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#1 突然の別れ

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突然の別れだった。

小学校5年、年度末の春休みのある晩。同級生で親友の西沢千尋にしざわ・ちひろが引っ越しをすることになったと挨拶に来た。
東京の中野から母親の実家がある大阪へ。子どもたちにはあまりに急なことだったが、大人たちの間で話は着実に進んでいたのだ。
千尋の父が年初めに亡くなっていた、しばらくは母子家庭でやっていたが、行く末を心配した母方の家族に説得され、実家へ戻ることになったのだという。

その晩は千尋の兄・悠希ゆうきも一緒だった。
石館天音いしだて・あまねと千尋はお互いの家を行き来して遊んでいたので、何度も会っていた。2歳差の千尋の兄は天音からすれば大人でかっこよく、天音は憧れを抱き、いつも会えるのが楽しみだった。

「急にごめんね」

真摯に謝る姿に天音は涙ぐんだ、唐突な別れを実感できた。その時の声は耳に今でも残っている。
最後に泣きじゃくる千尋と抱きしめあって別れた、本当にこんなに突然引っ越しすることがあるのだと驚いた。

二人はスマートフォンを持っていた、日頃からやり取りはあり、引っ越し後も繋がり続け、日常の出来事の報告は続いていた。





そして、7年。

【ええ! 星林、受かったんだ!】

千尋から天音宛に通信アプリのメッセージが来た。それは返信だ、先ほど合格通知の写真を付けて報告をしてあった。
横浜の山手にある星林栄和学院の大学だ。小学校からの一貫教育を売りにしている学校法人で、外部受験も受け入れているが、7割は内部進学のため募集人数は絞られる。超難関校ではないが倍率はそれなりに高い、そこへ天音は合格できたのだ。

【すごいじゃん!】
【えへへ、頑張りました!】

ガッツポーズをする絵文字と共に返信する。

【春から、千尋のお兄さんの後輩だぜ!】

悠希ゆうきはなぜか大阪から遠く離れた横浜の大学へ進んでいた。千尋からは生まれ故郷に戻りたかったみたいと聞いたが、だったら都内の大学へ進むべきなのに何故わざわざ横浜を選んだのか、それは千尋には判らないことだった。

【うむうむ! お兄ちゃんにも伝えておくねー!】

もし落ちたらと思うと、悠希には言わないでと言ってあったのだ、初めての報告となる。

憧れはいつしか恋心になっていた。思えば悠希の優しさが印象的だった。天音自身は一人っ子で男子と言えば父かクラスメートとなるが、クラスメートの男子たちは言葉は乱暴で仕草は粗暴なイメージだ。だが悠希は違う、いつ会っても優しい言葉と笑顔で対応してくれた。天音と千尋は双方の家をよく行き来した、千尋を迎えに来ることもあれば、天音を自宅まで送ってくれたこともある。それすら嫌がる様子はなく、天音の拙い会話に付き合ってくれていた。
離れて判った、悠希への気持ちに。
その悠希に会いたいと、夏休みの折には大阪まで遊びに行ったが、部活だ勉強だと忙しくなってしまった悠希と会う機会はなかなか得られなかった。

その悠希が横浜の大学へ行くことになったと知らせを受けた時は東京まで会いに来てくれるかと期待もしたが叶っていないのは、しょせん『妹の友達』でしかないからだろう。
だから少しでも近くに行き、話す機会に恵まれたい、せめて姿を見たいなどと不純な気持ちで受けた大学だ。父には遠いと渋られたが、天音は一念を押し通す。

動機は不純でも、天音は夢の第一歩を踏み出した。
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