かみてんせい

あゆみのり

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タチガール。

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 村に着いたらまず、お店が閉まる前に買い出しだ。
 食料に、油、手ぬぐい、それとクシも。

 買い物しながらお店の人に話も聞いたけど、タチのウワサを耳にしていても、今の居場所まで知ってる人がいない。
 消耗品の補充も終わったし、本格的な聞き込みをしたい所だが……。

 人の集まる場所といえば、やっぱり酒場。
 足を運びたいけど、今の私だと店の前をウロついてるだけで叱られそうだ。
 切り株に腰を掛け、どうしたものかと悩んでいたら声をかけられた。

「見ない顔だね?親はどうしたんだい、迷子かい?」
 前を通りかかったおばーちゃんが、私の横に腰かけ座り込む。
 どこの村でも一人はいる、気さくに声をかけてくれる優しいご年配。

「えっとね、人を探してるんですけど……「神抱きのタチ」の噂ってしってますか?」
「あぁ、あの卑猥ひわいな話かい。あんたみたいなチビ助が耳にするのはまだまだ早いよ」
 ませた子供と思われても仕方がないが、タチを探すにはどうしてもスケベに隣り合わせの単語が出てしまう。
 最初のうちは「黒髪の凄腕剣士――」とか「神を殺そうとした――」とか説明したけど、ピンと来る人が少なく。
 「神抱きの――」や「首絞めエッチの――」と言った方が話が早かったのだ。
 
 エッチなうわさで広まった人物を探してるんだから仕方がないんだけれど。

「えっと……えっちな話が聞きたいんじゃなくて、居場所がしりたいんです」
「そんな事いって――しょうがないねぇ~。そういうのに興味をもつ年ごろかい?ルーベン!ルーベン!」
  性に関心を持つどうしようもないエロチビのため、向かいで野良仕事をしていたお兄さんにおばーちゃんが声をかける。

「なんだよばーちゃん!今忙しいんだよ!」
「いいからおいで!このチビ助が聞きたいことがあるんだってよ!あんた直接見たことあるんだろ?」
「またその話かよ!エロばーさんが!」
 ヒッヒッヒと笑うおばーちゃんは、嬉しそうに私の顔を見た。
 孫に叱られたのがそんなに嬉しいのだろうか?元気なおばーちゃんである。

「それで?なんの用だい、おじょうちゃん」
「神抱きの話が聞きたいんだとさ!」
 私が口を開くよりさきに、返事をするおばーちゃん。
 さてはおばーちゃん。私をだしにお孫さんと話をしたいだけだな……!
 
 可愛いおばーちゃんである。

「こんな子供に聞かせる話じゃねーよ。ド下ネタだぞ」
「あの……エッチな話が聞きたいんじゃなくて、その人の居場所が――」
「私だって若い頃はね、沢山もてたんだよ?フィーンに船を持つ船長に――」
「ばーさんは夕食の支度だろ!話がややこしくなるから、早く家にけーれ!」
 関係のない長話が始まりそうになったその時、お兄さんがばーちゃんの背中を押し、すぐ横にある家の方へと追いやる。
 どうやらここがお家だったらしい。

「なんでだい!私がこの子を見つけたんだよ?」
「いいから、帰れって。日が暮れちまうよ」
「チビ助も一緒に食べるかい?今夜は――」
「ばーさん!」
「いっひっひ。意地悪な孫だろ?」
 二人のやり取りを縮こまって見ていた私に、同意をもとめるおばーちゃん。
 眉間にしわを寄せてはいるが、本気じゃない。あきらかにおばーちゃんは楽しんでいた。

「えっと…仲良しさんでいいですね」
「そんなことないんだよ、この前だって――」
「あぁー!はいはい!こんな子供にまで気を遣わせるんじゃねーよ!」
 もう無理やり扉の前までおばーちゃんを押すお兄さん、若い力によって元気なおばーちゃんは家にしまわれた。
 負けないぐらいチャーミングでお元気だったけど。

「悪かったな。……それで「神抱きのタチ」の居場所が知りたいって?」
「はい!知ってるんですか?」
 お兄さんの腕力のおかげで、日が暮れる前に情報が聞けそうだ。
 
「……まさか、じょーちゃんもタチガールか?」
「……たちがーる???」 
 また聞き覚えの無い、通り名である。
 彼女がなにかやらかしたのだろうか?でもその場合私に確認するのはおかしいか…。

「なんでも、最愛の神様が死んだんだってよ。まぁ。神様ってのは「想い人」って事だろうが。――んでもって、また生まれ変わってくるはずだから、戻ってくるのを待ってるらしいんだが……」
 うん。間違ってない情報だ。水の大陸で流れていた盛り盛りの噂話より正しい。
 ウワサの神様が、本当に「神様」を指すとは誰も思ってないようだけど。

「直接聞いたんですか?」
「あぁ、一ヶ月ほど前になる。毛皮を売るためにクリーンの街に向かう途中、でっけー土の魔物と戦ってるのを見た」
 土の魔物――、たぶんダッドだ!風の大陸で暴れまわってるとズーミちゃんが言っていた。

「つえーこと、つえーこと。人間離れした動きで切り伏せてたさ。その後、街の酒場で見かけて酒を奢ったんだよ。器量も良いし、酒も強かった……」
「その街どこにありますか!?」
 嬉しい。少なくとも一ヶ月には、その街に元気に存在してくれている。
 そう証明してくれる人が目の前に存在する。

「やっぱり……こんな小さな子までタチガールかよ…。立派な女だが――子供には良くないだろう……」
「あの?さっきから言ってる、タチガールってなんなんですか?」
「言っただろう?強くて、顔が良い――ようはモテるんだよ」
「……?」
「私が転生した神だよ!って自称する女が、わんさか神抱きに寄ってんだ。あんだけモテりゃー気持ちがいいだろうな」
「!!ちょっと私のタチなのに――」

 タチガールの言葉の意味を理解して、つい声を上げてしまった私を冷ややかな目で見るお兄さん。
 
 やっぱりこいつもか……そんな冷めた視線が私に刺さる。

 違うんです。本当に本物は私なんです!!
 今寄っているニセタチガールと違って、本当に本当のタチと愛し合った存在……それが私!

 ――でもそれって、タチガール呼びされても仕方がない気もするけど。

「まぁ好きにするといいさ、今頃はウィンボスティーに居るんじゃないか?もっと神の可愛らしさを広めたいって言ってたからな。ドエロイ話を酒のつまみにしながら」
「ありがとうございます……!おばーさんにもお礼言っておいてください!」
「あいよ。入れ込むのもほどほどにな。「若い時は変な恋に燃えるもんだね!」ってのは、ばーさんの言葉だ」
「本当にありがとう!」

 目指す場所に目星がついた。
 ウィンボスティー。聞き覚えがある。確かストレちゃんの元いた国の王都だ。
 タチが王子様に「おいた」した場所……。

 そんな所に居て大丈夫だろうか?
 北の大陸で一番大きな国の中心地、確かに人は多いし噂も広めやすそうだけど……。
 
 まぁ。昔した事を気にして、タチが効果的な手段を避けるか?と言えば避けるわけがない。 

(行こう……ウィンボスティーに)
 まだ日は暮れてないが、駆け足でズーミちゃんとユニちゃんの所に戻る。
 少しでも早くタチの元にたどり付くために。

 だって私は、タチガールだもん。

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