かみてんせい

あゆみのり

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高速移動。

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 私は今――爆速で水上を移動している。
 海の波などものともせず、ただまっすぐ。
 
 風の大陸を目指し「水の化身」と「ユニコーン」二人の水適正最強生物に抱えられながら……。 
 




「ちょ……ちょっと待って!休憩!そろそろ休憩はさもう!」
「わらわはまだまだ大丈夫じゃよ?」
「ユニも!」
 騎馬きば役の二人は元気いっぱい、でも上に乗っているだけの私が疲労困憊《ひろうこんぱい》。

「私が……もたないです…!」
「ナナぽんは、乗ってるだけユニなのに?」
 アルケー湖をでて川を下り、海に出てタチの元へと向かう道中。
 今のところほぼ水上移動なので、確かに私は運ばれてるだけなんだけど……。

「風圧とかっ……!水飛沫とかっ……!もの凄いんだよ――!!」
 一応ズーミちゃんが、防御用で水のヴェールを張ってくれている。
 しかし、速度が速度。
 海に出てからは特に手加減無しで、水をえぐるように進み、通り抜けた後は、身長の二倍以上の水柱が立ち上る。

 そんな速さで爆進していると、水のヴェールを突き抜けて水飛沫が私にぶつかるのだ。
 
「仕方あるまい。ちと休むか」
 ズーミちゃんが手を振ると、水のヴェールが形を変えてぷよぷよの絨毯状じゅうたんじょうに足元に広がった。

「この上で休憩するがよい」
「ふぃ~。……ありがとうズーミちゃん」
 水の絨毯じゅうたんに体を投げると、私の体重に合わせ波を打つ。
 ひんやりとした感触と、ぷにぷにの触感が心地いい。
 まるで、でっかいズーミちゃんに寝転がっている感覚だ。

「息抜きするなら、ゆったりした服に着替えるユニよ!」

「いいけど……体が強張こわばって、動かないから少し待って…」
 ユニちゃんとの約束は、一日一回だったはずなのに、何かと理由をつけて着せ替えさせようとしてくる。

 実害もないし、色んなお洋服を着るのも楽しいので好きにさせているが、今は着替える体力すらない。
 ずっと同じ体勢で力を入れていたから、体がバキバキに固まっている。

「良いユニ!良いユニ!ここはズーぽんが、お着替えさせてあげるユニ!」
 うきうきピョンピョン跳ねるユニちゃんに合わせて、水の絨毯がぶにょぶにょ動き、寝転がってる私の体も揺れる。

ゴロン。ゴロン。
 なんだろう体に伝わる負荷が、とっても心地よい。

「なんでわらわが面倒を押し付けられるのじゃ!?着せ替えたいのはユニなんじゃから、お主がすればいいじゃろう!」
「ユニがやるのもご褒美だけど~。ズーぽんがナナぽん着替えさせたほうが、いっぱい嬉しいユニ!」
「しらんしらん。お主の趣味に付き合う義理は、わらわに無い!」
「うぅ~~体がカチコチで動かない…。この服体に張り付いて気持ち悪いぃ~」

 ユニちゃんが水上移動用にと私に着せてくれた服は、ゴムのような布のような不思議な素材の物で、体部分を全部覆う形をしていた、おへその部分だけ私の事情でくりぬいてもらっている。

 前世で着ていたインナーの薄手版という感じだ。同じ物の色違いを並べられ「どれが良いユニ?」と言われ、白を選んだ。
 ユニちゃんいわく、基本は紺色らしい。

「ズーぽん!ナナぽんが苦しんでるユニ!お着替えさせて、体もほぐしてあげるユニよ!」
「ごめん……ちょっとしてもらえると嬉しいかも…」
 ユニちゃんの欲望と、私の気だるさが調和した。
 しかし……ユニちゃんはタチのことがとっても嫌いだけど、共に旅をしている私の感覚としては「ちょっと綺麗なタチ」
 
 似てる部分が多いと思うんだけどな…。仲良くできればいいんだけど……むしろだから無理なのかな?
 
 決定的に違うのは「参加」か「見学」かぐらいなもので。
 そんなこと言ったら、怒られるだろうけど。

「えぇ~い!面倒じゃ!脱がせばいいのじゃろう!!」

しゅるしゅる!
 ズーミちゃんの指が伸び、ぴっちり貼り付いた私と服の隙間に入り込む。
 そのまま、すぽん。と器用に服を抜き取ってくれる。

「らく~……便利~~」
 うつ伏せに倒れたまま、裸でぐったりの私。
 恥ずかしさはあるけど、体を休めたとたん疲れが一気に体を覆い、動く気になれない。

 まぁ、周りは海だし、いるのはズーミちゃんとユニちゃんだけだし。
 誰かに見られる心配もない。
 
 ――恥じらいもなくなっちゃったけど。

「むむむ!もっとゆっくりじっくり脱がして欲しかったユニだけど……着せる方で味わうユニ!」
 少し残念そうに唇をかんでから、ユニちゃんは角を輝かせ、新しい服をズーミちゃんに渡す。
 白くてふわふわでひらひらのカワイイ奴を。

 ユニちゃんの服の種類は様々だけど、今回みたいな淡くて可愛らしいお洋服を出すことが多い。
 これが子供服を最上位の「神聖」に位置付ける、ユニちゃんの好みらしい。

「ほら。着せるぞナナ」
「まかせた~~…」
 しゅるしゅるのびたズーミちゃんの両腕が、私に巻き付き体を宙に浮かす。腕を上げ、足を広げ、次々着衣を進めてくれた。
「あぁ~。もう毎日お着替えさせて欲しい……」
「なにいっとるんじゃ怠け者め、今日だけ特別じゃ」
 ズーミちゃんが触れる部分がひんやりして気持ちがいい。

「うぅ…。もっと抱きしめて、片足ずつあんよを上げたりして欲しかったユニ……」
「お主が自分でやれ!!」
 なんだかんだ言いながらも、ズーミちゃんは私の体調を心配し、結局マッサージまでしてくれた。
 ありがとうママ。実際母親がいたらこんな感じなんだろうか?
 
 ママ……というとタチママを思い起こす。
 全然こんな感じじゃなかったな……。タチママが私のママだったら、きっと今頃蹴り殺されてる。

 とっても失礼な妄想だけど。
 

 小一時間お休みした後。
 「もう大丈夫出発しよう」と私は言ったが、ズーミちゃんから「大事を取ろう」とストップがかかり、今日の移動はここまで。
 海上で夜を迎える。

「夜は寝間着に着替えるユニ!今度こそゆっくりじっくり恋文を開くように丁寧に脱がすユニ!」
「やらんよ!」
「私は歓迎だよ?」
「なんで二対一になるんじゃ!?肌を触らせるのじゃぞ!?少しは恥ずかしがれ!」
 完全に横着おうちゃくを覚えた私が、ユニちゃんの提案に乗っかる。
 
「だって……ズーミちゃんならいいかなって。私のママだし」
「だれがママじゃ!!!っというかお手伝いさんの扱いじゃろう!!」
「その関係も素敵ユニね!」

 今度はズル(?)できないように、ボタンの多い服を用意したユニちゃん。
 彼女の望み通り、一つ一つ丁寧にボタンをとめて、服を着替えさせてくれるズーミちゃん。
 お着替え中に、既に口を開けて寝ている私。
 

 こんな感じの水上移動を数日続けたら、あっという間に風の大陸にたどり着いた。
 
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