異世界 王室料理番

葉月彩香

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02 困難は…現実ベースで気づくもの

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 一体、何が俺に起こったのだろうか。

 車ごと見知らぬ森の中。狐につままれたような感じだ。
 瞬間移動?それともあの時、俺は目を閉じただけだと思ったのだが、眠りこけてしまったんだろうか?誰かの大掛かりなイタズラにでも引っ掛かったのか?

 困ったときは、手持ちのカードを把握すること。
 とりあえず、俺は無事。どこも怪我もしていない。
 これが一番大事。
 車もおかしなことはない。先ほど同様にサイドブレーキはひいているものの、エンジンはかかったままだ。けれど、ラジオからは一切の音が聞こえてこない。

 ひとつひとつ、確認していく。
 携帯は…助手席の携帯電話を見ると、圏外になっている。時間は3時だからさっきと時間差はない。地図の位置情報は…エラー。
 場所とかはわからないが、とりあえず命の危険性はない。
 さて…外に出てみるか…。
 エンジンを切り、ゆっくりと、ドアを開ける。

 とたんに、爽やかな風が舞う。
 晴れていて、気温も最適。
 深呼吸をすると、瑞々しい緑と土の臭い。
 だが、それだけだ。ふつうに暮らしていた俺には木の種類も草の種類もわからないから、ここがどの辺りかなんても到底わかるはずがない。
 俺の車の回りは、タイヤ跡すらないから、移動してここまで来たわけではなさそうだ。
 木々が密集しているから、車移動は出来そうもなかった。
さわさわと、風の音に混じって、どこからか川の音が聞こえる…。川があるのなら、闇雲に歩くよりは迷わないはず。
  携帯と財布、車の鍵だけをまとめてとりあえず、川へ向かう。

 川は、車から程近いところにあった。
 道らしい道はなく、草というか、藪を掻き分けての移動だ。
 ついた先は、ちょっとした山の清流っていうかんじ。川にもすぐ降りられたため、川の水をすくって飲んでみる。
 硬水…のような味がする…。
「温泉とか近いのかな?それともここは海外か?まさか、な…」
 だが、とりあえずキレイな水が確保できれば、安心できる。車には少しだけ残った食材もあるのだから、何かしら作ることも可能だ。

 まだ、3時…もう少しだけ川を下ってみるか?
 俺はそう判断して、下流の方へと足を進めた。
 緩やかな川だ。傾斜もそれほどないから、下流までは長そうだが、険しく困難な山道でなくて良かったとも言える。
 革靴じゃなくて良かった…。
 お客様のところには革靴で行くが、運転する用にスニーカーは用意してあるのだ。
 30分ほど歩いただろうか、自分の足音と木々の風の音…状況のわかる登山なら、きっとのどかな風景だろうと思う。天気も良いし、長袖のワイシャツ一枚でも不自由しないのだから。

 ふいに川幅が広くなった。他の大きめの川と合流したようだ。そして、前が開けたとたん、俺は言葉を失った。

 川の先、正面の向かい側にもうひとつ、大きな山があり、その斜面に家々があった。そしてその山の中腹には、大きな石造りの城があったのだ。

 日本じゃないことが決定した。

 そして…そんなことより、俺を打ちのめしたのは…家の所まで遠い……。

 ここが日本であろうがなかろうが、今、俺にとってはどうでもよかった…。

 あの家まで行くのに…どれだけかかるのだろうか…。
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