かくまい重蔵 《第1巻》

麦畑 錬

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(37)討ち手・お鈴の幕後 ②

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 お鈴は今年の夏、浅草の札差ふださしへ嫁ぐと決まっている。

 なにしろ、札差の主人が仇討騒動の話を聞きつけ、女だてらに度胸のあるお鈴に目を付けた。

 気の緩い跡継ぎ息子のために、肝の据わった嫁を欲しがっていたのだ。

『ぜひぜひ、あの半端な息子を叩き直してくださいませ』

 お鈴は義理の両親から、すでに鬼嫁として期待されている始末だった。

「けれど、よいのですか。お武家さまからの縁談もあったのに」

 姉を祝福しつつ、平兵衛はどことなく残念そうに眉を下げている。

 お鈴には商家からの縁談のほか、江戸城の門番を務める先手組同心からも、嫁入りの話を持ちかけられていた。

 こちらは、嫡男がすでに三十路へ差しかかっているため、とにかく子を産める若い女を欲しがっている様子だった。

「たしかに、お武家さまに嫁入りすれば、私は晴れて武家の女に戻れたことでしょう。けれど、私はやはり札差の家に嫁ぎたいのです」

「なぜですか」

 訊かれて、お鈴は縁談のあった、ふた月前に思いを馳せた。

 縁談に同席した札差の若旦那は、ひょうきんな物事をたいそう好む人物であった。

 両親が席を外した間、自前の滑稽話などしてみせて、お鈴を何度も笑わせたものだ。

 会ったばかりだというのに、二人の間にはあたかも親友同士のように快活な雰囲気があった。

 人の幸福を喜べる若旦那を、お鈴は傍で支えてやりたいと思っていた。

「私は今まで、家の名誉を守るためなら、自分を押し殺してもいいと思っていました。けれど今度こそは、自分自身の心に問い、共にいたいと思ったお方に付いてゆきたいのです」




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