異世界 王室料理番

葉月彩香

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05 親切は…身に染みて感じるもの

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 キャリーとギグの家にお世話になるようで、二階に案内された。
 二階は、テーブルとイス、ベッドなど、リビングと寝室用だった。
 キャリーとギグだけで、キャリーの両親らしき人はいないようだ。
 
 キャリーは、俺が物珍しいようでついて回り、ありがたいことに、いろいろと言葉を教えてくれる。
『テーブル』
『テーブル?』
『そうよ、偉いわ』
『偉い?』
『これは、イス』
『イス』
 お姉さん的な役割が嬉しいらしい。

 行動の言葉、数字、一つ一つ、キャリーが根気よく教えてくれた。

 ご飯は、ギグが作ってくれた。
 キャリーと一緒になって、下におりると、ギグが慣れた手付きで薪にジッポのようなライターで火をつける。
 ここの料理場は、ちょっと面白い。
 煮炊きする場と、焼き場、そして小さなピザ釜のようなものにわかれている。
 スープ用の鍋をわかし、肉を焼き、パンを釜で焼く。
 こちらもギグの邪魔にならないように、キャリーに鍋の名前、材料、調味料の名前を教えてもらう。
 俺が興味津々だったことに気づいたギグには、ときどき味見をさせてもらうことができた。
 調味料は、塩、辛味のある香辛料ぐらいだった。
 出来たものは、フランスではポトフ。イタリアではボッリートミストとよばれる昔からある、野菜の煮込みスープ。甘味のある、何とも言えない絶妙な素朴なスープだ。毎日食べるだろう飽きのこない感じがまた良いなと思う。


料理ができると二階のテーブルに運ぶ。
『美味しい』
 キャリーは、にっこりと笑う。
そして、
『まずい』
 べーっと舌をだし眉を寄せて嫌な顔をする。
キャリーは実に優秀な先生だ。感情豊かに教えてくれる。
俺はキャリーの言葉を真似て、『美味しい』と繰り返し、飛びっきりの笑顔を向けると、キャリーは嬉しそうに笑ってギグと顔を見合わせる。ギグはそれほど口数が多い方ではないが、キャリーに対する愛情はとてもよく伝わってくる。
 食事が終わると、食器をもってキャリーが外に向かおうとする。
 すると、そこは川からの水をためた、共同の水場であった。汚れた水を川に戻さない工夫もされている。
 そこにはたくさんの人がいた。
 珍しげに俺を見るので、キャリーが俺を紹介してくれたのだろう。ユウという名前と何かを伝えてくれ、皆が好意的に俺を笑顔でむかえてくれた。
 キャリーと同じくらいの子供や、ギグと同じくらいの人、そんな年齢の人が多く…俺くらいの働き盛りの男女がすっぽりいない…。
 赤ん坊もいるが、母親らしき人はおらず、子どもかおばあちゃんらしい人がおぶっている。
 出稼ぎかなにかだろうか?

 疑問には思うが、俺にはそれを尋ねる言葉をまだ持っていなかった。

 井戸端会議のようにおしゃべりしながら、みんなの真似をして食器を洗う。まだまだ彼女らの言葉を理解できないが、深刻な顔をする言葉や、にこやかになる言葉など、彼女らの話題が見えてくる。

 食器を洗い終わり、皆に挨拶をして、家に戻りながらキャリーにいろいろと尋ねる。深刻そうな話の話題に出ていたその単語『ガゼル』を口にすると、キャリーは、「がおぅっ」と、爪をたてるジェスチャーをして、どうやら、獣らしいことがわかった。
 夜にやって来るようだ。もしかしたら、馬が家の中にいて同居しているのもそのせいかもしれない。
 
 また、この村の名前は、バルゼータというらしい。…たぶんね。

 夜は、ランタンを使うようで、壁にかけてあるものと、テーブルに置いてあるものをつけると、大分明るい。光が広がる範囲がとても広いようだ。
 少し不思議だったのは、庭のあちこちに蓄光インクがつけられたような石が置かれ、薄く淡く光ることだった。
 キャリーに聞くと、あれは獣、ガゼル避けらしい。(ガゼルと言って、首を振ったので。)
 あれで撃退できるものなのだろうか?と思ったがわからない。魔除けのようなものかもしれない。
  
 完全に暗くなる前に、馬の餌を用意して、二階に上がると、ギグが俺のために、温かい酒を用意してくれていた。
  ウイスキーのようなものをお湯で割ったものだ。キャリーは温めたミルクを飲んでいる。
 もちろん、この酒とミルクの単語も教えてもらう。
 俺は1日で『これは何??』という言葉を何百回も口にした気がする…。
 でもそのおかげで、目に見えるほとんどの単語を知ることができた。
 酒は、芳醇で体に染み渡り、温まる。

『酒、ご飯、寝る、ありがとう』
 ギグを前に深々と改めて例を言うと、ギグは気にするなというようなことを(たぶん)口にして、ポンポンと俺の肩をたたく。
 
 ベッドは、即席の木箱を重ねて、布を重ねたものだ。キャリーがベッドを貸してくれると言ったか、丁重に断った。
 いろんなこどが、まだまだよくわからないがとりあえず、出会った人の優しさに触れて、俺は幸せな気分で寝ることができたのだった。
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