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#11 重なる嘘

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翌朝、鶴野克己は自室で朝日を眩し気に見上げる。

(……やぁっぱ……あの男は……絶対ユキだよなぁ……)

カメラロールにある写真に写り込む悠希の姿を確認した、そして記憶にある女性としての悠希の声や仕草とすり合わせる。
似てると言えば似ている、素面《しらふ》で真正面から応対すれば確証を得ただろう。
一番は印象的な目元のほくろ──それも鶴野は下から見上げる形で、もしかしたら位置が多少違うかもしれないが、右下という共通点は大きい。

(あのユキが、男……?)

女装家と呼ばれる人種がいることは知っている、悠希もその一人か──だが悠希がはるか達と女性用トイレを利用していたはずだ、ただの女装家がそこまでするのか。そもそも男であることを公表していない、男であるなら自分が口説いた時にその旨を伝えればいいだけだ、だが悠希はのらりくらりと躱すばかりだった。
そもそも女性がノーメイクでジーンズ姿になっただけで男と感じたことなどない──はっきりさせたい衝動に駆られる。

(男であることを隠している……? はるかとか、知ってんのかな……?)

聞いてみたいがしかし連絡は教えてもらえてはいなかった、自分の知り合いに連絡を知っている者はいないかと通信アプリにその旨を送ってみた。

(──直接聞いちまってもいいかあ……)

にやりと意地の悪い笑みが浮かんでしまう。
悠希のバイト先は知っていた、その晩早速、悠希がバイトするバーに足を運ぶ。

「いらっしゃいませ」

元気に出迎えた悠希を見つけ笑顔になる、カウンターの中にいる女性の悠希は鶴野の記憶にある姿だった。やはりどこから見ても女性にしか見えない。対して悠希はむっとした顔になってしまう。

「よぉ」

笑顔のまま案内されていない椅子に腰かける。店は全てカウンターだ、キッチンに向かう形で10席、出入り口から入った左手の窓に向かう形で5席ある。悠希は窓際の席を示したのに、鶴野は無視して悠希の真ん前の椅子に腰かけた。
悠希はすぐにその場から離れた、逃げたわけではない、背後の作業台にあるウォーマーからおしぼりを出すと鶴野の前に置く。

「ご注文は?」

悠希は面倒そうに聞いた、一歩避けた位置に立ったのは無意識だ。

「ビールくださーい」
「──どちらにしますか」

パウチされたメニューを示して言った、ビールのブランドだけが書かれたものだ。大手企業から地元のクラフトビールまで10種もあるのはマスターのこだわりだ。もっとも横柄にビールと注文するような輩には、無難な大手企業のラガービールで済ませてしまう。

「うーん、なんでもいいや、ユキちゃんのオススメで──あ、ごめん、ユキ君って呼んだ方がいいかな?」

悠希の表情がこわばる、女性でも『くん』という愛称がつかなくもないだろうが、わざわざ言い直すとは──なに、と問いかける前に鶴野はにやりと口元に笑みを浮かべた、悠希の表情に確証を得た。

「いやあ、いい女だと思っていたのにもったいないなあ、実は男だったなんて」

大きな声に悠希の背に冷や汗が流れる、他に客は一組いるのに。

「でも女の恰好なんかしてなくても美男子じゃん、俺も見惚れちゃったわあ、ジェラシー感じちゃう。女装家ってやつ? それともオカマさんって言ったほうがいい? しっかし上手に化けてるねえ、ずっと騙されてたわー。周りも誰一人疑っちゃいなかったっしょ。え、知らなかったのは俺だけ? 違うねえ、俺の周りもみんなユキ君はいい女って噂してたもんな。天音ちゃんはいつから知ってたの? ああ、ユキ君の妹の友だちなんだっけ、妹さんから聞いてたのかな? レズかよって残念だったけど、実はちゃんと男好きなんじゃーん、むしろ安心したわー。俺にもワンチャンあるってことっしょ」

