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しおりを挟む各竜達の報告から始まった。
それぞれ前回の会合から、何らかの指示を受けていたようだ。
『・・・私は風のから何も聞いておらんぞ』
『ああ、風のからは私が報告を受けている、何の問題もない』
ならば、私は何故此処におるのだろうか?
その思いに鼻から深く息を吹き出す。
粘体は素知らぬ顔で鼻の上で寝ておる。
顔はないがな。
さして興味の湧かない報告がようやく済み、これから駄女神からの下知が伝えられる事になる。
母なる竜の直系とされる聖竜の王のみが、駄女神からの言葉を直に受けられるそうだ。
・・・聖のが兎にしか見えん。
全て粘体の所為だ。
『で、嵐の、あの場所は気に入っているのか?』
兎が鼻をひくつかせる。
『ああ、気に入っている』
感慨深さもある。
何せ粘体と出逢えた場所だ。
『では、引き続きあの場所で居を構えてくれ、人族は適当にあしらって構わない』
『・・・南の諸国は滅ぼさなくて良いのか?』
『オルティアーヌ様が、その人族を利用して何かをお試しになるらしい・・・第二の鉾だそうだ』
第一の鉾とは・・・つまり私だ。
それはどういう意味だ?
私では役不足という事か?
ならば私は最初から不要だったのではないか?
あの・・・駄女神め・・・
『嵐の!落ち着かんかっ!』
意図せず溢れた魔力が風となり暴れていた。
突き刺さる爪が石畳に罅を刻んだ。
そして私の眼球に粘体が突き刺さった。
『ぐあっ!』
そして粘体は私の鼻の上で勝利を掲げた。
『な、何をするのだ・・・』
そして私に落ち着けと示す。
『・・・そうだな、すまぬ』
そして私の間違いを正す。
謝る相手が違うと。
『・・・すまぬ、取り乱した』
そうだ。
今更ではないか。
落ち着く為に息を深く吸い込み目を閉じた。
私が不要なら・・・それで良い。
何の問題も無いではないか。
深く息を吐き出しながら目を開けた。
『・・・悪かった、続けてくれ』
良く出来ましたと粘体が褒めてくれる。
ククッ、これでは何方がお守りか分からぬな。
『あ、あの、嵐のが止まった?』
『・・・しかも詫びてる』
『ほっほっ凄い子じゃな、後で飴をやろう』
『五月蝿い、とっとと続けろ』
好き放題言いおって。
私を何だと思っておるのか。
『と、兎に角だ、何をされるのかまでは知らない、嵐のは今まで通りの生活をしてくれればいい』
『・・・分かった』
視線が粘体に注がれる。
その粘体は子が成した悪戯を謝る親のように、四方に頭を下げている。
・・・いっそ口に放り込んでおこうか?
『そこから西の地域は、引き続き地のに任せる』
『ああ、心得た』
『・・・他にはねえのか?』
火のが口を挟む。
『何がだ?』
『女神様の御言葉だっ』
『それだけだ』
『そうか』
舌打ちと共に押し黙る。
庇う訳ではないが、火のも悪い奴ではないのだ。
些か、信仰心があり過ぎるだけで。
聖のは言葉を偽れぬ故に致し方ないが、駄女神も何か労いの言葉を置いていけば良いのだ。
・・・駄女神だから仕方あるまいか。
後はいくつかの確認をして会合は終了となった。
これでもう暫くの間は、顔見せはしないで済むだろう。
これで残るは宴会のみだ。
聖のは人族の者に、供えた品を持ってくるように手配している。
おお、そうであった。
『すまぬ、アレを出してくれるか?』
そう粘体に問えば、頷き鼻の上から飛び降りた。
『聖の、此度は私も土産を持参した』
『御供えではないのだな・・・まあいい、で、何・・・おい、デカイな』
粘体が開いた大口から、熱量を伴ったままのダイオウイカの姿焼きを取り出した。
『・・・あれ?今の時空間?魔力感じなかったけど』
『あん?どっから出したんだ?』
『闇の、適当に切って皆に分けてくれるか?』
『・・・うん』
これも粘体の教え通りに急所を刺したやつだ。
色合いもキレイな白身に仕上がっている。
『焼いた物は妾も食した事はないのぉ』
『・・・俺もだ』
『嬢ちゃんが獲ったのか?ほれ飴をやろう』
『私に決まっているだろうが、雷の、あまり近寄るな』
粘体を拾い上げようと前脚を伸ばすと影が差し掛かった。
『何でスライムがここにいるんだ?』
『此奴は私のだ、火の、近寄るな』
『たかがスライムだろうが、体の中どうなってやがんだ?』
短い前脚よりも赤竜は口を使う。
伸ばそうとした頭を鷲掴みにした。
『此奴は私の大切な者だ・・・私は近寄るなと言ったな?』
込め過ぎた力に軋む音がする。
『は、離しやがれ!た、たかがスライムだろうがっ!』
『何を見ておったのじゃ・・・先程のやり取りで分かるものだろうに』
・・・何が分かったのだ?
