12 / 162
第1章 運命の出会いと運命の旅立ち
1-12 神の武器、祭りの後その1
しおりを挟むとある村人目線
むかーしむかしの話だ。
ガキの頃は神童って言われてた。
魔法の素養がある、そう言われて図に乗った。
親父とお袋が無理して国立の魔道学校へ入れてくれた。
十二の時だっかな。
入学してすぐ頭角を・・・
なんて事なく底辺を彷徨っていた。
底辺って言ってもその中では上の方だった。
いや、本当に。
親父やお袋が無理していたのは知っていた。
少しでもやらなきゃって凄え魔法使いになって楽させてやらなきゃなって。
でも俺には才能なんてなかった。
上の奴等・・・殆ど貴族様の子息とか令嬢とかだったが、勉強も修行もそこそこなのに魔力切れも起こさないし、中位、上位の魔法まで使える奴がいた。
しかも奴等、修行や勉強よりも、恋愛の方が忙しいらしい。
公爵様の令嬢さんが婚約破棄された、とか男爵様の令嬢が皇太子様と婚約した、とかな。
同じ平民の女達は、貴族様の子息達に夢中だし・・・まあ、勉強をする時間だけはしっかり取れたな、うん。
何とか中位魔法までは使えるようになった。
でもそこまでだ。
冒険者になるのは戦うのが怖くて諦めた。
国立の魔道院に進める程の実力もなかった。
仕方なく村に戻った。
滅多に出ないが村で魔物が出たり害獣が出たりした時は役に立ててると思う。
素養がある子に簡単な魔法を教えたりもした。
小さい時から魔法を使った方が、魔力の最大値を伸ばせるって学校で習ったからな。
二十四の時、親父が流行病で亡くなった。
なくなる間際に嫁、孫って言ってたな。
・・・出会いがないんだよ。
そんな退屈でヒマな毎日。
三十も二年過ぎた。
嫁落ちてないかなぁとそんな日々。
そんなある日初めてダークエルフ族の女を見た。
背も男の俺と変わらないくらい高くて、スラっとしてボンでキュッでボンだ。
王都でエルフ族の女は見たが、全然違うのな。
エルフ族の女が造形美ってんなら、この女は自然美って感じだ。
ただ一目見て恋に落ちることはなかった。
赤子を抱いてた。
いや、コブ付きが嫌とかそんなワガママ言うつもりもない。
片手で荷馬車引っ張ってたんだよ。
山のように荷物乗せて、だ。
空でも無理だよ。
ちなみに行商人のハンスさんの馬車だった。
ハンスさんは襲われて亡くなったらしい。
年が近いからかよく一緒に飲んだ。
いい人がいたら紹介するって言ってくれてたな。
紹介してくれた事は一度もなかったが。
しかし・・・ああ、いいもん見た。
ロバの世話をいつもしてたミナが、泣いてたんだ。
外から見てても、凄え可愛がってたのわかってたからな。
うちの村の神父さんも、いい説法するけどそんなレベルじゃなかった。
心に響くというか、沁みたというか。
それで、泣くミナをそっと抱きしめてた。
綺麗な夕焼けに照らされて、銀色の髪が風に靡いて、素敵な笑みを浮かべてよ。
あれはもう、何て言うか・・・尊い。
朝になって盗賊団がこの村に襲ってくると聞かされた。
村長に聞いたら本当だった。
恐らく今日の夜だそうだ。
どうすんだ?って聞いたら笑いやがった。
大丈夫だってよ。
昨日のオリハ?ああ、あの人な、が討伐に手を貸してくれるらしい。
・・・ん?大丈夫なのか?
まあ荷馬車引けるくらい力持ちみたいだし、尊いし。
もしかしたら危ない所を俺の魔法で助けて、こう・・・ないな、うん。
まあ村長が大丈夫っていうんだ、勝算はあるんだろう。
今は見た目こんなだが、昔は凄かったんだぜ?
二枚目で髪もフサフサで憧れの兄ちゃんだった。
腕っ節もあった。
冒険者になっても一角の人物になっていたと思う。
夕方になってオリハさんが家から出てきた。
村長に譲らないとか何とか・・・
ああきっと一番槍だな。
下手に手を出さずに様子を見るか。
中位魔法を最初から使ったら魔力が保たないからな。
下位魔法でフォローしていこう。
畑に着いた頃、向こうから奴等が出てきやがった。
オリハさんが魔法使っていいか聞いてきた。
いや、使う使わないとか・・・ああ畑を気にしてくれたのか。
優しいし尊い。
エルフ族は人族より魔力が多いんだ。
恐らく上位魔法ぶっ放して、牽制するんだろうな。
そう思っていた時期が俺にもありました。
立ち止まって魔力を練りだした。
・・・鳥肌が立った。
魔力に色が付いてたんだよ!
