赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第8章 サウセント王国編

8-10 神の武器、スキル

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地面に刺さった大剣を見る。
この子はティダの相棒だ。
投擲されたとてそれは変わらない。
伝わるその意思は尊重すべきものだ。

(・・・だが、そうも言ってはおられんのだ)

そして柄を握る。

(・・・やはり良い剣だ)

持ち主を、相方を求め、オリハを拒絶する。

(・・・頼む、力を貸してくれ)

振るったとして扱えない訳ではない。
だが100%の力を出せたとしても、120%の力は出せない。

「ダメだ、かあちゃん・・・よっと」

投擲をした観客席らしき場所からティダとシャルが飛び降りて来た。
持ち主がそう拒絶した以上、剣の意思は折れないだろう。
柄をティダに向けむくれながら剣を返す。
であれば清濁を問うてはいられない場面だ。

三対一。

見れば分かる。
二人の成長は著しい。
オリハにすら気配を感じさせない手腕。
ギュストですら[全知]で結果を知って動かされたのだ。

文句はないな?
そう思いギュストを見れば口が弧を描いている。
・・・何を知ったのだろうか。
その答えはティダの次の台詞にあった。

「ここはオレ達が引き受ける」

「なっ!?」

オリハは目を見開きティダを振り返った。

「かあちゃんの仕事は・・・下だ」

「馬鹿を言うな!相手は狂気だ、このまま三人で・・・」

「それじゃあ間に合わない・・・オレのスキルがそう言ってる」

その言葉にギュストを睨みつけた。
悪怯れもせず肩を竦めた。
方陣を破壊したとしても、もう生命力の喪失は止められない。

つまり時間稼ぎでも何でもない。
禁呪は完成していた。
ギュストはただ遊んでいただけという事だ。

「・・・でも、かあちゃんなら何とか出来んだろ?」

恐らくそこまでがスキル[直感力]の結果なのだろう。
息が詰まる。
二人を狂気の前に置いてここを去る?

「だがっ!」

「何とかなるよ・・・ああ、してみせる」

「私もいるしね」

だが・・・その言葉をオリハは飲み込んだ。
ギュストは笑ったのだ。
スキルでこの後の結果を知った筈だ。

「大丈夫だって、オレのスキルはアイツのスキルに負けてない」

そうだろ?
そう言ってティダは笑ってみせた。
[直感力]と[全知]、似て非なるスキル。
結果を知るという結末は変わらない。

だがその答えは別れた。

それは理の外の存在を加味しているかどうがだ。
実際に子供達が事切れていない限りは、オリハに手段がある。
それをギュストは知る事が出来ない。
オリハが自身を切り札とした理由でもあった。

己が下に行けば狂気の沙汰の如き思惑は崩れる。

だが・・・二人は?

「間に合わなくなるって、早くっ!」

ギュストは視線で挑発する。
良いの?
猫が鼠を弄ぶように・・・殺すよ?と。

「・・・無理はするな、時間を稼いでくれれば良い」

そう判断を下すしかなかった。
もう禁呪は成った。
子供達は魂の蓋が剥がれ、肉体から生命力が漏れるだけの状態の筈だ。

それを救えるのは・・・オリハのスキルしかない。

理の外の魔物であるオリハの魂に巣食うスキル。
[全知]では決して知る事の出来ない情報。

子供達を救い、ギュストを倒す。
追い詰められている感覚はある。
だが救いはある。

「頼んだ」

そして踵で石畳を打ち抜いた。

「へぇ・・・本当にいいの?」

狂気の、[全知]の隙があるとすれば、それを上回る物しかない。
ティダの[直感力]は上回ってみせた。
それに期待するしかない。

「シャル」

「はい?」

「・・・闇の衣に気を付けろ」

それだけしか告げられない。
策を伝えたとして[全知]で知られてしまう。
思い付いたとして、即行動に移らなければ間に合わないだろう。
狂気討伐の鍵はシャルかティダならば・・・シャルだ。

「・・・はい」

シャルはあやふやな返事しか出来ない。
その意図を読む事に意識を向ける。
ギュストは間違いなくそれに気が付いている。
だがこれまでのやり取りで理解した。
ギュストは[全知]に絶対の信頼を置いている。
決して[直感力]などという、あやふやなスキルなどに負ける筈がないと。

