その罪の、名前 Ⅱ

萩香

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PAST/いくつかの嘘

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「……で、昔、俺と彼女が付き合っていたとして……翔太はそのことを全然知らない、とする」

 頭の中でいろいろな事項を整理しながら、遼は話を続けた。
 運ばれて来たシーザーサラダをつつきながら、翔太はふむふむと頷く。

「俺は、翔太には絶対幸せになってほしいから、昔のことは、翔太には絶対言いたくない。で、その彼女も、今はおまえのことが好きなんだから、……当然、俺とのことは、なかったことにしたいわけ」

「……複雑だな」

 翔太の呟きに、遼は頷いた。実際は、現実の人間関係の方がもっと複雑なのだが……例え話では、これが限界だろう。

「それで……俺と翔太は友達だから、どうしたってつきあいは一生続く。でも、過去のことを隠して……隠し通せば、それで……うまくいくかなと、思って」

「うーん」

 翔太は頭を抱えた。

「ちょっと、その例えがイマイチよく分からないんだけど……一個だけ、確認していいか?」

「うん」

「彼女が、今はオレを好きだっていうのはわかった。おまえが、オレに絶対に幸せになってほしいって思ってるのも、わかった。……それで……おまえの方はその彼女に、もうぜんぜん未練はないわけ? 過去のことだって、ちゃんと割り切れてるのか?」

「…………」

 遼は押し黙った。痛い所を、突かれた気がした。

 遼にとって恭臣とのことは、そう簡単に忘れられるような過去ではない。未練、という言い方が正しいのかはわからないが……。きれいに忘れてしまうには、あまりにも強烈な記憶だった。

「忘れて、ないだろ。……だから悩んでるんだろ」

 優しい目で顔をのぞきこまれて、遼は唇を噛んだ。

 忘れられる、はずがない。……だが、忘れなくてはいけないのだ。知香のために。そして、知香を選んだ、恭臣のために。


 
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