悠希の戸惑いが判っていながら、鶴野は一方的に喋った。その言葉は悠希の耳に入らない、バレた、どうして──思うが心当たりは一つだけだ、昨日化粧もせずに会っている。理由も言い訳も思いつかず立ちすくんでいると。

「──ユキちゃん」

声をかけてきたのはマスターだ、悠希はびくりとしながら振り返る。

「悪いけど買ってきて欲しいものがあるんだ、頼めるかな」
「え……はい」

マスターが差し出すメモを受け取る、そこには「もう帰っていいよ」と書かれていた。

「……え……」

マスターを見れば小さくうなずく、勤務時間はまだまだあるがマスターの配慮だ。飲みに来たならば1時間や2時間はいるかもしれない、それまで買い物で時間を潰すなど無理だ──気遣いをありがたく思った。

「はい……行ってきます……」

小さく頭を下げバックヤードへ行き、荷物を手にすると出入口へ向かう。鶴野の後ろを通ることになる、鶴野に笑顔で「行ってらっさい」と声をかけられたが、悠希は目を合わせぬよう頭を下げて店を出て行く。
突然の休みをむしろ残念に思うが、だが鶴野の相手をする気にはなれない、悠希はまっすぐ家へ向かう。

暗い道を歩きながら思う、自分はいつまで嘘をついて生きるのだろう──こんな状態がいいわけがない。早く結論を出すべきだ、そう思う脳裏に天音の笑顔が浮かぶ。

マスターがビールを満たしたグラスと、お通しに小鉢に入れたナッツを出す。

「どうも」

ピルスナーグラスに注がれた黒ビールを鶴野はまじまじと見た、なんでもいいと言えばマスターが勧めてくれたのだ。

「ねえねえ。御主人はさ、石沢悠希ユキが本当は男って知ってんの?」
「──今は、一口では語れない多様性があります」

マスターは静かな笑みをたたえて答えた。

「内と外の性が合致していない者、男女の区別がない者、どちらでもある者──」
「やっぱ、そうなんだ」

言葉に鶴野はにやりと笑う。男が女性の恰好をしている──クロスジェンダー、女装家などと呼ばれる者もいるが、悠希はどこまでなのだろう。
マスターは静かな口調のまま語り続ける。

「私が子供の頃はこの世は男と女しかいなくて、男は女を愛し、女は男を愛するのが当然とされていた、でもそうじゃない人たちは黙して語らなかっただけ。辛く苦しく生きていた頃を比べれば、とても良い時代に会ったと思います」
「え、御主人もそっち?」
「いえ──私は違いますが」

友人にいた、性を間違えて生まれたことに苦悩し、内側の性に従い同性を愛した、それを恥と思い隠れるように生きている姿が痛々しかった。自らは理解を示したが、その友人は心を開いてくれなかったのは傷の深さを示しているのだろう。

「自分の性や嗜好を偽る必要はないと思うだけです。今は盛んに運動も催され、認知が広がったように思いますが」

友人も、今は胸を張って生きているだろうか──。

「えー、俺、無理ぃ、キモイー」

鶴野の言葉を、マスターは咎めることもなく微笑み答える。

「──それもひとつの意見です、否定はしませんが、人様の生き方に私見を押し付けるべきではないですね。ご自分だって生き方を否定されれば嫌な気持ちになりませんか」
「生き方ねえ」

ふむ、とそれには納得した。自分の交友関係についてありがたくも諭されることがあるが、自分は悪いことだとは思っていない。

「性や嗜好は一言では語り尽くせない、デリケートで複雑な問題です。多くの方がそれを受け入れ、皆で解決できる道を探し、困っている人たちが安らかに生きていける世の中になればいいと思います」

まさに悠希のことだとマスターは言いたい、だから放っておいて欲しいという願いを、さすがの鶴野も感じ取ったが。

「……性の多様性、ねえ……」

だがしかし、嫌悪感は拭えない。それは自分の性嗜好だ。





翌朝、悠希は通信アプリの着信で目を覚ます。

「あ、おはよー、悠希くん」

悠希の部屋で勉強をしていた天音が声を上げた、悠希はうーんと呻きながら体を起こす。

「さっきからいっぱいスマホ鳴ってるよー」
「うん……そうみたいね」

頭を掻きながら枕元で充電していたスマートフォンを手にする、ケーブルを抜くとすぐに通信アプリを起動した。
ほとんどははるかからの着信だった、なにがあったのかと思いながらその場所をタップする。

