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(35)かくまい人の対決②
しおりを挟む刃先が重蔵の目線へと昇った刹那、頭次が先に踏み込んだ。
重蔵の目と鼻の先へ、電光石火のごとく銀光が伸びてくる。
大きく後ろへ飛びのくと、頭次の四刃が虚空を引き裂いた。
毀れた刃のなかを風が走り抜け、空振った凶刃がごうごうと吠えた。
乱暴に振りかざされる頭次の刀を、重蔵はことごとく受け流す。
ところが、どれほど受け流されても、頭次は構わずに次の太刀を走らせた。
自身が斬られることなど、微塵も恐れてはいない。
ただ重蔵を殺すためだけに、全力の剣を叩きつけてくる。
無茶苦茶に崩れた太刀筋が、かえって見切りにくかった。
挙句、閉所での斬り合いしか知らぬ重蔵は、開放的な空間に慣れていない。
刃圏を制限ない、外での勝負には困惑した。
「逃げるな、こっちへ来いッ」
斬撃を流され、転倒しても、頭次は助走をつけて突っ込んでくる。
恐るべき、無尽蔵の体力である。
常に全力の斬撃を受け止めねばならず、重蔵の体には疲弊が募っていった。
しかも、一定の時をおいて襲いかかる眩量が、重蔵を追い詰める。
視界がぐるりと回転して、思いがけずよろめいた。
「でやあッ」
金切り声とともに、頭次が凶刃を叩き落とす。
それを刀の側で受けると、交わった剣の間で火花が散った。
擦れ合う狭間から、甲高い叫喚が上がる。
耳鳴りを凌ぐ痛烈な音に、重蔵は鼓膜がねじ切れそうになった。
「阿呆が、刃を自分のほうへ向けやがって」
ここぞとばかりに、頭次は棟に手を添えて刃を押し進めた。
刃が内側に向いていると、重蔵は刀身を手で支えられない。
鍔通り合いをするうちに、刀身が重蔵へと傾いた。
「あ、ぐ」
鋭利な刃が右肩に食い込んでくる。
刃の沈んだ位置から、重蔵の着物が赤黒く濡れはじめた。
頭次の猛攻は止まらない。
すぐに押しつけていた刀を離すと、つぎは重蔵の左腕めがけて切っ先で突く。
左腕へ毀れた刃を噛ませると、勢いよく脇に引いた。
「ああっ!」
無数に並んだ鋼の牙が、腕の肉を切り刻む。
拷問のような激痛に、重蔵はたまらず声をあげた。
復讐しか眼中にない頭次は、無様な仇の有様に狂喜した。
「一尾の兄貴、重蔵の野郎をそっちに送ってやるぜ!」
勝利を目前にして、頭次に余裕が生まれる。
もういちど苦しめてやろうと、重蔵の脇腹へ突きを入れた。
しかし、重蔵はすんでのところで腰をひねり、脇腹と腕の間に凶刃を迎え入れる。
切っ先を避けたと思いきや、素手で凶刃を捕まえてみせた。
「な」
それまで優位に立っていた頭次は仰天した。
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