いや、何言ってんの!色だよ?色!
授業で習った程度だけどよ。
今の世でそんな魔法使いなんていないんだって。
歴史上確認されたのって、一千年以上前の勇者とか魔王だとか所謂偉人だぜ?
そっからはもうあれだ。
目も耳も離せなくなった。
先ず指で点を四つ作った。
なんだ?四点?そんな魔法見たことも・・・
は?なんだこの詠唱、古代言語か?!いやいや、実技ダメだったから勉強だけはしっかりやってたんだって!ただの古代言語なら意味わからなくてもわかるって!
掌から四色の玉?!・・・ちょっと待てよ、ああこれは四季の精を表して・・・違う!そのモノの使役だ!上位なんてモノじゃないぞ、これは失われし魔法か!
じゃあさっきの四点は・・・範囲の指定?いや、それなら単純に術式に練りこめば・・・理由は?まさか支点か?は?本来四人以上で行う術式なのか!?そんなバカな!いや、それしか理由がない!
魔力の流れも無駄無く、澱み?いや綺麗なんてもんじゃない!魔素の阻害は?杖も使わないで?学校のエルフのじっ様だってこんな事・・・その存在を使役して圧縮!?
ハハ・・・俺は何を見てるんだ?いや、そもそも何でコレが何なのかわかるんだ?
おいおい支点ごと圧縮なんて暴発・・・成る程、それ以上の魔力を加えながら押さえつけるのか。
加えてるのに圧縮しても値が変わらない。
・・・綿密なコントロールによるものか。
魔力の指向性の速さを圧縮する毎に減速させてるんだな。
減速は・・・力技だな、真似できねえよ。
あれだけの魔力を込めた魔法陣ならこれくらいの大きさにもなるわな。
これだけ綿密に組み立てたのなら、大地に含む魔素で阻害され歪む事もないだろう。
「Freezing Coffin!!!!!」
ああそうかそうか、これ元々こういう魔法じゃないんだ。
対軍魔法?そういった使い道かな?
恐らく戦地を戦略的に雪で閉ざしたり、籠城する砦に使ったりするんだろうな。
無理矢理圧縮する事で冷気を強制的に下げたんだ。
あれだけやれば絶対零度に近いだろうな。
しかも術式に対象を絞り込んでる。
じゃなきゃ解除した時に人だけ冷気の影響を残すなんて出来やしねえ。
はあ・・・すげえもん見た。
絶対に真似なんて・・・
いや待てよ?圧縮する必要もないんだし。
四季の範囲内であれば?
そうだ、例えば雨だけなら・・・
でもよくわからない古代言語で六小節だろ?
現代魔法語でやれば、十倍の六十小節?・・・
ああ、そうか対象の指定もいらないか。
それに範囲の指定だ。
枠を決めなけりゃいいんだ。
あー・・・例えば術者を中心にして・・・
そうして、周りが歓喜の声を上げる中、一人黙々と術式の構築を始めた。
彼にそこまでの才はなかった。
魔導の奥義とも呼べる極意書を身に受け、目にした事で強制的に、半ば強引に才能を拡げられた。
そして彼は五年後、自在に雨を降らす魔法を完成させた。
その魔法は農村地帯の悩みのタネでもあった水不足を解消する術になった。
三十小節にも及ぶ大魔法ながら、消費魔力が僅かで済むという優れものだった。
こうして彼は、数百年にもわたり新たな魔法が産まれなかったこの世界で、偉大な魔法使いとして歴史に名を刻む事となった。
その魔法を拡め、実践する旅の中、とある農村で出戻りコブ付きの女性と恋に落ち、結婚して孫付きだと母親を喜ばしたのはまた、別のお話しだ。
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
幼馴染と一緒に勇者召喚されたのに【弱体術師】となってしまった俺は弱いと言う理由だけで幼馴染と引き裂かれ王国から迫害を受けたのでもう知りません
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
【弱体術師】に選ばれし者、それは最弱の勇者。
それに選ばれてしまった高坂和希は王国から迫害を受けてしまう。
唯一彼の事を心配してくれた小鳥遊優樹も【回復術師】という微妙な勇者となってしまった。
なのに昔和希を虐めていた者達は【勇者】と【賢者】と言う職業につき最高の生活を送っている。
理不尽極まりないこの世界で俺は生き残る事を決める!!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる