赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿

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第1章 運命の出会いと運命の旅立ち

1-5 神の武器、野盗と出会う

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ここは山中を抜ける街道。
春の日差しの陽気な天気の中に一台の馬車があった。
馬車といっても引くのはロバだった。
小さな村に定期的に品物を卸しに行く所だった。
食料品や調味料、本や衣服、農具、武器防具など様々な品が乗っている。

荷台の空いたスペースには1人の女性が座っていた。
旅をしている修道女らしい。
山間の街道を一人で歩いていたので「この先の村まで行く」と行商人が声をかけたのだ。

行商人の名はハンスといった。
シスターの名はレーナといった。
ロバの名はロシナンテといった。

だが馬車は動きを止めていた。
ロシナンテは頭と首が離れていた。
レーナの白い修道服は血に染まっていた。
ハンスの商品を売るための口も動くことはなかった。

代わりに動いていたのは近くにいた血に染まったショートソードを持った二人とダガーを持った男だった。

「女は殺すなって言われてただろうが!」

ダガーを持った男がそれに反論した。

「この女がグチグチうるさかったんだよ!神がどうとかよ!」

「やっちまったもんはしょがねー、だがお前もすぐに刺すんじゃねーよ、女は金になるんだ、刺すぐれぇなら殴れ、バカヤロウが」

そんな話しをしながら積荷を漁っていた。
ショートソードの男がふと街道に目をやると一つの影があった。
影は赤子を左手に抱えていた。

「お、おい見ろよ!あれ」

他の二人もそれに見習い目をやり興奮気味に喋り出した。

「時化た馬車より金目のもんじゃねーか!」

「マジかよ、初めて見たぜ」

赤子も抱えた女も浅黒い顔をしていた。
長い耳も特徴的だった。
赤子は青い目をキョロキョロさせていた。
女の黒目はギラッとこちらを睨みつけた。

「向き合うだけでも気持ち悪いものだな」

「あっ?なんだとこのアマ!」

三人とも馬車から飛び降りてきた。

「我に向けられるのもそうだが、所有者にも向けられていると思うと尚、腹立たしい」

「な、何ブツブツ意味のわかんねーこと言ってんだ!」

「おい!わかってんだろーな!コイツは殺すなよ!ガキもだ!」

神の武器はワナワナと口を震わせた。
それは怒りではなく恥ずかしさからだ。

「な、何だと?誰がブツブツと?わ、我がか?」

「テメー以外誰がいるってんだ?!」

(どういう事だ?いつからだ!我がヒトとなってからか!?)

ここまで数日間山の中を所有者と歩んできた。
最初は戸惑った授乳やオムツの交換などもようやく手馴れてきた。

その中で様々な事を考察してきた。
食べ物の事や身体の事だ。
神の武器もヒトとなった事で睡眠が必要だった。
生物となったからには排泄行為もあるわけで色々と呟いてしまっていた。

例えば「お、おお!これが排尿なのか!」とかまぁそんな感じである。

神の武器だった頃は口がなかった。
思った事を口にする事が出来なかった。
ヒトとなってから赤子に話しかけた事以外は、全て内心思っていたものと思い込んでいた。

思い返せば色々と恥ずかしい事を口走っていた事に気がついた。
独り言と言う形で。

(全て聞かれていたとしても所有者はまだ赤子だ、何も覚えては・・・)

神の武器はチラッと赤子を横目で見た。
キラキラと青い瞳でこちらを見て「あーあー」言っている。

(・・・大丈夫だ、多分)

そう胸を撫で下ろした。
胸はあるが心象的に。

そして落ち着いてから正面にいる臭い感情を撒き散らす男達を睨んだ。
ここへ走って来た原因の男達を。


神の武器と赤子は今日も小川沿いを歩いていた。
気配探査も怠らずに辺りの動向を探っていた。
そして一つの悲鳴を耳にした。
その方角に反応のある気配は無かった。
範囲の外だが聞こえた事で少し距離があると予測した。

懐に抱く所有者は気になったが、頭を過ぎったのは赤子の母の姿だった。
負荷のかからない速度で気配を探りながらここまで走ったのだ。

(やはり世界は優しくないな・・・)

生きている気配は目の前の3人しか無かった。

所持している武器には血が付着している。
馬車の外で血に染まり倒れている男と悲鳴が女性のものであった事から盗賊の類だと判断した。
野盗、盗賊の類いはどの時代においても、生死問わずで問題はなかった。

ぎゃーぎゃー喚く3人組を前に指を五本立てた貫手を構えた。
そう構える姿を見て下衆な表情を露わにして3人組がこちら目掛けて向かって来た。

神の武器はまだ十メートル程前にいたはずのショートソードの男の前にフッと移動する。
男達の身体がギョッと固まるが神の武器は気にすることなく貫手を前に放つ。

本来なら腰の回転を加えるものだが、左手に赤子を抱いているので腰が回らず右手のみを差し出した。
いわゆる手打ちだがそれでも男の首元に突き刺さった。
そして目の前から姿が消えたと思うと既に元の位置に戻っていた。
血が喉から噴き出す男を置いて。

「キャッキャキャッキャ」

「凄いであろう?コツはしっかりと腕を伸ばしきる事だ」

「だー!だー!」

赤子の反応にドヤ顔であるが、おそらく赤子は急に景色が変わった事が楽しかっただけだ。
そして手打ちなので伸ばしきっている筈がない。

「「な!?」」

一人が目の前で首から血を吹き出し倒れこむ。
目の前で起こった現象を理解できずに残りの2人は困惑の色を浮かべていた。

そして今度はダガーの男の前に飛び出し前蹴りを放つ。
気がつけばその男の腹部に脚がめり込み、後方へとすっ飛ばされ街道の奥の崖の向こうに転がって行った。

赤子をすっと宙に浮かせ神の武器がくるりと回転すると踵がショートソードの男の顳顬にめり込んだ。
顔ががくるっと一回転して身体ごと地面に伏した。

「これが後ろ回し蹴りだ」

赤子を両の手でポフッと受け止めた。

「ぎゃー!だー!だー!」

赤子にはただの高い高いだった。

偶発的にだが神の武器にとって初めての戦いが終わった。
一方的過ぎて戦いと呼べるのかは甚だ疑問は残るが、戦える体である感触を掴むには充分だった。

独り言には気をつけよう。
そう心に誓う神の武器であった。


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