呼んだ、その口を悠希はキスで塞ぐ。
(うん……悠希くんになら、なにされてもいいや……)
天音は悠希の滑らかな背を手の平で撫でた。かつてはそこにあった長い髪がない、邪魔だねと笑っていたのが懐かしく思えた。髪を束ねる仕草すら素敵だと見ていたのがついこの間だ。そんなことに一抹の不安は過ぎる──自分は悠希の人生を変えてしまったのではないだろうか──それでもこうして悠希が求めてくれることは間違いない、自分はここにいていいのだと思いたい。悠希が求めてくれる存在でよかったと。
☆
結局横浜駅まで出るのは諦め、中華街で食事を摂ることにした。人ごみの中、手を繋ぎ談笑しながら歩いていると、悠希はすれ違う男性と肩がぶつかってしまう。
「痛《いった》……んもう」
出た言葉はかわいいらしく、しかも仕草も女性のように痛みを訴える。
「大丈夫?」
「うん……人多いね、さすがは休日」
と言っている間に、今度は天音がかなりの勢いで体当たりされた。
「きゃ……っ」
小柄な天音は思い切りバランスを崩してしまう、瞬間悠希は天音の肩を抱き寄せ支えると、行き過ぎる男に声をかける。
「おい、気をつけろ」
低く凄みが効いた声は天音を守るための言葉だ、天音はきゅんとしてしまう。言われた男は驚き足を止めると天音に謝り歩み去った。
「大丈夫だった?」
打って変わって優しい声で言われ、天音はむしろ寂しげな笑みを浮かべる。
「無理してない?」
突然の質問に悠希は驚く。
「なにが?」
「私が好きって言ったから、気にして男の子でいようとしてない?」
質問の意図は判った、この数年女性らしくしようと身についたくせはそうは抜けずつい出てしまう、それが天音を不安にさせている。
「無理なんかしてないよ。むしろ気が楽になった」
隠しているのはやはり後ろめたかった、女性になりたいと思っていたのは事実だが、そのしがらみから逃れ晴れやかな気持ちになっているのも確かだ。性別適合手術を金がないなどを言い訳にして後回しにしていたのは、結局その勇気がなかっただけだろうと今なら思う。自分は結局何者のか──その答えはまだ先でもいいような気がしている。
しかし天音には悠希の笑顔が辛い。
「でも、もしさ、この先やっぱり女の子だなって思ったら、遠慮なく言ってね。私は本当にどっちの悠希くんも好きだから、女性になることは応援する。悠希くんさえよければ、レズとか言われても全然気にしない」
「天音……」
天音の愛情に胸が熱くなる。
「あ、もちろん悠希くんが他の人を好きになったんなら諦めるよ! そこまでしつこくしない! もちろん男性ならそうだよねって応援したいし、女性でも納得する! でも──女性になっても私を選んでくれたら、やっぱり嬉しい。私は本当に、どっちでも気にしないから」
「うん」
素直な告白に悠希は天音を抱きしめていた。
「どっちの悠希くんもかっこいいから、別れんのやだ」
天音も悠希を抱きしめて言う。
「──俺も天音以外は無理だ。別れたいって言っても離さない」
男女など関係なく、人として見てくれることがどれほど嬉しいか。
「大好きだよ」
耳元の声に、天音は悠希の体を抱きしめ返事をする。
「私も!」
軽く口づけをしてから離れた、雑踏の中、店探しを再開する。
今度は人にぶつからないようにと悠希は天音の肩を抱いた、天音も密着するように悠希の腰に腕を回す。
目を合わせ微笑みあう、今この時に運命の人と再会できた喜びを味わった。
間違いなく互いに唯一無二の存在だと。
終
天音はふと胸にあたる感触に目を覚ます。
「ん……」
見れば悠希がそこに顔を埋めている、ゆったりとした呼吸から眠っていると判る。
(……かわいいな……)
まるで赤ん坊だ。寝息は聞こえるが、口がふさがっていないか急に心配になってしまう。見えるのは額だ、どうやら目のあたりを乳房に当てているようだが確認したい。
(でも動いたら、目覚ましちゃうよね……)
できるなら眠っていてほしい、天音はどうしたら確認できるのか考え、スマートフォンのカメラを使おうと思いつく。
ゆっくり手を伸ばし枕元に置いたそれに手を伸ばす、うまくそれを手に取ると左にスワイプしてカメラを起動した。インカメラにし悠希の横顔をレンズに入れる。
(あ、大丈夫そ)
口元が乳房の下のラインから出ているのが見えた、安心するとともになんともそそられる姿に妙な気持ちが湧いてくる。
(写真撮っちゃおうかな……でもこのまま撮ったら私のおっぱい丸見え……)
横からではダメだ、悠希の手でうまく自分の乳房のトップくらい隠してくれていればいいが、そんなお願いをできる状態でもない。自分の手では撮影と同時ではうまく隠せそうにない。
(上からなら……なら……)
自分から見えるのは悠希の脳天と額だが、うずもれている姿がなんともかわいいのは事実だ。そこにスマートフォンを構える。
画角を調整しシャッターを切った、当然音が鳴る、その瞬間悠希が「ん」と声を上げ、天音の体にかかっていた腕が動く。
「……なんか、撮った……」
「あ、ごめん、起こしちゃったね、スクショしたんだ」
慌てて画面を消すとベッドの上に放り出し視線を落とした、乳房に顔を埋めながら見上げる悠希と目が合う、寝ぼけた顔がかわいいと胸がきゅんとしてしまう。
「……何撮ったの?」
「え、あ、えーっと、SNS見てたらおいしそうなパフェを見つけて、今度食べに行く参考に」
「見せて」
「えっ」
「俺も見て食べたいと思ったら行く、今日行こう、写真見せて」
「え、うーん、待って、待って……」
ありもしない写真の話をしてしまった、どうしようと思っていると天音のスマートフォンが着信を知らせる、電話だ。
画面を見て「あら」と思う、よりによって千尋からだった、今は悠希との甘い時間の最中だ、無視をしておこうと思ったが。
「千尋だよ、出ないの?」
画面が見えた悠希が促す。
「だって、今は悠希くんいるじゃん……」
「いいよ、わざわざ電話してくるなんて大事な話なんじゃないの?」
「う、うーん……なんだろ……」
戸惑いつつも通話ボタンを押す、こんな時に限ってビデオ通話だった、天音の方はカメラをオフにする。
『あ、天音―?』
「うん、どうしたの?」
『あ、なんか嫌そうな声、ははーん、お兄ちゃんといるんだな?』
「うん、そう。だからあとで折り返すんでもいい?」
『えー、ちょっとだけ時間ちょうだいよ。天音が欲しいって言ってた『ル・アーフェ』のマグカップさあ。買おうと思って店まで来たんだけど、写真送ってくれたやつはもう廃盤なんだって』
来月の天音の誕生日にプレゼントはなにがいいとか聞かれ、大阪で展開している食器店のオリジナルのマグカップをお願いしていた、ネットの拾い画を送付したが、それがないという。
『だから別のものをさ。改めて考えてくれてもいいし、でもル・アーフェのがよかったら、似たようなものでもって思って、お店の人に許可もらって電話してんのよ』
話している最中にも、悠希は天音の胸に顔をこすりつけてくる、天音は睨みつけるが見えるのは悠希の頭頂部だけだ。
「ん……え、あ、ありがとう」
『なんかいいのあるかなあ』
これは?これは?と千尋が画面にマグカップを映し出す、天音はふむふむとそれを見ていたが、悠希は天音を離すどころか腰をしっかりと押さえつけると足の間に自身の足を押し込んできた。
「えっ、ちょ、悠希くんっ、今は電話中……っ」
小さな声で拒絶し、体もずらそうとするが悠希の力に敵わない。戸惑う間に悠希の大腿が足の付け根に押し当てられこすられる、もどかしい快感に小さな声が出た。
「千尋に、聞かれちゃう……!」
小さな声で叫ぶが、悠希は笑いを含んだ声で答える。
「声を出さなかったら、大丈夫」
「え、無理……っ」
なんとか逃げようとするが、逃げ道はまったくなかった。腰は悠希の腕に押さえられ、足寄りに逃げようにも悠希の足があり、頭寄りへは額に押し付けられたキスで固定されている。
悠希は空いた指で天音の割れ目を開き、より足が触れやすくした。もう一方の手は優しく腰をなぞり続ける。好きなように責められ、天音は唇を噛み、あるいは口を大きく開き息を吐くことで声を抑えた。
「……千尋……!」
なんとか平静を装い声をかける。
「ごめん、やっぱかけ直すわ、なにがいいか、探しておく、し……!」
途切れ途切れに伝えた、千尋からはのんきな「そう?」と答えがある。
『あらん、もしかして、お楽しみの最中でした?』
言われ、天音の頬に朱が上る。
「なに言ってんの、違《ちが》……やんっ!」
返答に意識が集中したところへ、悠希の指が敏感な場所をつまみ上げたため大きな声が出てしまった、天音は慌てて空いた手で口を塞ぐが。
『昼間っからお忙しいわね。これまた失礼しました』
笑いを含んだ声がする。
「ごめんね、千尋、ありがと」
悠希が謝ると、あーやだやだと言って電話を切ったのは千尋からだった。
「も、悠希くん、サイテー……」
文句を言う天音の手からスマートフォンを取り上げ床に置く。
「前やられたお返し」
悠希は意地の悪い笑顔で言い、天音の体を仰向けにさせるとその体に覆いかぶさる。
「お返し、て……」
呟いてから思い出した、以前通信アプリで三人でやり取りをしていた時のことだ。
悠希が目の前でにっと微笑んだ、その顔が近づいてくる。
「え、悠希く……」
呼ぶ声が塞がれた、口内を探りながら、手は天音の肌を撫で、下半身は押し付けられる、悠希のものは十分猛っていた。
「え、起きたら横浜行こうって……!」
横浜駅まで行き、食事をしようと言っていたのだ。
「ご飯は近所で済まそう、遅くなるなら俺のバイト先でもいいし」
悠希も比較的緩く働かせてもらっている、就業前に食事を摂ることは可能だった。
「お店は来ないでって言ってたじゃんっ」
「俺が保護者になるから大丈夫」
勝手なことをと文句言う天音の口のキスで塞いでからすぐに体を起こした、笑顔で天音の膝を抱え引き寄せる。
「なんか、すっかり男じゃん!」
性自認が女性だった時はどこか遠慮がちだったが、最近の悠希は猛々しく求める、それは嬉しく思うが。
「天音がかわいいからさ。つい、もっともっとってなるんだよね」
「んもう、バカっ!」
言いながら拒絶はしない、悠希の指が与えてくれる快楽に文句は甘い声に変わった。刺激に天音の壺から蜜が溢れ出すと悠希はゆっくりと中へ入って行く。
「ん……っ」
悠希は天音の右足を左方向へ動かし体を横向きにした、天音は足に合わせて動き完全に横向きになったが、
「顔はこっち、おっぱい見せて」
悠希が優しく言って右手を取ると上半身のみねじるように仰向きにさせた、天音は素直に体を開き姿をさらす。
悠希は愛らしい天音の姿を見下ろした。ほんのり色づく滑らかで白い肌が眩しい、悠希が動けば同じリズムで動く乳房にそそられた、女性らしいウエストの締まりと臀部の丸みは以前は妬ましいほど羨ましかったが、天音のそれは征服欲を駆り立てる。
天音と手を繋いだまま、その手で臀部の丸みをなぞっていたが。
「──ねえ。天音の体でさ、まだ俺が触ってないとこが、あるんだよね」
「え、触ってないとこ……?」
そんな馬鹿なと思う、頭の先から指の先まで、その指の間さえ、悠希の指も舌も唇も触れていない場所などないはずなのに。
「──ここ」
親指の腹を押し付けたのは、尻のすぼみだ。
「え、そこ、触ったこと、あるじゃん……」
現に今もだが、前戯や後背位の折に触れられたことは度々あるが。
「の中」
指にぐいと力が入り、天音の体がびくりと震える。
「え、や、そんなとこ触んないよ……!」
「──締まった」
「や、ばかっ、もう離して……!」
まだつないだままの手を動かせば悠希の手も離れるだろうに、やはり男女の力の差か、悠希の手を外すことができなかった。
「気持ちいい?」
何かを押し込むように指の腹をぐいぐいと押し付けて悠希は聞く。
「よくないっ、汚いとこ触られてやな気持ち!」
「汚くない、天音なら全部キレイ」
「んもうぉ、そうじゃないぃ」
「舐められて嬉しそうな声出すくせに」
「ち・が・う!」
逃げようと体を動かすが、右手は悠希に掴まれたままで下半身も深々と刺さったままで叶わない上に、暴れれば悠希は気持ちいいなどと言い出し、天音は慌てて動きを止めた。
「体は気持ちよさそうに反応してるけどね」
指の先を使い軽く掻くようにすれば、天音の体は面白いようにビクビクと反応した。
「もう、意地悪! 離して!」
手を払い両腕で体をずり上げるように逃げたが、悠希は天音の右足を抱え簡単に阻止する。
「ちょっとだけ」
悠希は腰を動かし続けながら甘えた声で言った、
「今はいやっ、今度にして!」
今この時になど、本当に頭のネジが全部吹き飛んでしまいそうだ。
「今度って?」
「今度は今度……っ、とにかく今は……!」