【サークルの掲示板に流れてきた】

そんな文字が目に入った。

【悠希《ユキ》が男だって】【すんごい聞かれてるけど、私は既読スルーしちゃってる】【まずは悠希《ユキ》から話を聞かないとって思って】【なんでそんな話に?】

随分さかのぼり出てきた文字に胸がえぐられる。
話の出どころは間違いなく鶴野だろう。自分のスマートフォンに掲示板やSNSの通知がないのは、自分がいない場所を狙って情報が拡散されているのだ。
面倒な相手に尻尾を掴まれてしまった、何年も隠してきたのに──臍を嚙んでも始まらない、吐き気を覚え口を押えてベッドに顔を埋める。

「どうしたの?」

天音はシャーペンを置くと四つ這いになって悠希の元へ行く。そっと背中を撫でれば悠希のスマートフォンの画面も見えてしまった。

「……悠希くん……!」

隠していたいと思っていたことが公になってしまった、文面を見た限りでは疑っているだけだが、これが根も葉もないことならば笑って済ませられるが──。

「大丈夫だよ……! 女の子だよって言お! 私も証言するよ、私なんかより女性らしい悠希くんだもん、きっとみんなも納得だから! あっそうだよ、この休み中に手術受けちゃおう! すぐには無理? 外国行くんだっけ、国内で探そうよ! お金なら私もパパに相談して用意してもらうから! きっと大丈夫だよ!」

悠希はうつむいたまま首を左右に振る、嘘を嘘で塗り固めることはよくないと知っている。

仮に性別適合手術を受けるにしても正直に告白を──深呼吸をした。カミングアウトはきっと多くの友人を無くすだろう、もしかしたら大学を辞めることになるかもしれない──それも致し方ない、今まで誰にも相談せずに女性として振る舞っていた、数多の非難を受け入れよう──悠希は覚悟を決めた。

【まだ寝てる?】

はるかからのメッセージを見ながら、震える指でスマートフォンを操作する、その様子を天音は隣で見守る。

【はるか、ごめん、その噂は本当です】【私は戸籍上は男です】【でも心は女性で、女性になりたくてずっとそのフリをしてた】【ずっと黙っててごめん】【秘密にしておけるなら、しておきたかった】

トランスジェンダーであることを初めて告白した、文章を打ち込んでいる間にもメッセージに既読が付く。
きっと嫌われた、責められるだろう、そう思いながらも続きを打ち込んでいると。

【なんだー! 実はそうかと思ってた!】

はるかからの返信に指が止まる、やはり男であることは隠しきれていなかったのか。

【そうなの?】
【あ、ううん、ごめん、ちょっと語弊あった】【噂を聞いて、ああ、そういえばあんなこと、こんなことって感じ】【ほら、うちらと旅行とか行きたがらなかったじゃない】【日帰りなら行くけど、泊まりとなると】【「バイトがあるから」って感じでさ】【この間のスーパー銭湯行こうって話も】【ごめんって行かなかったでしょ】

そのとおりだ、プールや海水浴はもちろん、薄着になることすら避けていた。

【ずっと騙しててごめん】

打ち込む文字が涙に滲む。

【騙されたなんて思ってないよ、あ、騙されたのか、うん、でも全然嫌な風には捉えてないよ】【ほんとう、気にしないで】
【言わなくてごめん】
【本当に大丈夫だったら】【あ、でもトイレとかも一緒に入ってたね】

