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第2章 王都編
2-10 神の武器、母ゆえに
しおりを挟む翌朝、朝食を終えた三人は別行動をする事になった。
ティダにはオリハから昨日の稽古を経て指示を出した。
よくわかんないけどわかったーとの事。
シャルは部屋に篭って何か書き物をするようだ。
オリハはハルを背負い散歩だ。
先日三人で歩いた商店街を一人で歩く。
すれ違う人は同じ人もなくいつもと同様に興味の目を向けられる。
どうやらあの二人は有名なようだ。
お店の人からは、今日は一人なの?と声をかけられる。
あの性格なら嫌われる事はないだろうな、と親バカ的思考をする。
朝食はとったが出店でつい買い食いをする。
一人なので遠慮はない。
芋と海魚を揚げたものらしい。
今いるこの王国から少し南か東へ行くと、外海へと繋がる運河があり川魚ではなく海の魚が取れるとの事。
川魚とはまた異なる味に舌鼓を打つ。
これなら作れそうだと芋を食べる。
歩みを続ける先は通りを異なり別の風景を映す。
目に映るは色様々な布や衣服。
昨日ティダと武器屋に行った時に通った道。
やはり視線は感じるが嫌な気配はない。
オリハ自身も好奇心による視線には慣れてきた。
現代でいえば子供の頃に見た外国人の様なものだ。
過去の所有者を思い返せば、他の世界より召喚されて「ケモミミキター!」と獣人を見て叫んだ者や「くっ!ケモ度三かっ!」と這いつくばり地面を叩く者の感情みたいなものだろうと。
オリハも王都で獣人がいなくてホッとした点と残念な点があった。
魔物や獣が本能的に怖がり近寄ってこない。
獣人が怖がる可能性はあるのでは?と。
いなかった事にホッとするが、残念な点ではモフモフというのをしたかったからだ。
世界を旅すればその内に、と。
オリハはそう納得していたが、ここでオリハを好奇心で見ていた人達はまた違っていた。
スラッとした背の高さに健康そうな浅黒い肌、それがより映えるような純白のタイトなドレス風の修道服。
本来修道服には有り得ない脚がチラ見えするスリット。
そして数日後には同タイプの、色が異なり刺繍の入った物など様々な店に並ぶ事になったのは王都の商人としては当たり前だったのかもしれない。
オリハは己が比較的見目麗しい方だ、という自覚はある。
物言わぬ物質としてではあるが数千年の長きに渡り男女問わず見てきた。
店に並ぶ衣服を見て綺麗なものだ、と思いはしても似合うかはわからない。
今自分が身につけているのは気に入っているからで、似合っているかまでは判断はつかない。
なので今日の目的は自分の衣服ではなくハルの服だった。
手持ちのが小さくなってきたのもある。
子供服がある店を見つけて立ち寄った。
店員に声をかけられお勧めをされるが、オリハにはどれも似合っているようにしか見えない。
親バカだからだ。
「はは!ハハ!」
とハルが試着させてもらった服を着て手をオリハに振り笑いながら言う。
ここ数日兆候はあった。
まだ「はーあー」とはっきりしていなかったので自信がなかったが、オリハは今のは母と呼ばれたのだと自信があった。
「今呼んだか!母と呼んだか!」
キャッキャッと笑うハルを抱きクルクルと回る。
その瞬間、店員の目が輝いた。
そしてオリハは広場のベンチに座っている。
新しい服を着たハルを膝の上に置き、横には大きな紙袋に溢れんばかりの服がある。
(・・・これが商人の手管か)
あの後「まあおめでとうございます」から始まりアレもコレもと引っ張り出され「これから暑くなります」と夏用の服まで積み重ねられた。
(まあ似合うし良いか)
とハルの頭を撫でた。
オリハは思う。
良い天気だと。
王都に来てからもそうだが春日和、太陽の日差しが程よく暖かく風が気持ちいい。
良い釣り日和だ、と。
時折気持ちの悪い臭いやすれ違う探るような感情が王都に来てからもあった。
ティダやシャルがいるからか、人の多い王都だからなのか手出しはなかった。
今日シャルは机に向かっていた。
ティダには用事を託けた。
なら釣りだ、とオリハは考えた。
以前、町で壮年の衛兵から控えるようにと言われたのはどこ吹く風。
何せ基本的には脳筋なのだ。
そんな事を考えつつハルとキャッハウフフをしていたオリハに影が射した。
「オリハさん、でよろしいでしょうか?」
「・・・そうだ、何用か?」
怪訝な表情を思わず浮かべる。
ああこれは面倒な、と。
オリハからすれば大勢で囲んで攫おうとしてくれた方が簡単だった。
剣でも抜いて襲いかかってくれた方が楽だった。
「私は王都で職斡旋の商会の会頭をしている者なのですが・・・少しご相談がありまして」
「はぁ」と深い溜息をつく。
オリハは念の為に帯剣せずに出てきた。
その男の横に立つニヤニヤとしたゴツい男も帯剣していない。
怪しいから殴った、では通用しないのは子供でもわかる道理だ。
正当防衛を謳う為に武器はない方が良かった。
この稚魚を餌に大きな魚が釣れる事を期待して付いて行く事を了承した。
出来れば群が良い、と思いつつ。
着いた先は小汚いがそこそこ大きい店舗だ。
職業の斡旋所になっていて、何処ぞの貴族と関係があるとかないとか向かいながら教えられた。
オリハは倉庫か何処かで取り囲んで欲しかったのに、と思いつつ促されるまま二階の奥の応接室らしい所へ案内された。
お茶は出されたが飲む気になれない。
毒を疑ってではない。
臭い感情が漂う所で飲む気になれないだけだ。
「で、相談とは?」
と臭いに顔を顰めつつ問う。
「いえ、仕事の斡旋ですよ」
そう悪意もなさそうな笑顔を向ける。
「とある方が侍女を探しておりましてね、貴女を見かけて是非に、と」
「給金もかなりの高額で用意されるそうです」
やはりこれがそうか、とオリハは思った。
奴隷の話を聞いた時の簡単な奴隷の作り方だ。
例えば家宝の壺が割れた、弁償だ、と法外な金額を請求、払えなきゃ奴隷落ち。
金が盗まれた、周りの人間がそれを見たと言えば犯罪奴隷の出来上がりだ。
この部屋にいるのは正面のソファーに腰掛ける男も含めて六人で武器も所持していない。
稚魚の周りには稚魚しかいないのか、とまた溜息をつく。
「悪いが冒険者として生計を立てるつもりだ」
男達がヘラヘラと笑う。
断れるとでも思っているのか?と。
「それに従順な侍女が希望なのだろう?山育ちでな、敬意を払えぬ者に敬語など使えぬのだ」
舌打ちがして何の効果もない言葉が飛ぶ。
「調子にのるな」やら「周りを見て言え」とか。
「今はお守りしてる奴らもいねえんだぞ!」
下らない脅し文句の中のこれを聞いてオリハは驚いた。
周りから見たらC級冒険者を護衛にしている希少な親子に見えていたのかと。
その考えに至らなかったのは己を弱い者と塵程にも思っていないからだ。
ふとあの二人もそんな考えを持っていたのか?と思うと現状を気にする事なく嬉しく思った。
それと同時に今ここで中途半端な力を振るい、後々二人を巻き込むのは良くないなと思い至る。
勝手に息子や娘と認定しているからだ。
なら圧倒的な力で屈っさせればよい、という考えに至るのは脳筋故仕方のない事だろう。
そうしてオリハは笑みを浮かべる。
はっきりと目に映る金色の魔力を身に纏って。
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