あの時、ギュストを救ったのはオリハではない。
キッカケは確かに手にした神の武器だ。
だが救ったのはその時に得たスキル[全知]だ。
復讐の先を与えた。
歪ながらも狂気に呑まれ、壊れた心を繋ぎ合わせたのは[全知]だ。

狂気を従い飼いならす術を与えたのは[全知]なのだ。

だからこそ、負けるなど矜持が許さない。

故にギュストはオリハを見送る。

[全知]で知った結末は、決して変わらないのだから。


最初に方陣を破壊した時に反響音で空洞があるのは分かった。
ティダがそこだと後押しをした。
なのでオリハは迷う事なく地下へと降りて行った。

「・・・そういえばお前達、見覚えがあるね」

「そりゃもう何回も叩き潰したからな」

ティダはそう言い相方を構える。

「ああ、無駄な努力をしてた奴らか」

それに鼻で笑い返す。

「・・・何が可笑しい?」

「だってさ・・・気に食わないんだろ?本当は・・・オレのスキルがそう言ってる」

「へえ、案外厄介なスキルなんだね・・・でもそれだけだ」

口調とは異なり殺気が噴き上がる。
ギュストは不愉快だった。
確かに[全知]への信頼は絶対だ。
そういうスキルなのだから。

だがオリハの見解とは一部異なる。

ギュストに救いを与えたのは神の武器、オリハルコンなのだ。
[全知]を得て神の武器に魂が宿っているのを知った。
理の外の魂だ。
意思の疎通は出来なかった。
それでも共に怒り、共に狂ってくれた。

それが最もギュストを救ってくれたのだ。

そのオリハにこの場を任せられた。
力量も遥かに及ばないくせに。
その気になれば時間稼ぎすらさせない。
直ぐに殺してオリハを追いかけてもいい。

だが・・・

「かかっておいでよ、遊んであげるから、さ」

そう[全知]の結末は変わらない。
この二人はここで死ぬ。
後ろにいるあの獣人の子供らも、魔人の子も、ダークエルフの子も。
あそこにいる人族の男も、地下にいる贄も。
何も成せなくて神の武器は絶望する。
それを物質に戻すのは自分の役目だ。
オリハこそが唯一の理解者にして、無二の相方。

・・・そして神々も・・・殺す。

そして地上に降り立ち歴史を繰り返す。
そう、惨劇の歴史を。

「言われなくても・・・っ!」

ティダはただ剣を振るった。
それは無の剣。
何も考えず、ただ無心に振るわれる剣。

格上を相手取った時に通ずる唯一無二の剣。

オリハにただ「何も考えるな」と言われ続けた。
その剣は既に技へと昇華していた。

だが無の心は現世へと戻る。
切ったはずだ。
間違いなく剣は胴を斬り裂いた。
刃はめり込んだ筈だ。

「・・・あれが闇の衣?」

シャルが独り言ちた。
紫色の衣が薄っすらとギュストの身を包んでいる。
仄かに光って見えるのは魔力が通っているからだろうか。

「なんだ、やっぱりその程度なんだ」

「ちっ!言ってろ!」

手応えの無い斬撃を幾度も繰り出す。
それを見ながらシャルは杖を握りしめた。

(・・・考えろ)

シャルに向かってオリハが言った。
つまりその役目を与えられた。
それがオリハが愛弟子に課した課題なのだから。



離れた場所でナツとフユは歯痒い思いに苛まれる。
心が奮い立たない。
力量レベルの差を感じてしまった。

役に立たない。
邪魔にしかならない。

それが理解出来てしまった。

逃げる事も考えた。
だがギュストの気配がそれを許さない。
生かされているのは気紛れでしかない。
そう感じさせられてしまった。

あと数年、オリハから師事を受けていれば隣に立てたかもしれない。
だが・・・今は無理だ。
出来る事は・・・命に代えてでもハルとアキは守る。
二人は頷き合い、互いの意思を確認した。
そして一挙手一投足を見逃さないようにギュストに目を見開いた。

ただハルだけは・・・色の異なる視線でギュストを見つめていた。


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