どきんと心臓が跳ね上がったが、笑顔の猫のスタンプと共に送られてきたのは茶化そうとしてくれているのか。

【本当にごめん】

きっと気持ちが悪いと思うだろう。

【でも知ってるよ】【私たちが一緒でないときは、多目的トイレに入ってたよね】

見られていたのか……唇を噛み締めていた。

【でも本当意外、悠希《ユキ》が男性だったなんて】【悠希《ユキ》は誰よりも女性らしかったから】【私、悠希《ユキ》を見習わなきゃって思ってたくらいだったの】

そんな言葉に悠希はスマートフォンを握り締める、様子を見ていた天音は悠希の背をそっと撫でた。

【ずっと黙ってるの苦しかった?】【もっと早く気づいてあげればよかったね】【今まで辛かったね】

優しい言葉に涙が零れた、天音といい、皆こんなにも理解があるものなのか。ならば早くカミングアウトしておけばもっと気楽に生きて来れたか、ばれてしまったと苦しむこともなく──。

【ともあれ、噂は肯定していい? みんなには嘘はつかなくていいね?】【女だよって嘘ついて、証拠見せろ、服脱げ、は困るんでしょ?】

はるかの提案に、戸惑いながらも「うん」と答えていた。

【おけおけよ】【私は知っていたってことにしておくわ】

文章を読み、悠希は「え」と声に出ていた。

【そうねえ】【近いうちに戸籍も変更の予定だったから、誰にも言っていなかった】【私は入学時からその相談に乗っていたってことにしておこう】

共犯となり罪を被ろうというのだろう。

【でもそれじゃ】【はるかも嫌な思いをするんじゃ】
【これで去る友達なら要らないわ】【まあでも多分去らないって謎の自信はあるし、私にとっては悠希《ユキ》のほうが大事】

そんな言葉に涙が零れる。

【悠希《ユキ》は私にとって最大の理解者だった】【それは悠希《ユキ》が男性でも女性でも、変わらない】【私はあなたを親友だと思ってる】

読んだ悠希はありがとうと何度も声に出しながら、文字でも打ち込み送信する。

【さっきからスマホ鳴りっぱなしだから鎮めてくる】

はるかのスマートフォンの着信だろうと分かった。

【いつもなら寝てる時間だよね】

悠希が朝方までアルバイトをしていることは知っている、昨夜は鶴野のせいで帰宅が早かったがそこまでは、はるかには判らない。

【ごめんね、起こして】【悠希《ユキ》とはこれからも友達だよ】【今までどおりね】【大好きよ】
【ありがとう、はるか】【私も大好き】

打ち込んだ時、その頭を天音が叩く。

いった! 何よっ」
「よその女に好きなんて言わないで!」
「え!? その好きと違うじゃない!」

友人としての『好き』だ、天音への感情とは大違いである。

「でもダメ」

天音は唇を尖らせそっぽを向く。

「悠希くんの『好き』は、私だけのもの」

素直な嫉妬に悠希は笑顔になる。体を起こすと天音を抱きしめた。愛おしくなり髪を背中を撫でていると、やはりこのままでは、という気持ちが湧いてくる。

「……やっぱ、決めた」

耳元の決意の声に、天音は何事かと思う。

「ねえ、天音」

耳元で呼ばれ、天音は抱きしめ返しながら「ん?」と答える。

「髪、切ってくれる?」
「え!?」

悠希の綺麗な髪を撫でた。男性なのに柔らかくサラサラと流れる髪は、生まれつきのものなのか、日頃の手入れの成果なのか。

「なんで……もったいないよ! 私、悠希くんの髪、好き!」
「ありがと。でももういいの。嘘つくのも、疲れちゃったし」
「嘘?」
「女じゃないのに、女のフリなんて……」
「嘘じゃないじゃん! 噂なんかに負けちゃダメだよ! いつか女の子になるんじゃん! はるかさんにもそう伝えて……!」
「もう、いいよ」