『い、痛え!分かったから離してくれ!・・・んだよ、んじゃこいつが番だってのか?』
・・・番?
『どう見てもソレじゃろうが』
粘体を前脚の上に乗せた。
肉体言語で私に語りかける。
その意味を教えろと語りかけてくる。
ストンと腑に落ちた。
『私は・・・其方を・・・愛しているらしい』
そして粘体の動きが止まった。
『何じゃ、嵐のも今気が付いたのか?』
そうだ。
私が望んではいけないモノだ。
それ故に私は群れから出たのだ。
この体では・・・愛した者を殺してしまうから。
『我、此処に竜族として誓う、この命ある限り汝と共にあらん事を、生涯を懸けて其方を愛する事を・・・さあ、是と答えよ』
『いきなり番いの誓いかよっ!』
知ってしまったのだ。
ならば求めるしかあるまい。
愛を・・・絆を・・・
『さあ、是と答えよ』
『嵐の・・・お前・・・』
聖のが声を掛けてくる。
ああ、分かっている。
『何も言うな、もうどうしようもあるまい』
今更捨てる事など出来ぬのだ。
この粘体も、共に過ごした記憶も、此奴に抱く感情も。
そして粘体が動き出した。
『ぬ?其方・・・断ると申すか』
否を示した。
『ぶっ!スライムに振られてやがる!』
『これっ!火の!』
腹を抱えて火のが転げ回る。
雷のが首を咥えて引きずっていった。
『・・・駄目か?』
再度問えば、プルプルと震える。
怖がらせたのだろうか?
いつもの言語としての意図が感じられん。
『分かった・・・もういい、忘れろ』
怖がらせたかった訳ではないのだ。
何時ものように、楽しく過ごして欲しいだけだ。
そして鼻の上に戻してやる。
そこが其方の席だ。
これからも、この先もずっとだ。
おずおずとする粘体に話しかける。
『・・・構わん、気にするな・・・だがこれだけは覚えておいてくれ』
受け入れる必要はない。
ただ其処に在れば良い。
それでも・・・私には過ぎたるモノなのだ。
『其方を愛している』
私が受け入れるだけだ。
選ばれた英雄でもなく、世界の守護者としてでもなく、ただの竜として。
『聖の・・・先日迎えたばかりだ、日はある、後任の選定を頼む』
私も案外、火のと変わらんのだ。
摂理を曲げても使命を果たそうとしたのだから。
生物として不自然だった。
寧ろ、これが自然な状態なのだ。
駄女神も私が群れから離れてまで、生き続けるとは思っていなかったのだろう。
今ならそう思える。
『・・・分かった、オルティアーヌ様に伝えておく』
辛くはない。
望んだ最後はもう訪れない。
だが一介の竜として最後を迎えられる。
それを幸せだと感じられる。
『・・・ん?・・・其方の所為ではない』
何かしたのか?と粘体が問いかける。
誓いを断ろうがもう未来は変わらんのだ。
『違う、寧ろ其方のお陰だ』
教えてくれたのだ。
この孤独だった竜に其方が授けてくれたのだ。
『其方がいてくれるだけで・・・私は幸せだという事だ』
それが紛れも無い本心だ。
ぴろりん
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それにより一部の称号が統合され、消滅します
称号:嵐竜王の寵姫 を獲得しました
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