言うが悠希はなおも諦めていないようだ、今度は人差し指の先端をその場所に押しあてる、ほんのわずかに体内に侵入してきて天音は焦る。
「悠希くんっ」
「判った判った、さすがにきつそうだから、今、無理矢理はやめる。ゆっくり開発しようね」
「開発!?」
驚く天音の右足を今度は右へやって体を開かせると、天音の二の腕を掴み体を引き起こした。
「やん……っ」
下半身がぴったりと密着する、天音のその場所がいやらしい音を立てた。心地よさそうな顔でため息を吐く天音の頬を両手で包み込み悠希は微笑む。
「もっともっと俺が知らない天音を知りたい。俺だけが知ってる天音を見たい」
熱い言葉に天音はため息交じりに名を呼んだ、その口を悠希はキスで塞ぐ。
(うん……悠希くんになら、なにされてもいいや……)
天音は悠希の滑らかな背を手の平で撫でた。かつてはそこにあった長い髪がない、邪魔だねと笑っていたのが懐かしく思えた。髪を束ねる仕草すら素敵だと見ていたのがついこの間だ。そんなことに一抹の不安は過ぎる──自分は悠希の人生を変えてしまったのではないだろうか──それでもこうして悠希が求めてくれることは間違いない、自分はここにいていいのだと思いたい。悠希が求めてくれる存在でよかったと。
☆
結局横浜駅まで出るのは諦め、中華街で食事を摂ることにした。人ごみの中、手を繋ぎ談笑しながら歩いていると、悠希はすれ違う男性と肩がぶつかってしまう。
「痛《いった》……んもう」
出た言葉はかわいいらしく、しかも仕草も女性のように痛みを訴える。
「大丈夫?」
「うん……人多いね、さすがは休日」
と言っている間に、今度は天音がかなりの勢いで体当たりされた。
「きゃ……っ」
小柄な天音は思い切りバランスを崩してしまう、瞬間悠希は天音の肩を抱き寄せ支えると、行き過ぎる男に声をかける。
「おい、気をつけろ」
低く凄みが効いた声は天音を守るための言葉だ、天音はきゅんとしてしまう。言われた男は驚き足を止めると天音に謝り歩み去った。
「大丈夫だった?」
打って変わって優しい声で言われ、天音はむしろ寂しげな笑みを浮かべる。
「無理してない?」
突然の質問に悠希は驚く。
「なにが?」
「私が好きって言ったから、気にして男の子でいようとしてない?」
質問の意図は判った、この数年女性らしくしようと身についたくせはそうは抜けずつい出てしまう、それが天音を不安にさせている。
「無理なんかしてないよ。むしろ気が楽になった」
隠しているのはやはり後ろめたかった、女性になりたいと思っていたのは事実だが、そのしがらみから逃れ晴れやかな気持ちになっているのも確かだ。性別適合手術を金がないなどを言い訳にして後回しにしていたのは、結局その勇気がなかっただけだろうと今なら思う。自分は結局何者のか──その答えはまだ先でもいいような気がしている。
しかし天音には悠希の笑顔が辛い。
「でも、もしさ、この先やっぱり女の子だなって思ったら、遠慮なく言ってね。私は本当にどっちの悠希くんも好きだから、女性になることは応援する。悠希くんさえよければ、レズとか言われても全然気にしない」
「天音……」
天音の愛情に胸が熱くなる。
「あ、もちろん悠希くんが他の人を好きになったんなら諦めるよ! そこまでしつこくしない! もちろん男性ならそうだよねって応援したいし、女性でも納得する! でも──女性になっても私を選んでくれたら、やっぱり嬉しい。私は本当に、どっちでも気にしないから」
「うん」
素直な告白に悠希は天音を抱きしめていた。
「どっちの悠希くんもかっこいいから、別れんのやだ」
天音も悠希を抱きしめて言う。
「──俺も天音以外は無理だ。別れたいって言っても離さない」
男女など関係なく、人として見てくれることがどれほど嬉しいか。
「大好きだよ」
耳元の声に、天音は悠希の体を抱きしめ返事をする。
「私も!」
軽く口づけをしてから離れた、雑踏の中、店探しを再開する。
今度は人にぶつからないようにと悠希は天音の肩を抱いた、天音も密着するように悠希の腰に腕を回す。
目を合わせ微笑みあう、今この時に運命の人と再会できた喜びを味わった。
間違いなく互いに唯一無二の存在だと。
終
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