体をやや離し、天音の頬を両手で包み込むと見つめあう。

「すんごい今更だけど、俺が天音を好きなのは、女としてじゃない、男としてだ」
「……悠希くん……」

悠希の瞳に映る決意を天音は感じ取った、一時の迷いではない、男性として生きると覚悟を決めたのだ。

「天音は、男でも女でも、どっちでもいいって言ってくれたじゃん」
「──うん」

悠希の決断を天音は受け入れた、腕を伸ばし悠希を抱きしめる、その体は震えていた。

「──むしろいいきっかけ。なんか中途半端でずっと自分が嫌いだったけど──もう隠さなくていいんだって、すっきりした」

それはどこまでが本心なのか、天音には判らなかった、だが確かめるまでもない。

「悠希くんが自分のこと嫌いでも、私はどんな悠希くんでも大好きだよ、世界で一番好き」

腕に力を込めて全身全霊で伝えた、悠希にも伝わったのか、ほうと息を吐き体から力が抜けるのが判った。

「──ありがと、天音。天音がそう言ってくれるの、すごく自信になる」

髪を撫で、頬を撫で、わずかに離れて天音の顔を覗き込んだ。愛らしい顔が嬉しそうに微笑む、悠希は耐え切れず唇を奪った。
天音は深呼吸と共にそれを受け入れ、悠希の首筋に手を当て、その手で悠希の髪を梳いた。

「……やっぱもったいないよ、髪は切らなくていいんじゃない? 似合ってるのに」
「でも伸ばし始めたのも女の子を意識してだし……ぶっちゃけ手入れも面倒だし」

それも女子ならばと思ってやっていたが、髪を切ってしまえば不要な手入れだ。

「うーん、どのみち、私が切ったらガタガタになりそうだから、嫌だなあ」

天音の言葉に悠希は微笑んだ。

「そっか、そうだよね……いつもの店に予約入れよ」

もちろん美容室だ、男性として現れたらびっくりするだろうか。

「服も買い直したいな、今日のデートは買い物ね」
「いいけど、いくつかはあるじゃん」
「言っても、実家で数日過ごす分だし」

おしゃれからも程遠いものだ、ワンマイルウェアならば許せるレベルだ。お出かけには不向きである。

「ふうん、判った、んじゃ今日のデートは洋服屋さんに……あ、じゃあ、着なくなった服、ちょうだい!」

天音は体を離し、嬉しそうに悠希の肩を叩く。

「もぉ……天音もポジティブだなあ」

自分の悩みなど小さく思えてしまう。

「でもどのみち、天音にはサイズが合わないんじゃない?」

身長差は20センチ以上だ、

「でもだって、悠希くんの服、可愛かったりおしゃれだったり……! とりあえず試着したい、着れればもらっていい!?」
「もちろん」

微笑みベッドから抜け出すと、クローゼットを開け天音に似合いそうな服を選びだした。天音は遠慮なく下着姿になるとそれらに袖を通し着られるか、似合うかを見定める。
勧められたワンピースのひとつを着た時、その背面のファスナーに悠希が触れる。
わずかに引き上げて悠希は手を止めた、鏡越しに天音を見れば、ワンピースを嬉しそうに見ていた天音と目が合う。

「やっぱり私が着ると、ロングスカートになっちゃうね」

天音が笑顔で言う、確かに自分が着ればミモレ丈だが天音が着ればマキシ丈になってしまう、しかしデザイン的にはおかしくならず着られそうだ。
悠希は笑顔で返事をし、服の中にするりと手を入れ天音の腰を抱いた。

「え、悠希くん、ちょ」

言葉は悠希の左手が足の付け根に吸い込まれたことで遮られた。右手はブラジャーの下のラインを撫でてからワンピースの肩に手をかけそれをずらした、それだけでワンピースはふわりと天音の足元に落ちる。

「悠……っ」

逃げようとする天音を乳房を掴むことで引き留める、左手は直接肌に触れ、天音の体は跳ね上がった。

「や……っ、こんなとこで……!」

立ったままでシャワーも浴びていないのにと拒絶するが、肩を唇で大きく吸われ天音の口から不覚にも甘い声が漏れる。

「可愛い……天音……」

鏡に映る天音の顔を見つめて悠希はつぶやいた、このまま押し倒してしまいたいが、まずはシャワーだなと思いながらも天音から離れることができなかった。
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